中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

海外で社会科を学ぶためのアドバイス


海外で社会科をどう学ぶかについて、具体的なアドバイスをまとめました。

中学受験を想定したアドバイスです。

 

1.社会科学習のベストなカリキュラム

社会科学習を始める時期はいつが良いのでしょうか。

4年生から

これが社会科の学習を始める最適なタイミングとなります。

社会科カリキュラム

 中学受験に向けての学習カリキュラムは、入試本番を迎える6年生1月ー2月初めをXデーとして、そこから逆算して組み立てられています。(一部の学校の帰国生入試は12月くらいに実施されるものもあるので注意が必要です)

◆6年生の夏休み以降が過去問演習にあてられます。

 ということは、6年の7月までには公民分野を終えたいですね。。公民の学習に3か月かかるとして、歴史に8か月、その前に地理を、というように逆算すると、上の表のようなカリキュラムになるのです。

 もちろんこれは一例にすぎません。

歴史をもう少し早くから、あるいは遅くから始める場合もあるし、公民にもう少し時間をかける場合もあるでしょう。

あくまでも目安として考えてください。

 

 また、このような質問も多くうけます。

Q:一度しっかりと学べば大丈夫か?

 もちろん、そんなことはありません。

子供というのは、覚えるのは早いが、忘れるのもまた早い。

「前に習ったでしょ!」

「何度同じ間違いをするの!」

とつい言いたくなる気持ちはわかるのですが、子供というのは、何度学んでも忘れ、何度解いても同じミスをするのが普通なのです。

 したがって、地理にしても歴史にしても一度学習すればもう十分などということは決してありません。歴史の学習をしながらでも地理の復習を、公民を学びながらでも歴史の復習を織り込むことは大切だとなってきます。

Q:もっと早くから始めなくてよいか?

 3年生以前に、博物館に行ったり遺跡めぐりをしたり地理ゲームをしたりと、子供が興味をもってくれそうなことを行うのはかまいません。

むしろ賛成です。

けれど、それはあくまでも遊びと学びの橋渡しにすぎないことに留意しましょう。

では、3年生以前から系統立てたカリキュラム学習を始めるのはどうでしょうか? 

これははっきりと「早過ぎる!」と断言できます。

まだまだ論理的な思考力がみられない学年のこどもに、社会科のカリキュラム学習を強制しても、意味もわからずに単語だけ覚えるような結果しかまねかないのは明らかだからです。

そしてそれは、確実に「社会科嫌い」を育てることに繋がります。

我々のようなプロが教える場合でも、3年生以前の授業では「おもしろい」「興味を持たせる」ことに主眼を置かざるを得ないのです。

Q:この順番でなければならないのか?

 まずは子供にとって身近な「身の回りの社会」を学ぶところから社会科の学習は始まります。

自分たちの住む町から少しずつ視野をひろげ、日本全体まで進むのがセオリーです。

それから、私たちがどのようにしてここまで歩んできたのか、つまり歴史を学びます。

最後に、現在の社会を理解するために公民分野を学習するのです。

こうして少しずつ視野を広げ、自分たちがいる「社会」を理解する過程が、社会科の学習です。だからこの学習の順番は変えられません。

 そもそも、中学入試の社会科は高校入試の社会科のレベルと同等かそれ以上と考えていいのです。

それを3年以上前倒しして学ぶのが中学受験生の学びです。

したがって、いたずらにカリキュラムを前倒しすることも無謀というべきでしょう。

3年生に憲法の意義」について説明したところで、何の理解も得られないというものですね。

 

 

2.社会科で必須の項目

◆日本地理・・・日本の地形・自然環境・産業

◆日本史・・・・先土器時代~現代まで

◆公民・・・・・日本国憲法三権分立基本的人権地方自治

これが基本3分野です。まずはここまでしっかり学ぶことが目標となります。

 (1)世界地理・世界史は必要か

 原則として中学入試には出題されません。

そのはずなのですが、何せ入試問題を作成しているのは中学校の社会科の先生なので、つい世界地理や世界史の知識が出題されてしまうことはあります。
あくまでも少しだけ。

このあたりは過去問演習で補っていくことになるでしょう。


 (2)現代社会の問題は頻出

現代社会の諸問題については頻出分野といえます。

SDGsなどどれくらいの学校で出題されたことでしょうか。

環境問題も必須ですが、それ以外にも少子高齢化問題や過疎化、ジェンダーや領土問題など、子供にとってはハードルの高い出題が目立ちます。

 

