今回もピンポイントで、ロンドンに駐在中で帰国生入試で中学受験をお考えの方へのアドバイスを書いてみたいと思います。
1.ロンドン塾事情
ロンドンは、世界各地の海外赴任先としては、塾事情に恵まれている方だと思います。選択肢が何と3つもあります。
(1)早稲田アカデミー
提携していたヴェリタスという塾が完全に早稲田アカデミーロンドン校になっていると思います。早稲田アカデミーは基本教材は四谷大塚の予習シリーズを使いますので、ここは評価ポイントです。予習シリーズという教材は、名前にある通り、予習用として作られた教材です。もともと四谷大塚tという塾は(その頃の名称は四谷大塚進学教室でした。懐かしい方もいらっしゃることでしょう)は、1950年代にテスト会としてスタートしました。会員は自宅で予習シリーズを使って自学自習し、そして日曜にテストを受ける、そういうスタイルの塾だったのです。したがって、予習シリーズは生徒本人が自分で予習することを前提として作られています。とはいうものの、実際には自学自習できる生徒はほとんどいません。四谷大塚草創期には中学受験が一部の優秀層のものだったのでそれで通用したのですが、受験の裾野が広がるにつれてそうはいかなくなりました。そこで、四谷大塚提携塾・準拠塾が雨後の筍のように生まれてきたのです。塾に来て予習シリーズを使った授業を受け、日曜テストを受けに行く、そういうスタイルが基本となったのですね。クオリティの低いオリジナル教材など使われるよりはよほど信頼できますので、予習シリーズを使う学習は悪くないと思います。また、内情を言ってしまうと、予習シリーズを使った授業は教師側からしても楽なのですね。高いスキルが無い教師でも、それらしい授業が成立します。早稲田アカデミーロンドン校の教師の水準は全く知りませんが、安心材料の一つと言えるでしょう。最新の合格実績(2024)をHPで確認してみました。
海城3名、立教池袋2名、都市大付属2名、頌栄女子1名、広尾学園4名、三田国際4名、攻玉社1名、学習院2名、洗足1名、立教女学院2名、広尾学園小石川2名
だそうです。在籍生徒数は不明ですので何ともいえませんが、悪くはない実績のような気がします。(もっとも私の大嫌いな、「その他の中学校へも多数合格」の文言一つで、その他の中学校の合格が載せられていません。「その他の中学校」に合格した生徒の気持ちを踏みにじる気がして嫌なのです。)
確認時点(1月30日)では一般入試はまだ実施されていませんので、帰国生入試のみの結果ですね。実は多くの塾が、帰国生入試の結果と一般入試の結果を混ぜて公表しますので、どれが帰国生入試の実績でどれが一般入試の実績なのかがわからなくなるのですね。だから、1月末に実績を確認することで、帰国生入試の結果のみを知ることができるのです。
気になったので、サピックスの1月30日時点の結果を確認してみました。
海城9名、学習院1名、攻玉社4名、サレジオ3名、聖光10名、高輪1名、都市大付属26名、大妻2名、学習院女子3名、共立女子5名、白百合2名、洗足8名、東京女学館3名、山脇学園4名、横浜雙葉1名、立教女学院1名、渋谷教育学園渋谷10名、成城学園1名、桐蔭中等教育2名、都市大等々力11名、農大三高附属4名、桐光1名、広尾学園19名、広尾学園小石川6名
2月になる前にと思って、記録のために拾い出してみました。
(2)ena
帰国生入試に力を入れていて、世界各地で見かけるenaは、ロンドンのイーリングにも校舎を展開しています。
合格実績については、ena海外校を合わせた数字しか確認できませんでしたので、ロンドンの実績は不明です。
日本国内のenaは、すでに公立中高一貫校専門塾となってしまいましたので、enaロンドンに通っていて、日本に帰国してからそのままenaに通う場合、帰国生入試以外の一般受験のフォローは正直あまり期待できないと思います。ただし、帰国生入試専門校舎が東京にいくつかあるのは利点です。
(3)JOBA
アクトン・フィンチリー・ウィンブルドンに教室があります。帰国生入試専門塾として、ロンドンでは最も知名度とレベルが高いとされている塾です。
合格実績は、今年のものはJOBA全教室の総計しか出ていませんのでロンドン校の実績は不明です。昨年のロンドン校の実績を見ると、可もなく不可もなくといった印象を受けました。ただし在籍人数が不明なので何ともいえません。
