中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】受験生なのに、夏休みは家族旅行に行ってもいいですか?


みなさん、ゴールデンウィークはご家族で旅行されましたか?

まあ激混みのこの時期を外して旅行される方も多いかもしれません。

私は、職業がらもう30年以上、ゴールデンウィークに旅行に行ったことはありません。世間の休みが我々の出番ですので。とはいうものの、テレビで「今年も成田空港はゴールデンウィークの出国ラッシュで・・・」などという報道をみると、なぜかイラっとしてしまう私は、小さい人間ですね。

さて、夏休みが近づくと、必ずと言っていいほどされる質問があります。

「夏休みは家族で旅行してもいいですか?」

もちろん、低学年のお子さんについてではありません。高学年、小4~6までのお子さんについての質問です。

そんなものは各家庭の事情や方針なので、好きにすればいい。

といってしまっては身もふたもありません。真剣なお悩みなら、真剣にお答えしたいと思います。

 

1.夏休みが受験の天王山というのは本当か?

ところで、天王山というのは、京都府の南にある、たいして高くもない(標高270m)ちょっとした山です。この山が有名になったのは、織田信長本能寺の変で打ち取った明智光秀と、主君の敵討ちを果たそうとする羽柴秀吉が戦ったからですね。いわゆる山崎の戦いです。1582年7月12日、毛利氏と和議を結んで引き返してきた秀吉軍と光秀軍がぶつかります。実際の戦いは天王山の東側の湿地帯から淀川沿いにかけて行われました。

もちろん結果は、ご存じのとおり光秀軍の敗北に終わります。俗にいう「光秀の三日天下」というやつですね。「三日天下」という表現の由来だそうです。実際には13日弱ですが。

秀吉は主君信長の敵を討つことで、信長の後継者としての地位を固めていくのですね。

というわけで、「天下分け目の天王山」という表現が生まれたのです。

さて、受験の世界で「夏は受験の天王山」と言われるようになったのはいつ頃からなのかはわかりませんが、中受・高受・大受によらず、塾・予備校の教師は口を揃えてそう言いますね。

皆さんの頭にもすっかりと、「夏を制する者は受験を制す」だとか、「夏は挽回のチャンス」「夏で勝負がつく」などと刷り込まれてしまったことだと思います。

しかし、私は天邪鬼なのです。皆が右を見ているときには左を、前を見ているときには後ろを見てしまう損な性分です。こうまでして皆が口を揃えて「夏は受験の天王山」と言っていると、つい「本当にそうなのか?」と疑問を持ってしまうのです。

 (1)受験業界の実情

中受に限らず、受験業界というのは、子どもたちが学校に行っている時間以外の時間に教える商売です。

平日だと、17時から20時、せいぜい21時までの3時間~4時間が塾の指導時間です。

小4くらいだと、週に2日として、6時間くらいでしょうか。小6でも、週3回としても週に12時間程度しか塾で指導することはできません。

ところが、夏休みは違います。

40日間の夏休みのうち、仮に半分の20日を授業にあてたとして、60時間~100時間くらいは授業時間が確保できるのです。

これは、実に普段の2か月分以上に相当します。

もちろん、午前・午後、前半・後半と学年を分けて講習を設定する塾が大半かと思います。

なかには、6年生については40日間をフルに拘束して指導する塾もありますね。

 〇これだけの時間が確保できれば、どれだけの指導ができるだろうか?

 〇これだけの時間を通ってもらえれば、どれだけの売上が見込めるだろうか?

現場の教師の感覚としては前者ですが、経営サイドからすれば後者が重要でしょう。

いずれにしても、夏休みに生徒が夏期講習を受講してくれないと、指導面からも、経営面からも、「まずい」のです。

だからこそ、「夏は休まずに講習に出席するように」という話の流れとなります。

 

 (2)学習は習慣である

 中学受験生なら、普段は毎日小学校に通っています。学校での勉強を考えなかったとしても、毎日の習慣が確立しています。

これが夏休みは崩壊します。

・いつまでも寝ている

・いつまでも起きている

・だらだらと過ごす

・すぐ遊んでしまう

考えただけでぞっとしますね。これは夏休みは塾にでも行かせるほかありません。

 

 (3)カリキュラムがこなせない

 中学受験に向けたカリキュラムはタイトです。みっちりと隙間なく必要な単元が詰め込まれています。夏休みをそっくり省略できる余裕など無いのです。

 

 (4)時間をつかった問題演習の好機

 とくに6年生の話です。入試に向けて入試問題の演習を行うことが重要なのですが、4科目をまとめて解かせる時間は、正直いって夏休みくらいしかありません。ここを捨ててしまうといつやらせるのでしょう?

 

 (5)自前で教材を用意できない

 塾はプロですので、夏休みにやらせるのにちょうどよい質・量の教材を用意してくれています。自前で問題集などを買いそろえるより、はるかに効率的です。

 

 (6)毎日家で親子で顔を突き合わせていると軋轢が生じる

 学校にも行かず、塾にも行かず、毎日親子で顔を突き合わせていることを想像してみてください。それなら塾に行かせたほうがましですね。

 

まだまだ他にも、夏期講習に参加すべき理由は挙げられるのですが、これくらいにしておきます。

結局は、夏休みは旅行など行かずに、夏期講習三昧が正解ということでしょうか?

