中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

学校選びのポイント、麻布と駒東

 麻布と駒東、どちらを目指すべきなのでしょうか?

これは、城南エリアから神奈川方面にお住まいの方から受けることの多い相談です。

本来なら校風がかなり異なる両校、迷う要素など無さそうにも思うのですが、実際にご相談が多いということは、迷われる方が多いということですよね。

そこで、両校の特徴を踏まえ、どちらを目指すべきか考えてまいりましょう。

1.麻布という学校

この学校は、押しも押されぬ進学校で東大合格者ランキングの常連校です。何十年にもわたって、ベスト10に居続ける学校は麻布だけです。

東大ランキング

1895年明治22年)創立。現校舎は1932年に建てられたということなので、文字通りの伝統校です。もっとも、体育館・講堂等の施設は順次増築されているようですね。

都心の一等地にしてはまずまず広い校地をもっています。テニスコート数面、屋外プール、アメリカンフットボールができるグラウンド等、男子校としては過不足ありません。また、多摩川河川敷にもグラウンドを所有しています。正門からの通路が狭かったのですが、隣の土地を取得したとのことなので様変わりすることでしょう。

ところで、学校の敷地面積の目安としては、都内の小学校がおよそ1万㎡といわれています。麻布は2万㎡ですので悪くはないですね。

広尾駅を降りると、有栖川公園の横の緩やかな坂を上り切ったあたりに学校があります。
この有栖川公園は生徒の憩いの場(たまり場?)として愛用されているようで、公園奥の都立中央図書館もよく利用されています。

近隣には女子校も多く、東洋英和・聖心・女学館・実践女子といった学校との交流(私的な?)もさかんだとか。そのあたりが男子校特有の野暮ったさを感じさせない理由なのかもしれません。

先生方に言わせると、「最近の生徒はおとなしくなった」そうですが、それでも他校にくらべれば十分に個性的です。出身者には総理大臣からやくざまでいるというのは有名な話ですね。橋本龍太郎安部譲二(中学のみ)は同級生です。そういえば、ジャズピアニストの山下洋輔も卒業生でした。そう考えれば「最近の生徒はおとなしくなった」というより、「昔は破天荒な生徒が多かった」というべきかもしれません。

男子校には自由な校風の学校も多いのですが、この学校の「自由」は徹底しています。1970年前後の学校紛争を契機としてより「生徒主体」に舵を切ったそうで、学校行事のほぼすべてが生徒の企画・運営ですすめられています。

 

2.駒場東邦という学校

東邦大学の付属校として1952年に設立されました。

学校設備も一通りそろっている印象です。校地の面積はは麻布と同じくらいです。室内プールや食堂などは麻布にはない設備です。男子にとっては運動施設は気になるかもしれません。この2校より広いところというと、武蔵や筑波大駒場でしょうか。さらに栄光学園にいたっては、両校の5倍近くの面積を誇ります。

学校に対する私の個人的な印象は、「安心しておすすめできる学校」というものです。比較している麻布が相当癖の強い学校ですので、「うちの子供は麻布のような自由な学校に行っても大丈夫でしょうか?」という相談を受ければ、「それなら駒東にしましょう」というしかありません。そもそもそうした心配がある時点で、麻布は向かないと判断します。

保護者が学校に関わる機会も多く、面倒見も良いといわれています。

この学校で一番盛り上がるイベントといえば、5月の体育祭でしょう。中1のときに割り振られた4色(赤・白・青・黄)の組み分けが6年間続きます。色別対抗の体育祭は盛り上がること必至ですね。そのせいか、縦のつながりが強く、卒業後のOB会との関係も深いと聞きます。

OBのつながりといえば、開成も有名ですね。全国や海外にも開成会があり、岸田首相も官僚と政治家の集まりの霞が関開成会(永霞会)を主宰していました。

ちなみに、麻布にはそういうものはありません。

私が教えたことのある駒東生も、高3の体育祭では髪を染めて張り切ったそうで、自分のカラーが勝ったときには号泣したとか。翌日には坊主頭となり、ここから大学入試に向けて集中するそうです。

駒場東邦もそれなりに自由な学校ではあるのですが、ある保護者曰く、「柵で囲まれ教師の目が行き届いているフィールドを走り回る自由」なんだそうです。

1985年から10年以上校長を務めた久保田宏明校長のもとで現在の駒東のカラーが定まりました。東邦大学の付属校には違いないのですが、大学の干渉を突っぱねたという噂です。その後元文部官僚の菱村幸彦氏が校長となったときには駒東の良さが失われるのではと心配されましたが杞憂に終わりました。


 筑駒との関係

駒東を語る際には、筑駒との関係を無視するわけにはいきません。

この2校は完全に校地が隣接しています。

池尻大橋駅から行く場合は、駒東の前を通って筑駒に、駒場東大前駅から行く場合には筑駒の前を通って駒東に行くという位置関係です。

通学を考えた場合、この2校が同時に候補にあがるのも当然です。

そして、入学試験日が、2月1日が駒東で、2月3日が筑駒となっています。

しかも駒東の合格発表は2月2日です。

こうなると、1日に駒東を受験し、2日に合格を確認した後、3日に筑駒にチャレンジ、という受験パターンが王道となります。

2日に駒東が不合格だった場合は、筑駒ではなくて、海城・早稲田・浅野あたりの受験に切り替えるという戦略です。

もちろん、最初から駒東が第一志望で筑駒など考えていない、3日は最初から浅野に出願する、そうした生徒もいます。

つまり、駒東に進学した生徒は以下の3つに分けられます。

〇第一志望=駒東、筑駒は密な期待で受けた(結果筑駒不合格)

