中学受験のための塾選びのアドバイスは、過去に何度か記事に書きました。
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このほかにもいろいろ書いていますので、カテゴリー「塾選び」をぜひごらんください。
しかし、これらの記事は、日本の首都圏の塾の選び方について書いたものです。
海外での塾選び
何せ滞在都市によっては選択肢が皆無なので、選びようもないですし、アドバイスのしようもないのです。
それでも、私が見聞きした情報から、塾の選び方について、プロ目線でできるだけのアドバイスをしたいと思います。
あくまでも、私の経験に基づく主観です。
塾の名前もあげますが、それらを否定するつもりも持ち上げるつもりも全くありません。
「こんな意見もあるのか」くらいの気持ちで受け取っていただければ。
1.海外塾の種類
一口に海外塾と言っても、様々なタイプが存在します。整理してみましょう。
(1)日本の進学塾の海外校
ena・京進・早稲田アカデミーといった日本の塾が、海外に進出したものです。
日本の中学受験事情に一番詳しく、また日本に帰国した際にもそのまま通いやすいため、もしお住まいの都市にこうした塾があれば真っ先に候補にすべき塾ですね。
(2)日本の予備校の海外塾
ずばり駿台のことです。知らないうちに、ずいぶん海外展開を行っていました。
上海・香港・浦東・台北
ニューヨーク・ミシガン・ロサンゼルス・ニュージャージー・ヒューストン
シンガポール・バンコク・マニラ・マレーシア・ジャカルタ・ミャンマー
デュッセルドルフ・アムステルダム・ミュンヘン
ざっとこれだけの都市に校舎があります。
ただし、駿台には中学受験のノウハウはありません。そのため関西の浜学園と提携して首都圏にいくつか校舎を出しています。
また、すべての海外校に中学受験部門があるわけでもないようなので、選びにくいと思います。
(3)海外帰国生特化型塾
JOBAと帰国子女アカデミー(KA)でしょうか。もっともKAは日本にしか教室はありません。そして帰国生の英語力維持が目的の塾で、本稿のテーマから逸れますので割愛します。
JOBAは、ロンドン・ハノイ・北京・上海・天津・蘇州・ソウルに教室があります。さらに日本国内では洗足池とたまぷらーざの2か所に教室がありますね。こちらは完全に帰国生入試のみに特化した塾ですので、帰国生入試、それも英語と面接・作文のみしか必要としない、そういった方なら良いかもしれません。ただし、帰国生入試の中には、4科目の受験が必須であったり、算数・国語の2科目が重視されるところも多くあります。また、帰国生入試で早めに合格をとっておいてから、2月の一般入試でさらに4科目入試で上位校にチャレンジする方も多いと思います。そうした方にとってはこの塾はあまりメリットがないと思います。
(4)地元塾
地元在住の日本人が経営している小規模塾がありますね。数からいえば、こちらが最も多いと思います。ただしこれらの塾は、自前で教材開発するノウハウ(&スキル)がないため、日本の塾と提携して教材やテストを使っているのが普通です。例えば、シカゴにあるSAPIA(SAPIXと紛らわしいですね)という塾のHPを見てみると、日能研リーグ・SAPIX中高部(たぶん中学部の間違い。昔の名前が更新されていないのかな)・ガウディア(日能研関東と河合塾がコラボした塾です。思考力系の公文式といったかんじです)・SUNDAI、それぞれのリンクが貼られていましたので、幼児から高校生まで、それぞれの塾の教材を使っているのでしょう。本来はライバル関係にある日本の複数の塾の教材やテストを導入するのも海外地元塾の特徴の一つです。
(5)オンライン塾・家庭教師
今後はこれが主流になっていくのかもしれません。ただしこちらはまさに玉石混交の世界ですので、選ぶのには相当慎重になる必要があると思います。
2.海外塾の実例
(1)ジャカルタの塾事情
ジャカルタには、いくつかの塾があります。
中受のノウハウはありません。
〇学研・公文
どちらも有名な教育機関ですが、現地の子供たちを対象としていますので、帰国生入試を考えている場合は選ぶ必要はなさそうです。
〇 学習塾KOMABAジャカルタ校
シンガポールを拠点にする塾の分校です。合格実績は華々しいとはいえません。
〇パンセ
インドネシアに2校舎展開しています。 ここは、四谷大塚および早稲田アカデミーと提携していますので、使用教材は四谷大塚の教材、予習シリーズです。
