中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

SAPIXに疲れた? 親子で中学受験からの撤退を考える時期とその真相

私のところには、こうした相談もあります。

「もう親子で疲れました。中学受験をやめようと思っています。」

深刻な悩みです。

少し考えてみることにしましょう。

SAPIXに疲れるとは?

別にSAPIXだけが大変なはずはありません。日能研であれ四谷大塚であれ早稲田アカデミーであれ、あるいは他の塾であれ、中学受験の勉強は大変なものです。

親子で疲れてしまうのはある意味当然といえます。

それではなぜ「SAPIXに疲れる」人が多いのでしょう?

 

もちろん統計的なデータの裏付けなどあるはずもありません。

しかしながら、なんとなくSAPIXに疲れる人の割合が他塾より多いような気がするのが不思議です。

理由を考えてみました。

 

合格実績が凄すぎる

 ご存じのように、SAPIXの合格実績、とくに最難関中学への合格実績は図抜けています。

そこから次の問題が発生します。

◆そもそも教材の量が多い。そうでなければあんな実績が出るはずもない

◆塾全体に「上を目指さねばならない!」空気が満ちている。それに巻き込まれてしまった。

SAPIXについていければ最難関中も夢ではないような誤解が生じる。そのためにキャパオーバーな学習をしてしまう。

SAPIX=勉強をやらせる塾、という先入観がある。それゆえ、当たり前の量の学習でも過負荷と思い込みがちである。

 

家庭の関わる割合が高い

 塾によっては、「全部おまかせください!」という「おまかせ系塾(私が命名しました)」が多数存在します。

「もう、全部塾におまかせしてたら、〇〇中学に合格できたのよ。ほんと、塾の先生には感謝してるわ。」

「私も父親も仕事があって子どものこと見る時間がないから。だから、毎日自習室に行って勉強してたのよ。」

そんな周囲の声を聞くにつれ、SAPIXの大変さが際立ってきます。

おそらくサピックスと言う塾も、さすがに親が勉強を教えることを前提にはしていないはずです。しかし、「復習主義」を標榜しているということは、家庭での復習が前提となっている塾なのです。

自分一人の力で自主的に復習に取り組める小学生は少数派です。

当然、親が放置しておけば成績は下がりますので、結局のところ親がつきっきりで小言を言い続けることになってしまいます。

これは疲れます。

 

教材の整理が大変すぎる

この塾は、年間通したテキストというものが存在しません。毎回授業のたびに各教科のテキストが配られるスタイルです。

テキスト以外のプリントも多いとか。

これでは、一か月もしないうちに、部屋の机上に教材が散乱することは容易に想像がつきます。

これの整理が大変だ。

これはよくきく話なのです。

もう子ども自身には任せておけないため、親がテキストの整理をするしかありません。

例え4年生からだとしても、3年間も子どものテキスト整理に追われるなんて、私だって耐えられませんん。

しかも、6年生になれば志望校に特化した授業・教材も増えることになるでしょう。

もしかして、「SAPIXの教材整理はお任せください」なんて家庭教師がいたら依頼が殺到するのかな? SAPIXを卒業した大学生のアルバイトにぴったりな気がします。

 

優秀な生徒が多すぎて、わが子のダメぶりが浮き彫りになる

誰だって、わが子が評価されない環境は嫌なものです。どんなに小学校で優秀でも、あるいは今まで「優秀ね!」と言われ続けてきたような子でも、SAPIXに入ると、上にはさらに優秀な生徒がぞろぞろいるわけです。

この環境はつらいですね。

いくら勉強してもしても上にはあがれない。

それは疲れるのは無理もありません。

 

中学受験をあきらめる瞬間

このままでは希望していた中学には届きそうもない

残念な理由ですね。

憧れの中学校に入るために頑張ってきたのです。

しかし、どうにもこのままではその中学校には届きそうもない。

塾の先生から勧められる他の学校には、正直いって心を惹かれない。

だから中学受験をやめよう。

 

気持ちは痛いほどわかります。

どんな中学でもかまわない、そう割り切れない場合だってあります。

しかし、プロとしてアドバイスさせてください。

他にもお子さんに合う中学はたくさんあります

中学受験から撤退したところで、高校受験はさらに選択肢が狭まります。

もう一度家族で高校受験に切り替えた場合のシミュレーションもきちんとなさることをお勧めします。

 

