今回は、物語文に焦点をしぼり、その読解方法について考えてみたいと思います。
1.物語文が読解しにくい理由
(1)作者の思い入れで書かれている
およそ文章というものは全て、読まれるために書かれます。
読者を想定しない文章などあり得ないのです。
たとえそれが日記だとしても、未来の自分にあてて書かれていると考えることができますね。
しかし、物語文は少々異なります。
作家の執筆動機にもいろいろあるのでしょう。
〇お金=原稿料目的
〇連載に追われて
〇どうしても書きたい衝動に駆られて
〇人から頼まれて
〇伝えたい思いがあふれて
まだまだあるかもしれません。
ただやはり、物語文が特徴的なのは、作者の思いが先行しがちな点ではないでしょうか。
例えば、岩井圭也の「生者のポエトリー」という短編集があります。「詩」がテーマの作品集です。逆境の中で紡ぎ出された「詩」が、人生の一歩を踏み出す力となる、そうした瞬間を鮮やかに切り取った作品が6編収められているのです。
「詩」は、今の私たちから最も遠いところにある文学作品といってもいいかもしれません。生徒達もみな「詩」は苦手です。
どんな素晴らしい詩を読ませても、「意味わかんない!」これが反応です。
私の勝手な憶測ですが、作者は「詩」の力を私たちに伝えたかったのではないかと思います。
その中の1編、「あしたになったら」という作品を紹介します。
主な登場人物は、日本語支援教室の聡美、ブラジル出身の少女ジュリアの二人です。
聡美の教室で、ジュリアははじめて日本語の詩作に挑戦します。
それによって二人の心は近づき、ジュリアも未来へ一歩ふみだしはじめる。
言ってしまえば、そんなストーリーにすぎません。
しかし、アメリカからの帰国子女である聡美も、ルーツの言語(日本語)と、現地の言語(英語)の狭間で葛藤した過去があるのです。また、ジュリアの母親は日系三世であり、ポルトガル語をなおざりにして(母親からはそう思える)日本語にとりくむジュリアに対し、厳しい態度をとってしまいます。数年後にはブラジルに帰る、そう考えている母親と、日本に馴染もうとする娘の葛藤も描かれています。
様々な軋轢が重層的になているような作品です。
そしてその中心には「詩」があるのです。
文章は平易ですし、場面転換も少なく、読みやすい作品のはずです。しかし、この作品を小学生に読解させてみると、いくつもの壁にぶつかるようなのですね。
〇日系移民についてい知らない
〇ブラジルの日系人社会について知らない
〇ブラジルがポルトガル語であることの理由もわからない「ブラジル語じゃないの?」
〇なぜ母親が日本に出稼ぎにきているのかわからない
〇母娘のすれ違いが理解できない
〇指導員聡美の生い立ちとそれが聡美に与えた影響がわからない
〇何より、作中の核心となっているジュリアの作った「詩」の意味がよくわからない
日系移民については、学校ではまず出てきませんし、塾でも教えません。したがって知識が皆無なのは許容するとしても、2つの言語の間で葛藤する気持ちが理解できないと、この作品の本質はわからないでしょう。
そして、ジュリアの「詩」がわからなければ、この作品の読解は台無しです。
そんな生徒達に対して、
「この作品で作者は何が言いたかったんだろうね?」
という質問は無意味です。
(2)物語世界が理解できない
〇時代は現代
〇場所は都市近郊の普通の町
〇家族構成も普通・・・両親・兄弟一人くらい
〇親の仕事も普通・・・両親とも会社員(あるいは母親だけ専業主婦)
〇主人公は小学生5・6年生の男女
〇舞台は、学校・塾・家の3か所
〇日常で起きる出来事だけが扱われている
もし生徒が読解しやすいとすれば、上のような設定の物語文となるでしょう。
両親が離婚しそうだとか、父親が事故死したとか、友達の犯罪(万引きとか?)を目撃したとか、女子(男子)に告白されたとか、いきなり海外からの留学生が同居することになったとか、そうした波乱万丈の出来事はおきません。淡々とした日常風景だけから物語が展開します。
はたして、そうした物語文ってどれだけあるのでしょう?
