中学受験のプロ peterの日記

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中学受験のための塾にはいつから入塾すべき? その2 (2024.3.18加筆修正)

 

※2024.3.18加筆修正

前回の記事

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の続きです。

 

通塾タイミング

おすすめのタイミングは3年最後の冬期講習

 塾に入れるタイミングは、通常なら4年生の4月だが、その少し前の3年生の冬期講習からの入塾をおすすめすると書きました。その理由についてご説明しましょう。

【理由その1】

小学1年~3年生という、低学年から塾に通わせる方が増えています。

1.なるべく良いスタートを切らせたい

2.低学年の学習を家で見ることができないから

3.周りがみな通い始めたから

4.希望する塾の定員がすぐ埋まるから

 このように理由は様々です。聞くところによると、塾・校舎によっては定員が埋まってしまい、4年生からでは入塾できないそうです。どうせ生徒獲得のための営業トーク(今入塾しないと入れなくなりますよ、というやつです)だろうと思っていたら、本当に募集打ち切りの校舎・学年がいくつもあって驚きました。いやあ、殿様商売の塾もあるものだなあ、と思います。

その他にも定員を10名と絞りに絞って、保護者を焦らせる戦略(おそらくは)をとる塾も多くあります。

 まあ、塾の席を確保するため低学年から入塾という理由もどうかと思いますが、4年生になるより少し前から塾をスタートさせることにはメリットがあります。それは、自己肯定感を下げなくてすむということです。

 中学受験を考えようとするご家庭のお子さんですから、おそらくは小学校(公立)での成績は優秀だと思います。カラーテストで満点以外とったことなどなく、勉強ができる子、という周囲からの評価を得続けてきたはずです。それはとても素晴らしいことですね。ところが、いざ塾に入ると、たちまちショックをうけるでしょう。周囲の生徒達がものすごく優秀(なように見える)からです。このくらいの学年で学ぶ内容というのは、先取り内容がほとんどです。まわりの生徒達はすでに知っていて、先生の質問にもどんどん答えているのに、自分は知らなくて答えられない。これはやる気を削ぎますよね。だからこそ、少し早めのスタートをきることで、4月からの授業をエンジョイする余裕を作ってほしいのです。

 

多くの塾では、3年の冬期講習は、3年生の学習内容の総復習的なカリキュラム構成とします。さらに2月・3月は先取り内容を控えます。春期講習でまた3年生の総復習を行います。塾の生徒獲得へ向けた戦略としては王道の組み立てですね。

ということは、冬期講習から入れば、3年生の復習を2週するチャンスができるのです。それくらい学習しておけば、4年生からの授業にもスムーズに移行できることでしょう。

 

【理由その2】

 2つ目の理由は、転塾の余裕を作りたいということにあります。一発目で信頼できる塾にぶつかれば良いのですが、なかなかそれも難しいです。かといって、コロコロと塾を変えるのも失敗への一直線コースです。

 どの塾にも長所もあれば短所もあります。それがご家庭の方針やお子さんの性格と合うかどうか、マッチングはなかなか難しいですね。だから、まずは近所の塾に入ってみて、合わないようだったら転塾する、というのは合理的な考えだと思います。

 とはいえ、4年生の受験カリキュラムが走りだしてからの転塾には勇気が必要ですし、あまりお勧めできません。隣の芝生は青く見えるものなのです。自分がいる環境で努力できない生徒は、どんな塾に移ったところで飛躍的に伸びるはずもありません。

 4年の4月には、この先3年間通うことになる塾に腰を落ち着けていたいと考えると、3年生の冬期講習からのスタートがベストだと思うのです。そこで気に入らなければ、1月から、あるいは2月から別の塾に行ってみてもいいと思います。さすがに3回も4回も転塾するのは良くないと思いますが、お子さんにとっても不慣れな環境での学習が始まるわけですから、冬休み~2月の期間は、塾選びの期間くらいにとらえて、じっくり塾選びをすすめればよいと思います。

 その上で、できれば、春期講習からは継続して通うつもりの塾に行ってほしいと思います。4月から幸先のよいスタートを切るためにも、春期講習から慣れていったほうがよいですね。

 

低学年からの通塾のメリットとデメリット

 

 それでも、低学年、たとえば1年生からの通塾をする場合には、そのメリットとデメリットをしっかり考えるべきだと思います。

 

 【メリット】

 これは前述した項目があてはまるでしょう。

1.なるべく良いスタートを切らせたい

2.低学年の学習を家で見ることができないから

3.周りがみな通い始めたから

4.希望する塾の定員がすぐ埋まるから

私の感覚では、2と3の理由から塾に通い始める方が多いように思います。

実は低学年の学習は難しいのです。この時期には、先取り学習はお勧めできません。まだ頭脳の発達が伴っていない段階で、例えば1年生に日本国憲法を暗記させても(極端な例ですが)全く意味がないことはお分かりいただけると思います。また公文式のように、中学数学まで突き進むような学習もまた、中学受験の算数には役立ちません。国語のように、入試では大人同様の読解力を要する文章が出てくる教科では、まさか低学年の生徒に中学生の淡い恋心や両親の離婚と再婚に翻弄される主人公の気持ちを理解できるはずもないですよね。
 英語だけは、低学年からの学びは有効な教科です。とはいえ、低学年のうちに英検2級だの1級を目指すのは賛成できませんが。

