中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

中学入試問題に見える学校の本音

そもそも中学受験は何を目的としているのでしょうか。

もちろん「受験生を選ぶ」目的です。

しかし、その単純な目的が、学校によって実に様々なのですね。

今回は、そんな中学入試問題にうかがえる、学校の本音について語ります。

※テーマがテーマですので、具体的な学校名は一切出せません。ご理解ください。

 

算国理社の基本問題を出題する学校

 

こうした学校が大半です。

目的は簡単です。

4科目の基本的な学力を備えた生徒をとりたいのです。

4科目の基本的な学力を身につけるためには、小学生時代の学習姿勢が重要となります。

◆4科目の基本的な学力が身についている

◆基本的な生活習慣ができている

◆親の教育についての姿勢が好ましいものである

◆中学生になってからの高度な学習に対応できる基礎力がある。

 

こういったあたりでしょうか。

学習習慣=生活習慣ともいえますので、そこは良いのですが、親の姿勢まで好ましいものかどうかはわかりません。

しかし、少なくとも「受験のための学習」をさせていたわけですので、ある程度教育に理解があると考えることはできるでしょう。

 

算国理社の難問を出題する学校

 

いわゆる「難関校」と呼ばれる学校の大半がこのスタイルです。

算数は、〇〇算の公式をあてはめるような問題ではありません。

その場で解法を模索しながら解いていかないとならないのです。

算数的な「センス」のようなものまで問われます。

しかも、計算の正確性・スピードも求められます。

国語は、小学生には理解できそうもない文章や記述が出されます。

 

 
 問 この小説の最初に、「星がきれいだなんて思ったことは一度もない」
 とあります。一方、最後の部分に、「都会の星がこんなにきれいだなんて、いままで知らなかった。 ―僕はキリンを飼っている。 少年はそう思った。そして、だれもいないひっそりとした屋上でひとり、長い時間、街を 見下ろしていた」 とあります。
・少年にとって、「キリン」とはどのようなものだったのでしょうか。
・少年は、なぜ都会の星がきれいだと気づくことができるようになったのでしょうか。
  これらについて、160字以内で答えなさい。解答にあたっては、二つの内容が結びつくように答えること。

 

団地に住む少年が、学校帰りにキリンを見つけて、連れ帰り、屋上で飼うという小説です。そこからの出題がこれなのです。

もう普通の小学生なら(大人でも)頭の中が?マークだらけになりますね。

 

野坂昭如の「ウミガメと少年」を出題した学校もあります。

戦争末期の沖縄が舞台の童話です。

何ともいえない不思議な、そして暗い雰囲気を持ったお話ですが、これを「読解」させ、最後に少年が海に入っていくことについて記述させるのは難易度が高すぎます。

 

ユダヤ系ドイツ人である哲学者エーリッヒ・フロムが1941年に亡命先のアメリカで書いた著書「自由からの逃走」に関する出題までありました。

問題は著書名を答えるだけでしたが。

 

この本は名著です。フランクルの「夜と霧」とともに読んでほしい本の一つです。

しかし、大人でも未読の方もいると思います。高校生で読んでいたら素敵です。

ちなみに著書では、人間が自ら自由を放棄してしまう心理的カニズムを明らかにしました。

なぜドイツ人がナチズムに傾倒し思考停止に陥ったのかを考察したのですね。

フロム曰く、人間は自分の運命を自分で決める自己決定権を持っているのだそうです。しかし、自由になることで逆に無力感を抱えてしまい、また孤独にもなってしまい、自由から逃げようとするのだとか。

自由からの逃避は「権威主義への逃避」「破壊主義への逃避」「機械的画一性への逃避」という3つの形となって表れるのだとフロムは看破しました。

 

これ、小学生に出しますか?

