中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】漢字が書けなければ国語では得点できない! 壊滅的な漢字を何とかする3つの方法

お子さんは漢字がきちんと書けていますか?

国語のテストでは得点源となっているでしょうか?

国語のテストでは、必ずといっていいほど漢字の問題が出題されます。そして、ここだけが、トレーニングによって確実に得点できる部分なのです。

これを失点していてはあまりにもったいない!

今回は漢字の学習法について提案します。

漢字が書けていない生徒は、国語全体の得点力も低い

気が付いたことがあります。

国語の得点が低い生徒のほとんどが、漢字の問題でも失点しているのです。

統計をとったわけではありませんが、ほぼ明らかな事実だと思います。

その理由もまた明らかです。

単語が読めていない

学校で使われている教科書は、その学年の未修の漢字には必ずフリガナがついています。塾で使われるテキストもそうなっている場合がほとんどです。

親切ですね。

しかし、本番の入試問題にもそれを期待してはいけません。

なにせ問題を作成しているのは中学校・高校の先生です。小学6年生がどこまで漢字を取得しているのか、完璧に把握しているとは限りません。

「まあ、この程度の漢字は常識でしょ。」と思っているかもしれないのです。

 

激怒  邪智暴虐  牧人

邪悪  敏感  未明

女房  内気  或る

律気  花婿  衣裳

祝宴  御馳走  竹馬の友

若い衆  賑やか  老爺

語勢  悪心  妹婿

世嗣  皇后  賢臣

乱心  臣下  派手

呆れた  巡邏  警吏

捕縛  懐中  暴君

威厳  蒼白  眉間

皺  孤独  反駁

悪徳  忠誠  呟き

溜息  嘲笑  下賤

磔  悧巧  自惚れ

命乞い  亭主  嗄れた声

残虐  北叟笑んだ  騙された

磔刑  奴輩  地団駄踏んだ

佳き友  首肯き

 

ここに、とある小説の冒頭部分に使われていた漢字のうち、難しそうな漢字だけを順番にピックアップしました。

これが何の小説の冒頭かわかりますか?

邪智暴虐  牧人  祝宴  暴君  磔刑  佳き友

このあたりがヒントになります。

もうわかりましたね。

中学2年の国語の教科書の定番です。読みやすいストーリーなので、小学生で読むのも普通です。

1940年に発表された短編ですので、使われている語句が古めかしいものもありますね。

「メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。」

これが冒頭の文です。太宰治の「走れメロスでした。

こうして使われている難しい漢字を抜き出しただけで、すぐにどの小説かわかるということは、これらの単語が、物語の主要な構成要素であることがわかります。

逆に言えば、これらの単語が読めない・意味がわからなければ、物語の把握ができない、ということにもなるのです。

 

今こうして書いていて、生徒にやらせるクイズを思いついてしまいました。

有名な小説の冒頭部分の単語だけを列挙して、それがどの作品か当てるクイズです。

教室が盛り上がること必至のクイズだと思うのですが、前提として、古典的名著は既読でなくてはいけません。

無理ですね。残念。

 

物語・論説文の読解もできない

前述したように、漢字熟語は、その文章のキーワードとなるものです。それが読めないということは、読解もできないということになります。

まるで戦後の墨塗り教科書のように、主要な単語が塗りつぶされている文章を、今まで彼らは読んでいたわけです。

それは読解が苦手なのも道理です。

まるで、知らない単語ばかりの英文を読んでいるような状態です。

知らない単語もいくつか程度なら、前後の文章から意味を類推することはできますが、1行に1つ以上ともなると、もはや読解は不可能です。

 

漢字の知識を身に着ける3つの方法

まず、漢字の知識については、この3段階で考えてください。

読める

意味がわかる

書ける

1.読める

当たり前のことですが、読めなければはじまりません。まずは読めることを優先します。

テキスト・入試問題などの文章の中から、「これはわが子には読めないのでは?」と疑わしい語句を拾い出し、マーカーで印をつけます。

それをお子さんに声を出して読ませてください。

もし読めない字があれば、その場で指導します。

ここでは、「まさかこれくらい読めるよね。」と思ってはいけません。子どもたちは驚くほど字が読めないのです。

怪我 (かいが)
順風満帆 (じゅんぷうまんぽ)

我が国 (わがこく)
措置 (しょち)
思惑 (しわく)
低迷 (ていまい)
破綻 (はじょう)
頻繁 (はんざつ)
踏襲 (ふしゅう)
未曾有 (みぞゆう)
有無 (ゆうむ)
詳細 (ようさい)