 こうして考えると、低学年のうちの家庭学習というのは実に難しい。書店に行けば様々な教材が売られていますが、その大半は「先取り」「暗記」「反復演習」のようなものばかりです。〇〇マス計算などが典型でしょうか。頭脳の成長を促すような思考力系の教材を探すのは困難です。

 それならばいっそのこと、プロにおまかせしよう、ということで通塾を開始するというのはありですね。

 通信教材というのも手なのですが、選ぶのは難しいと思います。この通信教材については、またいずれ書きたいと思います。

 

 【デメリット】

1.時間がなくなる

2.成績に一喜一憂するようになる

3.高学年になって失速する

4.たいした内容ではない(場合が多い)

 

いちばん多く言われているのが、3の理由でしょう。「そんなに早いうちから塾に入れると、高学年になってから失速するわよ。後から入ってきた生徒にどんどん抜かされていくんだから。」なんて言う方が実に多い。

これはデマです。

高学年になってからの失速は、別に低学年から通塾していたから起きる現象ではありません。もし通塾していなければ、もっと低いところに位置していたはずなのに、そのあたりのポジションで踏みとどまれている、そういう見方もできますよね。

これは単に「他人のやっかみ」であると無視してよいでしょう。

むしろ注意すべきは1と2です。

低学年の授業は、どの塾でも週に1~2回程度ですし、授業時間も短いものです。とはいえ、いわば習い事が一つ付け加わるのですから、時間はとられます。これはデメリットです。それを少しでも減らすためには、自宅からなるべく通いやすい塾にしましょう。いくら評判が良い塾・教室があったとしても、電車やバスを使っての往復は無駄な時間です。また同様に、拘束時間の長い塾は避けるべきですね。

 2のデメリット、これはご家庭の雰囲気づくりで何とでもなるデメリットです。まだまだ低学年のうちの成績など受験の頃には全く意味をなさないものです。

◆楽しそうに塾に通っている

◆帰宅すると授業の様子をたくさん話してくれる

◆小テストで高得点を褒められたことなど実にうれしそう

◆教材が優れている

こうした通塾なら、低学年からの塾もおすすめしたいです。

4については、業界裏事情からお話します。

前回も書きましたが、もともと中学受験のためのカリキュラムのスタートは4年生4月がスタンダードでした。塾は新学年を2月からとするのですが、それはあくまでも塾の内部事情です。一般には、小学4年生になった4月から塾に通い始める方が大多数でした。6年生の2月のXデーに向けてカリキュラムを組み立てると、4年生の4月からというのが適切です。それを前倒しすることに意味はありません。まだ頭脳の発達が追いついていないのです。

 しかし、どの塾もこの時期に最も集客に力を入れます。一度入塾すると滅多にやめませんので、ここで生徒を獲得しておかないと営業的に厳しいのですね。

 そこでどこかの塾が考えたのです。

3年生から始めたらどうだ?

3年生の9月あたりからの授業をスタートしたのですね。

あとはご想像のとおりです。各塾が同じ思惑で動き始めた結果、今では新1年生の入塾テストを1年生になる前の冬、幼稚園年長!の時期から実施するようになってきました。

テレビの放送開始時刻を思わせます。

昔は7時、8時といったきりの良い時間から番組がスタートしたものですが、今やその数分前から番組が始まるのが当たり前になっています。先に視聴をはじめさせれば、そのまま見続けてくれるはずだ、という思惑が働くのですね。ビデオ録画がしづらいこのやり方は視聴者の利益には全くなっていません。テレビ局都合の姑息な発想です。

 

さて、塾においてももとの発想が、「他塾より先に生徒を確保する」ことにありますので、その授業内容やカリキュラムに必然性はありません。乱暴な言い方をしてしまえば、何でもよかったのです。

私の目から見ても、「なかなか工夫している教材とカリキュラムだな。これなら通わせる価値は十分ある」と思わせる塾もある一方、「適当に先取りをちりばめているだけだな。これなら自宅学習で十分だ」と思うものもありますね。

 また、低学年の指導には、低学年にふさわしいノウハウというものが存在します。例えば、私には小学1年生を教えることはできないでしょう。内容的なものというより、生徒の扱い方の問題です。いつものように小学6年生対象のやり方で接すると、2回目からは誰も来なくなることは間違いありません。

 もし低学年のうちからの通塾を考えるのであれば、指導内容・方針・教材・教師をしっかりと見定めることを強くおすすめします。