中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

転塾のリミット・メリット・デメリット

中学受験を考えてすでに塾にお通いの方も多いと思います。

もしかして転塾を検討したことがありませんか? 塾は、一度通い始めるとなかなか移りにくいものです。しかし周囲から他塾の噂などが聞こえてくると、いっそ転塾したほうが良いのか迷います。

今回は、転塾できるリミット、転塾のメリット、そして転塾のデメリットについて書いてみたいと思います。

1.今の塾に決めた理由

 今お通いの塾はどのようにして決めましたか?

 (1)上の子もお世話になったから

 (2)ママ友から評判を聞いたから

 (3)テレビでよくCMを見かけるから

 (4)家から近かったから

 (5)小学校の友達が通っているから

 (6)ネットの塾比較サイトで評価が高かったから

 (7)ネットの口コミの評価が高かったから

 (8)チラシ・DMを見たから

 (9)直接行って気に入ったから

 (10)自分も昔通っていたから

 ざっとこんな理由があげられます。順にみていきましょう。

 (1)上の子もお世話になったから

 これはわかりやすい理由ですね。上のお子さんがその塾に通い、そして中学受験がうまくいった場合は、別の塾を検討する必要性を感じませんしね。しかも、親もその塾のシステムをよく知っていますし、担当の先生方も顔見知りです。

 (2)ママ友から評判を聞いたから

 これは要注意の理由です。そのママ友は、はたしてあなたが欲しい的確な情報をお持ちの方でしょうか?

「うちの子もお世話になったけど、とっても良かったわ」(その子とわが子は他人です。その子がうまくいったからわが子も合うとは限りません)

「とっても面倒見がいいって評判よ」(その評判は誰発信の評判ですか? ソースがわからなければ信憑性はゼロです)

 例えば美味しいランチのお店とか、センスの良い花束を作ってくれるショップとか、目に見える物がある場合はあまり警戒しなくても大丈夫でしょう。しかし「教育」というのは目に見えないサービスですので評価は人によって大きく異なります。いくら信頼しているママ友といえども、無条件に信じることは危険です。

 (3)よくテレビCMを見るから

 テレビCMにいいったいどれだけの費用がかかるかご存じでしょうか?その巨額の広告宣伝費はすべて授業料に上乗せされています。また、不特定多数を対象としたCMは、塾の宣伝には不向きです。それでもなおCMを流しているということは・・・。いろいろ考える必要がありそうですね。(8)のチラシ・DMは塾にとって主要な宣伝ツールですが、そこに書かれてある内容は正確とは限りません。

 (4)家から近いから

 これはとても納得できる理由です。中学受験は時間との闘いです。いかに無駄な時間をなくすかで勝負が決まるといってもよいでしょう。家から近い、これは最重要なポイントです。

 (5)小学校の友達が通っているから

 最も避けるべき理由です。初めての通塾は不安でいっぱいなものですから、友達どうしで通えるというのが最初の通塾動機になったのかもしれません。しかし、受験が近づくにつれてデメリットしかなくなります。

 (6) ネットの比較サイトを見たから

 (7)のネットの口コミ情報同様、一番避けなければならない情報です。全く信用できません。

 (9)直接行って気に入ったから

 これが最適です。足を運んで担当の先生や受付の方と話をしてみた結果塾を選んだのですね。自分の目が一番です。

 (10)自分も昔通っていたから

 もうそんな時代になったのですね。日能研の創業が1953年、四谷大塚が1954年だそうです。1989年と新興勢力だったSAPIXも創業から30年以上経ちました。ご自身が通っていた塾に子供を入れる、なんだか懐かしくていいですね。と言いたいところなのですが、これも問題はあります。30年もたてば、当時お世話になった先生は一人も残っていないでしょう。そして塾の規模もシステムも教材も大きく様変わりしているはずです。

2.なぜ転塾を考えるのか?

 せっかく通っている塾を移るのには、親子ともどもエネルギーが必要です。いったいどうしてそこまで考えてしまうのでしょう? それはもちろん現在お通いの塾に不満があるからに決まっていますね。

 (1)成績が伸びない

 塾に安からぬ費用を支払い、時間をかけて通わせているのは、もちろん成績を上げることが目的です。その成績が伸びないのなら、もうこの塾に通わせる意味はない、そう考えるのも当然でしょう。

 でも、ちょっとお待ちください。成績が上がらない理由の分析はお済みでしょうか?

そもそもここで問題としている「成績」とは何でしょうか?