〇第一志望=駒東、3日は筑駒以外(浅野等)に出願した

〇第一志望=筑駒、筑駒不合格のため第二志望の駒東に進学した

当然3番目のケースの生徒の入学時の学力が最も高いです。

さらに、こんな生徒もいます。

〇第一志望=筑駒、第二志望=開成

どういうことか説明すると、開成の合格発表は2月3日なのですね。つまり、開成→筑駒と受験すると、開成の合否がわからぬまま筑駒にチャレンジしなくてはならないのです。おそらくは㏡に聖光あたりを受験していますので、その結果も3日にならないとわかりません。
それが怖くなって、直前で開成から駒東に受験校を変更する生徒が毎年必ずいます。
残念ながら、そうした生徒はまず筑駒には受かりません。

もし駒東の合格発表日が開成・麻布とおなじ3日だったら駒東人気はどうなるのだろう?と思わず夢想してしまいますね。少なくとも筑駒熱望組は激減するでしょう。そうなってはじめて開成・麻布とフラットな気持ちで選択できるでしょうけれど。

いずれにしても、駒東の華々しい大学進学実績を見ていると、悔しくて頑張った生徒がいたのだろうなあ、と思わざるを得ません。

〇最初からあこがれていた第一志望校で6年間過ごす
〇悔しい気持ちをばねに勉強に励む

どちらも悪いことではないと思います。

教えていた生徒にも、開成・筑駒の両方とも合格してもおかしくないレベルだったのに、直前にお母さまが怖くなって開成→駒東と受験校を変えた結果、駒東は合格したものの筑駒は不合格だったという生徒がいました。

2月3日の筑駒入試本番の前日に駒東の合格を見てしまうというのが問題なのです。

いくら「明日が本番なんだ」と言い聞かせたところで、子供の気持ちに緩みが生じるのは当然です。

そのわずかな気の緩みが筑駒の合否を分けてしまう。筑駒の入試とはそういうものです。

しかし、不本意な進学だったと思われる駒東ですが、すぐに親子で気に入り、充実した駒東ライフを送った後、大学も希望どおりの最難関大学に進学しました。

駒東でよかった。これが親子の率直な感想とのことです。

第一志望校に進学できない生徒はたくさん見てきましたが、子供にとっては進学した学校が最高の学校になるのですね。

 

3.結論

もし、偏差値表を眺めて、麻布から駒東に受験校を変えようとするのなら、それはやめたほうがいいと思います。

麻布駒東偏差値
たしかに駒東のほうが麻布よりも1~3ポイント80%偏差値が低くなっています。

おそらくは各塾の模試を受けても、合格可能性は麻布よりも駒東のほうが高く出るでしょう。

しかし、両校の入試問題傾向は全く異なります。

麻布に合格できる生徒が駒東を受けても不合格に、駒東に合格できる生徒が麻布を受けても不合格となるものなのです。

思考力・記述力重視の麻布の合格可能性を正確に測定できる模試はありません。


また、過去問を解いてみて、「麻布よりも駒東のほうが解きやすかったから駒東にする」というのも要注意です。

ほとんどの受験生にとって、麻布よりも駒東の問題が解きやすいのは当たり前なのです。

「過去問を解いてみた印象で受験校を決めましょう」

こんな受験指導をする教師がいれば、それは何もわかってない教師だと思います。

この学校を受ける生徒の多くは、成績によらず志望を変えないですね。開成→駒東と変更する生徒は見かけますが、麻布→駒東と変える生徒は少ないです。

両校は、あくまでも校風を重視して選ぶべき学校です。

これが私の結論です。

 


【おまけ】


こうしたことをおっしゃる方がいます。

「麻布の対策をすると、他の学校(聖光・浅野・慶應湘南藤沢等)の対策が不十分になるので、麻布ではなくて駒東にする」

たしかに、麻布の入試問題は特殊です。思考力・記述力を鍛えないことには歯が立ちません。しかし、そんな理由で第一志望校をあきらめるとしたら、もともと大した志望ではなかったということでしょう。

「麻布の文化祭を見に行ったら、子供がドン引きしてこんな学校嫌だという」

あっ、これはわかります。

麻布の文化祭は、数多ある中高の文化祭と比べても、異色というか、カオスです。それを楽しそうと憧れられないのなら、麻布はお子さんに合った学校ではないのです。

開成の体育祭でも同様の声が聞かれますね。「あんな乱暴な学校は嫌だ!」となる子は毎年います。

進学後のミスマッチを避けるためにも、お子さんには必ず学校を見せてあげてくださいね。

 

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peter-lws.hateblo.jp

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