この教材の特徴は、自学自習用の教材として開発されているため、教材の完成度は高く、まさに予習に適した教材です。
そのため、教師の力量があまりなくても、一定水準の指導はできるという教材です。
〇 学習塾PHI
こちらは、ジャカルタに2校舎展開している、いわゆる地元系の進学塾です。
中学受験は日能研と、高校受験はSAPIX中学部と提携しています。
※SAPIXの中学受験部門(小学部)と高校受験部門(中学部)は別物です。代々木ゼミナールに吸収される前は法人も別でした。
中学受験のSAPIXのノウハウも教材もこちらにはありませんのでご注意ください。
こうしてみると、中学受験を前提としたジャカルタにおける塾選びは、パンセかPHIの2択となりそうですね。
帰国してから、日能研に行くのか、四谷大塚系に行くのか、そちらを基準に選べばよいと思います。
※早稲田アカデミーは四谷大塚提携塾です
私は、上記塾のうち、PHIだけ訪れたことがあります。
印象としては、「日本の塾だ」というものです。
受付は現地の女性であったり、入口に銃を下げた警備員がいることを除くと、実に日本の塾、それも昔風の塾なのですね。
職員室を覗き見ると、書棚には棚板が重さでたわむほど過去問題集や参考書がびっしりと詰め込まれていました。しかも、どれもページが擦り切れそうなほど使い込まれている様子。
それだけで塾の良し悪しを判断することはできないにしても、参考にはなります。
塾の力量は、職員室の書棚を見ればわかる。
これが私の持論です。
(2)デュッセルドルフの塾事情
日本人学校にもほど近い地区に、名の通った塾が3つあります。
地下鉄・トラムの発達したこの町では、どちらの塾も通うことに問題はないでしょう。
これがアメリカだと、自家用車か塾の送迎バスが無ければなんともならないのですが。
〇京進
こちらは、京都を本拠地として関西方面に展開する塾です。
したがって、関西圏での受験を考えている場合は選択肢となります。
私の聞いた話ですと、教師も日本の京進からの派遣が中心だそうです。
ただし、残念ながら、首都圏の受験を考える場合には不安が残ります。
〇ena
ここは、日本国内では首都圏で公立中高一貫校対策にほぼ特化した塾です。
ここのところ海外帰国生の獲得にも注力しているようで、日本には茅場町・あざみ野(田園都市線)・渋谷・吉祥寺・西船に国際部の校舎があります。帰国してからこれらの校舎に通えるのならば、検討に値します。
ただし、こちらの問題は、ena本体が、公立中高一貫校対策に特化していることです。
HPの合格実績を見てみると、都立中の合格実績が全面に押し出されています。
公立中高一貫校対策と私立受験対策は異なります。もし私立(国立)受験を考えているのであれば、情報・ノウハウともに不安が残るでしょう。
もしかしてenaもそこが気になったのか、来年から渋谷に難関校に特化した「極(きわみ)」という何ともインパクトのある名前の別ブランドの塾をつくるそうです。
このあたりはこの記事に詳しく書きました。
enaの中学受験から公立中高一貫校対策まで - 中学受験のプロ peterの日記
ところで、教育系の掲示板サイトである「inter-edu」はenaの親会社が運営していますね。
この掲示板には、プロの私から言わせると、あきれるほどの嘘の情報ばかりがひしめきあっていますので、賢明な保護者なら見ないことをお勧めします。
〇駿台デュッセルドルフ校
日本三大予備校?の一角、駿台の海外展開教室です。 こちらは、中高生対象ということで、中学受験は扱っていません。そもそも、大学受験のノウハウは豊富ですが、中高受験のノウハウは期待薄です。Belsenplatz 駅近くで、日本人学校にも遠くないという良い立地なのですが。
こうしてみると、デュッセルドルフでは、enaか京進の2択です。関西圏での受験なら京進でよいでしょう。首都圏受験で、一般入試を考えないのであれば、国内に国際部校舎をもつenaでいいと思います。首都圏での一般入試を考えるのであれば、どちらでも同じです。早期帰国が可能なら早めに帰国して受験塾(四谷大塚や日能研・SAPIX、早稲田アカデミー等)でがんばることをお勧めします。
(3)ホノルルの塾事情