 (3)日本の伝統文化が弱点になる

 日本の伝統文化に関する出題は、一時期流行した分野ですが、最近は減ってきました。

とはいえ、一定の出題は見られるので、基本的な知識は押さえておくべきでしょう。

 おせち料理の食材として不適なものを選ぶ問題や、五節句を答える問題藁や糠の使い道を選ぶ問題などが出題されています。

確か慶応だったか、和食の食器の並べ方を図から選ぶ問題が出題されていました。

 海外帰国生のみならず、日本の受験生でも、核家族化が進行する昨今は、大きな弱点となっている分野です。こればかりは自然に身に着くことはありませんので、意識的に知識を学ぶ必要があるのです。

 

3.家庭学習用の教材

 海外駐在の日本人が多く住むような都市には、日本の書籍を扱う書店がある場合が多いのですが、品ぞろえは十分とはいえません。

 日本のアニメ文化の流行を反映して漫画だけが並んでいたりしますよね。

そういえば、パリ北駅構内の書店で、仏語・英語訳された日本の漫画が書棚の一角を大きく占めていたのには驚いたことがあります。

 現地に日本語書店がなかったり、あるいは品ぞろえが十分でないとすると、結局のところ、日本の知人・親戚から送ってもらうしかありません。

しかし、今度は種類が多すぎて、適切な教材を選ぶのはなかなか困難です。その中から、これは!というものをいくつか紹介しましょう。

 

 (1)教科書

 そう、小学校の教科書です。

 中学入試を目指す受験生の多くがなぜか教科書を軽視するのが不思議でなりません。

たしかにあの薄いテキストを1年がかりで学習するわけですので、親も生徒もうんざりしてしまうのかもしれませんね。

でも、もう一度小学校の教科書を開いてみてください。

豊富な写真や資料とともに、生徒の思考を促すような質問など、さまざまな工夫がこらされています。まずは小学校の教科書からはじめましょう。

 次に、中学校の教科書

上にも書きましたが、中学入試問題を作成するのは中学校の先生です。

したがって、先生方が日ごろ最も身近に扱っている中学校の教科書が、まさに中学入試問題のネタの宝庫なのです。

中学受験の社会科の学習のベースとして中学校の教科書をおくのは王道の学習法となります。

 また、中学受験を経ていない全国の公立中学生が学ぶために、わかりやすく丁寧に作られている点も評価できる点です。

大手の出版社が、豊富な執筆陣を集め、きちんと予算をかけて採用を目指して工夫をこらして作っています。さらに文科省のチェックも入っているため、安心して使えるのもポイントです。。おまけに価格も安いのもうれしいですね。

 注意点としては、中学受験の社会科には不要な(原則としては)ジャンルが混ざっている点があげられます。具体的には、

◆世界地理

◆世界史

◆経済

このあたりが該当します。

世界地理に関しては、中受で必要とされる世界地理の知識より少し詳しく書かれています。ここは軽く読み流す程度でもよいかもしれません。

世界史については、さほどページを割いておらず、ここはきちんと学んでおいても損はありません。

そして経済分野。需要供給曲線など、最近の入試では常識のように出題されているのです。

きちんと学んでおくべきです。

 

 ※教科書の入手法

 学校教科書は、当該学年には無料で配られるものです。

もちろん日本人学校でも配られるし、出国前海外子女教育振興財団から受け取ることも可能です。おそらくほとんどの方がこちらの財団から情報を得たことはあると思います。

www.joes.or.jp

しかし、当該学年以外の教科書はもらえないし、現地校に通っていると入手しづらいかもしれません。

原則として、学校教科書は一般書店では販売されないのです。

原則として、と書いたのは、もちろん例外があるからです。

(例外1)

以前なら、神田三省堂本店に教科書コーナーが設けられており、そこで購入可能でした。ただし、学校採用分からの余剰分が並んでいるようで、春には種類が豊富ですが、いつでもすべてが入手できるわけではありませんでした。

残念ながら、2022年の春に建て替え工事のために本店は閉店となり、近くの仮店舗での営業となっています。この仮店舗では教科書は取り扱っていません。池袋本店なら扱っているという情報もあるようですが、すいません、私自身足を運んでの確認はしていません。

