中学入試で行われる面接試験とその対策については以前の記事で書いています。
今回は、慶應中等部・慶應湘南藤沢・慶應普通部の、いわゆる慶應3校の面接と実技についてまとめてみたいと思います。
1.慶應中等部の場合
言わずと知れた人気校です。2023年入試での試験結果はこのようになっていました。
この学校の場合、試験日程はこのようになっています。
1次試験合格者のみ2次の面接に進むというスタイルで、このスタイルをとる学校は埼玉県立伊奈学園とか川口市立高等学校附属中、千葉県立千葉中と千葉県立東葛飾中などの公立一貫校の一部をのぞくと、私立では慶應中等部と慶應湘南藤沢だけといってもよいでしょう。
ちなみに、埼玉県立伊奈学園の場合は、1次試験の合格率は55%、2次試験の合格率は46%でした。また、川口市立高等学校附属中の場合は、1次試験の合格率が47%、2次試験の合格率が43%です。千葉県立2校はおよそ300名の1次試験合格者を2次試験で80名までしぼります。
一般に、1次試験合格者のみに後日2次試験を実施するスタイルの学校は、2次試験(面接)で不合格になる危険性が高いとみておく必要があるのです。
(1)合格率
では、2023年の慶應中等部の入試結果をみてみましょう。
2023年入試では、4科目の筆記試験である1次試験合格率は、男子で41%、女子で31%となっています。しかし、1次合格で浮かれているわけにはいきません。発表翌日に行われる面接試験での合格率は、男子が54%、女子が56%となっていました。
ここで特筆すべきは、2次試験の不合格者の多さですね。
およそ2人に1人がここで不合格敗退となってしまいます。
塾教師としての正直な本音を言えば、私はこのスタイルの入試が嫌いです。
一所懸命勉強を頑張って1次試験を突破したのに、「面接・実技」で不合格にされた受験生に、いったい何と声をかけたらよいのでしょうか?
「僕、運動が苦手だったからかなあ。」
「面接で質問に上手に答えられなかった。」
こう言って泣いている生徒を過去にどれだけ慰めてきたことか。
「私のせいなんです。」
こう言って涙をこぼしているお母さまをどれだけ励ましてきたことか。
受験生親子にとって、あまりにも残酷な入試制度だと思います。
したがって、この学校を志望する生徒保護者にはいつもこう言っています。
「面接・実技という勉強以外の要素で落とされます。そういう学校です。それについて、『何てひどい』と思ってしまうのなら、この学校は受けるべき学校ではありません。『そうやって勉強以外の面も評価してくれる、何て素敵な』と思える人しか受験してはならないのです。」
詭弁には違いありません。でも、他に何と言えばよいのでしょう?
誤解なきよう言っておくと、この学校自体はとても良い学校です。進学した教え子たちも、みな充実した学校生活を送って楽しそうでした。あ、一人だけ不満をもらしていた生徒がいましたね。
「みんな勉強しないんだよ」
こう文句を言っていたのは、とてもまじめな女子生徒でした。本人は、桜蔭に進学したかったのです(合格していました)。でも、「桜蔭→鉄緑会→東大という進路以外にも中高生はすべきことがある」というご家庭の方針により、慶應中等部に進学となりました。
親としても、慶應中等部に進学してくれると一安心というか、肩の荷が降りる思いですよね。
(2)体育実技
子どもだけが体育館に集められます。体育館隅の仕切られたところで着替えますが、号令とともに一斉に着替えなくてはなりませんので、あまりに脱ぎ着がしにくい服装は避けるべきでしょう。まわりが着替え終わっている中で一人だけもたもたしているというのは、結構なプレッシャーですので。
実技内容は、それほど難しいものではありません。
◆なわとび・・・男子=二重飛び、女子=後ろとび
◆ボール運動・・・ボールを上に投げ上げ、身体の前後で手をたたいてボールをキャッチする。
◆ジグザグドリブル・・・コーンが2か所に置かれていて、その間を8の字でドリブルします。男子はサッカーボールで、女子はバスケットボールでのドリブルとなります。
◆シャトルラン・・・いわゆる往復持久走というものですね。
たとえ上手くできなくても、真剣に取り組む姿勢を見られるといわれています。一人だけ違う動きをしたとか、なわとびが全く飛べなかったとか、合格した生徒から聞いたことがあります。また、入退場時の姿勢までチェックされているという噂もありますので、校門を出るまで親子で気を抜いてはいけません。
なぜこのような体を動かす実技を実施するのか?
学校の真意はわかりませんが、試験にある以上、全力で取り組むほかありません。
(3)面接
受験生をはさんで父母で座ります。両親の出席が必要です。学校のHPにはこうあります。
「できるかぎりご両親でご出席下さい。 やむを得ない場合には、 お一人でも結構です。」
やむを得ない事情で父親が欠席(たしか海外出張だったかな)したお母さまにうかがうと、やはり「なぜ親一人なのか」については聞かれたそうです。
また、お父様が骨の髄まで「早稲田人間」で慶應を毛嫌いしてたご家庭もありました。お母さまは、「この父親を面接に連れていってはいけない!」と考え、仕事という理由で欠席させたそうです。その代わり、欠席理由と子供を慶應中等部に進学させたい熱い思いをしたためた短い詫び状を父親に書かせ(もちろん母親作文)、それを面接官に手渡したといっていましたね。まあこれはレアなケースですが。
机の向こうには面接官が4名。机上には提出した願書が置かれています。
質問内容はごく一般的なものです。
◆受験生へ
・挫折をどう乗り越えたか
・1次試験の出来具合についての感想
・好きな教科とその理由
・自分の長所
・自分の性格分析
・志望の動機や学校のイメージについて
◆保護者へ
・志望動機
・子供の性格・長所・短所について
・家庭における教育方針
・子供の受験、成長について
まずまず予想の範囲内の質問ばかりですので、ご家庭でシミュレーションを行っておくとよいでしょう。
気を付けるべきポイントとしては、志望動機ですね。
〇なぜ慶應?
