中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

入試当日のアドバイス:入試本番で、あと1点をもぎとる方法

いよいよ入試本番ですね。

ここまでくると、私としても、受験生全員の合格を願う気持ちとなっています。

しかし、そうはいかないのがつらいところです。

さて、今日は入試本番に向けて、「あと1点をもぎとる」ためのアドバイスをしたいと思います。

これは入試直前に生徒たちや保護者のみなさんによく話してきた内容です。

1.保護者のみなさんへのアドバイス

 (1)慌てない・焦らない・うろたえない

 実は、入試本番を迎えると、子供よりむしろ親のほうが緊張するものです。今までの子育ての中で、子供が遭遇する事態の大半は親のコントロールが可能でした。しかし、中学入試はそうはいきません。親が子供の代わりに受験することはできないのです。そして、誰だって努力してきたわが子には笑顔で合格発表を迎えてほしい。子供の涙は見たくありません。こうした感情の高まりから、普段ではありえないようなエラーを親がしでかすことがあるのです。そうした際に、親がどこまで平常心を保ち(保っているふりをし)、落ち着いて(落ち着いたふりをし)子供に接することができるかが重要です。

過去、私が実際に遭遇したケースをいくつか紹介します。

  ◆受験票を忘れた

 まさか! と思いますよね。でも、実際にあるのです。

 コロナ禍以前には、入試当日に早朝に中学校の校門前に塾の教師がずらりと並んで、自分の教え子の激励をするのが通例でした。その親子も、私の前にやってきたので、子供に声掛けと握手をして会場に送り出したはずでした。しかしその直後に、半狂乱状態のお母さまが私のもとに駆け寄ってきたのです。よりによって受験票を忘れたとのことでした。その後ろに立つ子供は、泣きながら母親の背中を叩いています。

とりあえず目立たぬ隅に連れて行き、もう一度探すように言いました。しかし、見つかりません。そこで、この親子を試験会場の案内をしている学校の先生のもとに連れていき、事情をお話ししました。学校側で出願データを調べていただき、仮の受験票を出していただいて無事受験することができたのです。

受験票忘れは言語道断ですが、慌てず対処すれば何とかなるものです。こうした時こそ、親が落ち着いてみせなくてはいけませんね。

昨今はWeb出願が主流(ほとんど)になりました。各中学校の使っているシステムも、そのほとんどがmiraicompassです。そのため、各中学校の受験票のレイアウトデザインが酷似しています。非常に紛らわしいのでご注意ください。

  ◆遅刻した

 試験の集合時刻を過ぎると、校門前の塾教師の行列はなくなります。みな急いで塾へ戻るのです。何といっても寒いですからね。夜明け前から2時間も外に立っていれば、体の芯まで冷え切っています。その日は私は試験開始時刻まで、あと30分ほどは待っていました。この中学校を受験予定の生徒を一人見かけていないからです。もっとも、一番混雑する時間帯には、外の道路まで受験生親子があふれるほどの人混みでしたので、生徒が気づかずに通り過ぎた可能性は高いです。さて、試験開始時刻も過ぎたので、私も帰ることにしました。駅に向かって歩き出すと、向こうからすごい勢いで走ってくる親子がいます。私の生徒でした。私の顔を見た瞬間、お母さまは半泣きになって、遅れた理由を言っています。息が絶え絶えで何を言っているのかわかりません。私も横を並走して学校にもどりながら、とにかく走るのをやめさせました。速足で学校に戻ると、すぐに学校の先生を捕まえて事情をお話しします。学校の先生は心得顔で、「まだはじまったばかりだから大丈夫だよ。」と生徒に声かけをしながら試験会場に案内してくださいました。

 少しの遅刻なら、なんとかなる場合が多いです。それより親の焦りは確実に子供に伝染します。そんな状態で受験させてはいけませんね。

 ところでこの親子の遅刻の原因は、父親にありました。ちょうど中学校が父親の通勤経路にあったのですね。駅に向かって母子が家を出ようとすると、父親が「寒いから車に乗っていけ」と、こうなったのです。そして渋滞にはまりました。途中で母子は車を降りて、最寄りの駅から電車に乗ったのですが、間に合わなかったのですね。

 「必ず公共交通機関で!」と口を酸っぱくしてアドバイスしていたのですが。

 

  ◆忘れ物をした

 鉛筆・消しゴム・定規・コンパス・上履き等、受験上の注意にちゃんと書いてあるのに忘れ物をする方がいますね。それも一人や二人ではありません。これらは近くのコンビニで買えますので、あわてる必要はないのです。

