今回は、実際にあったご相談を紹介します。
※個人情報保護の観点から、当事者が読んでも自分とわからないレベルまで書き換えていますが、相談内容は変えていません。
1.お母様からのご相談
A:先生にご相談するのも恥ずかしい話のなですが。
そう切り出したのは、知人のAさんです。Aさんには娘が二人います。上のお子さんは、2年前に中学受験をし、中堅校といえる学校に進学しました。Aさんの夫は、海外赴任中で、子育てはAさんの双肩にかかっています。
今回は、下の娘さんについてのご相談でした。
私:もしかして妹さんのことですか?
A:はい。妹は、全く勉強しないのです。それで、中学受験はしたくないっていうのです。
私:上のお子さんのときはどうだったのですか?
A:実は、姉のときにもそうとう苦労しました。最初は大手の集団指導塾に通わせたのですが、半年もたたずに行かなくなってしまって。
私:塾に行かないって、本人がさぼっていたのですか?
A:私がいくら塾に行かせようとしても、全くいうことを聞かなかったのです。仕方がないので、家庭教師の先生に来てもらって、何とか受験だけはさせました。おかげさまで〇〇中学に何とか進学できました。
私:お姉さんは、今はしっかり勉強していますか?
A:学校から出される宿題だけは何とかやっているみたいですが、正直なところ、成績は下から数えたほうが早いレベルです。それでも、毎日学校に行ってくれるだけでいいかなって思ってます。
姉妹そろって、小学校もさぼりぎみだったそうです。それでも中学生になった姉は、とりあえず毎日学校には行ってくれているので、母親のAさんとしては、もうそれだけで安心しているとのことでした。進学校なので、いずれ大学受験のことも考えなくてはならないのだろうけど、今のところは全て学校におまかせしている状態だというのです。
A:姉の様子を見ているからなのか、妹も勉強しなくて。お姉ちゃんは遊んでいても怒られないのに、なんで私だけ怒られるの? と屁理屈をいって言うことをきかないのです。
私:そうですか。それで、ご両親としては、妹さんにも受験させたいと思っているのですね。
A:ええ。妹は、姉よりも頭はいいのです。だから、きちんと勉強すれば、きっと伸びると思うのですが。
私:志望校、進学させたい学校はありますか?
A:姉と同じ学校は嫌だ、っていってますので、まあどこか入れる学校があれば。それで、いくつか学校の文化祭には連れていったりしてるんですけど。
Aさんが、妹を連れていったという学校をうかがうと、女子最難関レベルの学校でした。もちろん、たまたま行っただけで、とても受けられるレベルではないことはわかっているとおっしゃっていましたが。
お母様からの話は十分うかがったので、今度はお父様とお話することにしました。海外にいらっしゃるので、ZOOMでの面談をすることにしたのです。
2.お父様との話
私:お母様からは話をうかがいました。今日は、お父様のお考えなどお聞かせください。お父様はお子様に私立中学へ進学してほしいとお考えなのでしょうか?
父:ええ。娘には、なんとか私立へ進学してほしいのです。
私:それはどうしてでしょう?
父:実は、私自身も中学受験をしたのです。
お父様が進学された学校は、都内でも最難関の男子校の1つでした。お父様の時代に中学受験をしたということは、そのご両親も教育熱心なご家庭だったのは間違いありません。
父:だから、正直言って、公立中学から高校受験というのが今ひとつピンとこないのも確かです。それに、せっかく都内には素晴らしい中高一貫の私立校がありますので、下の娘にもぜひ6年間、落ち着いた環境で学んでほしいと考えています。
なるほど。お父様のお考えは極めて明確でした。はっきりおっしゃってはいませんでしたが、公立中学への進学は全く考えていないといってよいのでしょう。これは、ご自身が中学受験を経験して私立中高一貫校を卒業した保護者に一般的に見られる傾向です。高校受験の世界がよくわからない、というのももちろんあるでしょうが、本音としては、公立中学の教育環境に入れたくない、ということなのだと思います。
公立中学→高校受験というルートも、中学受験→中高一貫校というルートも、それぞれにメリットもあればデメリットもあり、一概にどちらが良いとはいえないものです。子どもの適性というのもありますね。とはいえ、ご両親が高校受験組でありながら子どもに中学受験させようとする方は多いのに対し、ご両親が私立中高一貫校出身でお子さんに公立中学へ進学させようと考える方が少ない(ほぼゼロ)なのはなぜでしょうね。少なくとも私の知る限りではそうでした。もちろん私は首都圏の受験の世界の住人だということもありますが。
私:どこかご検討された学校はありますか?