2025~6頃に新本店ビルがオープンしてくれれば、販売が再開するかもしれません。

 

(例外2)

教科書というのは特殊な流通経路で配本されています。

教科書流通経路

教科書出版社は、各都道府県ごとに約一か所ずつある教科書供給会社に配本し、教科書供給会社から取扱い書店へ配本、さらに学校へ、となっています。教科書取扱い書店は学校を相手としているので、一般客には販売しないのが普通なのです。

 ただし、一部の書店では、過不足調整分の余剰を販売してくれる。上記三省堂のような書店がそれにあたります。一度お近くの書店に確認してみるとよいかもしれません。

 

 それよりも確実なのは、教科書供給会社にあたることです。いわば教科書の問屋のような存在で、都道府県毎に原則1社あり、一般への販売を行っているところもある。一般社団法人全国教科書供給協会のHPを見れば、それぞれの教科書供給会社の情報が得られます。

 私も都内のそうした供給会社をよく利用していますが、もっと便利なのは広島の供給会社である「広島教販」というところです。ここはネットでの購入が可能で、海外への発送も行っているようですね。

 

 (2)予習シリーズ

「予習シリーズ」という教材をご存じでしょうか。

中学受験塾の老舗の四谷大塚進学教室が出している中学受験に特化した塾用教材です。

 2006年に東進ハイスクール等を運営するナガセに吸収されましたが、1954年創立のこの塾は、中学受験を切り開いた塾といってもよいでしょう。

もともと「日曜テスト」というテストを毎週日曜に実施していたテスト会であり、生徒は自宅で「予習シリーズ」を使って1週間予習してからテストを受けるというスタイルでした。

したがって、自学自習が可能なように作られているのがこの教材の特色です。

 また、自前の教材を作成する力がない多くの塾が、この教材とカリキュラムのシステムを導入しているところも特徴としてあげられます。

◆自学自習が可能・・・解説が詳細

◆カリキュラムに悩まなくていい・・・四谷大塚が考えたカリキュラム通りにすすめるだけ

◆誰でも購入可能・・・四谷大塚のHPからネット通販可能

◆採用塾が多い・・・・代表的なところでは早稲田アカデミーその他中小塾は無数。


以上が良い点です。ではウィークポイントはというと。

◆システムが古い

 初期の四谷大塚の成功はこの教材に支えられたわけですが、衰退の原因もこの教材にあったのです。

すべての学習が日曜テストを目指す1週間ごとに細切れとなったものになり、弱点をじっくりと復習でおぎなう余裕がなくなるのですね。

それでも日曜テストが中学入試のトレンドをとらえたものであればよかったのです、そうではありませんでした。

初期の頃は、「四谷大塚の入室テストに合格できれば、中学にも合格できる」という神話まであった塾なのですが、いつのまにか完全復習主義を標榜するSAPIXに完全に置いていかれてしまうことになりました。

このあたりの事情については、こちらに詳しく書いています。

peter-lws.hateblo.jp

 

◆思考力を育てられない
 予習を主軸とした学習では思考力を育てることは困難です。もともとこの教材はそこを目指したものではありません。

◆リニューアルした

 数年前に4年用から改訂がはじまり、小6用は2023から使用されています。

おそらくは、SAPIXの躍進を巻き返そうとして手を加えたのでしょう。

しかし、解説が丁寧で中堅校から上位校にフィットしていた内容が、最難関への対応へとシフトしてくることで、この教材の良さを殺してしまうのではないか懸念されます。

 また、人間のやる仕事である以上、テストであれテキストであれミスはつきものです。大幅改定初期の教材にミスが多発することは覚悟しなくてはならないと思います。

◆演習量が足りない

 日曜テストに向けた予習用という位置づけから、問題演習量が不足しています。別個問題集で補う必要があります。

 

数々の弱点はあるものの、塾に頼らずに学習しようとすると、現状ではこの教材にまさるものはないといえるでしょう。

 各学年・各教科ごとに上下2分冊となっています。

 

 (3)塾の教材を入手する

 今やネットのオークションサイト(メルカリ・ヤフオクなど)であらゆる塾の教材が入手可能です。しかし、まったくお勧めできません!