 

こうしたことがあるから、私は生徒たちに、「親を信用せずに自分で確認しろ」とアドバイスをしているのです。

  ◆受験結果が思わしくなかった

 確実におさえる予定だった受験校がまさかの不合格。あわてて出願した学校の受験日のことです。私はその生徒一人を激励するために校門の前で待っていました。すると坂の下から必死の形相の母親に手を引きずられるようにして子供がやってきました。

名前を呼び掛けても気が付きません。周りを見る余裕すらなくなっているのです(母親に)。そうして子供は試験会場に引きずられていきました。

 お母さまの気持ちもわからなくはありません。まさかの不合格について、子供を責める気持ちでいっぱいなのでしょう。でも、その感情を子供にぶつけても何のプラスにもなりません。最後まで笑顔を保ってください。

 

 (2)ママ友と一緒に来てはいけない

 たまにいるのです。仲のよいお母さま達が楽しそうに話しながら校門を入ってくることが。

まさか自宅近くで待ち合わせたのではないでしょう。たまたまどこかの駅か電車で出会って、そのまま一緒に来たものと思われます。親も不安ですからね。

 しかし、厳しい言い方をしてしまうと、その親子はライバルです。楽しそうに話をしている場合ではありません。なぜなら、子供への注意が削がれるからです。お子さんを見てください。子供どうし、楽しそうにふざけあってはいませんか? この子供の精神状態は確実に試験にマイナスとなります。途中で遭遇したとしても、軽く会釈して距離をとる、これが良識というものです。

 

2.子どもへのアドバイス

 (1)緊張は味方だ

おそらく、こんなことを受験生に言っているのは私だけだと思います。

大半の教師が、「落ち着いていけよ」「だいじょうぶだから」「普段どおりの力を出せばいい」「リラックスしていけ」「試験を楽しんでおいで」などと言っています。

しかし、本番の入試で、しかもその学校への思い入れが強い子どもが、そう言われたからといってリラックスできますか?

 むしろ、子供のミスというのは、リラックスしているときに多発するものです。適度な緊張はむしろ望ましい状態であるといえます。

 実は緊張が悪影響を与えるのは、スポーツや楽器などの、微妙な肉体のコントロールを要する場合です。

 例をあげますね。

 私は、実は緊張というものはあまりしないタイプです。とくに人前で話をするときに「あがる」ということはありません。1000人ものお客の前で講演するというときも、まったく「あがる」ことはありませんでした。むしろ、「皆が私の話を聞いてくれている」という状態が快感ですらあるのです。演壇から客席を見渡すと、一人ひとりの顔をはっきりと見えます。そこで気持ちよく話していたものでした。

 しかし、そんな私がはじめて「あがる」経験をしたのは、自分の初めてのピアノ発表会でした。(大人になってからピアノを習い始めた経緯についてはすでにさんざん書いているので割愛します)

ステージ袖で自分の出番を待っていると、ひざに力が入らずに、手の指がふるえてくるのですね。「もしかして、これが皆が言っていた『あがる』ってやつなのかな?」と初めて思いました。自分の番がきて、ピアノの前に座っても、目の前にある鍵盤がまるで見知らぬ白黒模様の何かにしか見えません。完璧に暗譜しているはずなのに、どの音から弾き始めるのかすらわからなくなっています。さて、そんな状態での演奏がどうだったかは言うまでもありませんね。客席からは同情と励ましの拍手をいただきました。ショパンのワルツを弾いたのですが、その後ショパンを一切弾かない理由がここにあるかもしれません。

 また、スポーツでも同様の経験はあります。学生時代にバスケットボールを少々やっていたのですが、フリースローシュートって、なぜか外すんですよね。練習ではほとんど失敗しないのに、本番では微妙にシュートのコースがずれるのです。プロの試合を見ていても外す場合がありますので、ほんのわずかの緊張が指に伝わってしまうのでしょう。

 しかし、こうした楽器やスポーツと試験は全く異なります。緊張したから鉛筆が握れなくなることもなく、字が書けなくなることもありません。むしろ適度な緊張は、テストへの集中を生み出します。

 緊張しないことなど所詮無理なのですから、ここは緊張を味方につけるほうが得策ですね。

 かわいそうな実例をあげます。

 そのクラスには、非常に優秀な生徒(太郎君としておきます)がいました。授業中も、テスト結果も、常にトップレベルです。都内最難関の私立中を志望していましたが、合格は確実視されている、そういう生徒でした。そしてそのことを周囲だけでなく太郎君本人も自覚していたのです。さて、入試結果は予想外なことに太郎の不合格という結果でした。試験期間が終わってから遊びにきた一人の生徒がこう言っていたのです。(この生徒も同じ学校を受験し、合格しています)

