志望校変更できるタイミングはいつでしょうか?
これもまたとても多いご相談です。
みんな第一志望校合格を目指して努力しているのですが、諸般の事情により志望校を変更する場合というのがあります。もちろん個々の事情によるものなので、一般的なアドバイスというのは難しいのですが、それでもある程度の「最適解」というものはあるのです。
今回は、志望校変更にまつわるアドバイスを書きたいと思います。
1.第一志望校を変更する場合
せっかく第一志望校を目指して勉強してきた(勉強を始めた)のに、その第一志望校を変える場合があります。
これには以下の3パターンが考えられます。
(1)志望校を下げる場合
(2)志望校を上げる場合
(3)他校が第一志望校になった場合
では順に考えましょう。
(1)志望校を下げる場合
受験が近づくにつれて誰しもが不安にかられます。
このままでは受からないのではないだろうか。
このままこの学校を受験してもいいものだろうか。
そこで、「志望校を下げたい」というご相談となるわけです。
まず、この判断が誰の判断なのかが問題です。
◆親の判断
第一志望校進学 < 私立中学合格
せっかく親子で決めた第一志望校の受験を回避するということは、第一志望校へ進学するという未来よりも、私立中学合格を優先させたということになりますね。
しかし、中学受験では午後入試を含めれば5校以上の受験など普通です。上手に受験パターンを組めば、第一志望校をあきらめなくても、合格を見込める学校はいくつも選ぶことができるはずです。あえて第一志望校の受験を回避する理由は、学校選びにシビアな考えをお持ちなのだと思います。
例えば、このようなケースです。
2/1 開成・・・第1志望
2/2 聖光・・・第2志望
2/3 浅野・・・第3志望
本来は開成が第1志望だが、聖光も難しい。もしかすると開成も聖光も両方不合格になるかもしれない。塾の先生には浅野なら大丈夫だと言われ、模試のデータもそうなっているので浅野を受験するつもりだったが、浅野は正直行かせたくはない。
そこで、1日の開成を駒東に変更するのですね。
さらに駒東の合格発表は2日ですので、駒東が合格したら3日は筑駒を受けてみよう、そんなプランとなります。
しかしこれが問題です。
もし第一志望校を下げて、それで合格した場合、「やっぱり下げておいてよかった」という満足感ばかりとは限らないのです。「もし下げてなかったらあっちの学校に受かったかも」という考えが、まるで喉にささった魚の棘のようにいつまでも残ります。
そして、その思いをいつまでも引きずるのは親のほうなのですね。
「私が子供の志望校を無理やり下げさせたけど、それでよかったのだろうか。下げなくてもよかったのではないだろうか。」
このような後悔を引きずるくらいなら、下げないほうがよいといえます。
また、志望校を下げたのにもかかわらずその学校に受からないというケースもあります。
どの学校にも、その学校を第一志望として必死に努力をし対策をしてきた受験生というのが大勢います。そこに十分な対策もとらないまま、単に偏差値表で下にあるというだけの理由で受験をしても、志望校を下げた=合格しやすくなる、とは限らないのですね。
わかりやすい例をあげると、12月の段階で、開成志望から麻布志望に変更した男子がいます。(実は毎年必ずいますね) たしかに偏差値表を見てみると、どの塾のものであっても、開成より麻布は下にあります。しかし、合格のしやすさは全く別物です。入試問題の傾向が違いすぎて、両校への対策は全く異なるのです。開成を目指して勉強してきたのだから、麻布なら受かるだろう、そんな安易な考えで失敗する生徒を何人も見てきました。
また、子供本人の受験に向かう気力にも悪影響があります。
「志望校を下げたから、これで受かるだろう」
この油断がどれだけの悲劇を生んできたことか。
さらに、子供本人がこんなことを言いだすのも赤信号です。
