中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

本当に有利なのか? 帰国生入試の実態

今回は厳しめの記事となります。

海外に滞在していて帰国生入試を考えている方にとっても、これから海外赴任に行かれる方にとっても、そして帰国生入試に無縁の国内生にとっても、あまり愉快な話にはなりそうもありません。でも、きちんと書いておくべきだと思うのです。

1.帰国生入試を行う学校

まず最初に、ちょっと長いリストをご覧ください。

2024年に帰国生入試を行った学校の一覧です。試験日別に並べてあります。

◆東京・神奈川の学校だけです。千葉・埼玉等の学校は1月に入試がありますので、後述する帰国生入試のメリットが活きてこないから省きました。地方の学校の東京入試も入れていません。また、同様の理由で、1月までの入試だけ載せました。2月に一般入試と同一日程で帰国生入試を行う学校もありますが。

◆入試についている名前は省きました。「〇〇中インター何とか」「〇〇学園帰国選抜」「〇〇中学国際クラス」といったようなものです。学校によっては、入試を細分化し、一部クラスを特別扱いすることで人気と難易度を上げようとしているようですね。でも、私はそうした戦略が大嫌いです。だって同じ学校ですよね? 卒業30年後の同窓会で、「僕は理数クラスだったから一般クラスの君たちのことはよくわからなくて」「僕は〇〇サイエンスで入学したんだ」って言い続けるのですかね?

◆全ての学校を網羅してはいません。いくら何でもそれは無理です。ざっと調べた範囲で載せていますのでご容赦ください。試験日程も間違っているかもしれません。

 

10/21 大妻中野      
11/4 大妻中野 青稜    
11/5 大妻中野 青稜    
11/10 大妻中野 駒沢学園女子 工学院 京華女子
芝国際 実践女子 目白研心  
11/11 芝浦工大 佼成学園 サレジアン国際 神田女学園
山脇学園 富士見丘 和洋九段 聖学院
11/12 品川女子 広尾学園小石川 文大杉並 サレジアン国際世田谷
11/18 大妻多摩 国本女子 啓明学園 自由学園
昭和女子大 東京女子学院 三輪田学園 宝仙理数
11/19 大妻多摩 かえつ有明 麹町学園 千代田国際
宝仙理数      
11/20 宝仙理数 愛国    
11/21 三田国際学園      
11/22 佼成女子      
11/23 青稜 開智日本橋 江戸川女子  実践学園
関東学院 文大杉並    
11/25 鎌倉女学院 山脇学園 武蔵野大学 聖ドミニコ学園
11/26 共立女子 東京成徳大    
11/27 横浜女学院      
11/29 女子聖学院      
12/1 玉川学園 京華女子 聖ヨゼフ 清泉女学院
12/2 聖園女学院 淑徳巣鴨 聖学院 順天
淑徳 ドルトン東京 明星学園 聖園女学院
12/3 桐朋女子  立教池袋  田園調布学園 サレジアン国際 
12/4 学習院  暁星  かえつ有明 中村 
文京学院大学女子  横浜女学院    
12/5 郁文館  目白研心    
12/6 京華  宝仙理数 八雲学園  
12/7 佼成女子  聖和学院    
12/8 城西大城西  緑ヶ丘女子    
12/9 日本大学  ドルトン東京 佼成学園 駒込
自修館  神田女学園  聖徳学園 清泉女学院
頌栄女子 東京女子学院 捜真女学校 関東六浦
横浜雙葉      
12/10 大妻  東京女学館 芝国際  清真学園 
聖セシリア女子 千代田国際 サレジアン国際世田谷 都市大等々力 
12/11 芝浦工大      
12/12 三田国際学園      
12/13 神奈川学園      
12/15 鎌倉女子大  帝京  トキワ松  
12/16 鎌倉学園 カリタス女子  公文国際  相模女子大 
実践女子 湘南白百合  玉川聖学院  藤嶺学園藤沢 
新渡戸文化  横須賀学院    
12/17 東京農大第三  森村学園    
12/18 日大豊山女子 広尾学園小石川    
12/19 跡見学園  広尾学園小石川    
12/20 成城学園  聖心女子学院    
12/21 大妻中野  広尾学園 立教女学院  
12/22 神奈川大学 啓明学園 広尾学園 和洋九段
12/23 昭和女子大 白梅学園清修    
12/24 東京家政大  文大杉並  文教大学付属  
12/25 北豊島  文京学院大学女子    
12/26 工学院  逗子開成    
1/4 青稜      
1/5 穎明館  桐光学園  細田学園  
1/6 東京都市大 清泉女学院 聖ヨゼフ 相洋 
東京女子学院      
1/7 海城  法政大学第二  サレジアン国際世田谷 ドルトン東京
国学院久我山       
1/8 中央大附属  白百合学園  成蹊 サレジアン国際
1/9 目白研心      
1/10 城西大城西  桐蔭学園中等    
1/11 攻玉社  佼成女子 聖和学院  
1/12 高輪  武蔵野東    
1/13 洗足学園 国本女子  佼成学園 聖徳学園 
聖光学院  関東六浦    
1/14 サレジオ学院  文大杉並    
1/16 富士見丘      
1/17 工学院      
1/20 学習院女子 啓明学園    
1/22 北豊島 啓明学園 桐朋女子 明法
1/25 都立立川国際 都立白鴎    
1/27 渋谷教育渋谷      
1/28 横浜創英      
1/30 多摩大学目黒      