「先生、俺さあ、太郎は不合格になるって思ってたよ。」

(嫌なことを言うなあ)

「なんでだ?」

「だってさ、あいつ試験のとき、浮かれてたんだぜ」

太郎君は、試験会場に、その中学校の学帽(いったいどこで入手した?)を被って現れたそうです。試験前も、試験の合間の時間も、塾仲間と声高に笑いあい、周囲の真剣な受験生から浮いていたといいます。

「俺なんかさあ、受かるかどうかわかんないから必死なのに、太郎はいい気なもんだよなあ、って思ってたんだ。」

そうなのです。

緊張感のない受験は、決して良い結果にはつながらないのです。

緊張のし過ぎ(頭が真っ白になって何も答えが出てこない・鉛筆が握れない)は困りますが、適度な緊張感で受験しましょう。

 

 (2)字は大きくはっきりと濃く書くこと

 今さらの注意ですが、とても大切なことです。

自信のないとき、字が小さく弱弱しくなる、こうした答案用紙をどれだけ見てきたことか。そんな字を見た瞬間に×をつけたくなってしまいます。そしてほとんどの場合、解答が間違っているのです。

 別に字を大きくはっきりと濃く書いたからといって、間違えが正解になるわけではありませんが、採点をしてくださる先生方への礼儀として、きちんとした字で書くのは当然だと思っています。

 また、もう一つの理由があるのです。

最近は、入試において「電子採点=デジタル採点システム」を導入する学校が増えています。こうした学校では、普段の定期試験でも活用しているようですね。

デジタル採点システムはこのように運用されます。

1.答案用紙をスキャンする

2.同じ問題だけを切り取って画面上で並べる

3.複数の教師がその画面をみながら採点する・・・〇・×・△部分点が入力するだけで画面上に現れます

4.複数の教師の採点結果が異なっていたもののみ自動抽出されるので採点ミスをチェックする

5.小問ごとの正答率が瞬時に計算される・・・あまりにも正答率が低い場合は、出題ミスの可能性が高いですので、それもチェックできます。

 

最近は合格発表が早まる傾向がありますね。当日発表は当たり前、午後入試ですら当日に合否が出ます。受験生にとっては非常にありがたいのですが、学校の採点は大変です。いったいどうやっているのか? というと、このようになっているのです。

中には、記号だけなら自動採点が可能なシステムもあるようですが、生徒の汚い字の読み取りは難しいため、採点だけは教師が画面上で行っている場合が多いでしょう。記述答案も、複数の生徒の解答をずらりと並べて採点できるので採点のブレが減りスピードも速くなります。

 もうおわかりですね。スキャンするときに、読み取れないような細く薄く小さな字は、それだけで不利だと思います。(技術の進歩でどんな字も読み取れるようになったとはいえ)

 (3)筆記用具の準備

定規・コンパスの有無など学校によって指定がありますので、きちんとチェックしましょう。異なる学校の受験が続きますので、とくに注意が必要です。例えば、開成中学の受験上の注意にはこう書かれています。

以下の物品を必ず持参してください。
 受験票、黒しんの鉛筆またはシャープペンシル、消しゴム、コンパス、直定規、三角定規一組 (10 ㎝程度の目盛り付き)、弁当
 なお、上履きは必要ありません。

また、広尾学園の場合はこうでした。

◆試験当日の携帯品
受験票、筆記用具、(鉛筆またはシャープペン、消しゴム)
※ 電卓、辞書付きの時計、下敷きは使用できません
 休み時間に水分補給をすることは可能ですので、水筒やペットボトルの持参は可能です。 

筆箱は机上に置けません。そこで、このような準備をします。

〇鉛筆・・・2Bである程度の長さがあるものを数本、輪ゴムで束ねておく(シャーペン派と鉛筆派では本数は異なりますね。)。4教科なら4セット用意します。そうすれば、科目の切り替えのときに新しい鉛筆セットを取り出して机に置くだけですみます。

 理由はわからないのですが、妙にちびた鉛筆を使っている生徒をよく見かけます。物を大切にするのは良いことですが、程度問題です。使いやすい長さのものをそろえてください。

シャープペンシル・・・シャーペン派の生徒も多いですが、授業中に分解修理していたり芯を入れたりしている生徒をよく見かけます。そんなこと試験中にやっていたら愚かすぎます。使い慣れたものを最低でも2本用意しましょう。