「過去問を解いてみたら、僕は(偏差値の高い)〇〇中学よりも(偏差値の低い)△△中学のほうが解けるんだ。それに、最近は△△中学のほうに進学したいって思い始めた。だから、〇〇中学じゃなくて△△中学を受けたい。」
一見冷静に自己分析ができているように思えますが、それは誤解です。
子供だって、模試の成績や塾内での順位などを見て、自分の合格可能性(不可能性)というものに気が付いています。だから、このまま〇〇中学を受けることが怖くなってくるのですね。
一言でいえば、「逃げ」です。
そこで、後付けの理由をあれこれ持ち出しているだけです。
もちろん、こうした逃げの姿勢での志望校変更は、やはりうまくいかないことが多いのです。
さらに、親が同様の「逃げ」の気持ちにとらわれることも多いものです。
「先生。うちの子の頭で、たとえ〇〇中学に受かったとしても、きっと勉強についていけないと思うんです。だから、△△中学に進学したほうが、きっとのびのび過ごせると思うんです。」
これも明らかな「逃げ」ですね。
ご家庭として△△中学に「下げた」つもりでいても、この中学には、ここを第一志望として努力してきた生徒が大勢進学してきます。正直いって、こうした生徒たちには、進学した後でも負けていくと思います。
◆塾の判断
私は、志望校を下げることを提案することはめったにありません。
最初の志望校をご相談する際に、合格の可能性についての見解はきちんとお伝えしますが、それでもなお「絶対にチャレンジしたい第一志望校」があるのなら、それをあきらめさせることはしないのです。そのかわり、合格可能性が高いその他の学校を、別日程で受験する戦略を提案します。
まして、いったん定まった第一志望校を、「最近成績が下がってきましたね。このままでは合格は無理です。あきらめましょう」などと言うことは、神ならぬ身の自分が言うべき言葉ではないと心得ています。もちろん、可能性が下がったことについてはきちんとお伝えしますが。
もし、塾側から受験をあきらめさせる発言があったとすると、以下の3パターンです。
〇とても良好な信頼関係が構築されている場合
「先生がそうおっしゃるなら」と了解し、その判断を後で恨まない(くらいの信頼がある)。そういう場合もあるでしょう。しかし、私には無理だなあ。自分の子どもくらいですかね、それが可能なのは。たとえ甥や姪だったとしても、それは言いませんね。
〇ビジネス優先の塾の場合
たまにあるのです。塾の合格実績を、合格者数/受験者数 で計算して広告宣伝している塾が。「わが塾からの〇〇中合格率100%!」とうたっているようなところですね。
もうおわかりだと思います。こういう計算による「合格率」は操作が可能な数値です。無理そうな生徒を受験させなければいいのですから。こんな塾の実績稼ぎのためにわが子の将来を決められたらたまったものではありません。
〇無責任な教師の場合
こちらもたまに(よく)みかけます。断定的に判断を主張することで自らの権威を高めようとする教師です。「いやあ、この成績じゃあ〇〇中は絶対無理ですよ!」ということで、自分の判断がさも絶対であるかのように見せるのですね。凄いですね。全知全能の神なんでしょうか。30年以上この業界にる私でも、こんな発言はできません。首都圏模試の偏差値が30の子が筑駒を受けたいと言った場合なら、未来を見通す目などなくても「100%不可能」とわかりますが、相手にそのまま伝えることはしません。なぜそのような志望になったかをきちんとうかがってからですね。
(2)志望校を上げる場合
こうしたケースも結構あります。
せっかく塾と家庭で何度も相談をして、受験パターンの最適解を組んだのに、直前になってそれを覆すご家庭です。
「過去問を解かせたら、〇〇中学のほうが解きやすいっていうんです。点もとれます。だから〇〇中学を受けたほうが受かる気がするんです。」
これもまた危険な変更です。
問題の解きやすさと受かりやすさは必ずしも相関していません。合格偏差値の高い学校=入試問題の難易度の高い学校、というわけではないのです。
