今回は、 中学受験に成功する秘訣は質問にあったという体験談をお話しします。
質問することでどのように成績が伸びるのか?
質問することは大切です。
そんなことはわかっています。
では、どうして質問することで成績が伸びるのか、考えてみることにしましょう。
1.自分の弱点が把握できている
実は、質問にやってくる生徒は以下の5パターンに分類されるのです。
(1)最初から歯が立たなかった問題について質問にくる
これはいけません。
全く歯が立たなかったということは、その生徒の学力レベルに合っていない問題だということだからです。
そもそもきちんと学習していたのなら、まったく手が付けられないということはないはずですよね。
おそらくその単元の学習をさぼっていたか、あるいは考える努力すら最初からしなかったのか。
こうした生徒については、質問にきても追い返すことにしています。
「この問題は今はできなくていい。無視しなさい。」
「この問題ができない原因は他にある。まずはこの問題から取り組むように。」
と指示を出します。
実は、一番多い質問がこのパターンなのです。
(2)調べればわかる知識についての質問
「先生、〇〇って漢字、どう書くんだっけ?」
「先生、△△って何年?」
もしかして前項の質問よりもこちらが多いかもしれません。
「自分で調べなさい!」
この一言で終わりです。
とにかく子供は自分で調べるのが大嫌いなものなのです。
目の前に国語辞典があっても、開こうとすらせずに、すぐに周囲の大人に聞こうとします。
辞書や辞典の類を子供に買いそろえる家庭は多いですが、それらはきちんと活用されているでしょうか?
こうした子供の質問に対しては、即答せずに自分で調べさせてほしいと思います。
※電子辞書について
子供に電子辞書を与えることについては賛否両論あると思います。ただし、調べることのハードルを下げるという利点は無視できません。
この際電子辞書でもかまわないので、とにかく自分で調べる習慣をつけさせてください。
※インターネット検索で調べることについて
これは絶対にやめさせてください。ウィキペディアをはじめとして、インターネット検索ば便利ですが、正しい情報かどうかの保証は一切ありません。大体の情報が間違っているとすらえいえます。ネット検索のスキルは、また別の観点の話となります。すぐにスマホで調べようとする姿勢は学力向上にはつながりません。
(3)意味のない質問
何でも質問さえすればよいと思っている生徒もいます。
先日も、「先生、どうして歩道ってでこぼこなんですか?」と質問してきた生徒がいました。
実にくだらない。
「そんな意味のない質問をするな!」と注意しようとも思いましたが、こう聞き返してみました。
「質問する前に、自分で考えてみたんだろうね。どうしてだと思った?」
するとその生徒はこう答えたのです。
「僕たちを転ばせるため。」
聞くんじゃなかった。
「それが本当に君が考えて出した答なのか?」
黙っています。本人としてはウケルとでも思ったのでしょう。しかし、私は授業でこうした「悪ふざけ」は認めません。たまに思わず「座布団1枚」をあげたくなる返しを見せる生徒もいますが、この返答は違いますね。
まあこんな質問でも授業に活かすことはできますので、いくつかヒントを出しながら、原因について考察させていくことにしました。
〇歩道は誰が管理しているのか
〇最初から凸凹だったのか
〇工事はなぜ行われたのか
〇なぜ元通りにならなかったのか
〇そのことによって困っている人はいないのか
〇今後はどうするべきなのか
ご存じのように、日本の道路行政は統制がとれているとは言い難いですね。
管轄の違う組織がその場しのぎの工事を繰り返した結果、敷石とコンクリートとアスファルトがモザイクのようになった凸凹の歩道が出来上がってしまったわけです。
元気な子供ならまだしも、足元のおぼつかないお年寄りや車いすの通行に不自由をきたしているのは一目瞭然です。
そこまで考察がすすめられるなら、この生徒の意味のない質問にも意味をもたせることができるでしょう。
(4)親に聞いても教えてもらえなかった質問
こちらも多いです。
面倒くさかったのか、忙しかったのか、わからなかったのか。
「先生に聞いてきなさい。」と言われて質問にやってくるのです。
基本的には、これは、悪いことではありません。
こちらは質問をわかりやすく教えるプロであるので、むしろ任せてもらった方がありがたいのです。
とはいうものの、常にこれでは少々子供がかわいそうだと思います。
質問が鮮度が命。
疑問を持ったらすぐに解消していくのが一番効果的だからです。
面倒くさがらずに、子供の疑問に向き合ってほしいと思います。
わからなければ、一緒に調べてあげてください。
子供の成長が実感できると思うのです。
そういえば、こんな質問もありました。
少子化対策に成功したフランスについて小6の生徒たちに説明したときの話です。
フランスは、徹底した少子化対策のおかげで、先進国ではめずらしく出生率を戻すことに成功した国なのは有名な話です。(最近はまた出生率が下がりはじめているそうですが)