この質問に対し、お父様がお答えになった学校は、お母様が文化祭に連れていった学校、つまり都内最難関私立の学校でした。
最後に、子ども本人と話をすることにした。とはいえ、いきなり見知らぬおじさん(=私)とそんなに打ち解けて本音を話してくれるはずもないので、何回か私の教室に勉強をしに来て、ある程度打ち解けたころに話をしてみるという気の長い作戦をとることにしました。
3.子どもとの話
私:花子ちゃん(仮に花子としておきます。毎度工夫の無いネーミングですいません)は勉強は嫌いなのかな?
花子:ううん、どうだろう。
私:でも、嫌がらずにこの教室には来てくれてるね。
花子:ここの勉強は楽しいから。
私:楽しい?
花子:うん。先生の話がおもしろいし。
ううむ。まあ、楽しんで来てくれているのは確かなようです。
私:小学校の勉強はどう?
花子:おもしろい教科もあるけど、あとはつまんない。
私:おもしろい教科は何かな?
花子:音楽と家庭科。あと、理科も実験するときだけ楽しいかも。
まあ、これはわかります。私が教えてきた小学生のほとんどが、小学校の勉強で楽しんだのは、算国理社の4教科以外でした。この4教科は、学校の勉強がぬるすぎて物足りなかったのでしょう。
私:花子ちゃんは、中学はどんなところ行きたいの?
花子:別に。みんなと同じ近くの公立中学でいいと思ってる。
私:何か理由はあるの?
花子:だって。私勉強好きじゃないし。それに、学校のお友達もみんなそこに進学するから。
私:中学に入ったら、ちゃんと勉強しないといけなくなるけど。
花子:そりゃあ、中学生になったら勉強するよ、私だって。
私:高校受験勉強と、中学受験勉強と、どっちが大変そうだと思う?
花子:よくわかんない。
このあとも少し話をして、だんだん状況がわかってきました。まだこの段階では、花子ちゃんに中学受験のメリットを話すことはしていません。それはご両親と意思統一ができてからのステップです。
4.私の見立て
こうして、父・母・娘の三人から話を聞いて、つかめてきました。
父親・・・中学受験以外は考えていない。それも都内最難関女子校に進学させるつもりである。自分の娘にはそれだけのポテンシャルがあると過信している。
母親・・・中学受験をさせたいが、娘にそれを強要することで母娘関係が壊れることを恐れている。かといって志望校を下げることは念頭にない。
娘・・・本当は中学受験をしてもいいと思っているが、そのための勉強はやりたくない。ちょっと暴れるだけで母親がすぐ折れてくれるので、これ幸いとばかりに勉強から逃げている。
だいたいこんな図式が見えてきました。
キーパースンはお母様です。
父親は海外にいるため、母親の役割がとても大きいのです。この母親に覚悟がないのが最大の問題です。
中学受験のための勉強は、小学生にとっては過酷な質・量です。親子に覚悟が必要なのです。しかし、お母様は娘にとことん甘いのです。上のお子さんの受験のときに下はほったらかしとしていた贖罪意識なのかどうか、妹が少しでも拒否すると、すぐに折れてしまいます。お母様自身は、地方の公立中学から県立高校へと進学して大学から東京に出てきたとのことでした。ご自身が過ごした中高時代が充実していたため、小学生で必死に勉強してまで中学受験をすることに違和感があるようでしたね。その割には、お父様の影響だと思いますが、最難関校の名前をあげていらっしゃるあたりに矛盾が感じられます。
私のアドバイスはこうでした。
〇まずは夫婦で徹底的に話し合って結論を出す
〇次に、親子三人でじっくりはなしあって、子どもを説得する
〇最後に、子どもには私からも話をする
本当には最初から私が子どもを説得したほうが早いのですが、それは順番が違うと思うのです。
最近多いような気がします。
子どもの意志を尊重するという名目で、結局は親が子どもに確かな道筋を示していないご家庭が。
親が子どものことを考えてきちんとした道筋を提示し、それを子どもと徹底的に話し合う。これが重要だと思っています。