中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

SAPIX万年Aコースからの脱出法

SAPIXであれ日能研であれ早稲田アカデミーであれ、成績別のクラス編成を取っている以上、成績下位グループというものが必ず存在します。

もしお子さんが、そうしたグループに入ってしまったら、そしてそこからなかなか抜け出せなくて困っていたら。

今回は、最下位グループからの脱出法について考えてみたいと思います。

なぜSAPIXをとりあげたのか?

今回SAPIXをとりあげたのは、この塾の特殊性からです。

それは、最難関校への合格実績が他塾と桁違いに多いということです。

開成や桜蔭をはじめとする最難関校へのこの塾の合格実績は目覚ましいものがあります。そうした学校では、SAPIX出身者が過半数を占めることも珍しくはありません。

ある学校で、体育の先生が気まぐれに、出身塾でチーム分けを行って対抗試合をさせたところ、SAPIXが3チーム、日能研早稲田アカデミーが1チームずつ、そして残りで1チームができたと、元教え子から聞きました。

さて、この塾のこうした特殊性が、最下位グループにいる生徒たちにどのような影響を及ぼすのでしょうか。

ところで、この塾のクラス分けのネーミングは変則的です。

最上位コースがαを冠したコースで、下から順にA・B・Cとなっているそうです。

どうせ上に上がれないという諦め

なにせ上位層が分厚いのです。小学校で優秀だった生徒も、この塾ではそうはいきません。頑張ってやっているはずなのに、いつまでたっても上がれない。毎月のテストのたびに、Aコースに固定されている。これではやる気が出るはずもありませんね。

 

SAPIXならAコースでも一般受験生の中では悪くないという幻想

幻想と書きましたが、事実でもあります。

Aコースといっても、もう少しでBコースに上がれる、あるいはAとBを行ったり来たりしている生徒もいれば、Aコースの中でも常に下位に位置している生徒もいるからです。
Aコースからでも〇〇中学に合格した、などという話を聞くと希望が湧いてきますが、それがお子さんに当てはまるかどうかは別問題です。

Aコースではきちんと指導してもらえないのではないかという被害妄想

どの塾であれ、卑しくも「先生」と呼ばれ、子どもを教える仕事をしている以上、「この生徒は下のクラスだから」といって手を抜くという発想はありえません。今目の前にいる生徒の指導に全力を尽くす、それが教師の本能だからです。

むしろ、手のかかる生徒達だからこそ、何とかして成績をあげてやろうと必死になるものです。

「下のクラスはお客様」「下のクラスは指導力の低い講師ばかり」「塾にとって下のクラスの生徒は・・・・」このような話を聞いたとすると、それらは全て悪意のあるデマであると断言できます。
生徒を教えたこともない人間の発言だとしか思えないのです。

それにしても、こうしたデマが、なぜか他塾よりもSAPIXに多い気がするのが不思議です。

私は、他の塾や家庭教師等が自分の塾に生徒を引き込むために意図的に流しているのでは、と憶測(邪推)しています。

Aコースでは塾に頼れないという僻み

断言しますが、そんなことはありません。理由は上述したとおりです。


偏差値30の壁

 

ここで偏差値の定義や計算方法について詳述するつもりはありません。

単純に、お子さんのポジションを示す目安くらいにとらえておきましょう。

偏差値30というと、そのテストを受験した生徒の結果が正規分布を描いていると仮定すると、下位から2.3%の位置ということになります。1000人受験者がいたとすると、977位あたりでしょうか。

ちなみに、偏差値70もまた、上位2.3%の位置で23位くらいの順位になります。

偏差値70!というと、信じられないくらいの高成績ですね。ましてSAPIXで偏差値70というと、それこそ天才レベルといいたくなるほどです。

ということは、偏差値30以下というと・・・・・・・。

 

ここで、お子さんの直近数回のテスト結果を見てください。

4科目トータルで偏差値30以上ありますか? それともありませんか?

 

偏差値30未満の場合

あきらかに、何も身についていないレベルです。

だからといって、転塾すべきかどうかは安易に判断できません。

仮に今の状態のまま他塾に移籍したとしても、それだけで努力値が上がるわけではありません。見かけの偏差値が少しあがるだけで、学力が向上したことにならないからです。

現状で努力できない生徒は、どこに行っても努力できない生徒です。

まずは、現状でどこまで努力できるのか、どこまで努力するのか。

半年間頑張ってみてからでも、転塾を決断するのは遅くはありません。

 

授業が全く理解できない場合

もしかして、授業が全く理解できないために得点できず、偏差値も20台なのかもしれません。

その場合は、SAPIXにいても意味はありません。

中学受験撤退も視野に入れた総合的な判断が必要です。

精神的に幼過ぎて、高校受験のほうが向く子というのがいるからです。

 