フランスは、出産と結婚を分けて考えたところにも特徴があるのです。
仕事を続けながらも女性が一人で子育てができる社会環境を充実させたのですね。日本でいうところの「でき婚」はあり得ません。
そのため、婚外子の割合が約60%となっています。(ちなみに日本は2%)
こうした話をしたところ、一人の男子生徒が質問したのです。
「先生、子供って結婚しないと生まれないんじゃないですか?」
一度母親に聞いたことがあるそうです。子供が生まれることについて。
すると、「結婚すると生まれる」と教えられたとのこと。
お母さん、逃げましたね。
小6男子なんてそんなもんです。
ここは、世界の人口問題・・・先進国の少子化・発展途上国の人口爆発 につながるところですので、ある程度は理解させる必要があるのですが。
不思議そうに首をひねっている生徒には、こう説明しました。
「結婚というのは、役所に書類を届け出ることで成立する。その記録が役所にあることは子供が生まれる必須条件ではない。」
(5)考えてもわからない、解説を読んでもすっきりしない質問
こうした質問を待っているのです。
自分で自分の弱点を把握できている生徒です。
こうした生徒は、質問することで納得すると、また新たな疑問を見つけ出すことが多いものです。
2.質問することで理解が深まる
ただ受け身の姿勢で説明を聞くのではなく、自ら能動的に疑問を持ち質問する。
この姿勢が、理解を深めていくのです。
〇授業後、質問ノートを持って待っていた生徒
〇積極的に電話をかけてきた生徒
〇授業中でもタイミングをみながら疑問を解消した生徒
〇ニュースで気になったことを聞いてきた生徒
こうした生徒は、まちがいなく成績が伸びていきました。
ここで、いまだに記憶に残る一人の生徒を紹介しましょう。
麻布中学の合格発表の思い出から
今ではほとんどの中学入試で合格発表はネットで見られるようになりました。
便利になったとはいうものの、やはり記憶に残っているのは昔の掲示による発表風景です。
その生徒は麻布が第一志望でした。
しかし成績が全くともなってはいなかった。
仮に名前を太郎君としておきます。
太郎君は6年生になってから海外から帰国したこともあって、すべての教科の学力が不足していたのです。
教室の中でも間違いなく最下位でした。
授業中の小テストでも、月毎のテストにおいても、常に最下位をマークする。
教室の皆もそのことを知っていて、私が「この問題を間違えてしまった生徒はいるかな?」などと聞こうものなら、クラス全員が太郎君の方を見る、そして太郎君が手を上げている、そういう生徒でした。
しかし、彼が偉かったのは、そのことに腐らずに、質問をし続けたことでした。
質問内容は、受験学年の生徒がまず聞かないような低レベルのものばかりであり、彼が質問するたびに教室のあちこちから馬鹿にした野次がとびかいました。
それでも太郎君は質問をし続け、得た答をメモ帳に書き留めていきました。
すると、夏が過ぎ秋風が吹くようになる頃、少しずつ太郎君の成績があがってきたのです。
もう最下位ということはなく、それにともなって質問内容もレベルが上がってきます。
こうした上り調子で入試を迎えた生徒が健闘することは経験上わかっています。
何とか合格させてあげたい。そうは思うのですが、いくら上り調子になったとはいえ、まだまだ麻布に届くレベルに至っていないことも経験上わかっていました。
2月3日午後、私はメモした受験番号を手にして、麻布の中庭にいました。
2階職員室の窓から下げられた掲示板に、彼の番号はありました。
そうか、あいつ、やったな!
彼の麻布に進学したいという熱意とたゆまぬ努力が、2月1日の入試本番まで続く彼の進化につながったのだと思うと、思わず胸が熱くなりました。
掲示板から離れた中庭の角に立ち、3日の入試(筑駒が多い)を終えて次々とやってくる受験生を待ちます。
生徒には、「自分の合否は自分で確認しよう」と言ってありました。
合格した生徒は、自分の番号を見つけると、躍り上がるようにして喜び、あたりを見回して友人や我々を探すのです。
一緒に記念写真におさまったり、褒めてあげたり。この日ばかりは、ほめちぎってあげます。
もちろん、番号を見つけられずに、逃げるようにして去る者も多いです。
教師としては、そうした生徒の後ろ姿を目に焼き付け、来年は一人も逃げ去らなくてすむようにしよう、と心の中で誓うのです。
太郎君が走ってやってきました。
掲示板の前に立ちました。
さあ、太郎、喜べ、合格だぞ! と見守っていると、どうしたことか、太郎君は動かない。
じっと掲示板の前に立ちすくんだままなのです。
あれ、もしかして驚きすぎて心臓止まっちゃったかな?
おそるおそる様子を見に行くと、太郎君は左右の手を小さな握りこぶしにして、自分の番号が示された掲示板を見上げたまま、声を出さずに涙を流していました。
毎年のように多くの受験生の涙を見てきましたが、いまだに太郎君の涙は忘れられません。
そうした涙を見られるのなら、自分のやっている仕事は無駄ではないのだと思うのです。
麻布の入試問題分析はこちらに書きました。