中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

洗足学園についの感想



今回は、何かと聞かれることの多い洗足学園を取り上げます。

私が直接うかがったときの印象、先生とお話して得た情報、そして教え子からの情報などにもとづいています。

※いつものように、あくまでも私の独断と偏見に基づく主観にすぎませんので、ご容赦ください。

 

1.偏差値推移

たまたま手元にあったサピックスの新旧偏差値表を見比べてみました。

偏差値

確実にあがってきていますね。

2018年当時では、頌栄・吉祥とフェリスの間でしたが、今や雙葉とならんでいます。まあ雙葉とは方向性が異なる学校ですが、年々人気・実力を高めていることがうかがえます。その実力のほうですが、2024年の大学実績はこんなかんじでした。

東京大学 15名(現役14名)

京都大学 2名(1名)

一橋大学 2名(1名)

東京工業大学 6名(5名)

早稲田大学 101名(99名)

慶應大学 81名(74名)

なかなか、いやとてもよい実績だと思います

東大については、2023年が22名(19)でしたので下がった印象はありますが、これくらいの変動はどの学校でもおこっています。同じくらいの実績の高校を見ると、地方の県立トップ校がならんでいますね。どの県にも、一番の秀才が集まるような県立高校があると思うのですが、洗足はそう言った高校と肩を並べ、あるいは上回る実績を出していると考えるとよいでしょう。

今集まっている受験生のレベルを考えると、まだまだ伸びそうな気はしますね。教え子にも、フェリスを蹴って洗足に進学する生徒が普通にいます。昔のフェリスを知る私からすれば隔世の感があります。

www.senzoku-gakuen.ed.jp

2.学校の印象

 私の印象は、「徹底したサービス精神」というものです。

サービス精神と言うと、少々聞こえが悪いようですが、私に言わせると教育にあぐらをかいて生徒の方を見ていないような学校に比べればはるかに優れていると思います。
とくに注目すべきは受験生に向けた徹底したサービスです。
学校説明会は保護者の生徒も参加しやすいような日時に多数設定されています。平日の夜の説明会では、サンドイッチと飲み物が配られたと聞きました。会社帰りに空腹で参加された保護者への心遣いです。また説明会に参加すると、ホールの壇上ではクラシックの演奏が行われています。洗足の上級生あるいは音大生かもしれません。この学校は洗足音大の付属と言うのがそもそもの成り立ちです。
受験生へのサービスはその他にもあります。受験生に向けた本番さながらのテスト練習会のようなものが設定されています。本番同様の入試問題を校内で解くそうした体験まで提供している学校はまだ多くはありません。もちろんオープンキャンパスも設定されています。さらに特筆すべきは情報公開にあります。募集定員、応募者数、受験者数等を公開してる学校は普通にありますが、この学校では受験生の平均点や入学にあたって必要な最低点なども全て公開しています。さらに入試問題も数年分がホームページで公開されており、模範解答平均点はもちろん問題を作成した先生による講評までがつけられており、各問題ごとの正答率も載っています。洗足学園を受験する生徒にとってはこんなにありがたいことはありません。受験生にとってのプラスは学校にとってのプラスでもあります。十分に準備した生徒が高いレベルで競い合うことで、受験者全体=入学者全体の底上げにつながると言うのが、この学校の発想なのだと思います。不思議なことに偏差値が高い学校、あるいは伝統校、最難関校と呼ばれる学校ほど、こうした情報の公開にはあまり積極的ではありません。そんなことをしなくても黙っていても、優秀な生徒がたくさん集まる、そういう流れになっているのは間違いありません。しかし、洗足学園のように良い生徒を集めていかなければならないと考えている学校では、情報公開に熱心な学校は多く見られますが、その中でもこの洗足の情報公開は突出してると言えるでしょう。
実際に説明会に参加してみると、校長先生のお話は非常にわかりやすく好印象ですが、何よりも入試担当の先生の弁舌が立て板に水とさえ渡っています。この先生のお話だけで受験生が増加したのではないかなと私は密かに思っています。学校案内の時間も設けられていますので、参加してみると先生方に引率されるいくつもの保護者のグループが作られ、ぶつからないように上手に誘導されながら各教室等を案内されます。カフェスペースや図書室など光が豊かな空間で、古臭い学校の経験しか知らない私にとっては非常にうらやましい環境です。またグラウンドも女子校としては広く取ってある方だと思います。さらに隣には音大がありますので、そちらの方のホールもイベントの際には利用されているようです。
学校内部の施設としては十分なものがあると言えるでしょう。
そういえば、説明会の際にこんなお話を言っていました。洗足学園受験の後に午後入試で他の学校を受けに行く場合、もし交通事情の悪化などで午後入試の学校に間に合わないとすると、洗足学園の方から受験生の午後入試の学校に直接連絡を入れてくださるそうです。ここまでしてくれる学校は他にないと思います。