〇なぜ慶應の中でも中等部?
この二つについては、明確な解答を用意しておく必要がありますね。とくに湘南藤沢と併願する方が多いので、そこはきちんと答えられるようにしておきましょう。
「大学受験をしなくてすむから」
「慶應大学にそのままあがれるから」
まさかこんな解答をする人はいないと思いますが。
2.慶應湘南藤沢中等部の場合
(1)合格率
慶應湘南藤沢も厳しい面接となります。
1次の合格率が47%、2次合格率が51%となっています。慶應中等部とほぼ同様、面接・実技で半分に絞られてしまうのです。
(2)体育実技
教室で着替えた後体育館に移動して実施します。脱いだ着替えは各自持ち歩きますので、出し入れがしやすい鞄(袋)を準備するとよいでしょう。
◆立ち幅跳び・・・距離測定あり
◆ハンドボール投げ・・・距離測定なし
・一所懸命真剣に取り組む
・待っている間もきちんとした姿勢・態度
・お手伝いの在校生や先生にはお礼・挨拶をきちんと
こうした注意は当然です。
(3)面接
面接は3回行われます。
①受験生本人の面接・・・面接官2名、受験生1名
②受験生本人の面接・・・面接官2名、受験生1名
③保護者面接・・・②と同じ部屋で、受験生本人と入れ替わりで保護者面接
①は10分程度、②と③は合わせて10分程度
質問内容はごく一般的なもののようですね。
◆受験生へ
・志望動機
・家族との時間の過ごし方
・福沢諭吉について
・自分の長所・短所について
・家族関係について
・将来の夢、学校での夢
◆保護者へ
・子供の夢について
・志望動機
・教育方針
・併願校について
活動報告書に沿った質問が多く、とくに意地悪な質問、奇をてらった質問は無いようですが、中等部同様に、なぜ慶應?、なぜその中でも湘南藤沢? という質問に対する答は親子で十分に話し合っておく必要があります。
また、同じ面接官が、まず生徒本人、次に保護者のみ、と続けて面接しますので、矛盾が出ないように日頃から親子で十分にコミュニケーションをとっておかなくてはなりません。
3.慶應普通部の場合
慶應普通部の面接は、入学試験(筆記試験)の日の午後、同じ日に行います。したがって、面接・実技の合否における比重は不明です。
学校のHPのQ&Aによると、
◆面接・実技の合否における比率は?
→「比率はお答えできませんが、どれも重要です」
◆面接に必要な準備は?
→「特別な準備は必要ありません。普通の会話のやり取りができれば、それで十分です」
◆体育実技は何をやる? もしできなかったら?
→「毎年同じ事をしているわけではありません。過去にはマットの上で運動をしたこともあります。体育学校ではありませんので、できないからといってすぐに不合格になる、ということはありません。受験生が一生懸命やろうとする姿を見ています」
とありました。
(1)体育実技
◆ボールを使った運動や、マット運動など
毎年変わります。フラフープの上で反復横跳びをしたり、テニスボールをワンバウンドさせてコーンでキャッチしたり、10mダッシュをしたり。そんなに難しいものではありませんので準備は不要です。
在校生が1回やってみせるお手本をまねするだけです。自分の番が終わったから「やった終わった」とほっとしてはいけません。きちんと次の受験生にボールを渡すとか、周囲への気遣いも重要ですね。
着替えはしません。受験日には、動きやすい服装で行きましょう。
(2)面接
1教室に仕切りがあって3名分同時に面接が行われたようです。面接官は1名ずつで、時間内に面接官がチェンジします。合計10分以内です。
◆質問内容
・体調について
・習い事について
・家族について
・性格の自己分析
・得意な教科について
・中学校でしたいこと
・印象に残った出来事
・本や音楽について
質問内容は一般的なものばかりではありません。例えば、過去にはこんなものがありました。
・2本の紐を渡されて結ばされ、その結び方は誰に習ったのか答える
・野菜の名前を出され、それを使った料理をそれぞれ答える
・絵を見せられ、それについての感想を言う
・紙飛行機を折らされ、その折り方を誰に習ったのか答える
まあ意地悪い質問ではないですが、アドリブで答える必要がありますね。
面接官がチェンジしながらの実施のため、矢継ぎ早に次々と質問されるような印象があり、短く的確に大きな声で返答することを留意しましょう。
4.まとめ
慶應3校を受験する保護者の方にはいつもこのように言っています。
「慶應という小さな島国があります。島の住人は、みな顔見知りで、同じ価値観を共有しています。そこによそ者が移住を希望してきました。さて、このよそ者は、島の生活になじんでくれるだろうか?異分子として島の生活をかき乱しはしないだろうか?獲物をとる能力は高くても、それだけじゃあ仲間にはなれないなあ。そこで、面接をして受け入れるかどうかを決めることにしました。」
実際には、慶應という学校は外に目を向けている学校ですので、島国とはイメージがズレますが、あくまでも面接試験の実施理由を説明するための比喩です。
巷では、「慶應出身者の子弟が有利」とささやかれていますが、その理由もわかっていただけると思います。すでに島の住人の子弟は受け入れやすい、ただそれだけのことなのです。
高校入試の志望理由の書き方として、慶應に関する記事を書いています。参考になると思うのでぜひご覧ください。