中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

歴史の勉強として奈良・京都で訪れたい場所

前回、歴史の勉強のために古墳を見ることについて書きました。

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今回は続きとして、古墳以外に奈良や京都で見ておくべき寺院等について書きたいと思います。

 

時折、保護者からうけるご相談にこんなものがあります。

「先生、歴史の授業が始まる前に、京都と奈良に連れていこうと思うのですが、ここだけは見ておくべき、という場所をお教えください。」

ううむ。

もちろん生徒に見せたい場所は無数にあります。

でも、思い返してみてください。

みなさんが小学生のときに行った旅行先の思い出って、どれくらい残っていますか?

まして、古臭くて地味な建物を次々と見せられて、楽しいですかね?

だから、歴史の授業がはじまる前に奈良・京都に子供を連れていくことには私は賛成できません。

やはり、歴史を学んだ後に、実際に目にするからこそ感動したり感心したりするものだと思います。

しかし、歴史の授業中に金閣銀閣が出て来た時、「見たことある人はいるかな?」と声をかけると、かならず数本の手があがります。

連れていかれる方がけっこういらっしゃるようですね。

もしどうしても連れていくのなら、次のような条件を考えていただきたいと思います。

 

歴史旅の条件

1.子供が歴史を学んだ後に行く

 塾にもよりますが、子供たちが歴史を学ぶのは、小5の後半か、小6の初めでしょう。そうすると、小6になる直前の春休みか、小6のGWか夏休みがタイミングということになります。

しかし、そんな時期にのんびり奈良・京都をめぐる余裕があるでしょうか?

ほんとうは、受験が終わってからの最初の春休みあたりに訪れるのがタイミングとしてよいような気がします。

多少は余裕がある5年生のうちに行くのなら、せめて、平安時代くらいまでを、ご家庭できちんと学習してから行くべきでしょう。

別に塾でなければ勉強できないわけではありません。ご家庭で準備をしてもよいと思います。

2.記念撮影はしない

ルーブル美術館モナリザの前でのことです。(矢印の先がモナリザ

モナリザ

さほど大きくない絵の前には、ルーブルで最も多くの人垣ができています。

それでも、少しずつ人は入れ替わりますので、すぐに一番前の正面でじっくりと鑑賞することができます。

そうして見とれていたら、後ろから肩をつつかれました。

韓国人のカップルの女性が、そこで彼の記念撮影をするから、お前はどけ!と言うのですね。

不快になったのですぐその場を離れましたが、振り返って見ると、件のカップルは撮影だけしてすぐに立ち去っていきました。

いったい何をしにきたのでしょうかね?

同様の光景を、奈良や京都のあちこちで見かけます。

自分の背景にベストな配置で寺院の建物が写るよう、押し合うようにして皆同じ場所でスマホで自撮りをしているのですね。

そうして撮影するとさっさとその場を離れていきます。

国宝にお尻を向けただけでは、見たことにはなりません

思い切って、いっさい記念撮影をしない旅行をしてみませんか?

街角でのスナップ程度ならともかく、写真を撮らないことで記憶がより鮮明になると思うのです。

3.下調べをする

よく中高の修学旅行では、事前に生徒たちに下調べをさせますよね。

あのような下調べを子供にやらせるのではありません。

親が下調べをしてほしいのです。

そして、連れて行かれる保護者の方が、例えば比叡山では真言宗天台宗密教の相違について語ってほしいのです。金閣では義満の栄華について語ってほしいのです。

そのためには、事前に念入りな予習が必須です。

何歳になっても、歴史の勉強っておもしろいですよね。

どうせ行くなら親も一緒に楽しみましょう。

 

連れていってほしい場所

1.金閣

晴れた日に行きたいですね。

金色に輝き、本当に綺麗です。

たしか35年くらい前に大規模に金箔を張替えています。その後も定期的に補修がされているようで、2・3年前にも修繕完了のニュースがありました。その直後に行きましたが、素晴らしいの一言です。時の施政者の栄華をしのばせます。