 

理科・社会で記述問題を出す学校

 

解答用紙を見るとわかります。

社会科なのに原稿用紙のような解答用紙の学校があります。数百字の記述問題が2・3問だけ、そんな問題なのです。

理科なのに、大きな枠とグラフ用紙のような線だけの学校もあります。理科的な分析力に思い切り振った出題なのですね。

 

理科社会で記述問題を出題する学校は多くあります。

そのほとんどは、通常の知識問題(記号選択・語句記入)に、1~2行程度、字数でいえば数十字の記述問題を2・3問程度出す出題です。

 

しかし、中には相当高度な記述問題を出題する学校もあるのです。

 

「日本の再軍備自衛隊)が憲法違反かどうかについて、政府の見解が戦争直後と1950年代に変わった理由を説明せよ」

「交通手段の発達が社会にもたらすマイナスの影響を論述せよ」

「紙の役割の未来について考察せよ」

こんな内容の出題がありました。

最近では、生成AIが社会にもたらす変化についての考察をさせる出題が複数校で見られます。

 

どの学校も、偏差値的な難易度が高い学校ばかりです。

基礎学力があることが前提なのです。

そのうえで、分析力・思考力・記述力を測ろうとしているのですね。

 

中高でどのような学びを実践したいのかがうかがえる出題です。

 

 

信じられないほど簡単な算国を出す学校

 

算数は計算ドリルレベル、国語は漢字と語句の知識レベル。

小学校のカラーテストレベルです。

そうした問題を2科目で出題する学校もあるのです。

 

はっきり言いましょう。

定員割れしている学校です。

 

もう生徒集めになりふり構っていられないのです。

志願者は全員合格させるつもりです。

でも、さすがに「無試験」とはいきませんので、入試の体裁だけ整えているのですね。

しかし入試結果を見ると、不合格者がゼロでないこともあります。

いったいどういう生徒が不合格になるのか不思議です。

 

1科目入試の学校

 

4科目や2科目の一般入試に加えて、算数だけ、国語だけといった1科目入試を実施している学校があります。

また、2科目や3科目入試として、点数の一番高い科目の得点を合否基準に使用するという学校もありますね。

 

こうした学校の多くは(全てではない)、やはり定員割れレベルの学校です。

 

なかには、午後入試に1科目入試とする学校もありますが、それは単純に試験時間が確保できないからという理由ですので、ここには相当しません。

 

午前中の入試にもかかわらず1科目だけという学校には、やはりそれなりの理由があるのです。

 

受験生の負担を軽くする→4科目の教科学習を負担に感じるレベルの生徒でも集めたい、ということですので。

 

 

 

変則的な入試形態をとる学校

 

◆プレゼン入試

自己推薦入試

◆作文だけ

◆面接だけ

◆特技を披露するだけ

◆英検の資格を提出するだけ

 

こうした試験に、2科目を組み合わせる学校も多いですね。

もちろん2科目は基本問題です。

 

◆小学生の間に、教科学習の受験勉強だけになってほしくない

◆意欲や思考力の高い生徒を集めることで、中高で「理想的」な教育につなげたい

 

こうした前向きな理由の学校もあります。

しかし、多くはやはり、生徒募集に苦戦している学校です。

 

◆受験のハードルを下げることで志願者を増やしたい

 

この意図がはっきりと見えています。

 

入試難易度と学校の評価の関係

 

「大学入試結果」だけを価値観とすると、基本的な出題のみの学校は、やはりそれなりの大学実績しか出ていません。

変則的な入試で生徒をかき集めようとしている学校の大学実績も非常に寂しいものがあります。

 

しかし、中高の価値観は「大学入試結果」だけではないという考えもあります。

 

実際に、そうした「定員割れ」レベルの学校に進学したところ、自分の子どもの学力や性格に非常にマッチしていて、先生のフォローも手厚く、充実した6年間を過ごし、大学も、十分納得のいくところ(世間的な評価ではなく、そのご家庭の評価です)に進学できて感謝しかない、そうした方がいました。

 

ただし、残念ながら、世間一般の評価は異なります。

少子化の中で、大学実績をあげないことには受験生に選んでもらえず、学校も生き残れないのですね。

 

そこで、このような、「受験生集め」に特化した出題が増えているのでしょう。

 

ただし、学校選びに際しては、「わが子は算数くらいしか解けないし、しかも難問は無理だから、そういう入試の学校の中から受験校を選ぶ」のには賛成できません。

 

「行きたい学校を選んだら、たまたまそうした入試だった」が本筋でしょう。