どうでしょうか。みなさんの行きたい学校・行かせたい学校がリストにありましたでしょうか?

ずいぶん多くの学校が帰国生入試を行っているのですね。

 

2.どんな学校が帰国生入試を行っているのか?

さて、この長いリストを見ていて学校がいくつかに分類できることに気が付きます。

 (1)一般入試の人気校

 この記事では、人気度=入試偏差値 と単純化しています。もちろんそんな単純なものではないことは承知しています。偏差値の定義が違うこともわかっています。でも、多くの受験生が憧れて努力して受験する学校は偏差値も自然と高くなるのが普通ですので、一つの目安として考えるだけです。

 このリストの中の難関人気校といえば、渋谷教育学園渋谷聖光学院あたりが双璧でしょうか。渋谷幕張も帰国生入試を行っていますが、千葉の1月校なので省きました。この2校は、一般入試でも最難関の学校のため、帰国生入試でも非常に入りにくい学校です。私の過去の生徒でも、帰国生入試で聖光や渋谷渋谷に不合格になった後、一般入試でリベンジ合格した生徒が何人もいます。海城もそうした学校の一つとしてあげてもよいでしょう。

 (2)上昇志向の強い学校

 ここでは広尾学園洗足学園をあげてみます。両校とも一般入試でも人気校ですが、こちらに分類しました。広尾学園小石川・三田国際、都市大付属・都市大等々力もそうですね。上昇志向が強いのは悪いことではありません。進学校に通うわけですので、6年後の大学進学は避けて通れません。「6年間楽しく遊んですごしたけれど・・・」では困るのです。一体何をもって「上昇志向の強い学校」と定義するのかは難しいところですが、私は以下の点を基準としています。

〇学校説明会で大学実績を強調している

〇学校公式HPで大学実績が強調されている

〇塾への営業活動に熱心である

〇宿題が多い

〇入試偏差値が急上昇中

〇複数回入試を実施している

〇最近学校名が変わった

 (3)危機感を持った伝統校

 山脇学園跡見学園・実践女子・鎌倉女学院等が相当します。大妻系(大妻・多摩・中野)は、とくに番町の大妻は順調かと思っていましたが帰国生入試を行っていますね。大妻中野は海外入試・オンライン入試にも熱心です。意外だったのは白百合ですね。押しも押されぬ伝統校ですが、たしかに最近偏差値は下がり気味です。まさか洗足や吉祥女子の後塵を拝す日がこようとは。勝手な憶測ですが、優秀な帰国生が入ることで学内改革の一助にする意図なのではないでしょうか。

 (4)定員割れの学校

 すでに定員割れしている学校、あるいは定員割れの危機に瀕している学校がたくさん見受けられます。さすがに具体的な学校名はあげません。2023年の入試の際に、全ての入試が終わった2月中旬に2次募集をしていた学校が2桁このリストにあがっています。2次募集をしているということは、入学者が定員に満たなかったのですね。生徒獲得になりふり構わずといったところでしょうか。

