前回の続きになります。
物語文の読解について考えてみましょう。
1.まずは登場人物を整理する
基本中の基本です。
どんな物語にも、必ず登場人物がいます。
まず最初に行うべきなのは、登場人物について整理することですね。
この場合に重要なのは、提示されている文章中からわかることだけを整理することです。
例えば、ある生徒が登場人物についてこのように整理したとします。
〇太郎・・・小学6年生、乱暴な性格、クラスメイトから嫌われている、勉強は苦手
私:どうして太郎が小学6年生だと思ったのかな?
生徒:だって、小6くらい、僕とおなじくらいだと思ったから
私:どこにそう書いてあった?
生徒:・・・
私:乱暴な性格というのは?
生徒:それは、すぐにキレるし、言葉も乱暴だから
私:なるほど。それではクラスメイトから嫌われているというのは?
生徒:だって、そんな生徒、嫌われるにきまってるよ。
私:どこにそう書いてあった?
生徒:・・・
私:勉強が苦手というのはどこに書いてあった?_
生徒:だって、乱暴な性格だし、いかにも勉強苦手そうだし。
私:どこに書いてある?
生徒:・・・
こんなかんじです。
読書ならいいのです。好きなだけ思い込み・思い入れで読んでも。もしかして作者が、一見乱暴者の太郎だが、実は優しいところがある、という展開に読者を引き込もうとしているかもしれませんし、嫌われ者に思えるが、実は下級生からは人気者である、という展開かもしれません。
しかし、読解となるとそうはいきません。
太郎のプロフィール・キャラクターを整理するにあたっては、問題に引用されている部分からわかることだけを整理しなくてはならないのです。
※例外その1
実は例外があります。それは、問題を作った先生が、引用された部分だけからは読解が難しいと判断し、問題文にとりあげられている場面の背景や登場人物についてのあらすじのようなものを冒頭にまとめてくれている場合ですね。
「両親のいない太郎は、小学6年生で、祖父母と暮らしている。乱暴者としてクラスメイトには嫌われているため、卒業記念にクラスみんなで劇をやることになった際、満場一致で太郎は悪役を割り振られてしまった。そのことが気に入らない太郎を、幼馴染の花子が説得する係となった。」
例えばこのような具合です。
これは実にわかりやすいので、読解の大きな手掛かりとなりますね。
※例外その2
例外の二つ目は、作問ミス(と私はいいたい)によるものです。問題として引用されている部分からは「わからない」「見えてこない」事柄について問いが組まれているケースというのがあるのです。
例えば、花子が太郎説得役にされたのは、クラスメイトによる花子に対するいじめが背景にあったとしましょう。問題に引用されていない物語の前半部分に、そのことが書かれていたのですね。
太郎:「俺の説得役なんて、ほんとはやりたくなかったんだろ?」
花子:「そんなことないよ。太郎君のことは私が一番知っているからって。」
太郎:「俺が、みんなに言ってやる!」
花子:「それだけはやめて!」
問:なぜ花子は太郎を止めようとしたのでしょうか?
例えばこんな問題があったとしましょう。
花子のクラスメイトとの確執の背景を知らなければ正解できません。
問題を解く側としては、「もしかして花子とクラスメイトの間に過去に何かあったのかもしれないなあ。」くらいしか推理できません。
さすがにこうした例外はごく稀です。しかしゼロではないのです。
登場人物を整理し、それぞれの人間関係と、それがわかる部分を文章中から探すことができれば、読解の半分はできたも同然です。
2.舞台を明確にする
どんな物語にも、それが展開する「舞台」があります。
明確に舞台が示されている場合もあれば、曖昧にぼかされている場合もあります。それを明らかにしないと読解はすすみません。
10年以上前に、桜蔭中の国語の問題として、野坂昭如の「ウミガメと少年」が取り上げられていました。2001年に出版され、中学国語の教科書にも採用された作品です。確かアニメにもなったはずです。
野坂昭如といえば、「ホタルの墓」が有名ですね。この作品もそれに連なる、戦争童話ともいうべき作品でした。
さて、引用されていた部分は、こうなっていました。
〇主人公は少年(年齢不詳)
〇海岸で一人で暮らしている・・・家族は? 死んだ?
〇ウミガメの卵を踏みつぶし、卵の中身を口にして、海に入っていく・・・自殺?
〇親子のウミガメの描写・・・少年の生まれ変わり?
いろいろな?が浮かぶ問題です。
種明かしをしてしまえば、戦争中の沖縄が舞台です。家族を失った少年は、米軍の艦砲射撃の嵐の中、海岸の洞窟で一人暮らしているのですね。その後少年と産卵のため上陸したウミガメとの交流のようなものが描かれます。最後は、ウミガメの卵を口にした少年が、海に入っていくのです。少年がウミガメに生まれ変わったことが示唆されていますが明確ではありません(読者の想像にまかせている)。
なかなか不思議な読後感のある短編です。淡々とした筆致が、むしろ戦争の残虐さを浮き彫りにしているような気がします。
私見ですが、沖縄に伝わる、「ニライカナイ」も作者の脳裏にあったのかな、という気もします。海の向こうに常世の国がある、という思想です。
さて、入試問題に引用されている部分だけから、戦争中・沖縄、この二つを読み取らなければ、読解はすすみませんね。
ここで物語の「舞台」といっているのは、「場所」と「時代」の二つです。
とくに戦争文学については、「時代」の把握が必須です。
3.時間=場面
よく生徒には、「物語は演劇=お芝居だ」と話しをします。
例えば、舞台上に学校の教室のセットが組まれていたとします。
教室内では、今まさに演劇の役決めが話し合われています。
次の場面は、学校からの帰り道です。太郎と花子が歩きながら話をしています。あきらかに最初のシーンから時間が経過し、同時に場面も変わっています。
次の場面は、太郎の自宅です。夕飯の際、祖父母を心配させまいと、太郎はクラスの演劇で主役になったと嘘を言ってしまいます。
お芝居であるなら、実にわかりやすく場面展開=時間の経過が描かれます。時間が経過するとき=場面が変わるとき、大きく物語も動きだすものです。
しかし、文章ではそのあたりが不明瞭です。場合によっては、改行すらされずに場面が展開することもあります。
時間の経過=場面の変化を明確にすることもまた、読解のセオリーです。
4.回想シーン
時間経過=場面の展開をヒントに読解を進める際に障壁となるのが、回想シーンの存在です。一本の時間軸に沿って物語が展開するのならわかりやすいのですが、間に回想シーンがはさまることはよくあります。これが読解を混乱させる要因です。また、それに関する出題「太郎が昔を思い返している部分はどこからどこまでか」も多くみられます。
5.同時進行のストーリー
太郎が家で夕飯を食べながら祖父母と話をしている頃、花子はクラスメイトと電話で話をしています。そんな風に、同時進行で複数の人物の視点が描かれるのもよくある話です。
これもまた生徒を混乱させる要因となります。ときには、登場人物のセリフが誰のものなのかすら間違えてしまうのです。
場面の整理を丁寧にする習慣が大切となります。
6.誰のセリフか明確にする
物語は会話で進みます。それが口にだされたものであれ、心の中の独り言であれ、誰のセリフなのかを明確にしないと読解はできません。
場合によっては、会話全てに記号を打つ必要もあります。