また、芯の太さ・硬さもおすすめがあります。大半の生徒が0.5mmのものを使っていますね。一番ポピュラーだからです。しかし、小学生には芯が細すぎます。普段のノートに細かい字で記入するのには適しているのでしょうが、試験の解答用紙に書くには細すぎるでしょう。また、芯も折れやすいですね。

そこでお勧めなのが、0.7mmのシャープペンシルです。普段使いには、0.9mmのものが使いやすいのですが、試験の解答用紙に書くには少々太いですね。そこで0.7mmです。少し大きめな文房具屋なら、数種類見つかるでしょう。芯の硬さはB2Bを選んでください。

0.7mmシャープ

写真のシャープペンシルは、「pentel TUFF」という商品です。0.5㎜/0.7㎜/0.9㎜の3種類がありますが、もちろん選ぶのは0.7㎜。これは私のほれ込んだシャープペンシルです。その理由は下の写真をごらんください。

消しゴム部分

30mmもの長さの回転繰り出し式の消しゴムがついているのです。

シャープペンシルの消しゴムって、おまけのような小さいものがついていて、実用には耐えないものばかりです。実際に使う機会もエマージェンシーの時だけですね。ところが、このシャープペンシルは、しっかりした実用に耐える消しゴムが付属している、唯一無二のシャープペンシルなのです。もちろん消しゴムの替えも販売されています。

トンボのMONOgraphシャープペンシルには繰り出し式のMONO消しゴムが付属していてこちらも魅かれますが、上下に振ることで芯を繰り出す構造なのが難点です。ともかくシャープペンシルはシンプルな構造に限りますから。しかも0.5mm/0.3mmのラインナップのみとなっていて、候補外となりました。

別にぺんてるの回し者ではありませんが、消しゴムに持ち替える手間すら惜しい時には実に助かると思います。私もこれを愛用するようになってから消しゴムに手を伸ばす機会がめっきりと減りました。

〇消しゴム・・・なぜか鉛筆同様、こちらも妙にちびた消しゴムを愛用している生徒が多いです。しかし、こうしたちびた消しゴムはよく転がります。すぐに机上を脱出し、床を転がり逃げていきます。しっかりした四角い形状のものを2個、机に置いてください。ブランドは何でもいいですが、「MONO消しゴム」で決まりですね。どこでも売っていますし、確実な消し実力ですから。

※学校によっては消しゴムを包む紙の部分を剥がす指示が出ていますので、受験案内をご確認ください。

 

 (4)忘れ物は自己責任

試験を受けるのは子どもです。親ではありません。持ち物チェックは子ども本人が自分でやってください。

 (5)試験会場へのアクセス確認も自己責任

合格すれば、毎日通うことになる経路です。路線・乗り換え駅・所要時間等、事前に確認するのは自己責任です。試験当日、お母さんが高熱を出したらどうするのですか?受験をあきらめるのですか? 一人でも行けるようにしておくのは基本です。

 (6)友達と行かない・ふざけない

 試験会場で塾友と会うかもしれません。同じ中学校を小学校の親友が受けるかもしれません。でも、決して一緒に行ってはいけません。試験会場でふざけあってはいけません。これはたった一人で臨まねばならない試練なのです。よりよい緊張感を保っていきましょう。

 (7)1科目終わった瞬間に忘れる

 できなかった問題・自信のない解答、気になることはたくさんあるでしょうが、次の試験に全力集中するためには、過去を振り返ってはいけません。次のテストのことだけを考えましょう。

 

 (8)慌てて解きださない

 試験問題が配られ、はじめの合図があっても、慌てて鉛筆を走らせてはいけません。まずは問題冊子を最後までめくって、全体の問題量を確認します。もしかして最後のほうに自分の得意な問題があるかもしれません。そこから解きはじめましょう。狙っているのは、満点ではなく、合格点です。解ける問題を確実に解く、これが高得点の秘訣です。

 

 (9)空欄を残さない

 たとえ全くわからなくても、何か書いてください。それには2つの意味があります。

◆わからない問題を後回しにしたときに、解答欄がズレるミスを防げる

◆もしかして当たるかもしれない

 (10)記述はチャンス

記述問題は苦手ですか? 安心してください。みんな苦手です。だから、素晴らしい答を書かなくてもよいのです。普通のことを普通に書くだけで、ちゃんと点がもらえます。

 

直前の勉強法についてはこちらでも記事にしています。

peter-lws.hateblo.jp