もちろん、定員割れ=ダメな学校などという単純なことではありません。私の目から見てもどうして人気が無いのか不思議な学校もありますし、生徒の満足度が高い学校もたくさんあると思います。ただ、学校経営としては苦しいですね。

 

3.帰国生入試の形態

 これについては年々複雑になってきました。最近見かけるのが海外実施入試とオンライン入試です。帰国生入試の皮切りというべき大妻中野の10/21入試はシンガポール会場です。いったいどこで?と思って調べたら、RELC International Hotelで実施とありました。このホテルは知らないなあと地図で確認すると、オーチャード通りから外れたところ、ラッフルズと真逆といえばわかりますかね、そんなところです。また、大妻中野は2回にわたりオンライン入試も行います。オンライン入試? いったい何をどうやる? と思って確認すると、15分の保護者同伴面接をオンラインで行い、その時にスピーキングもチェックするそうです。あとは英検やTOEICのスコアを提出とありました。それだけで合格させるのですね。京華女子や目白研心、宝仙理数は1週間くらいの期間でオンライン入試を実施します。駒沢学園女子は11/10~2/29までの期間中随時入試が行われるそうです。随時って凄いですね。宝仙理数インターのシンガポール入試は、学校長がシンガポールに赴き、学校長と直接面接で合格が決まるとのことでした。忙しいでしょうに大変ですね。もしかしてシンガポールチキンライスが目当てとか? それならわかります。私も大好きです。あとバクテーが。行くたびに何度も食べました。まさかそんな理由ではないでしょう、私じゃあるまいし。

 

4.帰国生入試の実施理由

 もうここまで書いてくればお分かりですよね。帰国生入試を各中学校がここまで手間暇をかけ、しかも受験のハードルを下げに下げて実施する理由はたった一つです。

生徒が欲しい!

これです。

もちろん、さらにこう続きます。

優秀な生徒が欲しい!

さらにこう続くのです。

英語ができる優秀な生徒が欲しい!

その学校の思惑に乗るのも乗らないのもありでしょう。

せっかく海外で身に着けた英語力を期待され、さらに伸ばしてくれるのなら素晴らしいことですからね。

ただし、順番を間違えてはいけません。行かせたい学校・通いたい学校を見たら、帰国生入試も行っていた、これが王道です。帰国生入試を行っている学校のリストの中から志望校を選ぼうとするのは本末転倒だと思います。限られた選択肢の中からだけ受験校を組み立てるため、本来の学力を無視した受験パターンになりがちだからです。例えば、洗足学園(N-64,S-57)と三田国際(N-53,S-47)と大妻中野(N-45,S-32)の3校を受けるといった、一般国内生の入試では見られない組み合わせで受験したりもするのです。もちろん気に入って進学を視野に受験するので偏差値など些末なことではあるのですが、入学後に周囲を見回すと違和感を感じてしまうでしょう。

 

 

5.帰国生の本当の利点

学校の思惑は英語力の高い生徒の獲得にあるとしても、受験生の思惑はそこではありません。帰国生の最大の利点とは、「1月までに合格をとれる」ことにあるのです。

国内の入試(東京・神奈川)の解禁日は2月1日です。そこからの5日間程度の期間に、東京・神奈川の全ての学校の入試が集中します。そこから受験戦略を組み立てるのは実に大変です。チャレンジ校・熱望校・実力適性校・安全校、こうした学校を受験していくのです。しかし、帰国生は2月になる前にいくつもの学校の受験が可能です。国内生には願っても得られぬこの利点こそが、帰国生入試の最大のメリットなのです。

そしてこのメリットを活用するためには、2月以降の入試の受験も当然考えていかねばなりません。どのみち中学に進学すると、大半の生徒は一般受験で4教科を突破してきた生徒ばかりです。「私は帰国生なので算数(国語/理科/社会)ができません」などという言い訳は通用しません。4教科をきちんと学んで、一般入試でも合格できる力をつけつつ、帰国生入試も受験する、これが王道です。

反対に、主要4教科=算国理社を弱点とすると、帰国生であることが利点から欠点になってしまうのです。

 

6.日本の学校はわが子に合うのだろうか?

