今回は、来年入試を控えている新6年生(現5年生)のみなさんを対象とした記事です。
テーマは、「1月校のお試し受験は必要なのか?」です。
1.1月校お試し受験とは?
もう入試まで1年となった新6年生にとっては説明は不要だと思いますが、念のために書いていきます。
「1月校お試し受験」とは、1月に入試が行われる千葉・埼玉(&地方)の学校の入試を、「2月本番入試に向けた予行演習としてお試しで受験する」ことをいいます。
東京と神奈川の中学入試の解禁日は2月1日と決められています。多くの受験生が第一志望とする学校のほとんどが2月1日に受験が設定されています。いきなりの本番で緊張しないために、事前に入試本番の緊張感を味わっておく、いわばリハーサルとしての受験が「1月校お試し受験」というわけです。
こうした受験が一般化したのは、いつ頃とはっきりとは言えないのですが、30年くらい前かもう少し前からのような気がします。
今ではすっかり定着した入試形態です。例えば1月中旬に複数回入試を行う「栄東中学校」では、延べ受験人数がおよそ1万2千人!です。もちろん東大宮にあるこの学校に通うつもりの受験生ばかりではありません。その大半が東京や神奈川から遠征してきたリハーサル受験生たちです。
※この記事は、あくまでも「お試し受験」についてのものです。千葉・埼玉に住んでいる、あるいは出やすいために進学の意図を持っての受験についての話ではありません。
2.1月入試をおこなう学校
前述のとおり、千葉・埼玉の学校になりますが、その他に地方の学校が首都圏(東京)に会場を設けて実施する入試もあります。
(1)千葉の学校
・渋谷教育学園幕張 ・市川 ・国府台女子 ・和洋国府台女子 ・光英VERITAS
・芝浦工業大学柏 ・昭和学院 ・昭和学院秀英 ・専修大学松戸
・千葉日本大学第一 ・東海大学付属浦安高等学校中等部
(2)埼玉の学校
・城西川越 ・城北埼玉 ・立教新座 ・浦和明の星 ・大妻嵐山
・開智 ・開智未来 ・春日部共栄 ・埼玉栄 ・栄東 ・西部学園文理
・獨協埼玉
(3)茨城の学校
まだまだたくさんの学校がありますが、一部だけ紹介しました。
このほかに、地方の学校の首都圏入試というものがあります。
(4)地方の学校の首都圏会場入試
◆西大和学園・・・こちらは奈良県の学校ですが、東京・愛知・岡山・福岡・広島・札幌・沖縄 と各地で会場を借りての入試を行っています。さらにシンガポール!にも試験会場を設けています。
◆函館ラサール・・・こちらは名前のとおり函館の学校ですが、札幌・東京・大阪・名古屋各地で入試を行います。
◆愛光・・・・愛媛の名門ですが、東京・大阪・福岡で入試を行います。
◆長崎日大・・・東京・神奈川入試を実施。
◆佐久長聖・・・東京入試を実施
◆不二聖心・・・東京入試
◆片山学園・・・富山の学校です。東京・名古屋・大阪で入試を実施。
その他たくさんありますね。
3.1月入試実施校の2つのパターン
そもそも学校が1月入試を実施する理由として、以下の2のケースが考えられます。
(1)進学予定の生徒にだけ受験してほしい学校
シンプルな理由です。入試ですから当たり前ですよね。千葉・埼玉等に学校がある場合、通学可能な範囲の生徒だけに受験してもらい、その中から合格者=進学者を出していくだけです。
ただし、1万人もの受験生を集めている学校は、あきらかにそうした生徒だけを対象としていないと思われます。都内の多くの学校は「通学可能な範囲」の受験資格を設けています。例えば、筑駒の通学区域はこうなっています。
【東京都】 23区、昭島市、稲城市、清瀬市、国立市、小金井市、国分寺市、小平市、狛江市、立川市、多摩市、調布市、西東京市、八王子市、東久留米市、東村山市、日野市、府中市、町田市、三鷹市、武蔵野市
