中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

ノイズだらけの授業見学:塾の選びかたを考える(※2024.3.18加筆修正)

Photo by Taylor Flowe(Unsplash)

※2024.3.18加筆修正

今日は、塾の選びかたについてお話します。まずは、基本的な注意を書きたいと思います。

※どの塾に肩入れする気も貶める気もありません。あくまでも私個人の感想として、なるべくニュートラルな立ち位置を心掛けています。

 

【注意その1 転塾の問題点】

何度も転塾を繰り返すことはやめましょう。

たまにいるのです。いくつもの塾を渡り歩いている生徒が。

しかし、どちらの塾に通ったところで、全てが満足というわけにはなかなかいきません。

〇面倒見が良いかと思って早稲田アカデミーに行ったところ、そうでもなかった。

〇途中で食事休憩があるので日能研を選んだら、お弁当作りが大変だった。

〇お弁当が不要なサピックスが気に入って入れてみたものの、夕飯の時間が不規則になってしまった。

〇自習室が気に入ってTOMASを選んだが、かえって勉強に集中できていなかった。

〇映像授業があるので四谷大塚を選んだが、結局は対面授業の教師の力量が最も大切なことに気が付いた。

こうした声は、すべて過去に私が保護者から聞いた話です。(もちろんあくまでも一保護者の声にすぎませんので、これらが塾の欠点とは申しません。たとえばサピックスの食事休憩無しの方針にしても、その方が勉強に集中できて良かったとの声もありました。)

 

まずカリキュラムが途切れます。最終的なゴールは同じとしても、各塾でカリキュラムは異なります。抜けている部分は自分で補わなくてはなりませんし、重複した部分は無駄な時間となります。

 

教師の立場からすると、何年も通っている生徒については、生徒の学習状況から家庭環境までわかっていますので、教師間で情報共有しながら指導しやすいのですね。しかも、どこまで習っているのか、どこまで教えたのか、これが把握できていますので、やるべき学習・省略できる学習について指導ができるのです。しかし、例えば6年生になってから転塾してきた生徒がいたとして、どこまで学んできているのか、どこを知らないのか、について完璧に把握することはできません。

だいぶ昔に指導していた生徒に、ご両親が離婚された生徒がいました。実は離婚の相談までお母さまから受けていたのです。(受験が終了するまで我慢しなくてはならないのか、片親では入試に不利か、そういった内容でした)

さすがに深いプライバシーにかかわる内容ですので、ご相談内容や離婚されたことなどは私一人の胸の内に留めておいて、情報共有はしませんでした。たまたま他の教科の教師と話をしていて、「〇〇さんは、△△中学がぴったりだと思うので、こんど薦めてみます。」という話題が出たのです。実は、離婚されたお父様が△△中学のご出身で、お母さまがとてもその学校を嫌われていることを私はうかがっていたのですね。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い状態です。「いや、理由は言えないが、とにかく△△中学だけは薦めないように。」と話をしました。

これは極端なケースとしても、受験指導は保護者ー生徒ー教師 の信頼関係があってこそうまくいきます。常に塾のあらさがしをしながら転塾を繰り返されるご家庭とは、この信頼関係が構築できません。

 

私の知人に、芸術系の習い事の教室に子どもを通わせていたご家庭があります。保護者様が非常に熱心でした。子ども本人も将来はその道に進みたいという希望を持っていたのです。

しかし、芸事の世界というのは旧弊な世界だそうです。先生の指導方針に完璧に従うことを求められると聞きました。その保護者の方は必ずといっていいほど、先生と指導方針でぶつかるのですね。そのたびに喧嘩別れして、また別の教室に通う、その繰り返しでした。移った先の教室には、小さい頃からその教室にずっと通っている生徒がいます。指導の先生としても、そうした生徒に目をかけるのは仕方のないことでしょう。やがて大人になると師匠から手伝いを依頼されたり仕事を紹介されたりしていくものなのですが、残念ながらそのお子さんはそれもかないませんでした。

 

もちろん塾と芸術系の教室では全く事情が異なります。塾では途中から入塾したからといって扱いに差などつけることもありません。しかし、人間関係ですので、信頼をベースとすることが大切なのは間違いないのです。

 

【注意その2 無料体験授業の問題】

「無料体験授業」を売り物にする塾の是非についてお話します。

いわゆる無料体験授業については、塾により以下のような場合に分けられます。

A.全くやっていない

B.1回~数回、希望者だけを集めた体験授業がある

C.1週間~1か月、普段の授業を無料で受講できる

さて、塾選びをする立場からすれば、Cがベストですよね。実際の授業を無料お試しで1か月も受けられれば、その塾が子供に合っているのかどうかがわかりますので。しかし、塾の立場からすれば、Aが一番楽なのには違いありません。

