中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

麻布中学校に向く子、向かない子の考察

うちの子は麻布中学校に向いているのでしょうか?

保護者から聞かれることがよくあります。

何でも、子ども本人が志望しているのですが、母親が心配なのだそうです。

子供がその中学校に向いているかどうかは、誰しも気になるところだと思います。それでも、学校説明会や学校案内、口コミや噂などによって、ある程度は予想がつくものです。

しかし、麻布と言う学校はどうにもつかみにくいようです。

「自由だ」「自由すぎる」といった評判が独り歩きしすぎて、受験生の親を不安にさせるのですね。

今回は、その麻布中について考えてみることにしましょう。

麻布についてはこんな記事も書いていますのでぜひご覧ください。

peter-lws.hateblo.jp

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1.どんな学校か


さて、麻布学園中学校・高等学校とはいったいどういう学校なのでしょうか?

 

 (1)歴史

 この学校も古いですね。1895年(明治28年)ですから、130年近い歴史があります。創立者江原素六は、幕臣として鳥羽伏見の戦いに参加したそうですから、もう歴史の1コマとしか思えません。最初は東洋英和の学内に校舎があったのを、5年後に現在の地に移転したそうです。その歴史のせいか、学校が近いせいか(広尾と六本木、歩いていける距離です)、両校の生徒には何かと交流があるようです。交流といっても、学校同士の正式なものというよりは、生徒の個人的なつながりが多い、といったレベルです。

 ただし、最近は東洋英和の読書会に麻布の生徒が呼ばれたり、東洋英和の卒業式来賓として麻布の校長が招かれたり、といったこともあるようです。

ところで、開成が1871年、暁星が1888年、芝が1887年といったあたりですから、まあ100年を超える歴史を持つ学校は結構多いものです。歴史を言うのなら、1592年創立!の学寮を母体とする世田谷学園があります。

 

 (2)大学合格実績

こちらもさすがの実績です。

東大の合格者数ベスト10に、数10年間常に入っている唯一の学校であることはどこかで書きました。

  文1 文2 文3 理1 理2 理3 合計 現役合格率
2024 3 7 10 23 11 1 55 13%
2023 16 4 4 22 5 2 53 18%
2022 7 1 7 20 3 1 39 13%
2021 12 5 5 21 6 0 49 16%
2020 12 8 7 14 4 1 46 15%

東大の合格者数だけをとりあげれば、麻布よりも良い学校は多数ありますが、コンスタントに合格を、しかも数十年間にわたって出し続けるのはなかなかできません。

また、浪人する生徒も多いですね。これは、この学校に限らず、男子進学校に見られる傾向です。

既卒生の早慶合格者が多いのは、想像するに、東大(等国立)を目指して浪人したが、早慶におさまった、などという生徒が多いのでしょうか。

さらに細かく合格実績を見ていると、多摩美大・武蔵野美大・洗足音大などの合格者も散見されます。東大を頂点とする大学受験ヒエラルキーにとらわれない生徒がいるのも、また実に麻布らしいというべきでしょうか。洗足音大には音大唯一のジャズ科がありますので、そこかなあ、と想像がふくらみます。そういえばフリージャズピアニストの山下洋輔も麻布出身でした。たしか麻布から国立音大に進学したと思います。

学校自体が大学進学実績を求めてはいません。生徒の行きたい大学へ、というスタイルなのでしょう。

 

 (3)自由

麻布については、だれもが口をそろえて語ります。

「自由だ」と。

そして、その自由な校風に関連して、まるで都市伝説のようにいろいろなエピソードが語られています。

〇校則がない

 ほんとうに校則がありません。唯一あるのが生徒が考えた「麻布三禁」というもの。

◆校内での麻雀禁止

◆授業中の出前禁止

◆校内を鉄下駄で歩くことの禁止

鉄下駄っていったい?

たぶん何かのギャグなのかと思ったら、鉄下駄で歩くと校舎の廊下が痛む(それよりうるさい!)からだそうです。ということは、鉄下駄で歩いていた生徒がいたのですね。たしかに主要な教室棟は1931年に作られたそうですから、鉄下駄はダメでしょう。

〇制服がない

 いちおう昔の制服だった標準服というものが存在します。黒い詰襟で、黒いボタンが特徴です。行事用に用意する方がほとんどだそうですが、普段着用している生徒はほぼいないですね。

〇学園闘争が激しかった

1970年ごろに、学費値上げ撤回や校長代行退任を迫って、そうとう激しい闘争がありました。校長室占拠・校舎ロックアウト・全校集会・ストライキ武装突撃隊乱入・機動隊導入・逮捕、などと、とても高校とは思えぬワードが、この時代の学校史に見られます。結局校長代行の退任をもって一段落しましたが、後に山内校長代行は逮捕・懲役刑となり、民事でも全面敗訴だったそうですので、まさに生徒が一丸となって学園の自由を守ったという見方もできるでしょう。麻布の自由は筋金入りなのですね。

〇卒業生にやくざから首相までいる

やくざというのは、作家の安部譲二のことですね。また、首相は福田康夫橋本龍太郎です。その他にも、元文部科学省事務次官前川喜平氏、国際弁護士湯浅卓氏、元西武鉄道会長堤義明氏、等々錚々たる人物名が並びます。歴史の古い学校ですからね。面白そうなところでは、クイズタレント松丸 亮吾、元アナウンサー桝太一、いくらでも著名人が出てきます。そういえば、渋谷教育学園幕張の設立者田村哲夫氏も卒業生でした。

〇卒業式に、部活の服装で出席する

アメフト部はプロテクター姿、剣道部は胴着に防具、水泳部は水着で卒業式に参加する者がいたそうです。いかにも、なかんじですね。

そういえば、京都大学の卒業式もコスプレで有名です。一度YouTubeで見てみてください。笑えます。

 

2.どんな子が向くのか?


