中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】志望校についてのアドバイスがしづらいケース そこはプロの意見を聞いてほしい その3

中学受験についてのご家庭の考えは様々です。

しかし、プロの立場から?と思う場合があるのです。

※事実ではありますが、個人情報保護の観点から、当事者が読んでも自分のこととわからぬレベルまで設定を変えています。

 

こんな学校は行く意味がない

 

お子さんの成績を見ながら、志望校のご相談をしていくのですが、中にははっきりとこうおっしゃる方もいるのです。

「そんな学校、受験して進学する意味ないですよね?」

 

もちろん、どう考えようと、それはご家庭の方針ですから自由です。自由なのですが、「進学する意味がない」かどうか、本当に冷静にご判断されているのかな? と疑問に思ってしまうのです。

 

その生徒は、こんな学校を志望されていました。

2/1 開成

2/2 栄光

2/3 筑駒

2/4 聖光

 

2/5以降は受験したい学校はないそうです。

 

この生徒の成績を見ると、偏差値で15ほど届いていません。

全滅必至です。

 

そこで、このままではどこにも合格できない可能性がとても高いこと、合格が見込める志望校を考えるべきであることをお話しました。

 

面談しているお父様の表情は不満顔です。

「それならどこの学校なら受かるのですか?」

と質問されました。

 

「受かるかどうかはわかりませんが、少なくとも合格可能性が高い学校はこれらの学校です」

こう言ってご案内した学校は以下のとおりでした。

攻玉社

世田谷学園

巣鴨

〇高輪中

〇芝中

他にもいくつかの学校名をあげたのです。

お父様によると、大学付属校は全く考えていないそうです。

「附属なんて、遊びに行かせるようなものじゃないですか」というのがお父様の発言です。

思い込みがはげしいお父様です。

そして、これらの学校をお勧めしようとしたところ、冒頭の発言となったのでした。

「そんな学校に進学する意味はないですよね。何のために何年もかけて受験勉強してきたと思ってるんですか?」

 

偏見としてもひどすぎます。

どの学校にも、そこを第一志望として努力して進学してきた生徒がいる、そうした発想はないようでした。

よくよく話をうかがってみると、お父様は昔から都内目黒区在住で、ご自身は最難関の男子校の出身です。さらにお父様のご兄弟やご兄弟の息子、つまり本人の従弟も、そうそうたる難関校に進学していたのでした。

 

そこで、これらの学校を見下す気風が醸成されてしまったのですね。

しかも、最近のこれらの学校の内情などもちろんご存じないばかりか、聞く耳も持ちません。

 

もうこうなってしまうと、私のアドバイスは無力です。

親の見栄に振り回される子どもが可哀そうでなりません。

 

学校選びについては、一度自分の古い知識を捨てるところからはじめてほしい。

ご自身が受験経験者の保護者の方へのお願いです。

 

この学校以下を受けるくらいなら、地元の公立中で十分

女子生徒の母親と面談していたときのことです。

いくつか合格安全校を紹介しようとしたところ、このように言われてしまったのでした。

「うちは、この学校までしか受験するつもりはありません。それより下の学校に進学するくらいなら、地元の公立中学に進学させるつもりです」

 

もちろん、ご家庭の方針ですし、その是非について私からお話することはありません。

むしろ、潔い方針であるとすらいえるでしょう。

もし、首都圏の中学受験事情や地元の高校受験事情をよく調べた上での発言ならば。

そうなのです。

この生徒の両親は、二人とも地方のご出身でした。地元最難関の県立高校に進学し、そのまま国立大学に進学されたのです。

私立中高一貫校がたくさんあって、成績優秀層が中学受験をするのが当たり前なのは、首都圏と関西だけなのです。

私立中学の生徒数を都道府県ごとに比較しても、東京が8万人以上ですが、2・3位の神奈川・大阪が2万人台とぐっと少なくなります。あとは、兵庫・千葉・愛知・埼玉が1万人ちょっとという人数なのです。

その他の地域は、公立中学から高校受験が王道(唯一)の進路となります。

なかには、高知県のように、高校の上位5校のうち4校が私立高校のため、私立中学への進学率が高いというところもありますが、これは例外といえるでしょう。

 

つまり、日本全体でみれば、私立中学受験で過熱しているのは、異常な現象であると言えると思います。

 

したがって、この母親のように、「〇〇中学と△△中学くらいは名前を知っているから進学させてもいいけど、それ以下だったら公立中学で十分でしょ」と考えるのは不思議ではないのです。

