最近、卒業生の保護者の方と学校について話をしていて違和感を感じることが多くなりました。
「うちの学校は〇〇だ」
この「〇〇」の部分には、あらゆる不満が入ります。
・施設が古い
・ICTへの対応が遅れている
・キャリア教育をしてくれない
・英語科にネイティブ教員が少ない
・大学進路指導が不十分
・校内補習制度がない
・海外交換留学制度が乏しい
・カフェテリアがない
・自習室がない
・浪人率が高い
等々、様々な不満をお持ちのようです。
「せっかく憧れて入った学校じゃないのかな?」と私は思ってしまいます。
そこで今回は、なぜこうした不満が生じるのかについて考察してみます。
※例によって私個人の主観(多分に偏見)にすぎない話ですので、お気に障る点はご容赦ください。
1.学校満足度という指標
「大学通信」という雑誌があります。そこが首都圏の学習塾にアンケートをとって調べた、「生徒や保護者の満足度が高い中学校」というランキングを公表していましたので、ご紹介します。
1.京華
2.市川
3.聖光
4.常総学院
5.渋谷幕張
6.国府台女子
7.富士見
8.茗渓学園
9.桐光
10.城北 / 神大付属
10位までにはこのようが学校が上げられていました。さらに36位までのランキングがのっています。
私の目から見ても、「なるほど」と思う学校もあれば、「??」と思う学校もありますが、それより気になったのは、その顔ぶれです。
ベスト36の中には、開成も麻布も武蔵も駒東も栄光も入っていません。桜蔭も女子学院も雙葉も入っていません。慶應普通部も慶應中等部も慶應湘南藤沢も入っていません。早稲田中も早稲田高等学院も中央大横浜も渋谷渋谷も入っていません。私が実感としてもっている「評判の良い学校」「生徒が第一志望にする学校」の多くが入っていないのですね。
そもそもこのランキングは、首都圏の受験塾へのアンケート結果に基づいています。おそらくは、各塾で「この学校はいいですよ!」とお勧めしている学校、あるいは卒業生からの情報に基づくものなのでしょう。これをもって、「このランキングは意味がない!」と切り捨てることも簡単なのですが、もう少し考えてみることにしました。
2.学校へ期待するものとは?
これは、中学校選びの基準と重なるものだと思います。詳しくは以下の記事をごらんください。
(1)大学実績
大学の合格実績・進学実績を気にしない方はほとんどいらっしゃらないでしょう。これだけが、その学校の生徒の学力レベルを客観的に示す唯一の指標だからです。もちろんその実績は生徒本人の頑張りによるものであり、そこに学校がどこまで寄与していたのかは数値化できません。それでも、そうしたレベルの生徒がどれくらいいたのかという指標として大いに参考になります。
当然、受験→合格→進学した学校の大学実績をわが子に当てはめて考えていくことになるでしょう。例えば、東大に現役で15名合格者を出した学校に進学したとします。わが子が東大に進学してくれればこれほどうれしいことはありません。学年で15位以内に位置していれば東大も夢じゃない、そう思われます。しかし、大学入試は中学入試ほど単純ではありません。試験制度は非常に複雑で、学部による難易度も異なります。例え学内模試の結果が常に一桁であっても東大に届かない場合もあれば、学内順位が3桁の生徒が合格する場合もあるでしょう。しかし、釈然としない気持ちは残ると思います。
ここまで書いていて、これは塾で日々見聞きしている話と同じだと思い至りました。どの受験塾も中学への合格実績を競い合っています。塾選びのときはここを気にしない方はいません。しかし、その塾の合格実績とは、「その年度の6年生の生徒が合格した実績」にすぎません。「わが子が1年後に合格できる可能性」とは無関係なデータです。
どうも私立中高に、塾と同様の合格支援を求めている方が多すぎる気がするのです。
(2)充実した施設
図書室・自習室・理科実験室・体育館・温水プール・生徒指導室・理科実験室・音楽室・美術室・茶室・日本庭園・柔道場・剣道場・グラウンド、数えだすときりがありませんが、中高には充実した施設を誇る学校がたくさんあります。郊外に立地する学校では体育関連施設が充実していたり、農園や水田をもつ学校もありますし、都心の学校でもICT環境の充実を売り物にする学校もたくさんあります。
もちろんそうした施設の充実は嬉しいものですし、子供も喜ぶことでしょう。
しかし、いつも思うのですが、そこって大切なポイントなのでしょうか?