では本題に入ります。麻布中にはいったいどういう生徒が向くのでしょうか?

 

 (1)個性的な子

 同調圧力や忖度が苦手な子。空気が読めない子。よく言えば「個性的」、悪くいえば「変わっている」、そうした生徒はまさに麻布向きな生徒です。

 私の教え子でも、授業中ずっと身体が揺れていたり、教室に入ってくると謎のダンスを披露してから席についたりと、なかなか個性的な生徒が麻布に進学していきましたね。また、小学生にしてすでに長髪を染めていた生徒も進学しました。この学校は、生徒を「中学生らしく」「高校生らしく」といった型にはめることはしませんので、まさにこうした生徒に向いています。

 

 (2)ジェネラリスト

 小学6年生で「ジェネラリスト」とは大げさですが、まさにその表現がぴったりな、大人な生徒というのが稀にいるのです。博識というか博学というか、大人顔負けの知識と思考力がある生徒です。もしかしてアメリカならGiftedとして、特別な教育を受ける機会に恵まれるのかもしれません。しかし、日本では飛び級ですらほとんど認められていませんので、普通の中高ではその能力が生かせないばかりか、息苦しさを感じるかもしれません。

 開成や筑駒に行けば、学力が突出した生徒は何人もいるでしょうが、広範な知識欲を持つ生徒なら、麻布が一番向いていると思います。

 

 (3)スペシャリスト

 これも小中学生に使う表現ではないのは承知しています。talentというほうがしっくりくるのですが、どうも異なる意味になりそうですので。

 一芸に秀でている生徒、例えば将棋やチェスの全国大会レベルの子であるとか、音楽に秀でているとか、絵の才能が溢れているとか、そういう生徒ですね。あるいは、国際数学オリンピック物理オリンピックで活躍できそうな生徒もいます。そうした子にとっては、学業のテストの点だけで評価されてしまうような学校は全く合わないと思います。もちろん、開成→東大→ショパンコンクール入賞といった人も存在しますが。

 この1芸に秀でている子、一つの才能を伸ばしていきたい子にとっては、麻布という学校はうってつけの学校です。多様な価値観を標榜する学校は数多ありますが、本当に実践されている学校はここくらいじゃないでしょうか。

 

 (4)自立した子

 これは皆が同意してくれると思います。すでに自我が確立し、自分の行動を自分で統制できる、つまり自立した子なら、麻布の空気に流されることなく、きちんと自分の道を歩むことができると思います。

 中高生の歩むべき道は、まずは勉学です。ここをきちんとやらずして、自分の好きなことだけをやっていけるほど社会は甘くない。遊びは遊び、学びは学び、ときちんと区分けしてどちらも充実させられるなら、最高の6年間が過ごせることでしょう。

 

 逆にいえば、自立していない子、流されやすい子が麻布に進学するのは危険です。

いわゆる身を持ち崩すというのでしょうか、遊びに遊んだ6年間の後に待ち受けるものは、と考えると怖いものがありますね。

 

 (5)東大・医学部にこだわらない子

 もちろん、鉄緑会に通う生徒も多数ですし、合格実績もなかなかです。

かといって、学校が積極的に東大を目指させるなどということは一切ありません。特別な進学コースなどもありません。もちろん特待生制度もありません。

「何が何でも東大理3!」という子は、麻布を選ぶべきではないでしょう。

最近は違うようですが、昔は必死に勉強している姿を見られるのは恥ずかしいことだという価値観(?)があったと聞きました。定期試験前夜に集まって徹夜マージャンをするのだそうです。徹マン! 昭和のカルチャーですね。 つまり、試験前日でも遊ぶ余裕があるアピールなんですかね? それで良い成績をとるのが格好いいということなのでしょう。青臭いといえば青臭いスタイルですが、いかにも麻布らしいですね。

 

 

 (6)字が汚い子

一般には、賢い子は字が綺麗で、賢くない子は字が汚い、と思われがちですが、まったくそうではありません。成績的に真ん中以下の子にはそれがあてはまるのですが、成績上位の子になると、成績と字の綺麗さは相関関係がありません。

 もちろん、字が丁寧で綺麗な子のほうが、教師はうれしいものです。記述の添削指導のたびに、暗号解読をしなくてすみますので。しかし、「この生徒は麻布に向いているなあ」「この知能は、まさに麻布向きだ」と思わせる生徒は、なぜか皆字が汚いのです。これは、単に字が雑だとか綺麗に書けないとかいうことではなく、おそらく頭の回転スピードと文字を書くスピードが一致していないために字が汚くなっているのだと思います。

 読み難い文字をなんとか判読しなら記述答案を見てみると、実に鋭い意見が展開されている。もしお子さんがそのタイプなら、麻布に進学すると同類ばかりで楽しくなると思います。何年か前にも、「この字では誰も読めない!」と毎回注意していた悪筆の極みのような生徒が、麻布に進学しました。あの字を判読してくれるとは、なんて懐の深い学校だろう、と感心したものです。

 

 だからといって、字が汚いことが合格の条件ではありません。

 

 (7)最近は普通の生徒が増えてきた

 学校の先生曰く、最近は破天荒な子が少なくなってきたそうです。たしかに、受験する生徒を見ていても、真面目な良い子君が多くなってきたような気が私もします。以前ほど心配することはないのかもしれません。