今回のテーマ「不登校」は、私の専門分野ではありません。
私の専門は、志望校合格へいかに導くか、これに尽きます。ただし、「合格さえできれば他はどうでもいい」勉強は嫌いです。きちんと教養と人間の幅をひろげながら受験に臨んでほしいと思っています。
そうして教えていた生徒が、せっかく進学した中学に通えなくなっていたら。そう考えると、無関係と切り捨てるわけにはいかないテーマです。
教え子や保護者から聞いた話に基づいて、「私立中高における不登校」について少しだけ考えてみたいと思います。
※あくまでも狭い範囲で聞いた話を紹介しているだけです。現在不登校で悩まれている方の参考になるような話ではないことをお断りしておきます。
1.不登校の実例
(1)身体の不具合を訴えたA子のケース
よく聞くワードに、「起立性調節障害」があります。A子もそうでした。ほんとうに朝起きられないのです。午後になるとなんとか出かけられるようになります。自律神経の働きがポイントですが、自分の意志でコントロールできない自律神経ですので、本人の意志ではどうにもなりません。専門のお医者さんに相談しました。
日常生活の注意点から、運動療法や食事療法、そして薬物療法など検討してくださったそうです。A子もなんとか午後からだけでも学校に行きました。毎日とはいきませんでしたが。
思春期の児童に多い症状ですので、中学校側も理解してくださったそうです。学年に数名はそうした生徒がいると聞いたことがあります。
朝起きられなくて、その代わり夜に目が冴えてなかなか寝付けない。こうした生活スタイルから、親は当初は「夜更かししすぎ」と誤解しました。しかし早い段階で専門の医者に相談したのがとてもよかったようです。
(2)行きたい学校ではなかったことが原因のB男のケース
要するに、本人が行きたい学校ではなかったのです。もともと自分の学力を過大評価していた子供でしたので、受験も無理筋な学校ばかり受験し、ことごとく失敗しました。唯一親が無理やり受験させた押さえの学校(実は実力適性校)に一つだけ合格し、そこへ進学しました。
強情なお子さんだったそうです。「学校がつまらない」「行きたくない」と我儘を言い続け、理由を見つけては学校をさぼる癖が付きました。当然クラスメートとなじめず、さらに学校に行きたくなくなります。勉強もさぼっていますから成績も低くなり、授業もつまらない(正確にはついていけない)ため、いつのまにか立派な不登校児童のできあがりです。年上の遊び人の先輩とつるんで遊ぶようになっていきました。
このケースでは、親の初期対応が間違っていたと言わざるを得ません。そもそも中学受験をするべきではなかったのです。
「子どもが親に感謝して受験させてもらう」という本来の状態から、
「親が子供に頼み込んで受験してもらう」という本末転倒の状態で受験してしまったのですから。
多くの私立中高では、中学の間はほとんど出席しなくても在籍させてくれますが、高校に上がる段階で引導を渡される可能性が高いです。たとえ進学させてもらえたとしても、こんな状態では高校の勉強についていけずに浮いてしまうだけでしょう。
(3)勉強が嫌いだったC太のケース
子供で勉強が好きな子はいません(正確にはいることはいるが稀)。それをきちんと習慣化することでみな勉強をやっていくのです。C太の場合は、両親とも専門学校から手に職を身に着けて仕事をしていました。「勉強が将来に役立つ」経験をしていないため、その価値観で子供に接していたのですね。そのため、子供は小学校の宿題ですらやらずに過ごしたのですが、公立中学に進学すると勉強が大変になる、つまり高校受験というものがあることに気が付き、小6になってから急遽中学受験をすると言い出しました。受験勉強を全くせずに定員割れのとある私立中に進学することになりました。せっかく入学できた学校ですが、何せ勉強をやらない子なもので、結局不登校で毎日家にいます。親はそんなC太へ登校を促すわけでもなく、C太を置いて海外旅行へ行くような家庭でした。C太はせっかく受け入れてくれた中学から上へは進学せず、通信制の高校へ進学しました。そこできちんと勉強しているかどうかは不明ですが、今までの経緯を考えると疑問です。全日制とくらべると、通信制高校の中退率は高く卒業率は低いのです。
この場合は、親の方針が間違っていたことが原因だと思います。最低でも、小学校・中学校の勉強はきちんとやらせるべきだったのです。もちろんその後の進路は自由です。何も全ての子供が高校から大学へと進学する必要もないのですから。本人がやりたい道を見つけ、そこに向かって進むのであれば素敵だと思います。しかし、単に「勉強をやりたくない」では、どの道も開けないことでしょう。
(4)親が原因・・・D男のケース
D男は進学した私立中学でいじめを受けました。
ただし、このいじめは、D男の母親以外は誰も知らないいじめです。どういうことか説明します。D男は、さぼり癖がありました。不登校ではありません、「さぼり」癖です。気がのらないとすぐに学校をさぼる、そういう生徒でした。さて、中学生にもなると、友達どうしで一緒になって遊んだり、あるいは仲間をつのって学園祭のステージにあがったり、〇〇コンテストにチャレンジしたり、いろいろな活動の機会があります。しかし、D男は、リハーサルをさぼったり、肝心の本番に来なかったり、そうしたことを繰り返したのですね。体育祭の余興で、ちょっとしたコントを数名でやることになったときのことです。D男もメンバーです。皆で、くだらないコントを考え、台本を共有しました。役柄もみなで相談し、たまたまD男は悪役を引き受けたそうです。本人は嬉しそうにしていました。すると数日後、D男以外のメンバーが教師Eから呼び出されて、厳しく叱責されました。教師Eによると、「この台本は、皆でD男をいじめるためのものだ」ということでした。そのためD男は不登校になったと。しかし、皆訳がわかりません。D男はすすんでその役を引き受けたのです。しかもコントです。真相は別の教師Fからもたらされました。D男が持ち帰った台本を見て、母親が激高して学校に怒鳴り込んできたのですね。経験値の浅い教師Eは母親の勢いに抵抗できず、ただ一方的に彼らを叱責した、とそういうことでした。「こういうことは言ってはいけないのだけれど、あまりD男にかかわらないほうがいいよ。」とベテランの教師Fからアドバイスされたそうです。今までも、D男が学校をさぼるたびに、学校にクレームを入れてくることで有名な母親だったそうです。