 そもそも塾で使用される教材は以下の3種類に大別されます。

◆オリジナル教材・・・・SAPIX四谷大塚日能研

◆他塾の教材を採用・・・早稲田アカデミー四谷大塚準拠塾

◆塾向け教材を採用・・・塾専用教材を出版しているところは多数ある

オリジナルプリント・・規模の小さな塾・個別指導など


 この中で最もクオリティが高いのは、SAPIX四谷大塚日能研の3塾の教材でしょう。

教材を作るのにはとてつもないマンパワーが必要です。

それをじゅうぶんにかけて開発された教材のクオリティは期待できます。昔聞いた噂では、四谷大塚は予習シリーズの開発に、1教科1億円かけたとか。

とくにオークションサイトではサピックスの教材が大人気のようですね。

前渡しはせず、授業の際に配られる教材は一般に販売されていません。だからこそ人気が高いのでしょう。

しかし、この塾の教材は、授業を前提とした復習用として作られています。そのため解説は最低限で、自習にはまったく向いていないのです。

「買ってはならない」教の筆頭といえるでしょう。

 塾向け教材も、自前の教材を作成する力が無い塾が多く採用しています。専門の出版社がいくつもあって、塾向けにいろいろな教材を作成しています。ビジネスとして成り立っているだけあって、完成度は低くはありません。

しかし、これもプロ向けのものであり、個人で入手しても使いにくいだけですね。

 

 (4)一般参考書

書店には「応用自在」や「自由自在」といった古典から、さまざまな参考書が並んでいます。

内容的には大差ありません。

そこで、これらの参考書はできるだけ厚いものを選ぶとよいと思います。子どもが学ぶためというよりは、親が教え方を知るために活用することになるからです。

 

 (5)問題集

無数の問題集がありますが、中受用の問題集のほとんどは、実際に出題された過去問を再編集して作られています。

したがって、こちらもどれを選んでも大差ありません。

 

 (6)過去問

 過去問には3種類あります。

  ◆学校別過去問

 黄色とオレンジ色の表紙が特徴的な、声の教育社の出版する「〇〇中学 10年間過去入試問題」などと書かれているものがあります。

首都圏ではこれ1択といっていいですね。

6年生になってから購入しましょう。

ただし、解答例が間違っている場合もあるので要注意です。

この出版社は自前で教師を抱えてはおらず、外部の学校・塾の先生に解答づくりを依頼しているためと思われます。

また、解説は無いに等しく、附属の解答用紙は縮小されているので、実際に解く場合には拡大コピーが必要となります。そのためにわざわざ拡大コピー可能な複合プリンターを買うご家庭も多いようですね。海外では用意しにくいかもしれません。

  ◆中学入試問題集

 さまざまな学校の最新の入試問題を1年分まとめてあるものがあります。

声の教育社なら「有名中学入試問題集」であり、男子校・共学校編と女子校編の2冊が売られている。過去問演習に男女の差はないので、両方必要です。

また、日能研の出版部門であるみくに出版なら「中学入学試験問題集」のタイトルで、銀色の装丁が特徴的なものを出しています。

こちらは算数編・理科編・社会編・国語男子校編・国語女子校編と別れており、さらに公立中高一貫校適性検査問題集の6分冊となっています。

解説がないのは声の教育社のものと同様ですが、解答の信頼性はこちらのほうが高いと思います。活字もみくにのもののほうが見やすいので、こちらがおすすめです。ただし、解答用紙は付属しません。

  ◆学校がネットで公表している過去問

 自分の学校の入試過去問を数年分公開している学校も多いですね。

普連土学園・高輪中・吉祥女史・海城中など、いくらでも見つけることができます。

何より模範解答が信頼できる(だいたいは)のが大きいです。

※先日ある学校の公表している模範解答を見ていたら、「北里柴三郎」が「北里三郎」となっていました。恥ずかしいですね。

こんな記事も過去に書きました。

入試問題のミスとは? 中学入試で見られた出題ミスの紹介 - 中学受験のプロ peterの日記

 

中には、洗足学園のように、問題・解答用紙・解答例・採点所見・平均点・合格者最低点まで5年分をPDFで公開している太っ腹な学校もあります。

別に洗足学園を受験予定でなくても、男子であっても、これを利用しない手はないでしょう。