こんな恥ずかしい読み方を連発してはいけませんからね。

もうお気づきと思いますが、この読み間違いは、学習院で小学校から大学まで学ばれた92代のあの方の実例です。

2.意味がわかる

次に、意味を説明させてください。

「この語句の意味はわかる?」

「うん、わかる。」

「それじゃあ、意味を説明して。」

「ええっと。何となく意味はわかるんだけどなあ。」

このやり取りが教室の定番のやり取りです。

つまり、何となく意味がわかったつもりになっている(しかもだいたいは勘違いしている)だけなのですね。

意味がわかる=説明できる です。

かならず説明させましょう。

 

3.書ける

最後に漢字で書かせます。

これはただのトレーニングです。

効率的なやり方というものは存在しません。手を動かして書かないかぎり、しかも何度もかかない限り身につかないのです。

ただし、同じ漢字ばかり100回も書かせるのはおろかなことです。

ただただ回数をこなそうとして殴り書きになります。しかも間違った字形が定着する危険すらあります。5回でいいのです。一画一画を確認しながら丁寧に書かせましょう。

 

本当は漢和辞典を使いたいところなのですが、漢和辞典は小学生が使いこなせる辞書ではありません。

ネットで「漢字書き順」のサイトも参考になります。

王道なのは、後述する「漢字の書き方」が書かれた本を利用することですね。

とくに書き順については必ず確認させてください。

親が教えると間違っている場合が多いからです。

「あれ? 自分が習ったころはこう書いたけど。最近は書き順が変わったのかな?」と思うかもしれませんが、みなさんが間違っています。書き順は変わっていません。

 

効率よく学ぶには

本来は、文章の中から身に着けるべきなのですが、入試に向けたカウントダウン中ではその余裕がありません。

漢字の練習テキストを使うのも有効です。

 

使う教材は、すでに手元にあるものでかまいません。それが終了してから新しいものを入手するとよいでしょう


私からのお薦めはこのようなものです。

〇SAPI×漢 ー改訂版ー: SAPIXの漢字学習字典
 通称「サピかん」といっています。6年生までに習う漢字全てについて、書き順・成り立ち・意味・用例・書くときの注意点などがまとまっています。ちょっとした漢字辞典的な使い方もできます。

 

〇小学漢字1026字の正しい書き方(旺文社)
 内容的には「サピかん」と同様ですが、もっとシンプルに、ぐっとコンパクトにまとまっています。版型も小さく、価格も安いです。同様のタイトルで複数出版社から出されていますが、どれも大同小異です。手の届くところにおいておいて、ちょこちょこと開くのにはこちらのほうが便利かもしれません。

 

〇漢字の要ステップ1マスターブック(サピックス
 実践的な漢字のトレーニングブックです。今ごろから始めて、これを入試までに3周すれば、中堅校までの入試で漢字が得点源になります。6年生で習う漢字も含まれていますが、夏休みごろからはじめることをおすすめします。また、同じシリーズでステップ2・3と出されていますが、難関校向けです。

同様の書籍は各出版社・塾から出されていますが、クオリティはこれがベストです。もちろん、すでに塾に通っていて、その塾で推奨されているテキストがあれば、そちらをやってください。ちゃんとした塾ならば、漢字のテキストを用意し、その中から範囲を定めて生徒にきちんと練習させれいるはずです。

 

白川静文字学に学ぶ 漢字なりたちブック 
 漢字学者白川静博士の研究成果を背景として、漢字の成り立ちを丁寧に解説した本です。1年生~6年生用まであります。
理屈から入らないと漢字が覚えられない生徒向きの本ですね。ただし、大人である我々が読むととても面白いのですが、案外小学生の食いつきは悪い、そういう本です。これで漢字をマスターするというよりは、読み物としての位置づけです。

白川静博士に学ぶ 楽しい漢字学習 1年生~6年生
福井県教育委員会が編纂したもので、福井県では小学校の副読本として学びます。上の「漢字なりたちブック」より、こちらのほうが薄くて安いのでおすすめです。ちなみに福井県漢検で全国2位だそうです。

 

語彙力の身に着け方についてはこちらに書きました。

peter-lws.hateblo.jp

 

後記

実は、私もだいぶ漢字力が衰えてきています。

原因はPCにあります。

もはや手書きで文字を書く機会といえば板書の時くらいです。あとはほぼPCを使いますね。

どんな漢字でも自在に変換してくれますので、これが漢字力を低下させる元凶なのです。

もちろん、読めなければ入力できませんし、多数の候補の中から最適な漢字を選ぶためには意味もわからなければなりません。その2つの力は維持できるのですが、やはり書かないとだめですね。

 

今の子どもたちは、私たちの世代以上に文字を書く機会が減ってくるのでしょう。

せめて小学生のときくらい、漢字力を徹底的に鍛えておかないと、将来が心配です。