中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

教えることが最良の学びであることを教師は皆知っている



今回は、私が日頃から温めている新しい勉強スタイルについて書いてみたいと思います。

まだまだ生煮えのアイデアで恐縮ですが、こうして書いてみることで私自身頭を整理したいのです。

1.教わるより教えるのが好きな子も多い

 ずいぶん昔の経験です。その日教えていた生徒たちに、小テストで高得点だったご褒美として、皆の前で教師として授業をする権利を提示したのです。

するとどうでしょう。皆燃えること燃えること!

最終的に、一人の生徒(A君)がご褒美を手に入れました。

さて、私はA君の席に座り、A君が黒板の前に立ちました。

A君:それでは授業をはじめます。まず三権分立について、peter君説明してください。

私:はい。三権分立とは、三つの権力を分けることで権力の濫用を防ぐしくみのことです。

A君:権力の濫用って何ですか? はい、B子さん

B子:それは、正しくない目的のために、えっと、(ここで私の顔を見る。私は無視する)、権力を使うっていうか、、、、。

A君:正解です!

C男:先生! 正しくない目的って、具体的に何ですか?

A君:えっと、それは、、、、。(ここで私の顔を見る。私は無視する)

ーーーーー以下省略ーーーーー

 

とこんな具合で、A君の授業はすすみました。言ってしまえば、私の授業の模倣、それも劣化版にすぎません。すぐに言葉につまるし、もちろんテンポもよくはありません。

しかし、A君は実に楽しそうでした!

他の生徒達も、ふだんの私の授業の際には見せない笑顔を見せて、先生役のA君を困らせるような質問をあれこれ繰り出します。

 

ああ、なるほどなあ。

私は新たな発見をしたのです。

生徒だって、教えてみたいんだな。

日頃から教えてもらう立場しかしらない生徒たちだって、たまには教える立場になりたいのですね。

その後、味をしめた生徒達は、度々「先生、授業させてよ!」とねだることになります。毎回そんなことをしていては予定のカリキュラムが全く終わりませんので、たまに、それも5分・10分と時間を区切って、この「授業ごっこ」をやってみたものでした。

 

2.母親を生徒替わりにして理解を深めた子ども

 

やがて時が過ぎ、すっかりそんなことをやっていたことを忘れていたある日、また思い出したのは、あるお母様からのお話がきっかけでした。

そのご家庭では、塾から帰ると、子どもはお母様を生徒役にして、壁のホワイトボードの前にたってその日学んできたことを授業してくれるのだそうです。

peter-lws.hateblo.jp

ホワイトボードは、私のアドバイスにしたがって、壁に設置してあったそうです。私の目論見としては、子どもの質問に親が答えることを想定してのアドバイスだったのですが、そのご家庭では、逆の使い方をしていたのですね。

さすがに塾から帰ってきてから、全ての教科を授業する時間はありません。お母様も心得たもので、子どもが一番苦手であろう教科・単元を事前に調べておいて、子どもが塾の行く前に、「今日は算数の時計算について教えてね。」と声掛けをするそうです。

すると子どもは、塾の時間中、全力集中です。なにせ自分で理解していなければ教えることなどできません。教師がどのように説明しているのか、どうすればわかりやすい図がかけるのか。そんな視点で授業を受けるのです。

このお話をうかがったとき、私は少々感動しました。

お母様の手間は並大抵ではありません。

しかし、まるでお釈迦様の手のひらの上のように、見事にわが子のやる気をコントロールしているではありませんか。

時間はかかっても確実な理解を目指す。そうしたやり方でした。

 

3.教えることと学ぶことはイコール

 私も、この仕事をはじめるまでは気が付かなかったことです。

教えることって、実は最良の学びに通じているのですね。

 (1)完璧な理解

生徒に教えるためには、まず自分が完璧にその単元を理解していなくてはなりません。

それが、もともと好きな単元・得意な分野であればいいのですが、中学受験の範囲は膨大ですからね。どうしても苦手な単元・あまり好きではない分野を教えなくてはならないことも多くあります。

必然的に予習に時間がかかります。

生徒に教えるためというよりは、自分が理解するための予習ですので、深堀りしていくとキリがないのです。

 (2)情報の整理

そうやってやっと理解に到達したら、次はそれをどうやって生徒にわかりやすく伝えるのかを考えなくてはなりません。

不要な情報、よぶんな知識をそぎ落とし、問題の本質を浮き彫りにする作業が必要です。この段階をクリアするためには、中途半端な理解ではうまくいかないのです。この段階で自分の理解の浅さに気づかされ、再び理解のステージに戻ることなどしょっちゅうです。

 (3)伝え方を考える

 やっとなんとか理解をし、生徒に伝えるべき情報の整理もできました。次のステップは、それをどう伝えるのかを考えることになります。

 大人と子供は語彙が異なります。いわゆる「大人用語」のままでは授業にならないのです。

例えば冒頭の例でとりあげたA君の授業で、「権力の濫用」という語句が出てきました。正しくない目的のためにみだりに権力を用いること、という意味になります。しかしこの説明では子どもたちに理解してはもらえません。そこで、生徒にわかりやすいであろう例をいろいろ考えることになります。

 (4)生徒のつまづきポイントを予測する

 新出の単元では、生徒は一回でスムーズに理解できるはずもありません。必ず躓くポイントというものがあります。これを事前に予測することが重要です。生徒の学力レベルや理解度を考える必要があるのです。

 

もうお分かりいただけたと思います。

生徒に理解させるために考えることが、すなわち教師にとっての最良の学びとなっているのですね。

 

私自身も、この仕事を始めた当時の得意分野・単元と、今のそれとは異なります。むしろ当初苦手だった単元が今や得意分野と化しているといってもよいでしょう。

それはおそらく、理解するために費やした時間が長かったからだと思います。

 

4.どのように授業に活かすのか?

 いよいよ本題に入りたいのですが、ここから先がまだ私にもしっかりと見えてはいません。

 すでに欧米では、〇〇法とよばれるような教授法がたくさん存在し、そのうちのいくつかには、私が今考えている「生徒に教えさせる」方法論が取り入れられているのも事実です。

しかし、大学のゼミレベル、あるいは優秀なエリートだけを集めたボーディングスクールでは有効なその手法も、学力も理解度もバラバラな生徒相手で実践できるものではありません。

また、中学受験に向けたカリキュラムのスピード感の中に、どこまでこうした方法論を持ち込むことができるのかも難しいところです。

 

まだまだ暗中模索の段階ではあるのですが、少しずつ見えてきているものもありますので、もう少しまとまったらご報告できるかと思います。