中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

アメリカ駐在の方のための中学受験のアドバイス その2

前回の記事が長くなってしまったので、こちらに続きを書きます。

2.日本に戻って中学受験をする場合

帰国生入試については以前詳しく書いています。

peter-lws.hateblo.jp

 (1)塾を探す・・・NY編

 中学受験といえば塾。みなさんまずは塾探しから始めますね。では、NYではどんな塾があるのでしょうか?

 1.駿台ニューヨーク校

 駿台といえば日本の3大予備校の一角ですね。お世話になった方もいらっしゃるかもしれません。積極的に海外に展開しており、ニューヨーク校はハリソン地区にあります。ハリソン駅から歩いてすぐのところですが、一帯は閑静な住宅地ですので治安はとても良さそうです。ただしハリソン駅まわりには何にもありませんので、夜は心配かもしれません。校舎は平屋のこじんまりした1棟建て、少々安普請感がありますが、大きなお世話ですね。

 知名度のある予備校の塾ということで安心感はありますが、実のところ駿台には中学受験のノウハウは皆無です。日本では関西の浜学園と提携して「駿台浜学園」として東京・神奈川に6教室ほど展開しています。しかしながらそもそも浜学園は関西の塾ですので首都圏入試のノウハウがありません。灘を頂点とした関西受験事情と、首都圏の受験事情はだいぶ異なるのですね。とくに灘には社会科がありませんので。首都圏難関中学入試を制覇したともいえるSAPIXですら、関西の教室は苦戦しているようです。

 中学受験を考えていて、あえて駿台を選ぶ理由はないと思います。ただし低学年のうちなら、そんなにタイトな塾選びをする必要はありませんのでよいかもしれません。この塾の使用教材については私も見たことがないのでコメントはできません。

 2.SAPIX USA

SAPIXの中学受験部門と高校受験部門が進出しています。ニューヨーク校はウェストチェスターですね。車でなければアクセスできないところです。あとはロングアイランド・マンハッタン・ニュージャージーに教室があります。マンハッタン!またずいぶんな繁華街に出しましたね。と思ったのですが、こちらは現地の私立学校の教室を土曜日だけ間借りしての開講です。場所としては、セントラルステーションと国連ビルのちょうど真ん中という素晴らしいロケーションなのですが。前を通りかかったことはありますが、もちろんSAPIXの看板一つ出ているわけでもありません。それで「マンハッタン校」を名乗ってしまうあたり、どうなのかな?と思いますが。HPを見てみると、最近サンノゼに校舎を出したようです。

こちらは、日本のSAPIX小学部とは別物です。教材だけは、日本のSAPIXが他塾用に開発した教材を使用していますが、国内のサピックスで使用されている教材とは異なります。したがってテストも異なります。なにより教師が異なります。日本のSAPIXで経験を積んだ教師はいません。また、途中で帰国して日本のSAPIXに入るためには試験があり、クリアできなければ入塾できないと聞きました。SAPIXブランドの安心感?を欲する方にはよいかもしれません。合格実績を見ましたが、もし卒塾生徒数が1桁なら悪くない実績です。もし20名くらいいたなら、ううむ。帰国生入試は入試日が12月~1月まで分散していますからね。一人の生徒が多数の学校を受験する傾向が強いのです。在籍生徒数を見ないと判断できませんが、それは公表されていないので何もコメントできません。ちなみに日本のSAPIX小学部は在籍生徒数と合格した学校をすべて公表していますね。

 3.早稲田アカデミーニューヨーク校

こちらもハリソンですが、駿台とくらべるとちょっと駅から遠いですね。

「校舎外観」とあるHPの写真を見ると学校かと見紛う大きな建物ですが、このビルの部屋をいくつか間借りしているだけです。こういう「盛る」のってアメリカで流行っているんでしょうかね?

