海外で算数・国語の学習をどのようにすすめるか?
海外で中学受験の学習をすすめるのは大変なことです。
ニューヨークのWhite Plains やWestchesterあたりのように、複数の日本の塾があるような環境ならよいのですが、なかなかそうもいきません。日本人学校のレベルも様々で、中東のある日本人学校では小学4年生なのにひらがなを授業で習っている、と嘆いている方もいました。
そこで、海外での算数・国語の学び方をまとめてみたいと思います>
1.算数の学び方
(1)低学年(1~3年生)の学習法
低学年のうちは、先取りより器を広げる学習が重要です。
器を広げる学習というのは、算数的な思考力の素地をつくる学習です。パズル本や積み木などのおもちゃや数字の感覚を刺激する問題に触れることを心掛けましょう。いわゆる「受験算数」の学習は、4年生から取り組んでいくべきです。先取り学習をすすめる方も多いですが、賛成できません。一通りの問題を解けるようにはなりますが、そこで頭打ちとなります。最近の入試問題は、この低学年のうちに培った思考力が重要となってくる問題が増えているのです。
(2)計算力は重要
計算力はとても重要です。
知識というものは、あとからでもついてきます。それよりも、その学年でするべき計算力をしっかり身につけることを優先してください。
ミスを少なく,そして素早く解くことが今後重要になってくるのです。
この計算力をつけるには、日々の鍛練しかありません。
毎朝15分、しっかりと時間をとって計算練習を行ってください。教材はなんでもかまいません。市販の計算ドリルを使いましょう。ただし、一般の小学生を対象とした計算ドリルだと易しすぎますね。受験塾が編集したものを使うか、あるいは1学年上げたものを使うとちょうどよいでしょう。
(3)帰国時期は大切
5年生前までに帰国して日本の塾に入れるのなら,計算力以外の受験算数の知識については、塾に任せておけば大丈夫です。
しかし、それを過ぎての帰国は大変です。
5年で受験の重要単元はほぼ終わるので、それ以降の帰国ですと、英語メインの帰国枠受験のみで受験するか、あるいはかなりレベルを落とした学校しか選択肢がなくなり、かなり厳しい中学受験となってしまうのです。
以前に詳しく書きました。
帰国生入試といえども、ライバルは海外のみにいるわけではありません。
早い時期に帰国して、すでに日本の塾で国内受験生と切磋琢磨している受験生たちが本当のライバルなのです。
彼らは、国内一般入試を主軸としながら、帰国生枠入試にも参入してくる受験戦略を持っています。
「帰国生だから英語さえできれば何とかなる」という甘い考えは捨てましょう。「何とかなる」としても、それは「何とかなるレベルの学校」なら何とかなるだけです。
帰国が5年生以降にずれ込む場合は、海外で本格的な算数の学習を進めるほかありません。塾があればそこで、もし塾がない地域でも、日本の塾のリモート講座のようなものを利用して、しっかりとカリキュラム学習をすすめてください。
(4)問題集のやり方
問題集や通信教育で家庭学習する場合は,お子様の自室で学習させるのは避けましょう。
リビングで親や他人の目につくところで様子を把握できるようにしなくてはいけません。
これは、お子様が大人の目の届かぬところで、ゲーム・漫画・Youtube等で遊んでしまうといっているわけではありません。(そもそもそういう子は中学入試に向いていない)
算数という教科については、解けないからといってすぐに答えを見てもダメですし、かといって,解けない問題をいつまでも考えすぎてもダメなのです。
適度に時間管理しながら効率が良い学習を目指す必要があります。
そういう管理を小学生の子供自身に要求するのは無理なのです。
(5)問いかけが大切
算数は,答えが出ても分かったとは限りません。「なぜそうなるの?」とたまに問いかけてあげる必要があります。
また、算数は,問題集などの解法と全然違っても正解が出ることが良くあるものです。
理屈があっている場合や,たまたま答が合っているだけの場合があります。
そのあたりを観察しながらアドバイスする必要があるのです。
(6)教えすぎは禁物
算数は,教えすぎは逆効果です。
子どもが受け身の姿勢=座っていれば教えてくれるからそれを待つ、ようでは解答の丸暗記になり,学力が定着しないのです。
試行錯誤させたり,子どもに発問させたりするように促していく必要があります。
(7)帰国生入試のレベル