これは、ありもしない架空のいじめを母親が作り上げ、子供のさぼり癖をむりやりいじめが原因の不登校に仕立て上げた、そういう出来事です。このままいくと、D男は学校に来づらくなり、本当の不登校になりかねません。
(5)単に勉強についていけなかった・・・E子のケース
高偏差値・高進学実績で有名な学校に進学したE子のケースです。
E子は、実際のところはその学校に合格できるレベルの生徒ではありませんでした。それでも合格できたのはE子の父親の手柄です。父親は徹底的な入試問題分析とそれに基づいた学習をE子にやらせました。そうとう厳しい指導だったのことで、いわゆる教育虐待に近かったそうです。しかし、そのおかげもあってE子は進学できました。E子の父親の目標は、「娘を東大に進学させる」ことだったそうです。そのため、中学に進学してからも父親の圧力は緩むこともありません。E子は徐々に学校から足が遠のき、遊びに走るようになってしまいました。
無理もありません。E子にとって、勉強は「地獄」を意味するワードであり、遊びに走ることで精神のバランスを保っていたのですね。結局、名前を聞いたこともないような大学へと進学します。
「東大一直線」というゆがんだ価値観で子供に接した父親の責任です。
E子にしても、自然体での学習が身についてくれば、自然に勉強に取り組む喜びを知る可能性もあったことでしょう。
2.休むことの大切さ
中高生は学校に毎日通います。みなそうしています。それができなくなっているということは、これはもう休むしかないと思うのです。
例えば1週間。あるいは1か月。学校に行く必要がない状態をまずは作って、本人からプレッシャーを取り除いた状態で、じっくりと子供の話を聞くことが大切だと思います。極論すれば、学校なんて行っても行かなくても、その後の人生にさほど大きな影響はありません。勉強はどのような形でもできると思います。本人のさぼり癖やなまけ癖が原因なら論外ですが、行きたくても行けないこともあると思います。
3.勉強を継続することの大切さ
私が聞いたケースのほとんどが、不登校=勉強をしない、とつながっていました。ここがどうも納得できないのです。単に勉強嫌いの言い訳としての不登校になっているように思えてなりません。中高生時代の勉強はその後の人生に大きな意味をもつ大切な学びだと思います。ここをさぼると後になって取返しがつかない事態を招きます。
もちろん、大学合格のための勉強だけではなく、大人になるために身に着ける基礎教養もありますし、将来の仕事に役立つ勉強もあると思います。どんな形であれ勉強を継続するのであれば、学校に行く行かないは些末な問題かもしれません。
4.誰に相談すべきか
まずは通っている学校の先生に相談しますよね。ただ、若くて経験値の低い先生の場合は対応がうまくできない可能性もあります。学年主任の先生に相談してみるとよいかもしれません。
次に、スクールカウンセラーがいます。ただし、こちらも必ず最適の相談相手かどうかはわかりません。スクールカウンセリングについては、アメリカが進んでおり、そのやり方がそのまま日本に導入されている場合もあるからです。まずは相談してみて、それから判断するとよいと思います。
また、中学生なら高校の先生へ相談するという手もあります。少し離れた立場からの助言は時に有効です。
あるいは、地域の子供支援室のようなところか、民間のフリースクールへ相談するのもよいかもしれません。多くの不登校児童を知っていますので、対処法に詳しいと思うのです。
親が抱え込んでしまえば、今度は親の側に負荷がかかり過ぎます。たとえ話を聞いてもらえるだけでも、有効だと思います。
5.通信制高校という選択肢
最近通信制高校が増えてきました。私の周りにも、この選択をした高校生が2名ほどいます。セーフティネットとしての機能をはたしているのだと思います。
そもそもなぜ高校に行く必要があるのでしょうか?
〇勉強するため
〇高卒資格を得るため
〇大学進学の準備をするため
〇社会生活を学ぶため
〇友人をつくるため
〇高校生活をエンジョイするため
〇目標とする行きたい高校があったから
人によって目的は多様だと思います。そのうち、通信制高校の役割は、「高卒資格を得る」ことと「勉強するため」の2点にしぼられると思います。
まず、高卒資格については、実はそんなに難しくはありません。課題が多く自らを律する必要があるとされる通信制高校ですが、一般的な課題内容は非常に平易で時間もかかりません。高卒資格さえとれればいいと考えるのなら、この選択も有効でしょう。
ただし、通信制高校の卒業率は高くはありません。とくに公立の通信制高校の卒業率は6割を切っています。(通信制高校は単位制で卒業年限が決まっていないため一概に卒業率が計算できない。ここでは3年で卒業する割合を見ている)
卒業できない(しなかった)理由は様々でしょうけれど、もともと勉強が嫌いだから、という理由で選ぶと卒業すら難しいということなのかもしれません。
また私立の通信制高校の中には、KPOPアイドルを目指す高校まであるので、もはや私にはよくわからない世界です。