そこで、視点を少し変えてみます。

Cの場合、普段通塾する生徒に、一人だけ外部の生徒が混ざることになります。

まず、金銭面を考えます。月謝がどれくらいかわかりませんが、仮に4万円としましょう。外部生にとっては4万円が浮くわけですからラッキーということなのでしょうが、通塾している生徒にとってはどうでしょうか。自分たちが安からぬ月謝を払って受けている授業を、タダで外部生が受けているのって、釈然としない気持ちになりませんか?結局のところ、その経費を自分たちが負担させられていることになるのです。また、授業を行う教師の目線から言わせていただくと、こうした外部生は、授業にとってマイナスでしかありません。存在を無視して普段通りの授業を行えば、クレームになりかねませんし、かといって気をつかって授業をすれば、お金を払って通っている生徒達にベストな授業となりません。言葉は悪いですが、こうした体験授業受講生というのは、良い授業にとってはノイズでしかないのです。

ということで、私としてはAのタイプの塾が好きです。潔いですね。もっとも人に見せられぬレベルの授業だというのでは困りますが。

せめて、Bのタイプくらいが妥協点のような気がします。

「無料お試し授業」に惹かれるのはもっともなのですが、やがて「ノイズだらけの授業を自分が受ける羽目になることまで考える必要があると思うのです。

 

【注意その3 授業見学の問題点】

授業見学についてはどうでしょう。入塾前にはぜひとも見てみたいものですよね。しかし、考えてみてください。後ろに保護者が立っている状況で、生徒たちは普段通りの集中力で授業に臨めるでしょうか? 小学校の授業見学に行った方ならわかると思います。後ろに立っている保護者が気になってしかたがない、しょっちゅう後ろを見ていた生徒っていませんでしたか? 体験授業同様、やはりノイズなのです。気軽に授業見学をさせてくれる塾の授業はノイズだらけと考えるべきでしょう。

 

もっとも、生徒の視線を自分だけに集めて1時間集中させ続ける力量の先生がいれば話は別です。しかし、そんな凄腕の教師、めったにいるものではありません。私を除いて。

 

さらに付け加えれば、「成果を上げる授業」と「見世物としてよくできた授業」は全く別物です。授業見学者を意識した授業は、実は生徒にとってのベストの授業ではないのです。

 

【注意その4 特待生制度の是非】

特待生制度を設けている塾はたくさんありますね。

日能研のHPを見てみました。このように書かれていました。

日能研は「未来」をリードしていく役割を担う、向学心の高い子どもたちの「いま」の学びを支援することを通じ、社会貢献に寄与することを目的として、2008年<日能研ユースリーダーズスカラシップ>を設立いたしました。この制度は、高い学力の資質を有し、確かな学習意欲と目的意識を持つ子どもたちとその保護者に対して、私立中高一貫校進学に向けて実践される日能研の通室プログラム費用すべてを支援するものです。

すごいですね。太っ腹ですね。社会貢献とは立派です。

 

また、早稲田アカデミーの特待生制度はこのようになっているようです。

まず、「チャレンジテスト」なる無料のテストを受けます。テストの成績が、100位以内だと夏までの授業料が無料で春期講習は半額、300位以内だとどちらも半額だとか。(別途教材費などはけっこうかかるという噂です)

塾のHPを探してみましたが、とくに公表はしていないみたいですね。これは「社会貢献」などという建前は無いのでしょう。いっそ目的が明確ですっきり?しています。

 

みなさんもとうにご存じですよね。私企業である塾が「特待生制度」を設ける理由は、社会貢献だけのわけがないことを。

そうです、優秀な生徒の囲い込み、これに他なりません。

もしお子さんが、特待生レベルの成績なら、授業料が節約できて大変結構な制度だといえるでしょう。

しかし、塾に通う大多数の生徒達は、きちんと月謝を払って通っているのですよね。自分たちの払った費用が、そうした一部の生徒たちのために使われているのって気にならないのでしょうか。私なら嫌です。

また、教師の立場からしても、成績で生徒の扱いを変えるという精神が理解できません。今目の前にいる生徒を何とかしたい、それだけを考えて授業をするのではないのですかね?

 

ところで、私立中高が設けている特待生制度には2種類あります。

1つは、入学時の成績で入学金や授業料が免除されるというもの。これは上記の塾の特待生と目的は全く一緒です。黙っていても優秀な生徒が集まってくるような学校にはこうした制度はありません。この制度がある学校は、つまりそういう学校だということです。

もう一つの特待生制度として、入学後に成績優秀な在校生を対象としたものがあります。これは在校生の奮起を促す目的ですので、意味が異なりますね。

 

さらに、奨学金制度についてはどうでしょうか。例えば開成の奨学金制度についてはこのようになっていました。

「開成会 道灌山奨学金」は、開成中学校・高等学校で学びたいにも関わらず、経済的理由でそれを断念している志ある若者を迎えるため、開成学園の同窓会である「開成会」の寄付により、入学金、授業料等を免除する奨学金です。

 

これこそが「社会貢献」です。