合格実績をみてみると、生徒数が5名だったのなら納得の数字です。それより多い生徒数だったのなら、かなり寂しい数字ですね。ただし、2024年の実績を2/3に出しているのは評価できます。この塾は合格実績稼ぎに執念を燃やすことで知られている塾ですが、NY校は正直?なのかもしれません。

教材や指導については日本の早稲田アカデミーのものを持ち込んでいるようです。そもそも早稲田アカデミー四谷大塚の提携塾ですから、予習シリーズを使えるメリットは大きいと思います。

 

 4.enaニューヨーク校

 海外進出に積極的なenaもニューヨークに教室があります。スカースデール教室とハリソン教室です。どちらも車以外ではアクセスできない場所です。まあアメリカの塾はどこも送迎サービスがありますからね。そうでないと通えません。と思ってHPの「送迎サービス」をクリックすると、コロナで中止と2021年の古い情報が載っていました。HPの更新が遅い塾は信頼できないのがセオリーですが、どうなんでしょうか。

合格実績については、海外ena全部の合算のものしか公表されていませんので、ニューヨークの実態は不明です。

ena海外校については1つ注意があります。日本のenaは今や完全に公立中高一貫校対策に特化してしまいました。そのため、私立中学受験のノウハウがだいぶ希薄になっていることが予想されます。しかし、渋谷・茅場町・あざみ野・西船橋・吉祥寺に帰国生用の教室がありますので、帰国してからこれらの教室に通うのならば、「帰国生入試」の支援は期待できると思います。

 

 5.京進スクール・ワン 

 NYハリソン教室というのがあります。こちらはハリソン駅のすぐ近くですね。

ここは、京進という京都を中心として近畿に校舎展開している塾の海外校で、個別指導ブランドです。

 残念ながら首都圏入試のノウハウはありません。近畿の受験をお考えの場合はよいと思います。

 

 6.Z会・栄光ラーニングセンター

マンハッタンのど真ん中に教室があるようなのですが、どうも実態が不明です。HPでは何もわかりません。教室のあるあたりは歩いたことが何度もあるのですが、見かけた記憶はありません。もしかしてオンライン授業のみの可能性があります。

Z会には中学受験のノウハウはありません。こちらでは、「エデュケーショナルネットワーク」という子会社が開発した「新演習」という教材を使っています。この「新演習」というのは塾向け教材として開発したもので、レベル・進度ともに基本的な内容です。予習シリーズの半分くらいのイメージでしょうか。したがって、予習シリーズではついていけないという方には向く教材ですね。ただし合格できる学校もそれに準じてしまいます。もちろん誰もが最難関校を目指してバリバリ勉強することが良いとはいえませんので、じっくりと学習を進めたい場合にはフィットするかもしれません。

 

 (2)塾を探す・・・サンフランシスコ編

サンフランシスコには、日本人に人気のエリアがいくつかあります。赴任先によって住む地域は変わると思いますが、北から順に、サンフランシスコ・サンマテオ・パロアルト・サンノゼといったかんじでしょうか。サンフランシスコ⇔サンノゼ間は80㎞くらいです。Cal Trainで1時間くらいですね。この列車は自転車ごと乗れたりして、なかなか使い勝手が良くて便利です。駅前に広い駐車場があるので、パーク&ライドもしやすいですね。もちろん80㎞くらいなら自動車でも簡単に行き来できる距離です。また、サンノゼには大きなミツワマーケットプレイスがあります。ここに来れば日本の食材が何でも手に入ります。私はシカゴやサンノゼに行くとミツワのフードコートで山頭火のラーメンを食べずにはいられません。日本に帰るまで我慢すればいいのにね。もしかして現地在住の方のオアシスかもしれません。

塾はこれらの地域に散在していますが、通塾は可能だと思います。

 

サンフランシスコ
 1.ena

サンフランシスコとサンノゼにそれぞれ校舎があります。パロアルトやサンマテオあたりからでも車でアクセスはしやすいと思います。

enaという塾については上述してあります。

 

 2.SAPIX USA

ニューヨークに校舎があった塾ですが、2024からサンノゼに新規開校するそうです。

HPを見ても、校舎所在地も不明ですが。

まあサンノゼLRTが便利とはいえ、車が必須の町ですので、所在地はどこでもかまわないのかもしれません。

指導内容は、ニューヨークと同じでしょう。つまり、日本のサピックスが開発した「コアプラス」という塾向け教材を使い、日本のSAPIXとは指導の共通点はほぼ無いはずです。

