前回の記事で、地理がつまらなくなる理由について書きました。
今回は、さっそく地理の学習を面白くするアイデアについて検討してみたいと思います。
第一回の今日は、「フィールドワーク」について考えましょう。
1.フィールドワークとは?
関西学院大学のHPでわかりやすい定義を見つけました。
フィールドワークとは、社会学や人類学から始まったリサーチの手法です。キャンパスを離れて、フィールド(研究対象の現地)を訪れ、フィールドの事情を直接観察したり、関係者から話を聞いて、問題点を明らかにして、解決策を探ります。本や講義だけでは学べない情報を直接現地で集める、これがフィールドワークです。
とあります。なるほど。
これはとても大切な手法なのですが、さすがに小学生にはハードルが高すぎて無理ですね。そこで、小学生の地理学習における「フィールドワーク」を定義しなおしてみます。
「実際に見聞きした事柄について考えること」
本来のフィールドワークのほんの一部分にすぎませんが、まずは小学生を外に連れ出してみたいと思います。
2.連れて行かないほうがいい場所
さて、フィールドワークに連れ出すといっても、いったいどこに連れていけばいいのか考えてしまいますね。そこで、「行かないほうがいい場所」からとりあげます。
(1)国内(海外)旅行
旅行に行くなといっているのではありません。行っても地理が面白くなる効果は見込めないということなのです。
子どもが低学年のうちは、家族で旅行される方も多いと思います。そこで、せっかく行くなら、子どもの地理の学習で出てくるような場所に連れていこう、そう考えるのは自然な流れです。しかし、正直いってこれはお勧めできません。その理由は簡単です。
おもしろくないからです。
さらに、お金と時間がとても必要だからです。
例えば、授業で扱う場所をいくつかあげてみましょう。
◆輪中
◆根釧台地の酪農
◆瀬戸内のため池
◆牧之原の茶畑
◆渥美半島の電照菊
◆越後平野の米作
◆高知平野のビニルハウス
◆豊田市の自動車工業
◆倉敷市のコンビナート
◆鹿島のY字型掘り込み式人口港
◆沖縄の電照菊栽培
◆白神山地
きりがないのでここでやめます。もうおわかりですね。こんなところを連れまわされても、子どもも楽しくないし、他の家族もつまらないです。しかも九州・沖縄から北海道までくまなく連れまわすのは不可能です。
せっかく家族旅行をするのですから、地理の学習に役立つ場所などという欲は捨て、単純に旅を楽しんでほしいと思います。
ギリシアの博物館で見かけた光景です。小学生の子どもをつれた母親(日本人)が、一所懸命子どもに説明しているのですが、子どもはあきらかに退屈そうにあくびをしているのです。いったいどういう意図でそこまでやってきたのかわかりませんが、少なくとも子どもにとっては何のプラスにもなっていないことは明らかでした。
(2)博物館・資料館
こちらもすぐに思いつく場所ですが、最初から興味を持っている子どもなら楽しんでくれますが、地理学習の第一歩として連れていくのはお勧めできません。だって、子どもにとってつまらないですもの。
興味のないものを無理やり見せられ、興味の持てない話を無理やり聞かされるのは大人だって苦痛です。
(3)工場見学
大手企業の工場では、子どものための見学プログラムを設けているところがいくつもあります。小学校の社会科見学で行く場合も多いですね。
きちんと行えばとても有意義な工場見学ですが、順番が大切です。例えば自動車工場見学を行う場合はこのようになります。
◆自動車工業の始まりの歴史について教える
→◆日本の自動車工業の歴史について教える
→◆現在の自動車工業の様子について教える
→◆自動車工業に興味・好奇心をいだかせる
→◆工場見学に行く
つまり、予備知識無しでいっても、産業用ロボットが動く様子を見たり組み立てラインを見たりして、感心はするでしょうが、そこで終わってしまうのですね。
自動車について十分に学び、好奇心をかきたてられた後に行かなければ何の効果もないのです。
しかし、そもそも地理の学習を面白くするのが目的ですので、すでに面白さを感じているのなら工場見学は不要ということになりますね。(もちろん機会があればぜひ見せてほしいと思います。)
以前は、山梨県のシャトレーゼの工場でお菓子工場の見学ができました。アイス食べ放題がついていて子どもにも人気だったのですが、コロナで見学は廃止となってしまったのは残念です。その代わり、現在はお菓子作り体験&工場見学等がセットになったプランが有料であるようですね。日帰りコースと宿泊コースがあるようですが、大人気で抽選があたらないと聞きました。まあ地理の学習にはあまりならないような気もしますが、旅行気分で参加すると楽しそうです。
