中学受験のプロ peterの日記

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進学塾四谷大塚の歴史とその影響力(※2024.3.20加筆修正)

(※2024.3.20加筆修正)

今回は、四谷大塚という集団指導塾についてとりあげます。

 

集団指導塾の選び方については、以前の記事をごらんください。

peter-lws.hateblo.jp

1.四谷大塚の歴史

四谷大塚といえば老舗の進学塾です。ある一定以上の年齢の方には、「四谷大塚進学教室」の名前のほうが通りがいいかもしれません。小学校教師だった鈴木仁治氏が、1954年に創立しました。四谷と大塚にあった予備校の教室を日曜日に借りてテスト会を始めたのでこの社名となったのですね。

そのころ日本進学教室というのがあり、四谷大塚はこことの戦いに勝利してトップ塾の地位を確立しました。躍進の原動力となったのは迫田文雄氏が作り上げた「予習シリーズ」という教材で、中学受験に向けてのカリキュラムとテスト体系を完成させたのですね。その後誕生した塾の多くが、四谷大塚の準拠塾として、このテストと教材・カリキュラム体系を導入しました。

 もとがテスト会ですので、本来の学習スタイルは、生徒が自分で家で予習シリーズで予習をし、日曜テストを受けて、また1週間予習をしてからテストに臨む、というものです。授業はありません。テスト後に簡単な解説授業があるだけです。このスタイルはもともと優秀な生徒にはフィットするのですが、自力で予習ができない生徒にはつらいスタイルですね。そこで平日に四谷大塚の予習シリーズの解説をする塾が乱立します。また、四谷大塚自身も、直営で授業を行う教室を展開します。

現在は首都圏で34の直営教室があります。思ったより少ないですね。これは、準拠塾・提携塾が多いため、もっと教室展開が幅広い印象があるのだと思います。

2006年に、東進ハイスクールの運営会社「ナガセ」の傘下に入りました。

その翌年から、無料のテスト「全国統一小学生テスト」をスタートさせています。おそらくは億単位の経費がかかるテスト(優勝者はアメリカご招待!)ですので、さすがナガセの財政力、といったところでしょうか。

2.予習シリーズという教材

しかし、この予習シリーズの存在が、後にサピックスとの争いに負ける要因の一つとなってしまいます。基本は予習用のテキストですので、本来は教師を必要とはしないのですね。標準的な学力の養成には適している教材なのですが、思考力や記述力の養成には不向きです。小学生が自学自習で思考力・記述力を高めることはできませんので。しかし、入試問題が少しずつ思考力・記述力を必要とするものへとシフトしていきます。この変化に対応できなかったのが敗因だと思います。また1週間で次へと進むカリキュラムは、十分な復習ができないことにもつながります。多くの生徒が弱点をそのままにして先へ進まされることになってしまいました。やはりこれも、自学自習が可能な優秀層のためのシステムだったことが仇となったのです。かつては、四谷大塚に入室できれば(厳しい入室テストがあったのです)志望校に合格したも同然だとまで言われた塾なのですが、今や難関校の合格実績は寂しい限りです。

四谷大塚もこの問題に気が付いたのか、数年前から予習シリーズの改訂に着手しました。難易度を上げたようです。

3.長所

〇教材が良い・・・なんといっても予習シリーズの高い完成度は魅力です。この教材だけをきちんとマスターすれば、だいたいの学校への合格は近づくでしょう。

〇カリキュラムが良い・・・老舗の安定感ですね。

〇ネットワーク化・オンライン化が進んでいる・・・ナガセ(東進)に買収されたメリットといえるでしょう。

〇がつがつしていない・・・これはナガセ(東進)に買収される前の社風です。放っておいても生徒があつまる塾でしたので、がつがつとした営業がありませんでした。今は知りませんが。

 

4.短所

短所はこれでしょう。

〇最難関校には力不足

予習シリーズは良い教材ですが、前述したように、最難関校の入試に対応しているとはいえません。逆に言うと、中堅校狙いならフィットします。最近四谷大塚は予習シリーズを全面改訂して難易度をあげてきました。あきらかにサピックスを意識しているのでしょう。これが吉とでるか凶とでるかは数年またないとわかりません。

〇復習が不足する

これは予習スタイルの弊害です。ちなみにサピックスは予習を否定した完全復習スタイルだそうです。

本来子どもが初出の中学入試学習内容を予習することは不可能です。かつてはそれが可能なレベルの生徒だけが中学受験をしていたのです。

結局のところは、直営塾・準拠塾等で予習シリーズの内容を教えてもらい、週末のテストに向かう、そういうスタイルとなっています。しかしテストが終わればすぐに次の週の「予習」に取り組まなくてはならないため、じっくりと復習して定着する時間が不足しているのです。これが最大の弱点だと思います。