行く時には、補修工事の有無を確認しないと、足場に覆われた建物を見る羽目になってしまいます。

実は、比叡山延暦寺を訪れたとき、国宝の根本中堂が工事中で悲しい思いをしたのは私です。

もちろん現在私たちが目にする金閣は、放火による火災で焼失した後、1955年に再建されたものです。

創建当時の姿を忠実に再現したとされています。

放火事件に関連する本としては、

金閣寺三島由紀夫

金閣炎上」水上勉

の2冊がおすすめです。

2.銀閣

金閣に行ったら、バランスをとるためにも訪れるべきですよね。

北山文化と東山文化の違いが肌で感じられます。

おもしろいことに、日本人にアンケートをとると銀閣のほうが人気のようですね。

古刹のたたずまいに惹かれるのでしょうか。あるいは日本建築の元とされる書院造に日本風の美意識を見出すからでしょうか。

ドナルドキーンが著書「日本人の美意識」(名著でおすすめ)の中で、イギリス人外交官で日本歴史家のサンソム卿の言葉を批判的に紹介しています。

銀閣寺ーその名を裏切る、まことに取るに足りぬ建造物。・・・際どいところで無味乾燥になるぐらい単純である。」 このイギリス人には何も理解できなかったのですね。

芸術に造詣の深かった義政の美意識をじっくりと味わってみましょう。

 

3.清水寺

 清水の舞台に皆立ちたがりますが、隅に20年ほど前に設置された「阿弖流為アテルイ)と母禮(モレ)の石碑」をぜひ。なぜここにこの石碑があるのか、そして当時の朝廷と蝦夷の関係について考えさせたいですね。

清水寺にいたる参道、産寧坂清水坂の土産物屋も楽しいですね。

私はここにいくたびに七味を買い込むことにしています。ここには、江戸三大七味の1つ、「京都七味屋本舗」があるのです。山椒が多めで薫り高い七味です。ここのHPに江戸三大七味の歴史がまとまっています。おもしろいのでぜひ。

七味三都物語|味に歴史あり!日本三大七味を食べくらべ

 

4.龍安寺

龍安寺 石庭

 枯山水の石庭は、欧米人に人気のようですね。知人のアメリカ人は、デスクの上にミニチュアの石庭を飾っていました。仕事で疲れていてもこれを見ると癒されるのだとか。本当にわかってるのかな? というより、どこでそれを手に入れた?

 私が前回訪れたときは、コロナ禍中につき私しかおらず、石庭をぼんやりと眺めて時を過ごすという最高の贅沢が味わえました。

もっとも以前訪れたときは多くの人がいたはずですが、記憶ではやはり静謐な時が流れていたような気がします。

周囲の人々の存在が気にならなくなるくらいに心を惹きつける庭なんだと思います。

そして龍安寺に行ったら外せないのが境内にある西源院という豆腐料理店。

境内の日本庭園をみながら湯豆腐がいただけます。

ただのお豆腐なのに、なんでこんなに美味しいのか不思議です。

5.法隆寺

法隆寺

 

法隆寺

 これがよく残っていたものだと感動します。

本でしか知らない歴史が目の前に現れたようで、歴史の重みに言葉を失います。

このあたりを厩戸皇子中大兄皇子が歩いていたと思うだけで、ドキドキするような眩暈を覚えます。

奈良や京都を訪れる醍醐味がまさにこれですね。

逆に言えば、そうした感覚を味わえないのならば、ただの古臭い建物にしか見えないことでしょう。ここはやはり歴史を学んだ後に行ってほしいです。

こちらもコロナの渦中に訪れたため、たまたま境内には私しかいませんでした。何度も訪れていますが、こんな贅沢を味わえたことは初めてで、おそらく最期でしょう。

 

6.平等院鳳凰堂

平等院鳳凰堂

池のほとりから、水面に映りまるで宙に浮いているようにも見える鳳凰堂をじっくりとながめ、極楽浄土に思いをはせるのが本来の鑑賞法だと思います。

もし皆がそうしてくれたら、皆で鳳凰堂を味わえるのですが、実際には鳳凰堂に背中を向けて自撮りに余念がない人ごしにしか鑑賞できないのが残念です。

宇治上神社

そして、ここまで来たら、川を渡って宇治上神社にもぜひ。現存最古の神社建築であり、世界遺産にもなっているのに、なぜか来訪者が少ない神社です。

それにしても毎回思うことですが、寺院は拝観料を500円から600円ほども取られるのに、神社はほとんど無料なのはなぜなんでしょうね?