3.アクセスとロケーション

この学校の1番のウィークポイント(と私が勝手に思っている)はそのロケーションにあるのではないでしょうか?
最寄り駅は田園都市線溝の口駅あるいはJR南武線武蔵溝ノ口駅となります。駅からは徒歩8分ですが、交通量の多い狭い車道脇の歩道を歩くことになります。また溝の口駅周辺も道路が入り組んでおり、繁華街が広がっています。田園都市線と言うと、環境が良い人気の路線の1つです。池尻大橋、三軒茶屋、用賀など生活に便利な駅ですし、二子玉川駅には楽天の本社ビルも立ち、周囲には緑も豊富で住みやすいエリアです。さらに下っていくと、たまプラーザ駅(金妻の舞台でした。古くてすいません)は便利で住みやすい街として今でも人気ですね。溝の口はたまプラーザと二子玉川の間ですが、駅周辺を見ると、JR南武線の駅と考えた方が正解です。線路沿いの飲み屋街など昭和の匂いが漂い文京地区の趣はありません。(私は好きな匂いですが) もともとは、旧大山街道の町として、その後は川崎の工業地帯を支える物流の拠点でもあったようですね。

もしこの学校が、世田谷や杉並、あるいは港区あたりにでもあれば、もっと人気を集めていたのではないかなとふと考えてしまいます。しかし、東京方面からも、神奈川方面からもアクセスしやすい事は間違いありません。


4.音楽教育について

もともとが洗足音大の付属としてスタートした経緯もあり、音楽教育に特徴が見られます。中学校3年間ではフルート、クラリネット、バイオリン、トランペットなどの楽器から1つを選び学びます。同好会としては吹奏楽部があり、音大の教授の指導を受けることができるそうです。洗足学園音楽大学と言えば、昔から音楽大学唯一のジャズ科があることで知られています。今改めてホームページを見てみるとジャズだけでなく、ミュージカルやロックあるいはストリートダンスまで幅広いコースがあります。ずいぶん攻めているのですね。音大も生き残り競争がし烈なのかもしれません。

しかし、中学高校は昔ほどは音楽による情操教育を前に出していないような印象を持ちました。せっかく恵まれた音楽環境があるのですから、東大一直線に舵を切った多くの学校の1つになっては欲しくないなぁ、というのが私の勝手な感想です。

私の知人に、子供たちの中学受験の際にあらゆる学校の説明会参加や見学をして情報を集めた、いわば学校見学説明会のプロともいえるお母様がいらっしゃいます。フラットな視点で学校の本質をよく見ており、その方のお話は、保護者目線を知るために、私にとっても参考になるものです。
その方による洗足学園評は、「大学受験を目指したガリ勉校になってきちゃったけど、音楽教育が1本あるので大丈夫な気がする。」と言うものでした。表現はどうかと思いますが、言いたい事はなんとなくわかります。中堅校あるいは新興校の多くは、少子化の中で生き残りをかけ、海外大学や国内大学の実績を出すことにしのぎを削っています。経営戦略としては正解ですが、それだけでは学校教育として少々寂しいなぁというのが私の本音です。


5.生徒や親の声


とにかく、宿題が多くて、時間がない!と言うのが最もよく聞かれる声です。それはそうでしょう、そうでなければ、あれだけの大学合格実績が出るはずもありません。中高生にとって第一に大切なのは、勉強である、そう考えれば洗足学園の方向は決して間違っているとは思いません。一生懸命学びたい。そして良い大学に合格したい。そう考えている中高生にとって洗足学園は良い環境が整っているといえます。学校が実施する夏期講習や夜遅くまで使える自習スペースなど充実したものがあります。この自習スペースは卒業生も使えるそうです。もっとも、宿題に追われて大変なのは、最初のうちだけで慣れてきて、コツが掴めればそんなに大変でもないと言う卒業生の声もありました。また東大進学塾として有名な鉄緑会にも通っている生徒がいるようですね。
そういえば、中三になると、先生と親の前で自分の進路についてプレゼンをすると聞きました。早い段階から目標を持って勉強することが求められているのでしょう。

 

6.ライバルの学校は?


偏差値や合格実績の伸びなどを見てみると、洗足学園の近くには常に広尾学園の影があります。確かに外部に対する学校のアピールのうまさや生徒への課題の与え方など共通する点も多く感じますね。もちろん洗足は女子校であり、広学園は女子校から共学校に切り替わった学校ですので、その点は大きく異なります。