海外滞在の方々からよく聞く声があります。

「うちの子は、海外が長すぎて、日本の学校になじめるかどうか心配です」

ああ、これはよくわかります。滞在都市、期間、通った学校(現地校or日本人学校orインター)、本人のキャラクター、こうしたものが様々だとはいえ、日本の国内の学校出身の生徒たちとは、微妙に何かが違う、そうした雰囲気の違いはあるかもしれません。

〇他人との距離感が異なる・・・フレンドリーすぎる?

〇大人との接し方が異なる・・・先生にため口?

〇周りに合わせることができない・・・個性的?

〇はっきりと自分の意見を口にし過ぎる

〇集団行動が苦手

こうした点を気にされて、海外からの帰国生が多い学校に進学させたい、そうした希望をお持ちなのですね。

しかし、もし中学入試をお考えなら、これはあまり気にする必要はありません。小学生は自我が未発達で社会経験が少ないため、よく言えば個性的、悪くいえば我儘な生徒がたくさんいます。周りに合わせたり大人と接する態度がなっていない生徒など大勢いるのです。「うちの子は〇〇国の生活が長かったから」と親が考えることで、むしろ子供をある枠組みに規定してしまい、子供の適応力を削ぐことにもつながってしまいます。子供の柔軟な適応力を信じてあげましょう。

ただし、もし高校入試での帰国をお考えの場合は、少し事情が異なると思います。15歳にもなるとそれなりに周囲との接し方が身についてきつつあるため、帰国生が周囲から「浮いて」しまう可能性はあります。それを個性として好む学校もありますが、好まない学校もあります。さらに「帰国生だから英語ができて当たり前」という色眼鏡で見られることには覚悟が必要です。非英語圏日本人学校出身だとしてもです。たとえ英語圏出身だとしても、日本の高校&大学入試で求められる英語力が身についている必要があるのですね。

もし、わが子の個性・キャラクターをそのまま伸ばしたい、周囲に合わせてほしくはない、そうお考えなら、残念ながら日本の学校に合う学校はありません。日本国内の学校で「自由」「国際的」「個性を伸ばす」、そうした評判の高い学校であったとしても、それはあくまでも「日本国内」の基準においてなのです。評判を信じて進学するとがっかりするかもしれません。最難関校の一部には本当に自由な学校もありますが、そうした学校の「自由」は、主要教科の高い学力の裏付けがあったうえでの「自由」ですので、期待する「自由」とは方向性が異なると思います。その場合は、international school が良いと思いますが、その選択は将来にわたって日本の教育制度に入らない=海外大学に進学する決断と重なります。

 

7.帰国生は本当に有利なのだろうか?

結論をいいます。

有利ではありません。

身も蓋もない言い方ですいません。もう少し丁寧に書きます。

有利にも不利にもなります

 

「帰国生は英語が武器だから、入試は楽勝!」

「算国だけやっておけば、理社は不要」

「中学校は帰国生をとても優遇してくれるので合格しやすい」

「英語と算国だけやっておけば、理社は3か月で何とでもなる」

もし海外の塾等でこのような話を聞いていたとしたら、それらはです。それを信じて小学生時代に理社を捨て、いざ中学校に英語力だけで合格・進学したものの、周りの生徒についていけずに悪戦苦闘している、そうした声をたくさん聞いてきました。

海外の塾の多くが理社を軽視するのには理由があります。

〇理社は暗記でなんとかなるという大昔の受験スタイルのままである

〇現在の日本の中学受験状況にあまり詳しくない

〇理社を教えるノウハウがなく、教えられる先生もいないため

 

もし帰国生入試を有利にしようとするなら、でも書いたように、国内一般受験でも合格できる4科目の力をつけることが前提です。その上で英語力を武器にするのです。

そうすれば、1月に合格をとれる という、帰国生最大の利点が最大限に活用できます。

帰国生入試だけしか受験できないような教科で学習していると、肝心の帰国生入試ですら有利には働きません。なぜなら、そこには4年生や5年生で早期帰国して日本の塾でバリバリと4科目を勉強してきた生徒たちが、ちゃっかりと帰国生の資格を満たして受験に臨んでくるからです。つまり、ライバルは世界中にいると同時に、日本国内に真のライバルがたくさんいるのです。彼らに打ち勝つための学力が求められています。

 

帰国生入試については、こちらの記事でもいろいろ書いています。ぜひお読みください。

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