前回の記事の続きです。
※個人情報保護の観点に基づき、過去の実例を当事者が目にしてもそれとわからぬレベルまで再構成しましたが、話の核心は変えていません。
前回は、子どもにアプローチする前段階で話が終わっていますので、今回はその続きを書きたいと思います。
1.問題点のおさらい
◆小5の娘は勉強を全くしない
◆個別指導塾で算数だけ習っているが、受験勉強といえるレベルではない
◆夫婦の意見は乖離している
◆母親は最難関のB女子校・C学園に進学させたい
◆父親は娘になめられている
◆娘は、勉強しなくともC学園に進学できると思うほど無知である
ご相談にきたお母さまの話を総合すると、こんな状況でした。
兄は私立中学に進学できたのですが、妹のほうが勉強が嫌で逃げ回っているのです。
それにもかかわらず、厳しい首都圏の中学入試の現実をわかっているのかわかってはいないのか、ご両親ともまだまだ現実に向き合おうとはしていないご様子。
そこで、まずはお母さまに厳しい現実をお話したのです。まずは模試を受け、そこで受現実的な学校選びをするようにと。
次にお父様にも同様のお話をすることにしました。
2.父親との話
「お母さまからうかがいましたが、娘さんがなかなか勉強に向き合わないとか。」
「そうですね。本当に勉強が嫌いなようです。」
「お父様としては、中学受験をさせることについてはどうお考えなのでしょう?」
「私は、地方出身なもので、中学受験については、正直言ってよくわからないのです。まあ妻が東京で中学受験をしたので、それで初めて知ったような次第で。それで上の子のときに少し調べたら、なかなか大変な世界だということはわかりました。今じゃあ、みんな中学受験するそうですね、先生。」
「まあみんなということはありませんが。お通いの小学校だと、おそらくは半分くらいは受験するとは思います。」
「そんなに公立中学はダメなんでしょうか?」
ああ、そういうことか。やはり、中学受験に前のめりなのは母親のほうだったのですね。ご自身が中受経験者ということは、おそらく娘の公立中学進学は選択肢に入っていないのでしょう。また、母親の謎の余裕の理由もわかりました。ご自身の成功体験に基づき、なんとかなるだろう、と高をくくっていたと思われます。
その点、父親のほうは冷静だと思われます。
「もちろんダメなどということはありません。都内といえども、過半数は地元の公立中学に進学するわけですから。そこから高校受験を目指すというのは、普通の流れだと思いますよ。」
「しかし、妻に言わせると、高校受験は娘には無理だと。そうなんですか?」
「無理などということはありません。しかし、より上の学校を目指そうとすると、なかなか大変なのは事実です。 とくに都立高校を目指す場合は学校の内申の比重が大きくなります。かといって、私立の上位校の多くは大学付属ですが、かなりの激戦であることは間違いありません。」
「しかし、娘に入れる私立中なんてあるのでしょうか?」
「お父様は、娘さんにどんな学校に行ってほしいのですか?」
「そんなに要望を出せるレベルでないのはわかってます。ですから、6年間を元気に楽しく通ってくれれば、もうそれでいいと思っています。大学受験は、もう親の手を離れて自分で頑張るしかありませんので、そんなに勉強勉強で追いまくられる学校は、たぶん娘には合わないと思うのです。」
「それでは、とくにこの学校でなければ、というものはないのですね。」
「ええ。妻はあれこれ高望みしているようですが、自分の娘ですから、とてもそんなところに行けるレベルではないことはわかっています。きちんと6年間生徒のことを見てくれる学校であれば、もう本当にどこでも。でも、私のこうした考えが甘いと妻にはいつも言われています。だから娘が真剣に勉強しようとしないのだと。どうしても父親は娘に甘くなってしまうのですよね。」
前言撤回します。
娘に甘いだけの父親だといいましたが、そんなことはありませんでした。
きちんと娘のことをわかっているお父様です。
問題の本質が見えてきました。
両親の教育方針が乖離しているのが原因です。
そのため、子どもも勉強をやる意味も必要性も見えてこないのです。
最初に解決すべきは、両親の考えを一致させることでした。
ここを曖昧なままにして、入試直前になってから受験校でもめるケースを数多く見てきたのです。
しかし、厄介なことに、ご家庭の教育方針についての話ですので、私のような他人が介入すべきではありません。
ここはお父様に主導権をとっていただき、ご夫婦で話し合ってもらうしかないでしょう。
3.私からのアドバイス
「お父様のお考えは間違っていないと思いますよ。」
「そうでしょうか。」
「中学受験というと、どうしても少しでもレベルの高い学校を目指して頑張らなくてはならない、というイメージがあります。もちろんそれは大切なことなのですが、全ての子どもが最難関を目指すべきだということはありません。お父様のおっしゃるような学校もたくさんありますので、そんなに努力しなくても進学することはいくらでもできるでしょう。」
お父様は大きくうなずかれています。しかし、ここからが大切なお話をする場面です。
「しかし考えていただきたいのは、努力をしないで中学校に進学しても、そのあと努力できるようになるのかということです。努力の価値もやり方も知りませんので、中学生になったらいきなり変わるということは考えにくいですね。どんな学校であれ、そこを第一志望として頑張って努力した結果進学した生徒がいます。そうした生徒が大半でしょう。また、もっと上を目指していたが、結果としてこの学校に進学したという生徒もいるでしょう。こうした生徒たちは、努力の価値を知っていますので、中学進学後も努力を怠りません。このままでは、間違いなくそうした生徒たちに置いていかれると思います。」
中学受験の本当の価値はここにあるのですね。漫然と小学生時代を過ごすのではなく、目標をもって努力することに最大の価値があるのです。
だからこそ、中学に進学後に頑張れるのです。
「もちろん、中高時代に勉強以外に価値を見出し、高校卒業後は大学進学しないということなら話は別ですが。」
「いや、そんなことは考えてません。娘はとくにやりたいことや進みたい道があるわけでもないのです。親としては、せめて大学までは進学させたいと思っています。」
「わかりました。それなら、やらなければならないことは簡単です。まずはテストを受けてください。そうして娘さんの現状をしっかりと把握したら、娘さんの努力の範囲で合格が可能と思われる学校をいくつか選んでください。そして、ご夫婦で学校説明会に足を運んでください。ここなら娘を預けられる、そうご夫婦で思える学校が1つでも見つかったら、そこを目指して親子で頑張るのです。」
学校選びの段階で、両親の意見が一致することに期待します。
「学校を選ぶ際には、粗さがしをするのではなく、良いと思われる点を探すようにしてください。そして、かならずご夫婦の意見が一致するまで、徹底的に話し合ってください。娘さんに勉強しなさいというのは、そのあとのお話です。」
その他に、学校選びの注意点をいくつかアドバイスしました。
どうやら子どもに私からお話する必要はなさそうです。
両親の意見が一致し、娘の教育方針が定まっていけば、子どもも動きだす方向がわかりますので、それでもなお勉強から逃げ続けるようなら、その時こそ私の出番でしょう。