よく聞かれますね。
いったい1日何時間勉強すればいいのですか?
やはりみなさん、周りの受験生がどれくらい勉強しているのか気になるのですね。
今日はこの問題について考えてみます。
1.平均値はこれくらい
まずは、受験産業が出している数値をひろってみましょう。
6年生・・・1日3~5時間、週20~35時間
4・5年生・・・1日1~3時間
ある塾がこんなことをあげていました。なるほど。あまりにも幅がありすぎる数字なので、平均値を算出したというよりは、目安を提示しているのでしょう。
その他に、低学年・・・48分、高学年・・・78分などというデータもありました。どうやらこれは、中学受験をしない生徒も含めた平均値のようですので、あまり参考にはならないですね。
結局、調べてみてもだいたい同じ数値が出てくるだけでした。考えてみれば、子どもによって大きな差のある数字の平均を調べてみても無意味ということですね。
2.現実的に可能な時間
家庭学習にあてることのできる時間は、小学校が私立か公立か、塾の拘束時間・日数はどれくらいかによって大きく左右されます。
ここではモデルケースとして以下のような場合を考えてみることにします。
(1)6年生の場合
◆小学校は近所の公立小学校
◆塾は火・木・土の週3日
◆塾の拘束時間は、平日は夜9時まで、土曜は夜7時まで
この子の場合の家庭学習が可能な時間は以下のとおりです。
月・水・金・・・16時~21時 途中食事と入浴で1時間使うので 4時間確保
火・木・・・帰宅後はゼロ時間
土・・・08時~13時 20時~21時 6時間確保
日・・・08時~21時 途中食事と入浴時間を除くと、11時間確保
4時間×3日+6時間+11時間=29時間
これに毎日早朝の10分程度の計算ドリル&漢字ドリルの演習を考えると+1時間で、合計30時間
どうでしょうか。
これを見て眩暈がしましたか?
実は、これは決して特殊なケースではありません。塾のある日を除いて、夜の9時には寝るようにしていますので、まだ健康的な生活スタイルだと思います。これでは学校の宿題をやる時間が入っていませんが、学校の宿題は隙間時間に瞬殺で片づけます。時間ばかりかかる制作物系の宿題は、母親がこっそりやるのです。
※小学校の宿題を母親が! と驚かれた方、実はこれは珍しい話ではありません。同じ漢字ばかり50回ずつ書かせるような単調な宿題は、母親が子どもの字をまねて書いている、そんなこともよく聞く話です。皆表立って口にはしていないだけです。実は、小学校の宿題にも、子供が自分でやる価値があるものと、意味がわからない物の2種類があるのが現実です。夏休みの読書感想文や作文、これは子どもが自分でやるべき課題です。しかし前述した漢字の書き取り練習のように、すでに完璧に書ける漢字をひたすら升目を埋めることを義務づけられるような場合、こっそり母親が手伝うのは仕方がないのではないでしょうか。大きな声では言えませんが。これは、習熟度別のクラス編成をとっていない小学校の弊害です。
もちろん私は、小学校の宿題を親が手伝うことを推奨しているわけではありません。しかし、緊急避難として目をつぶるしかないだろうなあ、と思っています。
(2)4・5年生の場合
◆小学校は近所の公立小学校
◆塾は、月・金の週2回
◆塾の拘束時間は夜8時まで
◆習い事が週1回、土曜に1時間ある
夜8時までに寝る準備を整えるとして、塾のある月・金は勉強はほとんどできません。
火・水・木の塾のない日に3時間ずつ、土日は合わせて16時間、合計週に25時間を確保している。
まあこの学年ならこんなものでしょう。
もちろん4年生のときより5年生のほうが勉強時間は多く必要です。
3.そんなに勉強漬けでなければ合格できないのか?