 

答えはYES & NOです。

 

2.夏期講習に行かないという選択

 上述したように、塾の用意した夏期講習カリキュラムに乗ってしまうのが、一番簡単で効率的です。

 しかし、あえて夏期講習に参加しないという選択肢も存在します。

 上で書いた(2)~(6)を解決してしまえばよいのです。

 

 (2)学習習慣を自宅でキープできる

 (3)カリキュラムを立てられる

 (4)問題演習を家でやらせられる

 (5)教材を書店等で用意できる

 (6)毎日親子で過ごすことに問題はない


これらが可能なら、夏期講習は不要です。

その場合は、好きなタイミングで好きなだけ旅行に行くことができるでしょう。

しかも、旅行中もカリキュラムを消化することが可能です。

 

3.ミニ旅行で手をうつ

 「夏休みの家族旅行」というと、少なくとも1~2週間くらいかけて、ヨーロッパやハワイに行くイメージでしょうか?

 それとも、実家のある北海道(例えば)に行くイメージでしょうか?

 いずれにしても、長期の旅行がイメージされるかもしれません。

しかし、何も長期旅行ばかりが夏の旅行ではありません。

国内なら、1泊2日や二泊三日でも、どこにでも行けますし、十分に旅行を満喫できます。

しかも小学生くらいですと、正直なところどこへ連れていっても親が考えるほどの感動や影響は無いようですね。

大型旅行は中学生になってからの夏休みの楽しみにとっておくとして、国内旅行に1~2度ほど連れていくというのは正解だと思います。

海水浴を楽しむなら、ラングドックルシオンやカンクンまで行かなくても、沖縄や西伊豆でも十分海はきれいですし。プールサイドの素敵なホテルだってどこにでも見つかります。

 

4.勉強継続させるなら長期旅行も可

 夏休みの学習の最大のポイントは、

◆まとまった時間を確保できる・・・入試問題演習等

◆学習習慣を継続する

この2つにあります。

逆に言えば、この2つがキープできるなら、別に何日旅行に行こうと構わないということになります。

ハワイのプールサイドで入試問題を解かせろといっているのではありません。

さすがにそれは可哀そうすぎます。しかし、これならどうでしょう?

夏のハワイは暑いです。昼間に外を出歩くのは快適とは程遠いですね。私もこの時期にハワイに行くときには、例えばこんなタイムスケジュールです。(家族ありバージョン)

〇朝・・・5時過ぎには起きますね。時差ボケかもしれません。夏のこの時期なら夜明けは6時くらいですので、夜明け前のひんやりと静かなワイキキの散歩など素敵です。

〇午前中・・・朝食後すぐにカイルアビーチに行くのが恒例です。朝早くに出れば道も空いているので30分で到着します。午前中のカイルアビーチは犬を散歩させている地元の方くらいしかいなくて空いていて気持ちよいですね。

〇昼・・・カイルアからの帰りに、パールリッジやカハラモールあたりによって昼を食べがてらショッピングもいいですね。最近はカイルアのホールフーズで美味しそうなものを買って帰ってきてホテルで昼食というパターンも多いです。

〇午後・・・昼過ぎから夕方まで、ホテルの部屋で昼寝をしたり本を読んだり。

〇夕方・・・この時期の日の入りは7時ごろです。早夕飯を食べた後、夕焼けを見ながらラナイでビールを飲むのが好きです。

〇夜・・・早く寝ますね。もっとハワイの夜を満喫したいのですが、ラナイでバーボンのグラスを片手に夜風に吹かれていると、ついウトウトと。

 

完全に怠け者のライフスタイルですね。

さて、暑い昼の時間帯は冷房の効いたホテルの部屋で昼寝に限るのですが、ここで子どもに勉強させればいいのです。

さらに、早朝と夜にも少しずつ勉強時間がキープできます。合計で7時間程度の確保など簡単です。

こうすれば、親も、あるいは兄弟も我慢せずに旅行をエンジョイしながら、受験生も勉強ができるというわけです。

もちろん、ハワイに限らず、沖縄でも北海道でもよいでしょう。旅行の楽しみつき勉強合宿といった趣ですね。

 

5.夏に頑張ったと言い切るために

 全力集中しての5時間勉強と、だらだらとした10時間勉強では、あきらかに短時間集中のほうが学習効果は高いのはおわかりいただけるでしょう。

夏休みの40日間、朝から晩まで集中を途切れさせずに勉強し続けることなど不可能です。

頑張ったとしても、最初の3日で終わるでしょう。あとはとりあえず机に向かってはいたけれど、といった勉強になるのが関の山ですね。

それくらいなら、旅行というスパイスを上手に使いながら、集中特訓学習に臨んだほうがましというものです。

 

もちろん、夏が終わったときに、

「旅行に行ったから予定が消化できなかった」となっては言語道断です。

また、「旅行には行ったけれど、予定は消化できた」もいけません。

「旅行に行ったからこそ、余計に頑張れた」となることが重要です。