レベルが高いとされるJOBAですが、帰国生入試のみしか考えていない場合はよいのですが、一般入試まで考える場合はノウハウは不足していると思います。ちなみに入試におけるノウハウとは、その塾から1つの学校に合格させた人数に比例して蓄積します。少なくとも延べ人数で3桁くらい合格させてみないと、その学校を志望する生徒にフィットした指導は難しいと思います。最難関レベルの学校を目指す場合は、ロンドン滞在中はJOBAに通うとしても、日本に帰国後は大手国内塾に転塾することを強くお勧めします。
2.ロンドン教育事情
ここでは、ロンドン現地校からそのまま大学までイギリスに行かれるケースは除外し、帰国して日本の中学受験あるいは高校受験を目指す方にしぼって書きます。
ロンドンとて、他の海外地域と大きく変わるわけではありません。特徴は以下の点があげられます。
◆現地校に通わせる方が多い
◆公共交通機関が発達している
◆治安は良いほう
◆日本の塾が複数ある
◆日本人の数が多い
◆英検がロンドンで受けられる
やはり英語圏ですので、現地校を選択される方のほうが多いと思います。日本人学校もレベルは低くないとは聞いています。1学年1~2クラスですので、世界各地の日本人学校のほうでも規模は小さくないほうですね。
また、日本人が多いということは、情報が集めやすいということにもつながります。現地生活に役立つ情報がいろいろ得られると思います。ただし、受験の情報はクチコミでは集められません。仮に兄姉がいたとして、上のお子さんが日本の中学を帰国生入試で受験したという生の情報なら信頼できるのですが、そうした方はすでにロンドンには住んでいません。せいぜい、「〇〇さんのところは中学受験で△△中学に合格したらしい」程度の情報ですので、聞き流すに限ります。
帰国子女財団や、帰国生の取り組みに熱心な日本の学校、および日本の塾がわざわざロンドンで講演会行ったり模試を実施したりすることもロンドンの利点です。日本の受験の最前線にいる塾からの情報は貴重です。また、英検が受けられるのも利点ですね。ヨーロッパの都市からわざわざ受験に来る人もいますので。
3.ロンドンからの帰国生入試の注意点
(1)英語力が武器にならない
せっかく英語圏の現地校に通っているので、そこで身に着けた高い英語力が武器として入試に役立つと誰もが考えます。もちろん間違ってはいません。ただし、気をつけなくてはならないのが、帰国時期なのです。
例えば小3で帰国したとしましょう。ほとんどの中学校で帰国生入試の条件から外れます。つまり、一般入試で受験することになります。(一部の学校で直談判すると受けられるケースもありますが)
小4で帰国したとしましょう。おそらくは、日本のどこかの大手塾等に通いながら、英語力を維持するための塾も探していかれることと思います。帰国子女アカデミーなど人気のようですね。
ところが、そうして学んでいると、英語塾に、次々と帰国生が入ってくるのです。小4の終わり、小5の半ば、あるいは小6の半ばに。彼らは直前までネイティブな英語環境にいましたので、英語は抜群にできます。しかも、小4で帰ってきた生徒と比べると、語彙力も大人に近づいています。つまり、歯が立たないのです。どう考えても直前帰国した生徒のほうが英語力は上に決まっています。帰国生入試では、そうした直前帰国生と同じ土俵で受験を戦わなくてはなりません。
だから、英語が武器とは必ずしも考えられないのです。
(2)英語以外の教科・・・算国理社で勝負がつく
前述したように、英語力だけを武器とした帰国生入試は激戦です。むしろ、早期帰国の利点を活かして、主要4教科の力で勝負すべきなのです。
つまり、算国理社の学力で一般入試でも合格できるレベルでありながら、英語もできる、そういう戦略です。この5教科がバランスよくできると、受験校の幅は広がります。
(3)2月1日以降の一般入試の前に押さえる
帰国生の最大の利点はこれです。1月以前に合格を1つとって入学を押さえることができるのです。あとは心おきなく一般入試で上位校にチャレンジができます。国内一般生にはできないこの受験パターンこそが、帰国生の特権です。
(4)高校入試は要注意
本稿は中学入試を念頭に書いていますが、高校入試について1つだけ触れておきます。さきほど日本人学校のレベルが高いと書きました。高校の帰国生入試では、中学校の評価が大きく影響します。ハードシップ手当が出るような地域の日本人学校は生徒人数が非常に少ないため、この学校からの評価が高くつく場合が多いのですが、ロンドンではそうもいきません。また、同じような学校をロンドンから複数名受験することも多いでしょう。つまり、帰国生入試が有利に進まないのです。このことを念頭において学習を進める必要があると思います。