以前、社会科が嫌いな子どもについて書きました。
私としては、十分穏やかに書いたつもりですが、まだまだ厳しかったようです。
子どもが社会科嫌いになるのには理由があったのですね。
今回はそのあたりを掘り下げてみたいと思います。
1.社会科のカリキュラム学習は地理から始まる
本格的な受験カリキュラムのスタートは4年生の最初です。塾によって多少前後しますが、4年の4月からは本格的な学習がスタートする点は同じです。
そして社会の学習は地理からスタートします。だいたいの塾のカリキュラムでは、地理を1年~1年半かけて学ぶのです。
地理→歴史→公民
この順で学ぶのには理由があります。
社会科という教科は、文字通り「社会を広げる」教科です。
社会というのは、子供たちが、私たちが暮らす、この社会という意味です。地理的な広がりに加えて、人間関係の広がりも含まれます。
学習以前の子どもたちの「社会」はとても狭いものです。自宅と小学校、それからよく行く公園やショッピングモール、場合によってはおばあちゃんのいる田舎。その程度が子どもの知っている「社会」の全てです。都市化・核家族化が進行する中で、子どもの社会はますます狭くなっています。さらに塾や習い事で時間の余裕がなくなると、子どもの社会は縮小する一方です。
普通に生活しているだけで、社会が広がっていくことなど期待できなくなっているのですね。
電車やバスにほとんど乗ったことのない小学生など多数います。近所の公園で遊ぶ経験すら無い子もいます。
そこで、「学習教科」として社会科を学ぶ必要があります。
まずは地理を学びます。
私たちが暮らすこの日本という社会はどのようなところなのか、ここから社会科学習が始まるのです。
そして歴史を学ぶことで、私たちがどのようにしてここまで歩んできたのかを考えます。
最後に公民分野によって、私たちの社会の仕組みや問題点を学ぶのです。
だから、最初の地理学習で躓いてしまうと、その先の社会科学習が成り立ちません。
まずは最初の地理学習がとても大事なのです。
2.地名が覚えられない
ほとんどの塾が最初の地理学習を暗記としてとらえています。
(1)都道府県名
まずは都道府県名を漢字で書けるようにする。そのために白地図テストなどやりますね。
(2)主要な地名
山地・山脈・河川・平野・盆地・半島・湾等、主要な地名を丸暗記させます。白地図も多用します。
(3)気候
雨温図の読み取りを行います。
(4)地図の読み取り
地図の種類や特徴、地形図の読み取りや地図記号を覚えます。
(5)主要な農産物
都道府県別の農産物生産順、主要な農産物の生産地域を覚えます。
漁港と水揚げされる魚介類の種類、養殖の暗記。
(7)工業地帯と工業地域
3大工業地帯・工業地域の出荷額割合のグラフを判別できるようにします。主要な工業都市と製品も暗記します。
(8)貿易
主要な輸入品の輸入相手国順を覚えます。また、貿易港の輸出入品の表を覚えます。
(9)交通
新幹線のルートと駅を覚えます。また、交通手段の変化のグラフを把握します。
(10)環境
四大公害や温暖化等について学びます。
ざっと地理学習で出てくる内容を書きました。
どうですか?
実につまらなそうですよね?
こんなものを、塾に通い始めた4年生に強制すれば、それは地理嫌いになるのは当然です。
それではなぜこんなつまらない学習を強制するのか?
答は簡単です。
塾のカリキュラムが昔からそうなっているからです。
参考書の目次もそうなっているからです。
このとおりに教えていれば、漏れや抜けが無いからです。
だから、宿題・テスト等の武器を使って生徒に強制的に覚えさせるのですね。
とくに、最初に地名の暗記をやらせると、多くの生徒が脱落していきます。いくらベテランの教師であっても、地名に興味を持たせる授業などできないからです。
そのため、丸暗記に燃える一部の生徒を除いて、地名が覚えられず、地理がどんどん嫌いになり、苦手となっていくのです。
6年生になっても、淀川・仁淀川・大淀川の区別があいまいな生徒や、木曽川・長良川・揖斐川の順がわからない生徒、富士川・大井川・天竜川の位置が混乱している生徒がたくさんいるのです。
3.データを教えすぎる
地理には様々なデータがあります。地形や人口、農産物や工業・貿易など、ある意味地理の学習=データ学習とでもいいたくなるほどです。
しかもこのデータは毎年変わります。
気が付けば、教師は生徒に必死になって最新のデータを覚えさせるだけ、そうした授業になりがちなのです。
しかも入試問題にもデータ問題はよく出されます。
「とりあえずデータを覚えさせておけば入試でなんとかなるだろう。」
このような短絡思考で教師は授業をしがちなのですね。
しかし、データの暗記が好きな生徒はいません。
教師だって嫌いです。
自分が好きでないものを生徒に強要しているのですから、生徒が楽しめるはずはないのです。
本当は、データからうかがえる地域の様子を考えることなど、高度な思考力につながる良い授業に発展させられるのですが、そこまでの授業についてこられる生徒はほとんどいないですし、またそうした授業をできる力量の教師もほとんどいません。
4.入試を意識しすぎる
塾である以上、入試を意識しないわけにはいきません。そこで入試問題を開いてみると、大半の学校では実に「つまらない」地理の入試問題を出題しているのです。どこかのデータ集を丸写しして、都道府県名のところだけを空欄にして答えさせるような「手抜き」問題などいくらでも見かけます。
しかし、そうした問題を丸暗記によってクリアすることだけが受験勉強の目的でしょうか?
6年生の受験学年ならいざ知らず、少なくとも4年生の地理初習者に対しては、もっと別のアプローチを工夫するべきだと思います。
5.地図が読めない
子供たちは地図が読めません。実際の土地と、紙に書かれた地図がうまく頭のなかでリンクしないのですね。だから、みな地図が読めません。地図が読めない以上、地理ができるようになるはずもないのです。
もし地図が読めるようになると、地理は面白いのになあ、といつも思います。
ちなみに私は地図が大好きです。今やグーグルマップがあれば世界中どこでも困らないですが、それでも旅行の前には現地の地図を確認しますし、現地では無料配布の地図から書店で売られているものまで、思わず集めてしまいます。
そういえば、上海に行ったとき、頼りのグーグルマップが本当に使えないのには驚きました。話としては知っていたのですが、本当に真っ白にしか表示されないのですね。便利なグーグルマップですが、これだけに頼ってはいけないことを実感しました。
地理の学習の第一歩は地図の読みこなしからなのは間違いありません。
かといって、これを子どもたちに強制すると、また地理嫌いを育てることになってしまうのです。
こうしたつまらない地理の学習をどうすれば興味を持ってくれるのか。
これについては書きたいことがありすぎるので、別の記事で書くことにします。