中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

中学受験Q&A あと1年で偏差値はどこまで伸びますか?

この質問はよく受けます。

「先生、うちの子の偏差値はあと1年でどれくらい伸びますか?」

質問の意図は明確です。目標とする志望校の合格偏差値に現状の成績がだいぶ足りないのですね。そこで、あと1年でどれくらい伸びて合格が見えてくるのか、それとも志望校の再検討をするべきなのか。

もちろん、本当はこう言ってほしいのはわかります。

「大丈夫。まだまだ伸びますよ。このまま行きましょう!」

しかし、もしそんなことを言う塾の先生がいたら、大噓つきです。私はいつも正直にこうお話します。

「現状維持が精いっぱいか、伸びても3といったところでしょう。」

すいません、夢も希望もないお話で。でも入試まであと1年を切ったこのタイミングで、誠意の無い解答はできません。このあたりについて、もう少し丁寧にご説明します。

1.そもそも偏差値とは?

すでに塾にも通い、模試をいくつも受けているみなさんに今さらこのお話をする必要もないのですが、大切なところですので確認したいと思います。

 

これについては過去にそうとう詳しく説明した記事を書きました。

peter-lws.hateblo.jp

簡単に言ってしまえば、偏差値とは「そのテストを受けた集団におけるポジション」を示す指標ですね。偏差値50なら真ん中あたり、偏差値60なら上位16%くらい、偏差値40なら下位16%といったポジションになります。

ここで重要なのは、「そのテストを受けた集団におけるポジション」の部分です。したがって、テストごとに受験した母集団が変わりますので、同じ塾のテストでもその都度数値は変動します。まして他の塾の偏差値を比較することは意味をなしません。また、「合格偏差値」という数値もよく聞きますが、これもかなり乱暴なくくりです。意味としては、「ある塾の6年生が複数回の模試を受験して出した4科目の総合偏差値の平均を一人ひとり考え、その生徒たちが実際の受験で、ある中学校を受験したときに、100人受験して80人合格したとき、その偏差値の数値を80%合格偏差値とする」といったことになります。なんだかわかりにくいですね。もっと端的に言ってしまうと、A中学の合格偏差値が55だとして、平均偏差値55の生徒が100人受験すると80人は合格するだろう(少なくとも昨年はそうだった)という概念です。

こうした考え方を成立させるためには、当然母集団の大きなテストでなくては意味がありません。一般には、2000名は必要だと思います。四谷大塚日能研SAPIXの3大塾なら、1学年の人数はもっといますので模試の精度は高いと考えて良いでしょう。

 

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2.偏差値を上げるということの意味

偏差値の意味を考えると、「偏差値を上げる」ということの意味は明らかです。

「同じ塾(=同じ模試を継続して受けている集団)の中の順位を上げる」

「何人抜けるのか?」

ということですね。

周囲を見回してください。同じ塾の生徒達は、勉強をしていないのですか? 遊んでいますか? 課題をさぼっていますか? もちろんそうした生徒もいるでしょうけれど、大半の生徒達は、「あと1年! がんばろう!」と気持ちを新たに新6年生を迎えていると思います。偏差値を上げるということは、そうした生徒達を追い抜くことを意味するのです。もちろん大手塾なら、お通いの教室以外にも多数の教室があり、そこには多数の生徒がしのぎを削っていることになりますね。

私が冒頭に「現状維持が精いっぱいか、伸びても3といったところでしょう。」と厳しい書き方をした理由がお分かりいただけたでしょうか。

 しかし、もしかしてお子さんは今まで勉強をきちんとやってこなかったのかもしれません。これから本気で取り組めば伸びるのでは? と期待したいお気持ちもわかります。

しかし、再び厳しいことを言ってしまうと、「今まできちんとやってこなかった」のは、「きちんとやることができなかった」のと同じです。4年生・5年生のうちから継続して学習に取り組めるのも1つの才能です。それができていなかったお子さんが、6年生になってから急に学習姿勢が変わるというのは希望的観測だと考えるべきでしょう。

 

3.偏差値は上げられないのか?

 厳しいお話が続きましたので、希望の持てるお話もいたします。私が過去に見てきた生徒で6年生から目覚ましい進歩を遂げた生徒というのももちろん存在します。それはこういったケースです。

 (1)5年生まで塾に行かずに自宅学習をしていた

 海外帰国生によく見られます。海外では中学受験のための学習を全くできていなかったお子さんが、6年生になりタイミングで帰国して、必死に努力して偏差値を20も上げて第一志望校に合格した、そうしたケースも何人も見てきました。この場合は、最初に測定した偏差値が「異常に低くでていた」と考えることもできますね。

 また似たケースとして、少々不便なところに住んでいた双子のお子さんのことも覚えています。家の近くに大手塾は無く、小さな町塾に二人で通っていたのですが、「優秀すぎ」てその塾では指導することができずに、放置状態だったそうです。いわゆる「吹きこぼれ」ですね。しかたがないので、二人はお互いに勉強を教えあうようにして学んでいたそうです。可哀そうですが、それしか方法がなかったのでしょう。やがて6年生になったので、少し遠くの塾まで電車で通うことができるようになったのですね。それからの2人の進歩は目を瞠るほどでした。何せ「教えてもらえる」ことが嬉しくて仕方がないのです。さながら乾いたスポンジが水を吸収するごとく知識を吸収し、成績は急伸しました。

 (2)急に目標が定まったケース

 5年生までは、なぜ自分が塾に行くのか(行かされるのか)正直わかってはおらず、何となく通塾していただけのお子さんが、6年生になって目標が定まり、見違えるように学習に取り組むというケースもあります。さすがにこの時期から10以上伸ばすのは難しいとしても、5くらいは伸びていく子は珍しくありません。ただし、この「目標の定まり方」については、なかなか法則化が難しいのです。ただ学園祭に連れて行けば良いというものでもありませんし、将来の職業について親が話したところで子供の心には響かないですね。周囲にはうかがいしれない動機で、「僕は〇〇中学を目指す」と宣言するのです。

 (3)良い指導者との出会い

 塾にもいろいろな先生方がいます。経験値も指導方法も様々です。相性というのもあります。そこで、「この先生の授業を受けるようになってから授業が楽しくなった」「テストで良い点がとれるようになったからもっと頑張る!」「自分の現状を指摘され目が覚めた」といったきっかけで、大きく学習姿勢が変わるということもあります。

 

4.偏差値より得点力

どうしても「偏差値」という数値は気になります。たしかにわかりやすい目安ですから。しかし、実際の入試で重要なのは「何点とれるのか」という得点力なのです。

普段のテストでは良い点をとり(=偏差値も高く)、受験には問題ないと思っていた生徒が不合格となることなどいくらでもあります。今年の入試でも、偏差値で10以上離れていた生徒が同じ学校を受験し、上の子が不合格で下の子が合格した、そんなことがおきています。

 偏差値を必要以上に気にするよりも、得点力を確実につけていくことを目標においたほうが結果に結びつくと思います。