3.連れていってほしい場所
それでは、ぜひ連れていってほしい場所をいくつか紹介します。
(1)近所のスーパーマーケット(大型店)
拍子抜けしたかもしれませんが、ここは大切です。生徒たちに聞くと、スーパーにほとんど行ったことがないらしいのですね。
※別の記事でもくわしく書きました。
地理の学習は、何も日本全体を大局的に学ぶことではありません。生活に身近な事象を考えることが本質的な地理の学びとなります。
まずはスーパーに行ってみましょう。旬の食材を見ながら夕飯の相談でもしましょう。学びはそんなことから始まると思います。
もし私が生徒を連れていったら、何時間でも地理の学習について語る自信があります。さすがにそれではお店に迷惑でしょうが、ちょっとした気づきがあれば、それを自宅に帰ってから調べてみる。実に楽しい「地理」の学習です。
(2)コンビニ
実は、入試でコンビニ関連の出題はよく見かけるのです。コンビニの役割・POSレジについて・商品構成について、様々な出題が可能です。
例えば、最近のコンビニのお惣菜・お弁当が高齢者によく買われているのはご存じですか? つい先日も、近所のコンビニでお弁当を一所懸命選んでいる高齢のご婦人を見かけました。一人暮らしの老人にとって、離れた場所にある大型スーパーの買い物はハードルが高いのですね。食材を買ってきても一人分しか作らないので余ってしまうのです。そこで、コンビニのお弁当で簡単に夕食をすます、そんな行動パターンが生まれているのです。最近のコンビニのお弁当やお惣菜のクオリティは高いですからね。しかしながら、一人でコンビニ弁当を夕飯に食べているお年寄りの姿を想像してしまうと、やるせない気持ちになるのはなぜでしょう? 日本の高齢化問題は喫緊の課題です。
(3)近くのニュータウン
大阪の千里ニュータウンの中心駅、千里中央駅を訪れた時の話です。千里ニュータウンは1960年代初頭から開発された、日本最初期のニュータウンとして知られています。1970年の大阪万博の会場にもなっていますね。また、1970年代のオイルショックの際のトイレットペーパーパニックがここから始まったことも有名です。
首都圏の多摩ニュータウンがオールドタウン化していることはよく話題になるからご存じだと思います。ところが、休日に千里ニュータウンを訪れてみると、小さな子どもがいる家族連れでにぎわっているのですね。古い団地を取り壊して、次々と新しいマンションが建っています。世代交代に成功したことがわかります。
首都圏の方にとっては大阪まで行くのは遠いので、例えば横浜の港北ニュータウンはどうでしょうか? あるいは多摩ニュータウンもいいですね。
都市のなりたちと人口構成、そうしたことを考えながら人間観察をするのも楽しい地理の学習です。
(4)近くの繁華街
休みの日に食事に出かけたり買い物したり映画を見に行くときに出かける繁華街もまた、地理の学習の宝庫です。店のラインナップや集う人の種類、車のナンバー、そうしたものを見ると、その街が地域でどのような役割を果たしているのかがわかります。
新宿や渋谷等の大規模な繁華街に行くと、海外からの観光客がずいぶん歩いていますね。どんな国の人が多いのか、またどんなお店が人気なのか。これだって立派な地理の学習です。
(5)自宅周辺
お子さんが3年生~4年生くらいに効果的な学習です。自宅近辺を散歩して、略地図を作ってみるのです。ただし、絵地図のようなものでは意味がありません。きちんと地図記号を使い、縮尺を考え、方位記号を入れた、ちゃんとした地図をつくってみましょう。こうした作業を小学校でやる場合もありますが、おそらくはコンセプトが異なります。
地図が街の様子を写し取った図面であることを実感させ、実際の地形と紙の地図をリンクする訓練としての地図作りです。
※Googleマップ禁止
いうまでもありませんが、グーグルマップを参照したのでは意味がありません。
(6)山手線
生徒たちに聞くと、驚くほど鉄道路線を知りません。自宅⇔小学校⇔塾、せいぜいこの程度の行動半径しか持たない彼らにとって、普段利用しな鉄道・駅は地の果てと同じです。首都圏に住んでいるのなら、せめて東京の山手線の主要な駅の位置とそこから伸びている鉄道路線くらいは把握しておいてほしいと思います。
山手線を周回し、主要な駅で降りてみてください。半日では難しそうですので、何回かに分けて回るとよいでしょう。実は歴史の学習で江戸五街道の話をするときに、日本橋・板橋・千住・品川・新宿、こうした地名は必須の知識です。6年生になってからではそんな時間はありませんので、時間に余裕のある時期にこそぜひ。
もう気が付かれたと思います。
地理の学習は、身近な地域に興味を持たせられるのかどうかが勝負なのです。