〇準拠塾が玉石混交

これは四谷大塚のせいではないのですが、世の中には四谷大塚の体系を利用した準拠塾が数多あるのです。四谷大塚自身もYTネットというもので提携塾をネットワーク化しています。こうした提携塾・準拠塾しか近所にない場合は、そうとう慎重に選ばないといけません。

〇合格実績の数値が意味をなさない

四谷大塚のHPを見ると、開成121名、桜蔭51名といった輝かしい数字が並んでいます。これだけ見ると凄い塾なのですが、この数字は「四谷大塚の作り上げたシステム」の優秀さを示してはいるものの、「四谷大塚直営校の授業の優秀さ」を示しているわけではないのです。HPにはこう書かれています。

「合格者数は、四谷大塚ネットワーク四谷大塚四谷大塚YTnet・四谷大塚NET)に継続的に在籍し、四谷大塚が開発した教材および教育サービスで学習した生徒を対象として集計しております。」

つまり、四谷大塚の提携塾・準拠塾の合格実績を総計したものなのですね。そして四谷大塚NET加盟塾一覧を見てみると、小さな塾が大量に並んでいるほか、臨海セミナー早稲田アカデミーの校舎も並んでいるのです。つまりこうした塾の生徒の合格実績をかき集めて、「四谷大塚の合格実績」としているのです。四谷大塚ネットワークの加盟塾がどこまで正確に合格者数を四谷大塚に報告しているのかも不明ですし、業界内では、この四谷大塚の合格実績の数値を気にする人間はいません。

 

〇最新の入試傾向をキャッチアップできていない

入試問題の傾向というものは、常に変化・進化し続けています。教科横断型のテスト・思考力系のテスト・適性検査型のテスト・PISA型のテストなど、10年前、20年前には見られなかったタイプのテストが増え、まさに多様化してきています。本来なら、どのようなスタイルのテストでも解ける学力が身についていればよいのですが、なかなかそうもいきません。そこで各塾は入試問題を分析しながら教材・授業に反映させていくのですね。前述したように四谷大塚は完成度の高い予習シリーズとそれに対応した日曜テスト体系を作り上げてしまったが故に、この入試問題の傾向変化に対応ができていませんでした。日曜テスト及び合不合判定テストには「四谷流」とでもいいたくなる独特のスタイルがあり、この日曜テスト対策に振り回されすぎると、入試における得点力にマイナスとなる心配すらありました。今回の予習シリーズ改訂によりどこまで現実の入試傾向が取り込めているのかは今後の入試結果を見ていかないと何ともいえません。

理想を言えば、標準的なテキストを使いながら、指導する生徒の志望校に合わせて授業にどんどん最新の傾向をアドリブで取り込むような授業ができる先生がいればよいのです。実際にはほとんどいないと思いますが。

 

5.四谷大塚の通信教育

ナガセ(東進)に買収されてから、急速に映像授業に力を入れてきました。
低学年・高学年それぞれを対象とした映像通信教育が設定されています。

海外や地方在住、あるいは習い事の関係等で、週何回もの通塾が不可能な場合には検討に値します。映像を視聴し、予習シリーズで学習し、自宅で毎週テストを受ける。この1週間のサイクルで回します。

低学年のうちは通信教育で済まし、高学年になってから通塾を始める、そんな利用法もよいかもしれません。

 

6.四谷大塚日能研か?

もしお子さんが中堅校を志望しているのなら、四谷大塚も候補としてあげてよい塾です。日能研と迷うところですが、教室の距離・雰囲気などで選んでも、そう大きく外れることはないと思います。以前なら難関校を目指すなら迷わず四谷大塚、中堅以下の学校なら日能研とアドバイスできたのですが、今となっては両塾の生徒層にさほど大きな違いはありません。

同じ中学校の合格偏差値を両塾で比べてみます。

偏差値50を境目として、それ以下の学校の場合は四谷大塚の数値は日能研のマイナス1or2、50台の学校だとほぼ同じとなっています。

これは、両塾の在籍生徒のレベルがほぼ互角であることを示しています。若干ですが、四谷大塚のほうが上位層が多いのかな? というくらいですね。

〇両塾の偏差値表の50以上の学校を志望するなら四谷大塚、それ以下なら日能研

〇自学自習の習慣が多少なりともあるのならば四谷大塚、ないのなら日能研

〇親も一緒に勉強したいのなら四谷大塚(予習シリーズで学べるから)

四谷大塚の提携塾は玉石混交なのでしっかりと見極める

こういったアドバイスになるでしょうか。