もっとも、過去にこんな生徒もいました。

開成中学が第一志望だったA君。

開成しか行く気はなかったのです。

A君は、夢を現実にするための努力はたっぷりとし、成果も上がっていました。

合格可能性は非常に高かったのですね。

しかし、結果は不合格でした。私も驚いた記憶があります。

結局A君は高校入試で開成にリベンジ合格を果たしました。

美談です。

しかしA君はそのために、中学校生活より塾の学習に重点を置いていたそうです。

私には中学3年間の彼の心情を思うと、美談で片づける気がしないのです。

 

中学受験から撤退したからといって高校受験が楽な世界ということではありません。

そこにはA君のような子がたくさんいることも想定しなくてはならないのです。

 

子どもが精神的に不安定になってしまった

これについては判断は難しいですね。

本当に中学受験のための勉強が子どもの心に負担をかけたことが原因なのか。

おそらく専門家に相談すれば、皆が口を揃えて「中学受験のための勉強から一度撤退しましょう。」とアドバイスすると思います。

おそらくそれは正しいのです。

でも、中学受験のための勉強さえしなければ、子どもはのびのびとおおらかに育つ。そんな単純なことなのかな?

 

さらに、公立高校をめざす中学校生活は、中学受験よりもはるかに理不尽な世界です。

そこも考える必要はありますね。

 

おそらくは、のんびりとした校風の、偏差値も高くはない、そうした中高一貫校の受験に切り替えるとよいのでしょう。あるいは大学付属もよいと思います。

高偏差値を追い求める価値観から決別する、そうした判断なら大賛成です。

 

子どもに小言を言い続けることに嫌気がさした

これもよく聞く話です。

四六時中「勉強しろ」と言い続けるのに嫌気がさす、その気持ちはわかります。

しかし、親が何もいわなくても自主的に勉強する子どもというのは幻想です。実在しません(正確にはごくわずかだけ存在する)。

親の小言は子どもを正しく導くための誘導灯のようなものだと私は思います。他人ではない、親だからこそ、注意し続けることに意味があると思うのです。

 

家計に負担がかかり過ぎる

これは現実ですから、逃れようもありません。

今すぐ塾はやめる決断を下すべきかもしれません。

ただし、私立中学外にも国立中・公立中高一貫校もあります。

東京だったら、お茶の水女子大附属・筑波大附属・筑波大附属駒場学芸大附属と選択肢はあります。東大付属と言う学校もあります。

また、公立中高一貫校もたくさんありますね。

こうした学校を選べば、教育費はおさえられます。

また、今のところ東京なら高校は無償化されています。

成績次第で、特待生として授業料全額免除という学校もあります。

さらに、塾に行かなくてもいくらでも勉強は可能です。

もちろん、地元の公立中学から都立高校、そして国立大学へ、というコースも可能ですね。

何が何でも私立中高、という価値観にとらわれる必要はないと思います。

 

塾無し中学受験のやり方等についてはこちらに記事にしました。

自らの職業を真っ向否定するような内容ですが、別に私はどちらの塾の肩を持つ気もありませんので、自由に書いています。

peter-lws.hateblo.jp

 

子どもが中学受験しないと言い出した

これは要注意です。

自分は中学受験をする以外の進路を選びたいと思っている。

そう発言したということですよね。

まさか、「仲が良い〇〇君と一緒に公立中学に行く。だから僕、もう受験勉強したくない!」と我儘を言っている、ということではないですよね?

 

お子さんが中学受験をしないというのなら、その理由をじっくりと聞いてみましょう。

過去にはこんな生徒もいました。

「私は今、バレエの世界では名を知られた先生のところでバレエを習っている。その先生から、あなたは素質があると言われた。先生の紹介でロシアのバレエ学校に高校から入学したい。だから、中学受験のための勉強の時間を、英語とロシア語の取得に振り向けたいと思う。」

バレエのような芸術の世界は、がんばったからといって全員がプロになれるものでもありせん。しかし、実績のある先生から、見込みがあると判断されたということは、本当に見込みがあるということなのでしょう。

親としては不安しかないと思いますが、ここまで意識の高い子どもなら、きっと大丈夫な気もします。

 

結論

結局のところ、中学受験から撤退すると、高校受験をせざるを得ません。また、仮に中学受験を継続したところで、大学受験もありますし、大学付属の学校だからといって勉強しなければ希望の学部どころか内部進学もかないません。

いずれにしても、少なくとも大学卒業までは勉強は継続するわけです。

また、芸術分野や「手に職」系の専門分野に進路変更したとしても、そこでも「一人前」になるための勉強は必要です。もしかしてその大変さは単純な受験勉強の比ではないかもしれません。

中学受験からの撤退は、すなわち勉強の質が変わるということなのです。

くれぐれも「逃げの撤退」ではなく、前向きな進路変更であってほしいと思います。