今回は、公立中高一貫校と言う選択について考えてみましょう。
※特定の学校を持ち上げる意図も貶める意図もありません。あくまでも私の主観にもとづく私見ですのでご容赦ください。
- 増えた選択肢
- 学校の沿革と特色
- (1)学費が安い
- (2)6年間一貫教育である
- (3)大学実績が良い
- (4)特色ある教育
- (5)歴史が浅い
- (6)公立である
- 入試問題が特殊
- 公立中高一貫校のレベルは?
- 今いちど入試問題を見てほしい
増えた選択肢
2005年に都立白鴎が誕生して以来、わずか20年弱でこんなに増えました。
◆埼玉県
埼玉県立伊奈学園中学校
川口市立高等学校附属中学校
◆千葉県
千葉県立東葛飾中学校
◆東京都
東京都立白鷗高等学校附属中学校
東京都立桜修館中等教育学校
東京都立富士高等学校附属中学校
東京都立大泉高等学校附属中学校
東京都立立川国際中等教育学校
東京都立武蔵高等学校附属中学校
◆神奈川県
神奈川県立相模原中等教育学校
神奈川県立平塚中等教育学校
横浜市立横浜サイエンスフロンティア高等学校附属中学校
横浜市立南高等学校附属中学校
川崎市立川崎高等学校附属中学校
公立中高一貫校は、高校の併設型と中等教育学校に2分されます。
中等教育学校は6年間一貫教育で高校募集はなし、併設型は高校募集もあり、ということだったのですが、続々と高校募集が停止されており、都立(区立も)は高校募集はもうありません。神奈川についても、横浜市立南高校も2026年に高校募集を停止しますので、残っているのはサイエンスフロンティアだけです。
つまり、公立といえども、私立同様に「完全中高一貫」であると考えてよいでしょう。
学校の沿革と特色
公立中高一貫校の登場は、1998年の学校教育法改正に端を発します。
そもそもなぜこうした制度が導入されたのか?
これについては、首謀者(まるで犯人みたいですが)の文部科学省はこのように説明しています。
中高一貫教育制度は,「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」(平成9年6月中央教育審議会第2次答申。以下「平成9年答申」という。)においてその基本的な考え方や制度の骨格が示されました。
平成9年答申においては,昭和46年の中央教育審議会答申以来の幅広い検討を念頭に,中高一貫教育が,私立の中・高等学校を中心に,実際上相当の広がりを持って行われていた現状も踏まえつつ,その導入についての検討がなされました。その結果として,心身の成長や変化の著しい多感な時期にある中等教育において,一人一人の能力・適性に応じた教育を進めるため,中学校教育と高等学校教育を6年間一貫して行うことについて,考えられるその利点や問題点を挙げつつ,大きな幾つかの利点を持つ中高一貫教育を享受する機会を,子どもたちにより広く提供することが望ましく,中高一貫教育を導入することが適当であるとの結論に達しました。一方で,中高一貫ではない中学校・高等学校の利点や意義も確認し,その上で,子どもたちや保護者の選択の幅を広げる観点,さらには,地方公共団体や学校法人などの学校設置者が自らの創意工夫によって特色ある教育を展開する観点から,その中等教育における選択肢としての意義を提言しました。
この平成9年答申における提言を踏まえ,子どもたちや保護者などの選択の幅を広げ,学校制度の複線化構造を進める観点から,中学校と高等学校の6年間を接続し,6年間の学校生活の中で計画的・継続的な教育課程を展開することにより,生徒の個性や創造性を伸ばすことを目的として,中高一貫教育制度が平成11年度から選択的に導入されました。
ああ。
どうして役所の発信する文書ってこんなにもわかりづらいのでしょうか?