渋谷教育学園渋谷や聖光学院の帰国生入試の算数は、帰国生だからといって易しい問題になっている訳ではありません。
帰国生入試では不合格だったけれど、一般入試で合格する生徒がいることがその証拠です。
つまり、一般入試で合格できる実力がある生徒が帰国生入試で落とされているというわけですね。
学校選びについては、きちんと中学受験専門家のアドバイスを受けた方が良いと思います。
できれば帰国生入試だけではなく、国内一般入試にも精通している人からのアドバイスが望ましいですね。
慶應湘南藤沢は帰国生は別枠になっているので,英語力があると有利(英検準1級以上)になりますが,それでも国内の子と同じ問題を解きます。
(8)公文式の功罪
低学年のうちから公文式の算数学習に取り組んでいる生徒も多いですね。昔のそろばん塾の代わりでしょうか。世界各地でも見かけます。
たしかに計算力はつくと思います。
しかし、大きな問題があるのです。
生徒の競争心を上手に操り、大量の計算練習を消化させるシステムは巧妙です。
このシステムにはまってしまうと、やらなくてよい練習・やってはいけない練習に時間を割くことになりかねません。
そもそも公文式の目標は、「公文式は、自分で学ぶ学習で学年を越えて進み、できるだけ早い時期に高校教材を学習することが目標です。」とHPで強調されています。
学習相談に訪れた小学生の保護者の方と話をしていると、「うちの子は公文の算数でもう高校数学まですすんでいる」と自慢されることがたまにあります。
しかしテストをしてみると、全く算数が解けない。
身に着けたと自慢する高校数学も、本当に理解できているわけではありません。(もしそうならgiftedです)
公式にあてはめた計算は得意であっても、受験算数の自ら解き方をつくりながら処理していくような問題には歯が立たないことが多いのです。
もし公文式をやるのなら、学習習慣をつけることと小学算数の計算練習をすることだけに目標を置いてください。
そこまでできたら、中学受験に臨む場合はそれ以降は無駄であると私は考えます。
2.国語の学び方
(1)入試問題を6年生の夏に数多く解く
とにかく、国語の学習においては、読んだ文章量が物をいいます。
とはいえ、手あたり次第になんでも読めばよいというものではありません。
6年生になると、読書をのんびりしている時間はありませんので、入試に使われた素材をそのまま利用するのが最も効率的です。
これは読書ではありません。
大量の良質な文章に触れるということです。
なかには、良質とは言い難い文章もあります。とくに科学者が書いた論説文に多いですね。
(このことについては、別の記事「論理風文章とは」で詳しく説明しています。)
そうした読みにくい文章を読解するトレーニングも必要ですので、多様な学校の(男子校・女子校・共学校を問わず)入試問題を数多く説いてください。
答え合わせについては、大人の出番です。
問題を読み、解答を考えてから模範解答を読めば、子供の答案の至らぬ点が指摘できると思います。
(2)漢字学習の重要性
漢字だけが、国語で確実に得点できる分野です。漢字は必ず出題されます。ここでの失点は命取りです。毎日時間をきめて、漢字ドリルを消化してください。
使う教材については、手に入るものであればなんでもかまいません。市販の漢字ドリルの中から選ぶとよいでしょう。私のおすすめは以下の本です。
〇白川静の文字学に学ぶ 漢字なりたちブック(1~6年生用 6冊)
この本は、大人が読んでもおもしろいです。小学校の各学年で学ぶ漢字がの成り立ちがわかりやすく説明されています。
ただし、これは「読み物」としての漢字本です。
漢字の世界に興味をもち、漢字嫌いにならないための書物です。ドリルとしての役割はありませんので、練習用のドリルは別途用意してください。
〇小学漢字 1026字の正しい書き方(旺文社)
これは漢字学習者のバイブルです。業界?で「1026字」と呼ばれています。版型はB6サイズと小さく、値段も700円程度だと思います。旺文社以外にも学研や小学館のものがあったと思います。どれでも同じですので入手できる物でかまいません。個人的には旺文社のものが漢字の成り立ちまで簡単に触れられていて使いやすいです。まあ慣れの問題ですね。
この本には、学習指導要領に従った「正しい」漢字が、書き順や用例とともにまとめられています。
本来、漢字というものは生き物であり、時代により人により変化し続けています。殷王朝によって甲骨文字が発明されたのを初めとし、周王朝の時代には表意文字として発展をとげ、隷書・楷書と進化してきました。