施設の充実と教育の充実に相関関係などありません。しかし集客には有利ですし、学校のアピールポイントとしてはわかりやすいことは確かです。
これが飲食店ならわかります。どんなに美味しい料理でも、古びて傾いたテーブルで食べれば美味しく感じないでしょう(そんな店は今時ありませんが)。店の内装・ロケーション・接客態度・器、こうしたものが総合して料理の味を引き立てるものですよね。しかし、ここで問題にしてるのは「教育」です。どんな器に入れようと、教育内容そのものが良くなければだめですよね。
みなさんは萩の松下村塾をご覧になったことはありますか?
山口県萩に保存されているその建物は、小さな平屋建てにすぎませんが、そこの8畳間から久坂玄瑞、高杉晋作、伊藤博文、山県有朋、前原一誠等が輩出されたのですね。教育は器ではないとしみじみと実感します。
※萩は遠いので、世田谷の松陰神社境内に松下村塾を模した建物がありますのでこちらをご覧になるのもよいでしょう。
(3)英語教育の充実
これを基準に学校選びをする方も多いですね。ネイティブ教員の人数、英語の時間数、使用しているテキスト、英検の取得率、交換留学制度、修学旅行の行先、こういった基準でしょうか。せっかく6年間学ぶのだから、英語くらい使えるようにしてもらいたい、そうした希望をお持ちだと思います。
「うちの子の進学した〇〇中学は英語教育が遅れている」そうした不満をもらす方も多いのです。しかし、不思議なことにその〇〇中学からきちんと英語力を身に着けた生徒が巣立ってもいくのですね。
実は、英語教育というものは、ある程度はトレーニングの側面が強いものです。生徒の理解力や英語指導のやり方等様々な要因が関係するとはいえ、きちんと時間をかけて積み重ねていけばある程度のレベルにまでは到達するといわれています。だからこそ、
「中3で全員英検2級取得!」といった実績を謳う学校もあるのですね。不満を言う前に、まずは学校で学ぶ英語を完璧にすることが先決だと思うのです。
(4)親のかかわり
ネット掲示板を眺めていて、目が点になった書き込みがあります。
「〇〇女子中にはおやじの会はありますか?」といった書き込みでした。なんだこの「おやじの会」とは?
どうやら昨今は保護者が積極的に学校に関わろうとする傾向が強く、また学校もそれを制度化しているようなのですね。公式な学校行事以外にも、学校公認の保護者のサークルのようなものがいくつもあって、そこで保護者が交流を深めるそうです。どうしても保護者と学校の関わりというと母親が中心となりがちなので、父親が集まる機会を積極的に作ろうとしているということなのでしょう。
それ自体はもちろん悪いことでもなんでもないのですが、どうしてもある種の違和感がぬぐえないのは私が旧弊な人間だからでしょうね。
せっかくの私立中高への進学です。お子さんのことは学校にお任せして、保護者はそれを見守る、そうした姿勢ではいけないのでしょうか?
この保護者の巻き込み方につていは、学校によってかなり温度差があります。親が学校へ行く機会は年1回の体育祭と学園祭のときでそれもやがて行かなくなる。あとは年1回の面談くらい。そうした学校も多くあります。その反面、月1回三者面談を行う学校もあります。サービス業としてはこちらが正解ですが、学校は塾とは違います。私立中高というのは中高生の教育の熟達者です。そこは先生方におまかせする場面だと思うのです。
3.教育はサービス業ではない
私のような仕事は、教育の皮をかぶったサービス業です。学校とやっていることは変わらないように見えても、その中身は大きく異なります。成績向上と志望校合格、これを商っている商売なのですね。したがって授業も教材も効率を最優先します。また、保護者の要望にお応えするのもサービスのうちに入ります。
しかし、学校はサービス業ではありません。生徒や保護者の満足度を高めることを目的とはしていないのです。
まず、最初にあるのは教育理念です。
そして、その教育理念に共感した教師が集まります。
さらに、その教育理念に惹かれた生徒達が集まります。
これが何年も何年も継続していくのです。
塾産業が生徒・保護者の要望をくみ取って変化していくものであるとするなら、学校は生徒が理念をくみとって自らを変化させていく場であるといえるでしょう。
学校に対して「サービス」を要求する前に、じっくりと考えるべき問題です。
昨今、サービス業の皮をかぶった学校が増えてきたような気がします。それが生徒に寄りそう姿勢の表れならとても良いことなのですが、どうもそうでないような学校もあるように感じます。そうした学校は、急速に人気を集めているところも多いですね。サービス業の皮をめくったその中に、教育がしっかりと根付いている、そうした学校を選ぶ目が我々にも必要だと考えます。