 

私は、公立中学から高校受験をする進路を否定するつもりはありません。

教えてきた生徒の中にも、「この子は、中学受験向きじゃないなあ。むしろ高校受験に切り替えたほうがうまくいくのに」と思う子は何人もいました。

中学受験というのは、高校受験同様のレベル(場合によってはそれ以上)の学習をし、同様のレベル(あるいはそれ以上)の問題にチャレンジする、12歳の子どもにとってはなかなか過酷なものなのです。

しかし、東京や神奈川の高校入試はなかなか大変です。

◆高校から入れる私立高校が少ない→過酷な競争

◆公立高校進学には内申点が重要→気を抜けない中学校生活

◆成績上位層が抜けた後の生徒があつまる中学校生活

とくに女子の場合は、高校受験での選択肢が少なすぎます。

サピックス中学部の偏差値表を見てみました。

62    渋谷幕張

  慶應女子高

61 早大本庄学院

60 早実

59    筑波大附高

57    学芸大附高 

  青山学院高

55    お茶の水女子大附高

  市川高[一般]

  神奈川県立横浜翠嵐

  千葉県・千葉高

  明大明治

54    都立日比谷高

  神奈川県立湘南高

  埼玉県立大宮高(理)

53    千葉県立船橋高(普)  

  ICU

52    都立西高

  千葉県立東葛飾高

  栄東高(東医)

  中央大学

51    都立国立高

  都立戸山高

  埼玉県立大宮高(普)

  埼玉県立浦和一女

  広尾学園

50    都立立川高(創造理数)

  神奈川県立柏陽高

  横浜市立横浜サイエンスフロンティア高  

全部で29校がリストアップできました。

どうでしょう。この中にわが子を進学させたい学校の候補はあるでしょうか?

 

同様に、サピックス小学部の中学受験偏差値表で偏差値50以上の学校を数えてみると、88校あります(同じ学校の複数回入試含む)

 

「選択肢の多さ」を見ただけでも、東京・神奈川では中学入試に魅力があることがわかると思います。

中高一貫校の高校募集の人数は非常に少ないことも考慮しなくてはなりません。

たとえば青山学院の場合、中学の募集人員は男女計140名ですが、高校はその半分の70名です。

 

こうしたことを考えると、安易に「この学校以下なら地元公立中学から高校入試すればよい」と判断することはできないのです。

 

この母親には、とりあえず、地元の公立中学の内情を調べることをお薦めしました。

◆学校見学・説明会

 学校が開催するオフィシャルのイベントです。校長先生や学年主任の先生のお話をじっくりとうかがえるチャンスです。

◆文化祭・体育祭

 部外者お断りの学校であっても、進学予定であることをお話すれば見学可能です。

生徒の生の姿が見られますので、逃したくないチャンスです。

◆登下校時の様子

 ご近所でしょうから、登下校時の生徒の様子を見るチャンスは多いでしょう。

◆子どもを通わせている保護者からの情報

 口コミ情報を鵜呑みにするわけにはいきませんが、参考にはなるでしょう。とくに先生方の様子についての情報は貴重です。ただし、同じ先生がずっとその学校にいるわけではありません。一概に言えませんが、6年ほどで転任されるようですね。

◆都立高校の情報収集

 都内在住の場合、高校入試の最大の選択肢は都立高校の受験となります。都立高校の情報も収集しておかなくてはなりません。

都立トップ校といえる日比谷高校の大学合格実績を見てみました。

国公立大学  現役179名、既卒65名

私立大学   現役727名、既卒309名

既卒が1浪なのか多浪なのかわかりませんが、おおむねどちらも7:3の比率ですね。

高3受験生の浪人比率は公表されていませんが、35%程という推計もありましたので、だいたいそれくらいといえるでしょう。

中高一貫校に比べて、高校入試で学習が足踏みさせられてしまうため、3年間では足りない、そういうことかもしれません。

 

結局、ご両親とも、東京・神奈川の受験事情について納得も理解もしてくださらないまま、予定どおり子どもは公立中学へと進学することになりました。

 

もちろんそれでも良いのです。

そちらの方がメジャーな道ですので。

ただ、小学生時代に頑張っていたその生徒を見ていましたので。

ファッションやアニメ、YouTubeやVTubeに現を抜かしていた小学校の同級生たちと同じ中学で机を並べているのかと思うと、少々切ない思いがするのです。