以前には、ホノルルにも日本の塾はありました。 私が訪れたその塾は、ハワイ大学にほど近い大通り(確かSouth Beretania Street)に面した雑居ビルの上にありました。 ただし、塾というよりは寺子屋レベルで、狭い教室が1つだけだったのを覚えています。案の定、数年後に再訪してみると跡形もありませんでした。それはそうですね。需要がないのですから。今は、「フォーカス教育研究所」というところが1つだけ存在します。ここは「家庭塾」だそうです。家庭塾? いったい何だ? と思いますよね。これは、単なる家庭教師です。私も過去にハワイからの帰国生は3人しか指導したことがありません。私なら帰国したくないだろうなあ、などと思いながら。幸いにして、日本とハワイは遠くはありません。長期休みのたびに一時帰国して受験を乗り切る作戦となります。
(4)ロンドンの塾事情
日本人の駐在が多いロンドンには複数の選択肢があります。
〇JOBA
ロンドン駐在の保護者から最も良く名前があがる塾ですね。さきほど書いたように、海外帰国生専門の塾です。日本人の多いActonやFinchleyなどに教室があります。
Acton教室はEllen Wilkinson School for Girlsなる女子校の一角を間借りしているのでなかなか入りづらかったので、Finchley Central駅近く、TESCOというスーパーの裏にあるFinchley教室を訪れてみたことがあります。そもそもこのフィンチリー駅が、降りた瞬間に「うっ」となるほどまわりに何もないのです。本当に何もない。昔沖縄の与那国島の空港に降り立って外へ出たときと同じくらい何もない。不安な気持ちをなだめて線路づたいに少し歩くと大通りで、それなりに小さな店が並んでいたりします。3階建ての古いレンガ建築の1階が店舗になっていて、それがひたすら続くという、ロンドン郊外でよく見かける雰囲気ですね。街の治安は悪くなさそうでした 目指す教室は、4階建ての比較的新しい(ロンドンにしては)雑居ビルの一角にありましたが、残念!、曜日の問題か時間の問題か、閉まっていました! すいません、下調べもせずに気まぐれで立ち寄ってみただけでしたので。
そこで、ロンドンの保護者達から聞いた範囲でお伝えします。
国語・算数は基礎的な内容を四谷大塚の予習シリーズベースですすめている。レベルは高いと思う。その他受験英語的な講座もある。理科・社会は取る人はあまりいない。
国語と算数と英語さえできれば、帰国生の入試は万全であると言われている。
さて、この最後のコメントが曲者です。
いったい何十年前の話だ? というくらいに指導方針が古いですね。
今や、中学入試においては、帰国生といえども4科目の学習をきちんとこなしたうえで英語力に秀でている(英検準1級レベル)ことが期待されているのです。一般的に、海外の塾では理科・社会をきちんと指導できる教師がほとんどいないため、「理社はやらなくて大丈夫」「直前に丸暗記すれば何とでもなる」といった間違った指導をされるケースも多いと聞いています。
もちろん、この話を保護者からうかがってから何年も経つので、状況は変わっている可能性もあります。帰国生入試だけしか受験しないのであれば、こちらを選ぶのもよいと思います。
一般入試も考えるのであれば、ノウハウ・情報とも不安です。
〇早稲田アカデミー / 〇ena
さて、この他にも日本の塾が2つほど進出しています。このあたりに住んだことのある方はよくご存じだと思うのですが、アクトンとイーリングは隣あう町です。たぶん一番大きな駅がEaling Broadwayで、ちょっとしたショッピングモールやこなれた価格の味のよいレストランなどがあり、私の中では勝手に「たまプラーザ」だと思っています。あるいは「代官山」かな?そこから徒歩圏内に、Ealing Common駅、さらに商店街を歩いてActon Town駅までつながっているようなかんじです。このEaling CommonとActon Townのほぼ真ん中、倉庫みたいな建物1階にあるのが早稲田アカデミーです。たしか昔はヴェリタスという提携塾だったはずですが、今は大きく日本と同じ看板をかかげています。
その他、公立中高一貫校に強いenaの教室がNorth Ealing近くにありますね。
このあたりは、日本人学校も近く、散歩にうってつけのやたらに広い公園もあり、近くには良い感じのパブもあり、住みやすそうなエリアです。日本人に人気なのもうなずけます。
(5)ニューヨークの塾事情
ニューヨークには複数の塾があります。
このあたりでしょうか。
中学入試、それも一般入試をも視野に入れるなら、SAPIXと早稲田アカデミーの2択となると思います。
