中学入試に、英語入試を導入する学校が増えてきました。
今後も増加すると思われます。
〇いったなぜ英語入試?
〇どんなレベル?
〇英語を勉強しなくちゃだめなの?
今回はこうした疑問について考えてみたいと思います。
※帰国生入試ではなく、一般生入試にしぼった話です。
小学校の英語教育について
2020から小学校で英語が必修化されました。
実はそれ以前から、5・6年生対象の外国語活動を行っていた学校も多く、「いきなり始まった!」ということではないでしょう。
2020年以降の変化というのは、英語教育のスタートを中学1年生ではなく、小学生に前倒ししたことに特徴があります。
現在は、以下のような内容・時間数となっているはずです。
小学3・4年生・・・「外国語活動」
◆学習目標・・・「聞く・話す」を通じて、言語に慣れ親しむ
◆授業時間・・・週1コマ、年間35時間程度
◆内容・・・自分の考えを伝える
小学5・6年生・・・「教科としての英語」
◆学習目標・・・基礎的な知識・技術の定着
◆授業時間・・・週2コマ、年間75時間
◆内容・・・4技能の学習
年間75時間程度で、いったいどれくらいの「英語」が学べるのか、身につくのかは微妙だと思われます。
公立中学校1年生の時間数は、年間140時間となっており、ほぼ倍の時間です。それでも足りないのはご存じのとおりです。
ちなみに、私立中学校の英語の時間数は、公立中の1.5倍程度だと思われます。
塾屋の私としては、「小学校では中途半端な教科学習の時間を全て英語に振り向けてくれたらいいのに」などとつい考えてしまいます。英語という教科の特性上、費やす時間数と反復がものをいいますので、小学校の学習にフィットすると思うのですが。
すいません、塾屋の独り言です。
中学入試における英語入試の広がり
2015年に私が数えたところ、一般入試で英語を導入している学校は、一都三県で32校ありました。このころが、英語入試の黎明期と位置付けられると思います。
【男子校】
聖学院
都市大付属
桐蔭中等教育(2019に共学化)
【女子校】
大妻嵐山
白梅学園清修
佼成学園女子
共立女子第二
富士見丘
【共学校】
新渡戸文化
東京都市大附属
郁文館
二松学舎大付属柏
かえつ有明
城西大付属城西
工学院大附属
開智日本橋学園
順天
三田国際学園
聖徳学園
帝京
東京都市大等々力
横須賀学院
学校の顔ぶれを見ていると、このような特徴に気が付きます。
◆国際化に積極的な学校
◆帰国生入試も行っている学校
◆進学校(大学付属校ではない)
◆新しい学校(共学化・校名変更等)
◆入試制度の改変に積極的な学校
◆大学実績に苦戦している学校
◆生徒募集に苦戦している学校
どの学校がどのタイプかは私からは申しません。
いずれにしても、英語入試の導入によって、「何らかの変化」を起こそうとしていることは間違いありません。
さて、2024年には、英語入試を行った学校は、1都3県でおよそ130校にものぼりました。
さすがに全ての学校を列挙するわけにはいきませんので、一部抜粋します。
【男子校】
京華
佼成学園
聖学院
東京都市大付属
【女子校】
跡見学園
江戸川女子
大妻多摩
大妻中野
川村
神田女学園
北豊島
共立女子
共立女子第二
国本女子
京華女子
麹町学園女子
佼成学園女子
小石川淑徳学園
駒沢学園女子
実践女子学園
十文字
昭和女子大付属昭和
女子聖学院
白梅学園清修
成女学園
聖ドミニコ学園
瀧野川女子学園
玉川聖学院
東京家政学院
東京女子学院
桐朋女子
トキワ松学園
中村
日大豊山女子
富士見丘
藤村女子
文京学院大学女子
三輪田学園
山脇学園
和洋九段女子
官川学園
カリタス女子
北鎌倉女子学園
湘南白百合学園
清セシリア女子
清泉女学院
聖和学院
美園女学院
横浜女学院
和洋国府台女子
大妻嵐山
【共学校】
郁文館
穎明館
開智日本橋学園
かえつ有明
工学院大学附属
駒込
サレジアン国際学園
サレジアン国際学園世田谷
芝浦工大附属
芝国際
淑徳巣鴨
順天
城西大城西
駿台学園
創価
玉川学園
帝京
都市大等々力
ドルトン東京学園
日本工業大学駒場
八王子実践
広尾学園
広尾学園小石川
宝仙
三田国際学園
目黒学院
目白研心
八雲学園
安田学園
アレセイア湘南
関東学院六浦
公文国際学園
慶應湘南藤沢
桐蔭中等教育
桐光
日本大学
暁星国際
芝浦工大柏
西武文理
江戸川取手
一部といいながら、大部分を紹介してしまいました。(もちろん網羅はしていません)
ここまで拡大すると、お子さんの志望校が含まれているかもしれません。
ただし、学校の顔ぶれを見ていると、10年前と状況はさほど変わらないと思われます。いわゆる「最難関」とされる学校の名前は見当たりません。
例外としては、慶應湘南藤沢でしょうか。また、2025年には豊島岡女子が英語資格入試というものを始めます。
英語入試導入の意図
小学校で英語が教科されることにともない、はたして中学入試に英語を取り入れるのか?
