わが子のことをよくわかっていない
今回はこうしたケースをご紹介します。
※当事者が読んでも自分のこととわからぬレベルまで設定を変えています。個人情報保護のためですのでご理解ください。
慶應に入れたい!
ある女子生徒の話です。
提出してもらった志望校のリストを見ると、
2/1 空欄
2/2 慶應湘南藤沢
2/3 慶應中等部
2/4 慶應湘南藤沢2次
2/5 慶應中等部2次
これだけが書かれていました。
なるほど。
ピンときましたね。
面談にやってた母親と話をすると、予想的中でした。
いわゆる「お受験」、小学校受験経験者だったのです。
慶應義塾幼稚舎と慶應義塾横浜初等部を受験して不合格だったのです。
現在は、とある私立小学校に通っています。
小学校受験について私は門外漢です。
しかし、なかなか過酷な世界であることは漏れ聞こえてきます。慶應2校の女子定員が42名と48名。そこに10倍近くの受験生が集まります。
しかも、中学受験とは異なり、ペーパーテストの成績で合否は決まりません。
「頭が良い子や活発で積極的な子が合格するとは限らないから難しい」小学受験指導をしている知人の言葉です。
「あえていうと、特別なオーラを放つ子かな」
オーラっていったい?
私はわかりやすい中学受験の世界で良かったと思いましたね。
さて、このお子さんは、両親の憧れだった慶應義塾幼稚舎・慶應義塾横浜初等部の受験に失敗し、そのリベンジを中学受験でしようと考えていたのでした。
そのことに問題は何もありません。そうしたお子さんはたくさんいます。
ただし、慶應を受験する生徒に対する指導では、気を付けるべき点があります。
★学力で合否が決まらない
このことを十分に理解し納得していだだく必要があるのです。
2次試験の面接・実技等で、半分の生徒が落とされるのです。
しかも、2次試験のために、2/4と2/5の二日間をとられてしまいます。
どんなに勉強を頑張っていても、それだけでは合格できない。
このことは予想以上に親子のダメージとなります。
「私の性格が暗いから落とされたのかも」
「親が教育方針をきちんと説明できなかったことが原因では?」
こうした後悔がついてまわります。
慶應を受験していいのは、「学力以外の要素も見てくれるからこの学校が好きだ」と思える親子だけなのです。
さて、このご家庭の場合は、小学校受験で慶應を受験したということで、その覚悟はとっくに出来ていると考えてよいでしょう。
あとは、2/1、それから1次試験不合格の場合の受験校を提案すればよいですね。
大学付属校ということなら、早稲田実業・学習院女子・中大横浜・立教女学院・香蘭女子・青山学院・明大明治、こういった学校を検討してもらうのが普通です。
成績も、学力だけなら慶應を十分狙えるレベルです。
ところが、大きな問題が二つあったのです。
◆慶應以外は進学させたくはない
親が、小学校受験のときにのめり込み過ぎたのですね。もう頭の中が、慶應に通うわが子の姿で塗りつぶされてしまいました。そしてそれがまだ続いています。
「もし中学で慶應に入れないのなら、高校入試で慶應女子にリベンジする」
そう言い切られてしまいました。
高校入試の慶應女子は女子最難関です。
そう簡単に合格を見込めるような学校ではありません。しかもこんなに頑張ってきた子なのに、また3年間、高校入試目指して受験一色に染めるとは。
あまりにも可哀そうすぎます。
◆娘が慶應を希望していない
そうなのです。
慶應にこだわっているのは親だけだったのです。
この生徒はとにかく真面目に勉強するタイプでした。閃きを見せるような天才肌ではありません。言われた課題をコツコツとたゆまず努力して身に着けるタイプです。
努力できることも才能の一つです。
そして、将来は医者になりたいという夢も持っていました。
実際に6年後に医学部を目指すかどうかはともかく、小学生のうからこうした夢を持つことができるのは素晴らしいことです。
遊びにはほとんど興味がありません。これくらいの年代になると、ファッションに興味を示す子も増えてくるのですが、そうしたこともありません。ゲームもアニメにも特に関心は無い。そんな時間があるのなら、勉強をするか、本を読むか、そうした時間を過ごしたい。そんな子だったのです。とくに本は大好きで、大人向けの本にも手を出し始めていました。小学校では、「がり勉」と揶揄されることもあったようですね。
正直に言うと、慶應に全く向いていません。
もちろん慶應といえども様々な生徒が進学しますので、中にはこの子と同じようなタイプの子もいるのはわかります。でも少数派です。
この子に一番合う学校は、ずばり桜蔭です。
桜蔭に進学したら、この子はどれだけ居心地がよいことか。どれだけ思う存分勉強できることか。どれだけクラスメイトと切磋琢磨して伸びていくことか。
そこで、1日は桜蔭を受験させてあげてほしい。このように、母親にお願いしたのです。
難色を示されました。
でも、慶應以外の学校に興味はないので、まあ、受験するだけなら、ということで許可が出たのです。
結果は、親のあこがれだった慶應中等部に合格できました。そして娘の第一志望だった桜蔭にも。
どちらに進学したのかはいうまでもありません。
慶應中等部です。
私も口添えしましたし、娘も泣いて頼んだそうですが、無理でした。
半年後にこの子が顔を出しました。そのとき寂しそうな顔で言った言葉が忘れられません。
「みんな、勉強しないんだよ」
でも、娘本人が自分で勝ち取った合格なのに、希望どうりの進学をさせてもらえないのは可哀そうすぎると思うのです。
まして、夢もしっかり持っていた子です。
慶應医学部内部進学を目指して頑張る、そう言っていましたが、その後どうなったのかは実は知りません。
◆慶應医学部進学・・・慶應女子からは5人しか進学できません。その5人の1人になってくれていれば。そう願ってやみません。ただし、慶應女子における医学部枠争奪戦は熾烈を極めます。高校3年生時の成績で決まるのですが、もともと優秀な生徒の多い慶應中等部からの進学者に加え、高校からも女子高校受験最難関校の慶應女子目指して最優秀層の生徒が集まるため、その中で5位以内に入るというのは並大抵のことではありません。主要教科以外の科目、体育や音楽などでも抜群の成績が必要です。とりたい科目ではなく、評定を上げやすい書道やフランス語をあえて選択するなどといった戦略も普通です。慶應医学部に入るなら一般大学入試で入るほうが内部推薦よりも楽だと言われており、実際にそうした生徒もいますね。
◆途中で慶應中高ライフを満喫する方向へシフトした・・・これも良いと思います。せっかくの慶應進学です。大学入試の勉強以外にも価値を見出してくれたのならうれしいです。
◆高校から外へ出た・・・これは可哀そうすぎます。とことん合わない中学に親の強権で進学させても、自我が確立してくる高校くらいで、反発して外部に出る子というのが、どの学校にも必ずいるのです。ただし慶應中等部からは5名程度、そのうち女子はおそらく1名程度しか外部の高校には出ませんが。
◆慶應大学医学部以外の大学の医学部に進学した・・・案外こんなところかもしれません。夢の実現に向かって進んでいてほしいです。慶應女子の進路実績を見ると、他大学医学部へ進学した生徒も何人かいるようです。しかし少数です。この学校は進学校ではありませんので、その環境の中で他大学受験を目指して勉強するというのは困難な道のりです。
中学入試は、親の強権発動が必要な場面もあります。しかし、あまりに親のエゴを押し付けることは不幸な結果を招きます。
親子でよく話し合って、一致団結しての受験にしてほしいのです。
慶應の面接・実技試験についてはこちらに詳しく書いています。