頭のとても良い人たちの集団のはずなのに。
意図的に読みづらくしているとしか思えません。
要するに、私立が実践してきた中高一貫教育の利点を文部科学省が認めた、ということですね。
ただし、それを公式に認めてしまうと、公立中学→公立高校 を基本とした教育行政を否定することにもなりかねませんので、
「中高一貫ではない中学校・高等学校の利点や意義も確認し、その上で,子どもたちや保護者の選択の幅を広げる観点」
という、なんとも奥歯にものの挟まったような表現となっているのでしょう。
この方針転換を受けて、全国に700校近くもの公立中高一貫校が誕生することとなりました。
当初は、「中学受験をさらに過熱させる」「教育の機会均等に反する」といった批判も沸き起こっていたのですが、第一期生の大学入試結果が出始めると、たちまち下火となりました。母体となった公立高校時代と比べて、大学実績がとても良かったからですね。そんなことは予想通りですが。
公立中高一貫校の特徴は、以下の6点に集約されます。
(1)学費が安い
(2)6年間一貫教育である
(3)大学実績が良い
(4)特色ある教育
(5)歴史が浅い
(6)公立である
順に見ていきたいと思います。
(1)学費が安い
いうまでもなく、最大の特徴であり、最大の魅力です。
日本政策金融公庫によると、家庭が負担する教育費はこのようになっています。
◆すべて公立の場合
幼稚園 47.3万円
小学校 211.2万円
中学校 161.6万円
高校 154.3万円
大学 248.1万円
合計 約822.5万円
◆すべて私立の場合
幼稚園 92.5万円
小学校 1,000.0万円
中学校 430.4万円
高校 315.6万円
大学 469.0万円
合計 約2,307.5万円
中高だけを考えると、私立中高一貫校の場合は746万、公立なら316万となり、私立と比べて42%の負担で済むという計算になります。
さらに詳細をみると、学校関係にかかる費用だけでもこれだけの差があるのです。
もうこれだけ見ると、私立中高に通わせるという選択肢が、いかにお金のかかる選択なのかが明らかですね。
そこで、教育費を節約しようと考えた場合、従来なら、公立中学→公立高校 というコースしか選べなかったのが、今やもう一つの選択肢がある、というわけです。
※東京都の高校無償化はここでは言及しません。東京限定ですし、いつまで続くかも不明ですから。
(2)6年間一貫教育である
当たり前ですが、これが魅力です。
公立中学→公立(私立)高校 という選択肢にも魅力があることは認めます。
中学受験と比べて、高校受験は大人(とはまでいえませんが)の中学生による受験ですので、親の出る幕はありません。子どもが自覚をもって受験に臨むのです。そのチャレンジから得られる物はとても大きいと思います。また、人間関係が一度リセットされるのも大きいですね。
しかしながら、大学入試の結果だけみれば中高一貫教育の有利さは明らかですし、途中で高校入試を経ないことによる一貫教育のメリットもはかり知れません。
(3)大学実績が良い
これは結果が出ています。
明らかに一貫教育のほうが有利です。
(4)特色ある教育
グローバル教育やキャリア教育、理系教育に特色を打ち出した学校も多いですね。
ただし、これは「公立中高一貫校」だけの魅力ということではありません。私立のほうがもっと多彩です。
つまり、「公立なのに特色ある教育が実践されている」ところに特徴があるのです。
(5)歴史が浅い
それはその通りです。白鴎ですら20年たっていません。
これをデメリットと感じるかたはそもそも目指さないでしょう。
「新しい学校」であることに魅力を感じる方にとっては大きなメリットです。
(6)公立である
何を当たり前のことを。そう思われることでしょう。
実は、念頭にあるのは、都立日比谷高校のことなのです。
ちょっとこのグラフをご覧ください。
都立日比谷高校の東大合格者数の推移です。
2024年には60名合格と、復活したといわれる都立日比谷高校ですが、昔はもっとすごかったのです。
衰退の原因は、悪名高い「学校群制度」です。
「学校群制度」というのは、都立高校を群とよばれるいくつかのグループに分け、その「群」を受験するという制度です。「群」の中のどの学校に進学できるかはわかりません。学校間の成績格差が生じないように機械的に割り振られるのです。
例えば、日比谷高校は11群になり、 日比谷・九段・三田のどの高校に進学できるのかは神のみぞ知る状態となったのです。
もともとは、受験戦争の激化を食い止める目的だとされましたが、単なる「日比谷潰し」とも噂されました。当時の知事・教育長の両名が、地方の高校から東大に進学した方だったことも噂に尾ひれを付け加えることになります。
進学する高校を自分で選べない
この理不尽な制度を回避するには、私立しかありません。
私立高校および私立中高に優秀な生徒が逃げ出すのも道理です。
この制度は1967年から1981年まで続いたのです。
見事に「日比谷潰し」には成功しました。
都立日比谷高校は。1878年(明治11年)の東京府立第一中学を母体とします。150年近くもの歴史を持つ名門校なのです。
戦前は、府立第一中学→第一高等学校→東京帝国大学がエリートコースでしたし、戦後なら番町小→麹町中→日比谷高→東大なんていうのがエリートコースでした。首相もノーベル賞学者も輩出しています。
東大に行くよりも価値があるとまでいわれた日比谷高校が、こうもあっさりと凋落したとは驚きでしかありませんでした。
実は、その後の復活の背景には、当時の石原慎太郎都知事による教育制度改革があります。「進学指導重点校」に指定され、予算が優遇されたり教員の公募制が認められるようになったのですね。現在は文科省の「SSH(スーパーサイエンスハイスクール)」にも指定されています。
