記述力のある子どもと無い子どもの違いとは?
これは、私の永遠の課題でもあります。
だいたいの生徒は、記述力など備わっていません。それは最初からよくわかっています。様々なトレーニングを行い、経験値を積むことで、なんとかかんとか記述力らしいものを身に着けるのが普通です。
しかし、たまにいるのです。
すでに完成された(といいたくなるほどの)記述力をもっている生徒が。
そこで、今回は、記述力の無い生徒の特徴とその対策についてじっくりと考えてみたいと思います。
1.日本語能力の問題
これは記述力以前の問題です。そもそもの日本語運用能力に問題があり、正しい日本語の文章が書けないのですね。
「教育を義務化させて学費などを消させる。」
これは、ある入試問題の社会科記述で、教育の機会に恵まれない途上国でどのような政策をとればよいのか? という質問への答として生徒が書いた答です。
◆教育を義務化というのはどういう意味か?
◆学費などの「など」は何を省略しているのか?
◆消させるとは、誰が誰にたいして「消させる」のか?
社会科としての内容以前に、日本語として成立していません。もちろん×となります。
「トラクターなどの大型機械が曲がっていなかったら複雑な動きをする必要がなくなるから。」
この解答を見て、もとの問題がどのようなものかわかりますか?
問題は、耕地整理前後の水田のイラストを見て、昔とくらべて労働時間が短くなった理由を答えるものでした。
しかし、この解答では、どう読んでも「曲がっている大型機械」という、ダリの絵に出てくるようななぞの装置しか思い浮かびません。
「地租改制で政府がもうかるようにして地価が3%になった」
これは、明治政府が行った税制改革の名称と、その目的、税の納め方がどのように変化したかについて説明する問題です。
「地租改正」の漢字間違いも問題ですが、言いたい内容はわかるもののやはり日本語として不適です。
こうした社会科記述に見られる間違いは、多くの場合社会科の知識不足と思われがちですが、それ以前に日本語として成立していないものが多いのです。中学校の先生方だって、知識を教えることはできても、日本語の指導は勘弁してくれ!と思うはずですよね。
記述答案の採点をする立場からいいます。
〇きれいで丁寧な字
〇読みやすい大きさ、適切な漢字の使用
〇日本語として正しく書かれている
もうこれだけで、得点をあげたくなります。中身を検討する以前に、です。
はじめから「〇をつけたい」気持ちで読みますので、社会科的な知識不足や多少の粗には目をつぶりたくなってしまうのです。採点者だって人間ですから。
しかし、以下のような答案は点をあげたくないですね。
×そもそも何を書いてあるのか判読できない文字
×雑に殴り書きしてある答案
×句読点も漢字も適切に使えていない
×日本語として不成立で言いたいことが意味不明
もうこうした答案は、最初から「×をつけたい」気持ちが先にたちます。
このように書くと、「公平な採点をしろ!」「主観で採点するな!」と怒られそうですが、そうとも言えないのです。判読不可能な文を苦労して解読すると、やっぱり解答として不適切な文書である場合がほとんどなのですね。採点も慣れてくると一目見て最後まで読まずに×とする場合すらあるのです。しかも後で綿密に検討してみると、やはり×でしかない、そういうものなのですね。
もっとも例外はあります。
過去に教えていた生徒で、もう壮絶に字が汚い生徒がいました。いくら注意してもそういう字しか書けないのです。
「これでは、採点者に読んでもらえないぞ! 下手でもいいからせめて丁寧に書きなさい!」いったい何度注意したことでしょうか。
しかし、頭は良い生徒でした。口頭での質疑応答なら、なかなか鋭い答を言えるのですね。ただし、日本語的には?なものでした。
さて、この生徒は、都内の最難関校の一つ、社会科の記述が最高難度の学校に見事合格したのです。もう、この学校の先生方を拝みたいくらいの気持ちになりました。なんて懐の深い学校なのでしょう。この生徒の良さをきちんと見抜いてくれたなんて。
もちろん、これは例外中の例外です。やはり字は丁寧に書くのが基本です。
2.知識・常識の不足
一言でいえば、語彙不足ということですね。
別の記事でも書きました。
例えば、こんな入試問題がありました。
「縄文時代、黒曜石の産地が限られるのに、日本各地で発掘されるのはなぜですか?」
そこにある生徒はこう解答しました。
「外国から来た渡来人が黒曜石をあげていたから。」
まず、渡来人が縄文時代の日本各地に出没しているという恐ろしい間違いをしています。さらに「あげていたから」という表現は×ですね。
ところで確認したところ、この生徒は黒曜石が何なのかを知りませんでした。別に知らなくても解けるのですが、「そんなことも知らないのか!」と少し驚きました。黒曜石といえば天然ガラスとも呼ばれる火山岩で、弥生時代に金属器(鉄)が伝わるまでは、石器の材料として使われていた石ですよね。だからこそ重要な交易品として全国に伝わったわけです。そのことを知らないから、「渡来人が全国にばらまいた」ような誤解が生じたわけです。
ここで重要なワードとは、「交易」です。
「貿易」だと他国間の取引をさすため、ここでは使えないですね。「交易」なら物品全般の取引・売買を指しますので、使い勝手のよい語句です。
「交易によって全国に広まった」ことさえ書ければよかったのです。
どうしたら知識・常識=語彙力が身に着くか?
これはシンプルに考えましょう。
英語の語彙を増やすとき、みなさんはどうしましたか?
①ひたすら単語集(単語カード)で丸暗記した
②英文を辞書をひきながら読み、知らない単語を単語帳に書き出した
③とにかくたくさんの英文を読んだ
④短文ごと丸暗記した
こういったところでしょうか。さらに
⑤覚えた単語を使って短文作成(英作文)を行った
ここまでやれば完璧でしょう。つまり、語彙力を増やすということは、「使える単語」の量を増やすということに他なりません。そのためには、INPUT+OUTPUTの繰り返ししかないのです。
基本的な記述力の向上については以下の記事も参考になります。