それより前に、そんなお話、読みたいですか?
もうおわかりですね。
生徒たちがぶつかる文章(入試問題)には、そんなぬるま湯のような無味無臭の物語はほとんど出てこないのです。
せいぜい、軽いイジメや仲間外れくらいでしょう。
したがって、生徒が読解する文章のほとんどは、生徒が全く知らない世界の中で展開します。
例えば、以前とある女子校の入試問題でこのようなものがありました。(うろ覚えですいません)
主人公は小中学生の少女二人。父親はいません。母親が仕事をしながら育てています。
娘の一人が、たまたま町で知らない男性と楽しそうに一緒にいる母親のデート場面を目撃してしまうのですね。うろたえる二人の様子を帰宅した母親が不振に思います。事情を知った母親は娘たちにこう言うのです。
「いいこと。私も一人の女なの。」
このことばの意味を説明させる記述問題でした。
さすがに生徒たちの周囲に日常的に見聞きできる状況ではないでしょう。
また、昭和の時代であったり、戦中の物語もよく見かけます。
「実体験としてよく知っている」から、「知識を総合して推理する」力が求められているのです。
※感情移入しづらい文章の読解について書いています。
2.物語の分類
さて、すべての物語は、いくつかのパターンに分類されるそうです。
その分類の仕方は、研究者によってさまざまです。
〇主人公の行動パターンによる分類
〇構造分析によるもの
〇ジャンルによる分類
〇結末による分類
〇ストーリー展開による分類
その他、ちょっと検索しただけでも無数に出てきます。
分類方法も、主観にもとづくものもあれば、スパコンを駆使したものまでありますね。
ここでは、そうした一般的な物語の分類ではなく、中学入試によく出る文章のいくつかのパターンを考えてみたいと思います。
(1)闇をかかえた主人公
闇とはまた大仰ですが、何等かの瑕疵、コンプレックス、不幸な生い立ちなどを抱えた主人公による物語というのも定番です。
当然、物語の展開は、いかにして主人公がその闇から抜け出すのかに主眼が置かれます。
(2)気づきと成長
だいたいが、ごく一般的な主人公です。読者であるこちら側はとっくに気づいているのに、主人公だけが気づけなくてこちらがイライラさせられる場合が多いですね。
何等かの出来事によってやっと主人公が気づくことができ、成長にむけて第一歩を踏み出す、そうしたストーリーです。
(3)時代に翻弄される話
戦争ものです。戦時中、一人ではどうすることもできない状況に翻弄される話です。最近は少なくなってきました。やはり、あまりに共感を得られにくいため、新規で小説として書かれることが少ないからでしょう。
(4)家族のストーリー
ずばり、家族のすれ違いがテーマです。家族一人ひとりが、特段特殊な性格をしていたり行動をとるわけでもないのに、すれ違ってぎくしゃくしているのですね。そこに小さな出来事があり、家族の絆が深まる第一歩となる、そうしたお話です。
(5)何か失敗した話
主人公が、失敗をしでかします。大きな失敗から、小さな失敗まで様々です。そこからどのように修復を試みるのか、その点が主人公の成長とともに描かれます。
(6)友を得る(失う)話
失うよりも得るほうが圧倒的に多いですね。クラスに転校生がいる。周囲の誰とも打ち解けない。主人公も最初は敬遠していた。しかしふとした出来事がきっかけで、その子の良さに気づき、距離が縮まる。そうしたお話です。いかにも、なストーリーですがとても多いパターンです。
こうして、頻出のテーマに慣れてくると、文章を読む段階で良い意味での「先入観」を持って読解できますので、読解スピードがあがります。
次には、読解の具体的な方法論に考察してみたいのですが、この話は次の記事で書きたいと思います。