peter-lws.hateblo.jp


最近では洗足学園がフェリスを抜いたと言うのも話題となっていました。もともと神奈川県における女子校のトップ女子御三家の中でも、一つ頭が抜けていたのがフェリスです。東京では桜蔭・女子学院・雙葉が従来から女子御三家として有名ですが、神奈川県には神奈川県の価値観というものがあるようです。通学時間を考えると、都内の学校に通いにくいと言う事情ももちろんあります。そうした神奈川エリアの女子生徒にとって、フェリス、横浜共立、横浜雙葉の三校は、神奈川御三家として人気でした。しかし横浜共立や横浜雙葉が最近もう一つの人気なのに対して、フェリスはさすがの実力と人気を維持していた学校でした。しかしここ数年、フェリスの大学実績やまた人気に若干の限りがあるような気がすることも確かです。そんな中で洗足学園がフェリスを偏差値的に追い越したと言うのは話題になったのですね。
洗足学園は次に目指す、つまり追い抜く目標は豊島岡と言われることが多いです。豊島岡も受験日を分散し、多くの優秀な受験生を集め、また学校の教育内容にも定評があることから都内屈指の人気校になった学校です。池袋と溝の口と場所はだいぶ離れていますので、直接受験生の層が被る事はあまりありませんでしたが、共学志望でない、女子校を選ぶ受験生にとって、豊島岡と洗足を迷って、その際に洗足を選ぶようになってくるのが、洗足学園の次の狙いではないかなどと業界では噂されているのです。
しかし私の考えは違います。
広尾や豊島岡が洗足の次なるライバルと言う気がしないのです。個人的な憶測に過ぎませんが、この学校の目指す次のライバルは、実は渋谷教育学園渋谷ではないかと思っています。
皆さんは高校生による模擬国連大会と言うものをご存知でしょうか?毎年実施されるこの大会には、全国の高校の選抜チームが集い、英語によるディベートを繰り返して優秀チーム3チームほどがニューヨークで行われる世界大会に参加する、そうしたイベントです。私も何度か国内の決勝大会を見学させていただいたことがあるのですが、こんなに真面目そうで、そして賢そうな高校生たちを1度に見たのは初めてでした。なんというか、いかにも青春という感じでまぶしかったことを記憶しています。その中でも優勝常連校としてあげられるのは渋谷教育学園渋谷渋谷教育学園幕張の二校です。この両校には模擬国連優勝を目指していくつもの同好会組織が活躍しており、その中で最優秀チームが選ばれてこの大会に参加してるようです。この高校模擬国連大会の主催はグローバル・クラスルームという組織ですが、そのバックにははユネスコアジア文化センターという財団法人があります。その理事長は渋谷教育学園の田村理事長がつとめています。(さきほど確認したところ、両者の関係は3年ほど前に解消されたようでした)


私がこの大会を2階席で見学していたとのことです。渋谷教育学園渋谷の下級生たちがネイティブの英語の先生に引率されて、先輩たちの活躍を見に来ていました。彼らの会話は全て英語です。つまりこの生徒たちは全員がおそらくは帰国子女でネイティブに英語を話せる生徒たちなのですね。他校の様子をあからさまに批判する。その言動はお世辞にもお行儀が良いと言えるものではなく、辟易させられたことを覚えています。後ろに座っていた私が英語が理解できるとは思われていなかったのでしょう。もちろん引率の先生はそれをたしなめることもせず、この学校に対する評価がほんの少し下がった思い出です。実は洗足学園も初期のこの大会には参加していたようですね。しかし途中から離脱し、独自の活動を始めるようになります。直接ニューヨークの大会に生徒を派遣するようになったのですね。9年前からは洗足学園が主催する形で、日本メトロポリタン模擬国連と言う新たな高校生のための模擬国連会議を始めました。実は高校模擬国連関係者の方に、この洗足学園の動きについて伺ったことがあります。いかにも、あちらさんのやってる事はちょっとね、といった批判めいた口調だったことが印象的でした。逆に洗足学園の先生に伺ったこともあります。模擬国連は別に自分たちで直接参加しても構わない大会なんですよ、と朗らかにおっしゃっていましたね。おそらくは今後洗足学園は国際化に大きく力を注いでくるような気がします。既に帰国生の受け入れには熱心です。帰国生入試の際には、事前に学校が模擬面接を実施してくださったりする機会も設けられています。近年は海外の有名大学にチャレンジする生徒のみを対象とした奨学金制度も設けられました。
海外志向の強い生徒にとっても選択肢の1つと今後なっていくことでしょう。

7.おすすめですか?

先生はこの学校をお勧めですか?と聞かれれば、答えはYESです。私はこの学校の振り切り方が嫌いではありません。生徒募集から進路指導にまで至る一環した方針には、むしろ潔さを感じます。よほど有力なコンサルでも入れたのかなあと思うこともありますが、あまりコンサルの匂いがしないですね。
ただし、すべての受験生にお勧めできるかと言えば、そんな事はもちろんありません。勉強がハードなのは間違いありませんので、大学進学や中高時代の勉強を第一に考えないのであれば、この学校は合わない可能性が高いです。

成績優秀な生徒には、推薦枠を教えてももらえない、などという話も聞きました。優秀な生徒には一般受験で大学実績を稼いでもらい、推薦枠はその他の生徒にまわす、ということなのかもしれません。もちろんこれはどの学校でも聞く話です。

よくも悪くも上昇志向の強い学校であることは間違いないと思います。

 

付け加えると、深緑色の制服はシックで素敵だと、私は思います。(溝の口のマリモちゃんなどと言われているようですが)