この質問に対し、ある難関校の返答がこうでした。
「そのつもりはありません。しかし、本校以外の多くの学校が英語入試を行うようになれば検討せざるを得ないでしょう」
この答が全てを物語っているような気がします。
◆英語入試を導入したくはない
◆しかし、時流に乗り遅れるのも避けたい
おそらく多くの難関校がこうした考えなのだと思います。
まさに今、様子見なのではないでしょうか。
ここで、そもそも英語入試をなぜ導入するのか、その意図について考えてみます。
(1)大学合格実績につなげるため
最初から英語ができれば、それだけで大学入試には非常に有利になります。とくに私大文系では無敵です。それをもくろんで、帰国生のための特別入試枠を設けたり、あるいは英語ができる生徒を優遇する入試制度としたりするのです。
このパターンの学校が最も多くみられます。
また、非英語圏からの帰国生を優遇する学校も多くみられます。
〇非英語圏でもインターナショナルスクール出身だから英語力は無敵
〇非英語圏でも日本の小学生よりは英語教育に力を入れているはずだから
いずれにしても、将来の大学合格につなげる意図なのでしょう。
個人的には、すでに英語力がある生徒を取るという発想が、教育機関としてどうなのか?と思ってしまいます。
(2)国際化のアピール
学校名に「国際」を名乗る学校も多いですし、今やどの学校のHPを見ても、「グローバル」「世界に羽ばたく」「国際化」「英語力の向上」といったワードを見かけないことはないほどです。
そうした「国際化」をアピールしたい学校にとっては、入試に英語を取り入れることで、対外的なイメージUPになるばかりか、実際に英語ができる生徒が入ってくることは好都合なのだと思います。
(3)英語力でクラス分け
すでに帰国生入試で英語力が高い生徒を取っている学校の場合、さらに英語力の試験を課すことで、学校内の英語の学力別クラス編成が取りやすくなるのでしょう。
(4)生徒募集につなげるため
生徒募集に苦戦している学校はたくさんあります。毎年、2月の入試時期が終了した後、欠員募集を実施する学校は多数あります。いわゆる「定員割れ」の学校です。
定員割れには陥っていないとしても、伝統校と言われる学校でも優秀な生徒集めには苦慮しています。
そこで、せめて英語だけでもできる生徒をとりたい、入試のハードルを下げたい、と考える学校も増えているのでしょう。
英語入試の導入で入試のハードルが下がる、というのも真逆のような気もしますがそうでもないのです。
そもそも中学入試は算国理社の4科目が基本です。
しかし、多くの受験生にとって、この4科目の教科学習が負担となっているのですね。
そこで、「英語・作文」「英語・面接」といった試験を実施するのです。
私の知っている生徒の一人も、低学年から進学塾には通っていたものの、成績は低迷、というより全くできるようにはなりませんでした。親もそんな子どもの状況に半ばあきらめモードだったのです。ただし、英会話教室には幼少時より通わせていて、そこだけは楽しく通っていたそうです。
そこで、英語と面接だけで合格できそうな学校を探して、そこを目標とすることに切り替えました。
どうやら、四科目の学習は大切だと思わない親は多いようですが、英語だけは将来必ず必要になるから、と考える親はとても多いのですね。
そこをターゲットとした「英語入試」なのだと思います。
(5)隠れ帰国生の優遇のため
帰国生入試の条件を満たさない生徒への救済措置という場合もあるでしょう。
東京都の場合、「海外滞在1年以上、帰国して3年以内」という条件となっています。
しかし、例えば海外で生まれ育っていて小学校低学年のうちに帰国した生徒がいたとすると、この条件には当てはまらず、帰国生入試を受けられないのですね。
また、国内にいてもインターナショナルスクールに通っていた子もいるでしょう。
◆4教科一般入試では不利になって可哀そう
◆英語がとてもできるのにもったいない
いったいどちらの思惑が優先するのかはわかりませんが、そうした子を集めるための英語入試という考えです。
英語入試のレベル
学校の募集要項によると、英検5級レベルから準1級レベルと幅がありすぎます。
ざっと見たかぎりでは、3級~準2級レベルというのが多数派だと思います。
一般に英検級の目安は、3級で中学卒業程度、準2級で高校中級程度とされています。
「小学生に中学卒業程度を要求するのか」と思わなくもないですが、そもそも算国理社の入試レベルがすでに中学卒業程度といえますからね。そう考えれば、3級レベルというのはそんなに不自然ではないのかもしれません。
それでも大変なのには変わりませんが。
私が問題だなあと思うのは、一部の学校が要求する英語力の水準の高さなのです。
慶應湘南藤沢は、英語試験のレベルについて「準1級程度です」と公言しています。
入試問題を見ると確かに。1部1級レベルの単語も見かけるような気もしますが。
そして、来年から英語資格試験を導入する豊島岡は、このようになっています。
この資格試験というのは、英検の級によって英語のみなし得点を与えるというものです。
算国と合わせ得て300点満点で評価するのです。
準1級以上 CSEスコア2304以上 100点
2級 1980~2303 90点
準2級 1980以上 80
準2級 1728~1979 70点
3級 14556以上 50点
つまり、準1級以上をもっていれば100点となり、2級だと90点となるのですね。
中学入試における1点の重みはみなさんもご存じだと思います。
本当に1点で明暗が分かれるのを何度も目撃してきました。
それが、最初から1科目100点がもらえるなら。
こんなに有利なことはありません。
逆にいうと、3級や準2級レベルでは、受験しても無駄と考えたほうがよさそうです。
簡単に準1級といいますが、大学中級レベルですよ!
小学生の段階で、大学生レベル(それもけっこう上)の英語力を要求するのってどうなんでしょう?
しかも帰国生入試ではないのに。
この動きが、他校に拡大しないことを切に願います。
これ以上、中学受験生の負担を増やしてほしくないのです。
算国理社から算国英に科目が減るから負担は増えない、そういう考え方はなりたちません。
進学後は、普通に4科目の勉強をしてきた生徒たちと机を並べるのですから。
もし理社を捨ててしまうと、そこで完全に落ちこぼれます。
実は、帰国生入試で入学後に同様の事態に陥った生徒も知っているのです。