実は海外の日本の塾の最大の関門は、指導する先生の確保にあります。とくにアメリカは就労ビザが非常に取りにくくなりましたからね。日本から先生を送るのは大変(ほぼ無理)です。そこで、現地在住で就労ビザ(orグリーンカードor永住権)を持っている日本人を探して雇用することになるのですが、そうそう都合よく、日本の中学受験(or高校受験)の指導経験がある人物がアメリカにいるはずもありません。したがって先生のスキルには大きく期待できない(かもしれない)のが現実です。

※もちろん現地で長年指導に携わっているベテランの先生がいることも承知しています。

一般論として言えば、アメリカに限らず海外の塾では、先生の経験値や指導スキルに大きく依存するのではなく、教材・受験情報・テスト等の充実ぶりを塾選びの指標とするとよいと思います。

 

アメリカ最大といわれる日本語補習校もサンフランシスコにありますし、三育学園もサンノゼに進出していますので、もっとたくさんの日本の塾が進出しているかと思っていたのですが、どうやら2つしかないようです。もう選択肢がこれだけですので、あとは距離で選ぶしかないでしょう。

 

 (3)アメリカで塾を探す・・・シカゴ編

  〇SAPIA 海外子女教育研究所

 名前が非常に紛らわしいですが、この塾は日本のSAPIXと関係はありません。20年前から地元でやっている、まさに地元系の塾です。

 HPをよく見てみると、日能研リーグ / SAPIX中高部 / SUNDAI / ガウディア のリンクがそれぞれ貼られていました。

 つまり、幼児教育・・・ガウディア(日能研関東と河合塾がつくった)

     中学受験・・・日能研

     高校受験・・・SAPIX中学部

     大学受験・・・駿台

とそれぞれの教材・カリキュラムを導入しているのでしょう。

海外の塾でよくみかけるスタイルですが、これは正解です。

独自の教材やカリキュラムを構築することなど無理なのですから、こうして様々な日本の塾・予備校と提携するほうが良質の教材やテストが使えますので。

個人的な印象としては、「塾らしい」塾だと思っています。

この「塾らしい」と私が勝手に定義しているのは、以下のような塾のことです。

〇職員室の書棚には参考資料・過去問題集がたくさん詰まっている

〇生徒が気軽に職員室に出入りして質問をしている

〇教師が生徒の様子をよく見ている

〇廊下の机で生徒が自習している

〇生徒の元気が良い

他にもありますが、こういう昭和の香りがする塾が私は好きです。

いくら教育のDXが進行しようと、最終的には教師と生徒の人間関係が大きくものを言うと思うのです。最近の日本の大手塾はすっかりシステム化が進行し、合理的な指導が普通となりました。もちろんそれは成果につながりやすく、悪いことではありません。しかし、海外の塾では事情が異なります。帰国生入試は、教科・難易度等があまりにも多様なため、生徒一人ひとりの能力や様子を把握しながらきめ細かく指導しなくてはなりません。必然的に、昭和スタイルの塾のほうが正解だと思うのです。

気になる点としては、創業された方が高齢だと思われる点ですね。創立者の東郷昭彦氏は80年代後半から教育の仕事に携わっているそうなので、その頃20代だと仮定しても60台後半になると思われます。事業継承ができるのかどうか。だいたい塾が30年くらいで転機を迎えるのはこれが原因です。学生時代の非常勤講師から塾人生をスタートさせ、30代で独立。なるほど、30年で60代ですので、そこが転機となるのですね。

 〇ena

 どこにでもあるenaは、シカゴにもあります。

 

アメリカに限った話ではないですが、赴任先の町に塾が1つでもあればラッキーと思うしかないですね。選択の余地はほとんどありません。

海外における中学受験をめざす学習は、塾に頼るのは困難です。自宅学習を中心に、オンライン指導を組み合わせ、そしてなるべく早く帰国する、こうした作戦しかないと思います。