答えはYES&NOです。
もちろん、もっと短時間の勉強で志望校に合格できる子もいます。
私が今でも覚えているのは、スポーツをやっていた男子生徒でした。所属していたチームが大会を勝ち進んでしまったため、6年生の秋になっても練習・試合に拘束されていたのですね。よく泥だらけのユニフォームで教室に遅れて入ってきたものです。しかもお母さま曰く、自宅でもほとんど勉強しないとか。勉強は塾の時間中にすましていたそうです。つまり、授業中に完璧に理解し覚えてしまうのですね。結果として男子最高難関校私立・国立の2校に合格しました。
また、最難関校に進学した女子生徒の場合も、家庭ではまったく勉強していなかったそうです。やはり塾内で消化していたのですね。この生徒は、中学に進学してからもこのスタイルで通していたそうです。最難関中高一貫私立の授業進度とレベルでそれができていたというのもすごいですね。周囲の子が塾に行くのを後目に、クラブ活動で青春を謳歌していたそうですが、中3になってから、「少し遅れてきたかもしれない」と感じたため、塾を探しはじめたということでした。遅れてきたといっても、先頭集団の先頭から、先頭集団の真ん中に後退した程度のようでしたが。
中学受験をする生徒の中には、こうした生徒というのは珍しくはないのです。
ただし、もちろん多数派ということではありません。
ここまで極端なケースでなくても、読解スピードや処理スピードが速く、短時間で課題をこなせる生徒というのもいます。
こんな子どもなら、親は何の苦労もないのですが、もちろん大多数の受験生はそんな器用なことはできません。スピードもありません。
したがって、大多数の受験生にとっては、学習に費やした時間に比例して学力は向上します。費やした時間がすくなければ、それに見合った学力しか身につかないのです。
さてここで、こうした声もあがります。
「あんなに勉強時間を費やしたのに〇〇中学に合格できなかった」
「あんなに勉強時間が短かったのに△△中学に合格できた」
これは結果論にすぎません。
費やした勉強時間は、確実に学力を向上させます。それで志望校に届かなかったとしたら、そこまでの学力が身についていなかったということでしかありません。勉強時間が短くても志望校に合格できたとして、それは実力より下の志望校であったのか、あるいは運がよかったのにすぎません。
勉強を、ただただ志望校に合格するための手段としか考えられない方もいますね。でも、本来勉強は費用対効果(コストパフォーマンス)や時間対効果(タイムパフォーマンス)で語るべきことではありません。全ての勉強は必ず本人の成長につながります。
★習い事は止めるべきか?
この質問に対しては、このように返答しています。
「もし習い事をやめなくても、合格できるかもしれない。しかし、習い事を継続して不合格だった場合、後悔はありませんか? 習い事を止めていれば合格できたかも、という後悔と、どうせ合格できるんだったら、習い事を止めなければよかったという後悔と、どちらが重いでしょうか?
全力を尽くさなかった受験には後悔しか残りません。
これが経験から導き出された私なりの結論です。
4.質より量
よく勉強についてはこのようなことが言われていますね。
勉強で大切なのは、量ではなくて質だ
時間だけかければよいというものではない
たしかに。
もっともだと思います。
しかし、こと中学受験のための勉強については、必ずしも当てはまらないのです。
小学生の勉強は、習慣化することにポイントがあります。
一定の時間を机に向かって集中する、そうした時間をどれだけ設けられるのか、そこに大きな意味があるのです。
1時間かかると思っていたプリントが30分で終わったから、あとの30分は自由時間だ
これは「成果主義」をとる大人の発想です。
1時間かかると思っていたプリントが30分で終わったから、もう1枚やることができた。
これが小学生の正しい学習スタイルです。
これを発展させるとこうなります。
1時間で終わると思っていたプリントが終わらなかったので・・・
A:終わるまでとりくんだ
B:そこで打ち切った
成果を出さねば意味がない大人の世界では、Aが正解です。しかし、中学受験生の学習はBでないといけないのです。
ここを間違えてしまうと、次のような悲劇を生み出します。
算数のテキストの問題を解き始めたが、難しくてなかなかはかどらない。結局夜10時過ぎになっても終わらず、怒られて、翌朝早起きして解くこととして寝る。
睡眠時間が足りていないため、朝起きられない。結局算数はできていない。
学校から帰って塾の支度をしていたら、今日は理社の小テストがあることに気が付いて、あわててやるが、もちろん終わらない。
解きおわっていない算数の問題が溜まる一方で、テストの間違い直しをやる時間などとれない。理社は塾の授業前に少しやるだけで、覚えられていない。国語はとりあえず後回しにするので、結局家で国語の文章に取り組むことはできない。漢字を少しやるだけ。
食事や風呂・学校の支度などをノロノロやっている子どもについきつい口調で叱る日々。睡眠時間も削られ、子どもはさらに集中力を失う。
1日何時間勉強すべきかを考えるのではなく、わが子が無理なく学習に取り組める時間を考える。そして、その時間内で何をどのようにやるのかを検討する。
これが王道です。
★中学受験超入門の記事は、今までに以下のようなものを書いています。合わせてお読みください。