また、書はすべて手書きですので、人によってさまざまな漢字のバリエーションが生まれています。したがって、漢字には「正しい」字というのはありません。
一応、清の康煕帝の命によって1716年に作られた康煕字典が標準となっていますが、多様な異体字が存在します。
しかし、小学生の漢字学習においては、そんなことをいっているわけにはいきません。学校教育現場で正しいとされる字を正確にマスターする必要があります。
時々、生徒が苦し紛れに生み出した創作漢字を目にしてにやりとすることはあります。個人的には〇をあげたいところですが、残念ながら×とします。
大人である我々の漢字も、小学生の時に学んだ字から、だいぶ進化をしているはずです。とくに書き順については、かなり自己流にアレンジされてしまっていると思います。変な書き順で板書するとすぐ生徒から指摘が入ります。「先生の習ったころはこう書いたんだ」という下手な言い訳などしたくないですね。
この「1026字」を手元に置いて、親子で常に調べる癖をつけてください。
〇漢字の要 SAPIX
サピックスから出版されている漢字の問題集です。STEP1~3までありますが、2までマスターすればほとんどの学校の入試には対応できます。STEP3まで終了すれば、漢字は常に得点源となることでしょう。6年生用となっていますが、5年の夏くらいから計画的にすすめることをおすすめします。入試までに最低2周するスケジュールを立ててください。日能研から出ている「漢字マスター」も悪くないと思いますが、サピックス物のほうが実戦的だと思います。
(3)読書について
読書については、本を読んだからといって国語で点がとれるようになるという単純な話ではありません。
しかし、国語が得意な生徒の多くが本をかなり読んでいることも事実です。
だからといって、生徒の知的水準を下回るような幼稚な本を多読しても意味はありません。高学年にもなって、角川つばさ文庫やライトノベルのようなものを読んでいるようでは時間の無駄でしょう。
現在の学年より上げた学年対象の本を読んでください。
高学年なら、中学生対象の本を選ぶのもよいですね。
何を読んでいいか迷ったら、青少年読書感想文全国コンクールの課題図書から手をつけるとよいでしょう。
読書については他の記事で詳述しています。ぜひお読みください。
(4)一般常識について
小学生は(中学生も)驚くほど一般常識がありません。
この一般常識というものは、大人たちとの豊富な会話が育てるものです。
しかし、今の小学生は、家と学校と塾の往復で日々を送っているため、多様な大人たちと会話する機会がそもそも少ないのですね。
また、核家族化の進行により、親世代のさらに親世代、つまり祖父・祖母世代との会話量も激減しています。まして海外で現地校に通っていると、日本語での会話は母親とだけ(父親は忙しい)などということになりかねません。
そのため、「こんなことも知らないのか!」とこちらがびっくりするほど、常識がありません。
先日もある入試問題を生徒に解かせていたところ、「ぬか」の使い道として、「むしろ」を選んでいた生徒が多数いました。驚いて確認すると、そもそも「ぬか」「むしろ」が何なのかを知らないのですね。また、「左官屋」を知らなかったり、「百人一首」すら知らない生徒がいて眩暈がしました。
国内の受験生ですらそんなレベルですので、まして海外にいては日本的な常識が身につかないのも無理ありません。
しかし、入試には出ます。
このような常識は、一覧表にして暗記させるようなものではありません。塾で習うことでもありません。親が意図的に会話の中に組み込んでいくしかないと思います。
(5)自力でがんばる気持ち
入試の国語で出題される文章のレベルは非常に高いです。
受験生が感情移入できないような登場人物であったり、筋立てだったりすることは普通です。
二人の女子を育てているシングルマザーの母親が新しい男性と付き合っている事実を知ってしまった娘の心情や母親の女としての心情について記述させる入試問題を見かけたことがあります。
また、日本語としては読めるのに内容が全く頭に入ってこない哲学についての文章もありますし、難しい科学についての話題の文章も見かけます。
こうした一読しただけでは歯が立ちそうもない文章に出会ったときも、「何とかする」「何とかできるはずだ」と前へ進む強い気持ちが大切です。
そのためにも、日頃から歯ごたえのある、自分の読解力よりも少し上の文章に取り組むことが重要になってきます。