塾では定期的にテストが行われていると思います。塾内の小規模なテストから、大規模な公開模擬試験まで。おそらく気にされている「成績」とは、模擬試験の順位・偏差値のことだと思います。これが上がるということは、他に落ちていく生徒がいることを意味します。塾から言われた学習を言われたようにこなしているだけでは、この偏差値・順位は簡単にはあがらないのは当然です。

 私が見ていて一番多いケースは、塾での集中力と家庭での学習量が不足しているケースです。それでは成績はあがりません。それを誰かのせいにしたい。わが子は頑張っている(ように親の目からは見えている)。それなら塾のせいに違いない。こう考えてしまう気持ちもわからなくはないですが。

 (2)塾の教師が合わない

 大規模な塾なら、1人くらい苦手な教師がいても何とかなるものですが、小規模塾やワンマン塾の場合はそうもいきませんね。塾教師といえども万人に好かれるのは不可能です。なぜか実力と経験がある教師ほど、クセが強いものなのです。「合わない」というのは主観的な判断です。客観的な基準でないので、修正は不可能です。

 (3)塾の方針が合わない

通ううちに、「どうもこの塾の方針はおかしいのでは?」と思いはじめることもありますね。拝金主義が目に余る(やたらにオプション講座をすすめてきたり、併設の個別指導を受講させようとしたり)場合もあるでしょう。あるいは、華々しい合格実績を信じて入塾したら、どうも数字が怪しい場合もあるかもしれません。添削指導の返却が異常に遅いのも困りますね。面倒見の良さを売り物にしているはずなのに、親の疑問に正面から答えてくれないかもしれません。通うことではじめて塾の本質が見えてきた場合、転塾の根拠となるでしょう。

 (4)他塾と比較してしまう

 よく聞くのが、「〇〇塾に入れていたけれども、△△塾のほうがはるかに志望校の合格実績が上である。友人から聞くと指導も高度らしい。転塾すべきではないか」というものです。経験から言うと、同じ中学校に3桁くらいの合格者を指導した経験がなければ、本当の経験値とは言えません。数名程度の合格実績では、教師のスキルにはならないのです。お通いの塾からご希望の中学への合格者がいない(少ない)場合は転塾も視野に入れるべきでしょう。

 (5)子どもがやる気を見せない

 これは塾のせいではありません。どの塾に移ったところで何もかわりません。

 (6)親の要望を聞いてくれない

 ううむ、これは難しいところですね。塾はサービス業とはいえ、親の要望をすべてかなえるのは不可能だからです。とくに集団指導塾なのに個別指導塾なみのサービスを求める方が多いですね。みなさんが簡単に頼んでくる過去問の添削指導も、まともに取り組もうとすると添削するだけでも1教科1時間ではとても終わりません。面談や電話相談にしても、一人の教師ができる件数には限りがあります。こうした点を期待される場合は、個別指導塾や家庭教師がよいと思います。

3.転塾のリミット

 これは簡単です。最終リミットは6年生の夏休み前です。どの塾でも、多少の前後はするとしても夏休み前にはカリキュラム学習がすべて終了します。そのあとは問題演習にとりくむ時期ですので、ここからは進度の違いを気にしなくてもすみます。とはいうもののこの時期に生徒を預かると、「もっと早くに移ってきてくれていれば」と思うことが多いのも事実です。「前の塾ではいったいどんな指導をしていたんだ!(あるいはしていなかったんだ!)」という怒りすら覚えることもあります。

 次のタイミングは学年の切り替わりでしょう。5年の2月~新6年生の4月の間ですね。しかしこのタイミングですと、カリキュラムのずれが生じます。ご家庭で別個にずれを解消する努力が必須です。

 常識的なリミットとしては、5年生の春となります。入試までまる2年間あるこの時期なら、たとえカリキュラムのずれがあったとしても解消が可能です。そして受験指導をする時期になっても、すでに2年近く指導していれば生徒の弱点や性格を見極めたうえでの進路指導が可能となります。

 私が過去に扱ったケースでは、6年生の12月という生徒がいました。前の塾の進路指導で、「こんな成績では駒東は受けさせられない」と言われたと泣きながらご相談にいらっしゃったのです。ひどい塾もあるものですね。塾の合格実績につながらない受験はさせない、ということなのは明らかです。塾によっては、受験者数にしめる合格者数の割合を合格率として宣伝しているところもあるのです。「当塾からの合格率100%!」などといって。こうした塾は信頼できません。なぜなら、ご相談にきた方のケースを見てもおわかりのように、この合格率は分母を小さくすることでいくらでも操作が可能な数値だからです。だから「受けるな」という指導になるのですね。この時は私も義憤にかられ、お引き受けすることにしました。結果は見事合格でした。

 そもそも「塾を移ろうかしら?」と考えはじめた時点で、お通いの塾に対する信頼はかなり低くなっています。継続しても不満が高まるだけのような気もします。転塾を考えた時点で、速やかに移るべきかもしれません。

4.転塾のメリット

 メリットはたった1つです。

親子ともども心機一転頑張る気持ちになれる、これです。

転塾すべきかどうか迷うくらいなら、思い切って転塾してしまいましょう。それで気持ちを新たに学習に取り組めるのならその方がよいですね。

5.転塾のデメリット

 これも簡単です。

 指導の継続性が途切れる、です。

4年生のときにこれは習ってるね。5年生でやった問題だから省略するよ。そうしたことは6年生の指導をしているとよくあるのです。その時在籍していなかった生徒にまで気を配る余裕はありませんから、学んでいることを前提に指導はすすみます。これは転塾の大きなデメリットです。

 また、塾を転々と移る方というのが必ずいますが、これだけは絶対やめましょう。どんな塾にも不満の種はあるものです。それをどこまで減らし、どこまで許容するか、そうした割り切りは必要です。転々と塾を移っていた方で、受験がうまくいった方というのを私は知りません。

 

塾の選び方については以前何度も記事にしています。ぜひお読みください。

peter-lws.hateblo.jp

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