【埼玉県】 上尾市、朝霞市、川口市、さいたま市(浦和区、大宮区、北区、桜区、中央区、西区、南区)、志木市、草加市、所沢市、戸田市、新座市、富士見市、ふじみ野市、三郷市、八潮市、和光市、蕨市
【千葉県】千葉県 市川市、 浦安市、 習志野市、船橋市、松戸市
【神奈川県】 厚木市、海老名市、川崎市、 相模原市(南区、 中央区、 緑区の相原・大島・大山町・上九沢・下九沢・田名・西橋本・二本松・橋本・橋本台・東橋本・元橋本町)、 座間市、 大和市、 横浜市(青葉区、旭区、泉区、神奈川区、港南区、港北区、瀬谷区、都筑区、鶴見区、戸塚区、中区、西区、保土ヶ谷区、緑区、南区)
ずいぶん厳しいですが、これでも拡大したのです。ここに挙げられている地域に住んでいいない場合は、出願資格はありません。また、女子学院の通学区域はドアtoドアで90分以内となっており、出願時に詳細な経路・時間の提出が必要です。乗換案内のアプリまで指定されていて、その時間を記入します。
つまり、千葉・埼玉の一部の学校で多くの受験生を集めている学校は、そうした制限を設けていないということなのですね。
(2)優秀な生徒を1名でもとりたい
地方の中学校の東京入試がこれにあたります。お試し受験でもかまわない。それでも受験してもらって、一人でも優秀な生徒がとれればそれでかまわない。そうした割り切りを行っている学校です。こうした学校は、東京で会場を借りての受験ですので、千葉や埼玉の遠隔地まで受験しに行かなくてすむというメリットがありますね。また、得点の開示を行ってくれるところもあります。まるで模試感覚で受験ができるのです。地方の学校以外にも、千葉・埼玉等の学校でもこうした目的で受験を設定している学校もありますね。
4.1月受験のメリットとデメリット
(1)メリット
これは冒頭に書いたように、2月本番入試前に予行演習をする、これにつきます。もちろん中には1月の学校に合格したら入学金を納めて押さえておき、2月本番に高いチャレンジをするという受験生もたくさんいます。しかしこれはいわゆる「お試し受験」には当たりませんね。本気の受験ですので。
また、1月の結果によって2月本番入試の受験校を占う、そういうケースもあります。
さらに、たとえ行く気が全くない受験だったとしても、やはり合格というのは嬉しいものです。自信をつけさせて気持ちよく2月の入試に向かわせるという目的も考えられます。
※一部の学校は予行演習にならない
地方の学校の東京会場受験は、ホールや会議室を借りての実施です。「本番の予行演習」としてはだいぶ雰囲気が異なります。また、千葉の市川中のように、幕張メッセを会場として4000人もの受験生を集める入試も、雰囲気が違います。やはり、学校の教室で受験しないと予行演習としてはもう一つですね。
(2)デメリット
デメリットには3つあります。1つは、体調管理です。1月は寒いです。しかも千葉・埼は遠いです。(近いのならお試し受験とはならない。本気の受験が可能ですよね) 朝早くから遠くまで受験に行くだけで疲れますし、昨今コロナ・インフルも心配です。これについては、地方の学校の東京受験だと、都内の会場を借りて行われますので距離的な問題はクリアされます。しかし、貸会議室や大学を借りての受験だと、本番の予行演習にはあまりなりません。やはり学校で受ける試験の雰囲気は特別ですので。
2つめのデメリットは不合格です。安全なつもりの受験でも、何が起こるかわかりません。思わぬ不合格となってしまうと、行くつもりが無かった受験だとしてもショックです。
3つめのデメリットは、合格です。不合格によるデメリットの逆ですね。これは生徒のタイプによるのです。お試し受験といえども「合格」をとることで、上向きの調子が出る生徒もいる一方、油断が生じるケースもあるのですね。