お子さんが解きやすいと感じた〇〇中学の問題は、他の受験生も皆解きやすいと感じている。そういうことは多くあります。
こんなことがありました。
その生徒(仮に太郎君としておきます)は、駒東が第一志望でした。第二志望が聖光です。親としては、駒東よりも聖光よりも筑駒に行かせたいようでしたが、太郎君の成績では筑駒の合格可能性はゼロに近い状況でした。しかし、ご家庭の希望を完全に否定することもまたできないものです。
そこで、このような戦略を立てました。
1日に駒東、2日に聖光を受験する。
駒東に受かっていたら(合格発表は2日です)、3日に筑駒を受験してよい。
しかし、もし駒東に不合格だった場合は、3日は浅野を受験する。2日の聖光がだめだった場合は、4日の聖光はあきらめてサレジオを受験する。
本当のことを言うと、太郎君の実力からすれば、サレジオが実力適性校、浅野に合格できたら上出来、そういう見立てでした。だから、1日にサレジオを受験してここで合格をとってから、聖光でも筑駒でも好きな学校を受験してほしいところでしたが、ご家庭の駒東と聖光に対するこだわりがつよく、このような受験戦略となったのです。
さて、結果は、1日の駒東はやはりだめでした。2日の夕方に太郎君を電話で励まし、「明日の浅野で頑張れ」といった翌日、3日の筑駒の校門前で受験生の激励をしていると、太郎君親子が現れたのです。
「先生、来ちゃいました。」
「でも、今日は浅野を受けるはずでは。」
「昨日太郎が聖光の受験から帰ってきて、解けた、受かった気がするっていうもので。」
こちらの力が抜けましたね。
あんなに何度も何時間もご相談した時間は何だったのだろうか、と。
子供の「できた・だいじょうぶ」ほどあてにならないものはありません。そのことも何度もお話してあったのですが。
さて、この後の展開も予想が付くと思います。
2日に受けた聖光は不合格でした。さらに、太郎君の「浅野は受かったと思う」という根拠のない言葉により、4日はサレジオではなく聖光を受験し、1日から4日までの受験は全滅となったのでした。5日についても、太郎君の適性に合った受験校を薦めておいたのですが、無理筋の人気校を受験したということで、そちらも不合格です。6日以降になると、受験できる学校はほぼありません。定員割れしている学校の追加募集がある程度です。
結局は、公立中学進学ということになったのです。
ご家庭の方針で選んだ進路とはいえ、もう少し何とかできたはずだと、私にも悔いが残りました。しかし、こればかりはどうにもなりませんね。
さて、このようなケース以外にも気を付けなければならない場合があります。
子供が、突然上のレベルの学校を受けたいと言い出した場合です。
もちろん理想を高く設定するのは悪いことではないのですが、受験も押し迫ってきた時期になって自分の実力よりはるかに上の学校を言い出すのには理由があります。
それは、子供も受験結果が恐ろしくなってくるのですね。そこで、とても受かるはずのない学校を受けたいと言い始める。そこなら、たとえ不合格になっても、「あんなにレベルの高い学校だったから受からなくても仕方ない。僕よりもっとできる生徒が不合格になってるじゃないか。」と自分に対する言い訳ができ、自分のプライドのようなものが傷つかずにすむ、とこういう心理が働くのですね。
子供ならではの心理ともいえますが、限られた受験機会を無駄にするのは愚かです。チャレンジするにしても、ちゃんと可能性のあるチャレンジでなければ何の意味もないと思うのです。
(3)他校が第一志望となった場合
多くの場合、こうした変更には問題がないのですが、問題なのはその時期です。
6年生の後半、10月以降になっての志望校変更は危険です。
過去問演習も対策も、すべてを変えるには時間がありません。
そもそも、あんなに何年もかけて情報を集め、検討・相談してきた志望校をいきなり変えるというのはどうなんでしょう?