四谷大塚系の教材の充実度をとって早稲田アカデミーとするか、あるいは最難関校の合格実績をとってSAPIXとするか。もちろん公立中高一貫校を志望するならena1択です。
ただし、ニューヨークのSAPIXについては、日本のSAPIXとだいぶ違うという噂を聞きました。教材もテストも異なるのだとか。そんなことはないだろう、と思ってSAPIXーNY(SAPIX-USA)のHPを見てみると、ほんとだ、「教材について」という項目に、こんなふうに書いてありました。
国内のサピックス小学部が制作した、コアマスターという教材を年間を通して使用していきます。
低学年から高学年まで受験に充分対応できる分量が掲載されたテキストと豊富な副教材を使用します。
受験をされないお子様の場合でも、扱う問題の難易度を調整しながら同一のテキストを使用します。
中学校に進学しても不安のない学力をつけることを目指します。
この「コアマスター」という謎の教材を検索してみると、公式HPが見つかりました。
本ウェブサイトでは、「サピックスメソッドコアマスター」の情報をいち早くお届けいたします。
これから採用を考えている塾様は勿論、現在ご採用いただいている塾様も是非チェックしてください。
なるほど、わかりました。これはSAPIXが塾向けに作った教材なんですね。
日本のSAPIXの使用している教材は非売品です。そう聞くととても気になりますが、授業を前提とした復習用の教材なので、解説が不親切で自学自習には不向きな教材です。そこで、四谷大塚の予習シリーズのように、全国の塾で使用してもらうことを目的として作った教材が「コアマスター」ということなのだと思います。
HPの合格実績を見ても、帰国生入試の学校しか載っていませんでしたので、こちらのSAPIXは日本のSAPIXとは別物であるというのはあながち間違っていないのかもしれません。
※ただし、この「コアマスター」を私は見たことがありませんので、レベルや内容についてはわかりません。
海外在住者の塾の選び方の結論
結論から言うと、「塾には頼らない」 、正しくは「塾には頼れない」ということになるでしょうか。
やはり、自由競争による淘汰が行われていないため、授業や教材の質に疑問符がつく場合が多いからです。
日本国内の塾のように、すべてを塾にまかせ、言われた通りの学習で志望校に合格するようなわけにはなかなかいかないと思います。
海外では、塾は限定的な利用と思うべきでしょう。
〇教材・・・わざわざ日本から取り寄せなくとも、一定のペースで教材がもらえるのが利点です。学習のペースも作りやすいと思います。
〇受験情報・・・帰国生入試の情報については期待できるでしょう。ただし、一般受験の情報には正直なところあまり期待できないです。
〇テスト・・・塾内のテストでは、母集団が少なすぎて参考にはなりません。日本と同じテストを受けられる塾なら、日本国内の受験生との比較ができるので利用価値は高いと思います。
※通信添削やリモート講座は検討の価値がある
コロナ以降、日本国内の塾でも、一気にリモート講座の下地が整いました。従来からある通信添削に加えて、リモート講座は検討に値すると思います。
おまけ・・・海外の塾講師事情
最後におまけとして海外の塾講師事情について少し書いておきます。
A:現地在住の日本人(永住権orグリーンカードor労働ビザ等所有)
B:日本の大手塾から派遣された講師
おおざっぱにいってこの2種類です。理想的なのはBの講師です。日本の進学塾で経験が豊富な講師が海外に派遣されている、そうした講師が最も授業力も教科力も高く、日本の中学入試事情にも詳しいからです。ただし、非常に少ないですね。国によってはめったに労働ビザがとれないため、日本の塾の海外校といえども、日本から気軽に講師を派遣することができないためです。
Aの講師については、正直なところ玉石混交としか言い様がありません。とくに東南アジアの場合は、日本で食い詰めた浪人のような(古い例えですいません。イメージとしては日本町に流れ着いた武士、山田長政のようなイメージ?)講師が多くいて、各都市の塾を渡り歩いていたりするからです。日本で教育とは無縁の職種だった人物が、海外でちゃっかり講師をやっていたりします。それだけで能力が低いと決めつけるわけではありませんが、プロとしてのスキルがあるかどうかは微妙だと思うのです。
日本の塾のように、「先生に全てをおまかせ」しづらい理由がここにもあるのです。