もう10年以上前の話です。今でも覚えている男子生徒がいます。仮に太郎君とします。太郎君はとにかく「出来る」生徒で、頭の回転も速く、当意即妙のやり取りが教室の雰囲気をつくってくれる、そんな生徒だったのです。開成の合格ラインよりも10くらい偏差値が上回っていましたね。太郎君の本命は筑駒でした。彼にとって開成は「あまり好きではないが、他に1日に受験する学校がない」から受ける学校だったのです。何とも生意気かつ贅沢な話ですが、彼はそれだけの実力がありましたから。彼は1月に灘中、1日に開成、3日に筑駒を受験しました。まず灘中に合格します。お父様かお母さまのご実家が関西のほうということで、万が一どこにも合格できなかったら進学するようなことを聞きましたが、本人にはその気は全く無いとのことでした。そして1日の開成の結果は3日に出ましたがこちらも当然の合格です。しかし、3日に受験した筑駒は合格できなかったのです。偏差値的には彼より10近く下だった生徒が合格していたのに、です。悲嘆にくれ号泣する(というより吠えていましたね。手がつけられなかったです)太郎君にかける言葉はありませんでした。
原因はわかっています。
「駒東現象」が起きてしまったのです。
この「駒東現象」とは、私が名付けました。1日の男子校としては、開成・麻布・駒東あたりが最難関人気校です。ただし、開成・麻布の合格発表が3日なのに対し、駒東は2日に発表があるという違いがあります。また、これら3校の受験生の多くが、3日に筑駒を受験する傾向にあります。これにどういう意味があるかおわかりですね。
〇開成→筑駒・・・開成の結果(そして2に受験した栄光や聖光の結果)がわからぬまま最難関の筑駒を3日に受験しなくてはならない。
〇麻布→筑駒・・・上に同じ
〇駒東→筑駒・・・筑駒受験の前日に駒東の合格発表を見て、合格を確認してから筑駒が受験できる
これだけ見れば、どう考えても駒東→筑駒という受験パターンが正解のように思えてしまいます。駒東が不合格だった場合は筑駒の受験を回避して海城とか浅野を受験する、そういう作戦がとれますので。
しかし、そうした作戦で受験に臨んで、筑駒に合格した生徒というのをまず見たことがありません。筑駒の出題傾向を考えても、「背水の陣で緊張感をもってテストに臨み、1点も落とさないように」しないと合格が難しいのです。これを私は勝手に「駒東現象」と名付けました。いくら「僕の本命は駒東じゃなくて筑駒だぞ」と言い聞かせたところで、子供のことです、どこかに気のゆるみが生じるのは仕方がないのです。
太郎君も、もし灘中など受けていなければ(そして合格していなければ)、筑駒に合格していたのではないか、そう考えてしまいます。
1月「お試し受験」の合格が、わが子にどんな影響を及ぼすのか、慎重に検討してください。
5.結論・・・受験すべきか?
私の結論を申し上げます。
不要です。
1月に1回や2回予行演習をしたからといって、2月の本番で緊張しなくなるわけはありません。もし緊張しない子がいたとしたら、そうした子は予行演習などしなくても落ち着いて受験できる子です。もし2月本番で緊張する子なら、何度予行演習をしてもやはり緊張します。「この学校に受かりたい!」という欲と、「もし落ちたらどうしよう!」という恐怖、これが緊張の原因です。行くつもりもない学校の受験は役に立たないことが多いのです。
それなのに、多くの塾の進路指導では、「1月のお試し受験」をすすめてきますね。
まさか塾の実績稼ぎだとは思いませんが。
私に言わせれば、「思考停止」としか思えません。感染症のリスクをおしてまで、本番前の貴重な1日を費やし、体力と無駄な受験料を使ってまでお試し受験をする必要はない、これが私の結論です。