しかし、2024年の入試では、日比谷高校は合格者268人中18人が辞退したために定員の253名を割り込んでしまい、2次募集をしたことも話題となっています。実は、受験者数も2023年には474人だったのが、354人と3/4に減っています。
その原因は、東京都による高校無償化、しかも2024から所得制限を撤廃したことにあるとみて間違いないでしょうね。
私立とは異なり、公立中高一貫校は行政の思惑により作られた学校です。
今後どうなるのかは、正直いってわかりません。まさに行政次第です。
「日比谷の悲劇」のような事態が起こらない保証はどこにもないのです。
※長期的な視点からいえばその通りなのですが、短期的な視点、つまり子どもが入学→卒業するまでの6年間だけ現体制が続けばそれでよい、そういう考え方もありますね。
卒業した後の母校がどうなろうと関係ないといえば関係ありませんので。
その場合は、別に心配する必要は全く無いといえるでしょう。
「学校群制度以降の日比谷は『日比谷』ではない」
そんなOBの声も聞いたことがあります。なんだか寂しい話ですね。
おまけとして開成の東大実績と並べてみました。
入試問題が特殊
「公立」である以上、小学校の教育内容を逸脱したテストは作れません。かといって、小学校の学習内容の範囲では易し過ぎて、入試問題になりません。
そこで編み出されたのが、「適性検査」という謎の入試問題です。
縦軸に知識・解法力を、横軸に思考力・記述力をとると、通常の入試問題は雲の部分に該当します。4教科の学習をきちんと積み上げてきた生徒が得点できるようになっているのです。難関校では、それに加えて記述力・思考力を要求する問題となっています。
麻布だけが、思考力・記述力に思い切り振りきった問題を出しますが、知識や解法力が不要というわけではありません。左上の小さな雲が麻布のいるところです。
さて、公立中高一貫校の入試問題は★印に該当します。
正確にいうと、思考力というよりは、分析力ですね。
理社の知識も算数の解法力も必要とされません。
問題を分析して記述表現する力だけが必要とされるのです。
※もちろん学校によります。大まかな傾向をお話しているのです。
従来の中学受験対策である4教科の積み上げ学習を否定している入試傾向ですので、受験パターンはこのように分かれます。
(1)公立中高一貫校だけを受験(受検の字のようですが、受験に統一します)
(2)公立中高一貫校を第一志望に、押さえとして私立も受験
(3)私立を第一志望に、押さえとして公立中高一貫校も受験
(4)私立を第一志望に、ダメ元で公立中高一貫校にもチャレンジ
(1)の場合、いわゆる普通の中学受験勉強は不要です。公立中高一貫校に特化した学習をすべきでしょう。ただし対策はなかなか難しいですね。それを売り物にした塾に丸投げするか、ご家庭でがんばるか。ご家庭で頑張るほうがお薦めですが。
(2)の場合は、私立でも「適性検査型入試」を称する入試を行っている学校を選びます。レベルが高くはない学校ばかりです。
(3)の場合は、最難関私立を志望する受験生ということですね。彼らにとってみれば、公立中高一貫校の問題は、特別な対策なしに合格点がとれるのです。
(4)まずは私立で合格をとり、その上で公立中高一貫校にチャレンジする層もいます。
実は、(1)および(2)の場合、合格後に大きな問題があるのです。
それは、合格したら全て終わるわけではないという当たり前の問題です。
自分は公立中高一貫校対策しかしてこなかったとしても、実際に学校に進学すると、(3)や(4)の層がいます。とくに(3)の層は脅威です。
理社で決定的な差が開きます。
彼らはその余力を、数学・英語に注力してきます。
そう考えると、公立中高一貫校だけに特化した受験勉強は正直いって、あまりお薦めしたくはありません。
いずれ中高生になって必要となる学力ですので、基本的な4教科の学習もしておくべきだと思うのです。
公立中高一貫校のレベルは?
いわゆる私立中学受験用の偏差値表を単純に当てはめにくいのが公立中高一貫校です。受験生の集団(層)が異なるため、単純比較が難しいのです。
各塾は、「私立を受験しながら公立中高一貫も受験した」生徒の結果に基づいて算出しています。
参考までに、いくつか取り上げてみます。(男子の偏差値です)
都立小石川・・・S-60 / N-66 / Y-68 / shu-73
都立桜修館・・・S-53 / N-60 / Y-61 / shu-66
都立両国・・・・S-53 / N-60 / Y-61 / shu-68
都立三鷹・・・・S-50 / N/60 / Y/58 / shu-64
都立武蔵・・・・S-54 / N-62 / Y-62 / shu-69
サイフロ・・・・S-53 / N-59 / Y-64 / shu-70
S:サピックス N:日能研 Y:四谷大塚 shu:首都圏模試
(公立中高一貫校を目指している受験生で首都圏模試を参考にする方は少ないと思いますが、いちおう載せました)
偏差値の1・2の差は誤差の範囲ですし、前述したように問題傾向・受験者層が違い過ぎて単純比較はできませんが、サックスなら50台、日能研や四谷大塚なら60台の生徒が受験者層とみてよいでしょう。
今いちど入試問題を見てほしい
公立中高一貫校を検討されるなら、まずは入試問題(適性検査問題)を見てください。
各学校からHPで公開されています。
この問題を見て、「こうした問題を出す学校なら」「こうした問題を解ける生徒たちと一緒に学べるなら」と思えることがとても大切だと思います。
私立にせよ公立にせよ、入試問題には、「どんな生徒に入学してきてほしいか」という学校の思いが反映されます。
その入試問題に拒否感しか抱けないのなら、そこは目指すべき学校ではない、というのが私の持論です。
個人的には、公立中高一貫校の目指す「分析力」重視の問題は大好きです。こういう問題にスラスラ取り組める生徒っていいですね。