 

いわゆる有名寺院(観光寺院)は檀家が少なく、拝観料収入頼みで内情は苦しいのはわかりますが、何とかならないものかと毎回思います。

平等院を訪れたなら、宇治川沿いをゆっくり散策するのがよいですね。

宇治街並み

また、宇治の街並みも、老舗のお茶屋さんが並び、とてもいい雰囲気ですよね。日頃、急須できちんとお茶を入れることなどしない私でも、思わず玉露や抹茶を買ってしまいます。欲を言えば、茶畑を天蓋で覆う玉露の独特の製法など見てほしいところですが、収穫前でなければ見られないですし、茶の製法に子供が興味を持つとも思えないので、そこまではよいでしょう。

 

 話は思い切り逸れますが、ハワイのオアフ島にも「平等院テンプル」なる建物があるのをご存じですか?ドライブ中に The Byodo-In Temple の看板を見かけたので立ち寄ってみて、平等院鳳凰堂を模して作られたその建物を最初に目にしたときには驚きました。1968年に、日系移民100周年を記念して作られたそうで、公園墓地の奥にあります。1968年から100年前といえば、明治元年! 「元年者」とよばれる第一陣の移民がハワイに来た年です。その後の日米関係や日系移民の歴史に思いをはせるべく、オアフ島に行った際にはぜひ訪れてみてください。ハワイはどうしてもリゾートアイランドの面が目立ちますが(もちろん最高のリゾート地には違いない)、実は重層的な歴史を持つ島です。ハワイ王国の誕生とアメリカによる侵略、明治以降の移民の話など、興味がつきません。この話は、また回を改めてしてみたいと思います。

 

7.東大寺

東大寺

 まず、この金堂(大仏殿)の巨大さに圧倒されます。そしてもちろん中の大仏の巨大さにも。

この巨大さそのものが、当時の「鎮護国家」の思想を表していることがうなずけるところです。こうして、寺院の様子を見ただけで、時代背景の見当がつくようになってくれば、奈良・京都の寺院めぐりは面白くてたまらなくなると思います。

 

 その後はもちろん正倉院に足を延ばします。

正倉院

ここで面白いことに気がつきました。東大寺境内に掲示されている境内案内図には、正倉院が載ってないんですね(東大寺HPには載っていますが)。理由がわかりますか?

 東大寺は、「華厳宗大本山東大寺」という宗教法人であるのに対し、正倉院は「宮内庁」が管理している別の施設ということになるんですね。

実際に足を運ばなければ気が付かない、こんなことが見えるのも、寺院めぐりの楽しさです。

 

実際に足を運ばなければ気が付かないといえば、奈良の鹿。東大寺とその周辺にはそこかしこに鹿がのんびりとくつろいでいます。全く人間を恐れません。ここでは鹿が主役なんですね。そしてそこかしこに鹿の落とし物が。正倉院に向かう砂利道など、相当注意しないと歩けません。くれぐれもお気に入りの靴で行かないように。

 

8.本能寺

本能寺

 京都市内の本能寺は、歴史好きでなくても、行ってみたくなるところですね。しかし、実際に足を運ぶとがっかりするかもしれません。商店街に面している、どうにも古刹観が感じられぬ寺院なのです。

本能寺の歴史は移転と再建に彩られていて、現在の本堂は1928年に建てられたものなんですね。この建立・再建・復興を繰り返しているあたりが、歴史に翻弄された運命を感じさせて面白いところです。

本能寺跡

ところで、織田信長が殺された本能寺があった場所は、この寺院から20分くらい歩いた別の場所にあります。こちらもさらにがっかり。ビルの間に石碑があるだけです。私も想像力を駆使してみましたが、さすがに織田信長明智光秀の姿は見えてきませんでした。

本能寺跡石碑

さて、奈良・京都はまだまだ見どころがあふれていますよね。しかしそれも、歴史に興味があってはじめて感じる魅力です。

お子様を歴史好きにするために連れまわしても、おそらくはあまり効果はないと思います。

歴史に興味を持った後で行ったほうが、何倍も楽しめるはずです。

もちろん、京料理太秦映画村だけを目当てにいっても、十分楽しめるのは間違いないですけれど。