願書出願状況の情報を見て、倍率が高いので志望校を変える、という人もいますが、これはやめたほうがよいですね。倍率が高いから受かりにくいというものでもないからです。開成にしても桜蔭にしても筑駒にしても、倍率はそんなに高くはありません。でも、誰も「だから受かりやすい」とは思いませんよね?
2.第二・第三志望を変更する場合
これについても、早い段階での変更はよいでしょう。説明会や授業見学などで積極的に学校情報を集めていると、当初考えていなかった学校の良さに気づかされるということはよくあるものです。もちろんその逆もあります。
第一志望の学校については、みな早い段階から多くの情報を集めますが、第二・第三志望の学校については情報を得るタイミングが遅くなりがちです。あまり間際の志望校変更は望ましくありませんので、「こんな(レベル)の学校は受けないだろう」などとは思わずに、早くから幅広い学校を見ておくことをおすすめします。
学校を見に行ったのが受験当日だった。
笑えないけれど、よくきく話です。
子供本人が見に行くチャンスがなかったのも問題ですが、親ですら未知の学校では困ります。
3.志望校変更のデッドラインは?
これは、変更した志望校の情報収集や見学、さらに過去問演習などをしていたかどうかで大きく分かれます。
(1)準備をしていた場合
この場合は、それこそ入試直前でも変更は可能ではあります。しかし、可能だからといってお勧めはできません。なかには入試当日に受験票を2校分持って家を出て、駅のホームでどちら方面の電車に乗るか迷ったという方も知っています。同一日程の受験校2校を出願する戦略もありますが、それは前日までの合格発表の状況で受験校を切り替えるときの戦略です。例えば2月1日校が第一志望校だった場合、1日校に複数出願するのはあり得ないのです。
そう考えると、この場合のデッドラインは、出願のタイミングということになります。学校によっては小学校の調査書が必要な場合もあります。
例えば、開成中学の出願期間(2024)は、12/20~1/22となっていました。桜蔭中学では12/21~1/16となっていました。出願の初日に急いで出願する必要はありませんが、最終日ではあまりにも余裕がなさすぎます。せめて1月の初めまでには出願しておきたいですね。つまり、入試日の約1か月前です。
これが本当のデッドラインとなります。
出願における写真の準備についてはこちらに書きました。
また、受験番号と合否の関係についてはこちらに書きました。
※第一志望以外、とくに2日校以降の受験校の変更は、前日という場合ももちろんあります。合否を確認して受験校を変更する場合ですね。
(2)準備をしていなかった場合
全く準備をしていなかった学校の受験を急遽決めるケースもあります。
◆想定外の事態となり、慌てて受験校を探す場合
我々プロは、万が一の可能性まで考えての受験戦略を考えます。しかし、ご家庭の方針でどうしてもその戦略通りの受験を計画していただけないこともあります。
「まさかここまで不合格はないでしょ。だからそんな学校まで準備はしなくてもよい。」
「この学校まで不合格なら、地元の公立中学に行かせます。」
ご家庭の方針なら我々に言うべきことはありません。しかし、受験間際に、駆け込み相談をされる方もいるのです。
「今から出願できる学校はありませんか?」
「子どもがどうしても公立中学は嫌だと泣いているんです!」
当日の出来不出来・体調等不測の事態というものは常にあります。
「だから言いましたよね?」と言いたい気持ちにもなりますが、もちろんそんなことは口にしません。学校によっては、当日の朝に受験料を持参すれば受験できるところもあります。
しかし、一度も行ったこともない、過去問を見たこともない、そんな受験はお勧めしたくないです。その学校を第一志望として頑張って受験してきた受験生に敵わないかもしれないのです。
(3)小6の夏前が実質的なデッドライン
小6の夏には過去問演習がスタートします。このタイミングの変更なら、いくらでも対応が可能です。したがって、このタイミングが実質的なデッドラインといえるでしょう。