しかし、授業が理解できない原因が、単に家庭学習をさぼっているだけだった場合は、たとえ中学受験を高校受験に切り替えたとしても、問題を先送りにしただけで事態は好転しません。

 

偏差値20台だが、それでも中学受験をしたい場合

 この場合は、SAPIXをすぐにやめるべきでしょう。この塾は、その学力層の指導ノウハウや学校情報が豊富ではないからです。

日能研四谷大塚早稲田アカデミーも不向きです。

「首都圏模試」を採用している塾をお薦めします。

市進学院や栄光ゼミナール等ですね。

例えばSAPIXの偏差値表では、30以下のところにまとめられている、郁文館・八雲学園・聖学院・多摩大目黒・跡見学園・実践女子といった学校が、首都圏模試では、50~60のところに位置しています。明らかに合否判定があてになるのはこちらですね。

 

基本問題から、じっくり丁寧に指導し、宿題によって生徒の家庭学習をコントロールしつつ定着をはかってくれる塾。そうした塾を探しましょう。

 

偏差値30以上の場合

このままSAPIXで頑張ることをお薦めします。

おそらくは、勉強のやり方・させ方、塾の利用法等に問題があったのです。

詳しく勉強法を見ていきます。

 

Aコース脱出のための学習法

1.塾の教師に相談に行く

そうです。本来ならこんなブログを見ている場合ではありません。

(もちろん役立つ情報を頑張って書いていますので、見てはほしいのですが)

今すぐSAPIXの教室に電話をして、面談をお願いしてください。

どうもこの塾は世間からは冷たい塾ととらえられているようで、そういう声をよく聞きます。

ここで「冷たい」とはどういうことかというと、おそらくは塾の先生からしょっちゅう電話がかかってきたり面談を頻繁にしてくれるような塾が「冷たくない」塾ということなのでしょう。

しかし、集団指導塾の教師にそれを求めるのは酷というものです。

仮に、週5日間授業に入っている先生がいたとします。

全て異なるクラスだとすると、いったい何人くらいの生徒を担当しているかわかりますか?

1クラス20名のクラスを3クラスほど1日に担当するのが普通でしょう。

ということは、20名×3クラス×5日=300名

実際にはもう少し少ない人数を担当するとしても、1週間に200名程度の生徒を指導するのは当たり前です。

それらの生徒のご家庭に順番に電話をかけるとしましょう。1回につき15分の電話としても、1時間に4人にしか電話できません。

200名に電話をかけるだけでも、50時間は必要な計算になります。

私の経験上、1回の電話相談が15分で終わることは皆無です。1時間以上かかるのは普通です。仮に30分で何とか打ち切ったとしても、200名へまんべんなく電話するためには100時間は必要です。4科目の教師で手分けしたとしても、ご家庭に電話をする頻度を上げるのが困難なのは想像つくと思います。

また、塾の教師は授業がメインです。

 〇授業準備

 〇授業

 〇授業以外の生徒の指導

 〇保護者対応

 〇学校説明会への参加

 〇テキスト・テスト作成

 〇過去問研究

どんな塾でも、まともな教師なら、これくらいの仕事をしています。

その他、新人講師の指導や営業活動等を課す塾もあるでしょう。教師が掃除やポスティングまでやらされているところもあると聞きました。

これらの仕事の中で何が最重要かといえば、もちろん授業です。

そして、授業のクオリティを上げるためには、過去問研究と授業準備にたっぷりと時間をかけなければなりません。テキストに模範解答を丸写ししただけで教室に入るような教師にまともな授業などできませんので。

どこかに注力すれば、かならずどこかが手薄になります。

保護者対応の手厚さを売りにしている塾というのは、つまりそういうことなのです。

 

こんな書き方をすると、塾の教師にますます相談しづらくなるかもしれませんが、そこは遠慮無用です。教師から保護者全員にアプローチする時間はなくとも、積極的に相談されて悪い気がする教師はいませんので。

ぜひ、積極的に、担当の先生に面談をお願いしてください。

 

そこで聞くべきなのは、以下の3点です。

◆教材の取捨選択法

 基本的にSAPIXの教材は全コース共通だそうです。ということは、開成・筑駒・桜蔭を目指す生徒と同じ教材を渡されているということになります。

(6年生になると科目によって志望校別に細分化されるようですが)

どれを最低限やるべきなのか、どれくらいの時間を目安にすべきなのか、どれを捨てるべきなのか。このあたりをじっくりと聞きましょう。

◆子どもの授業中の様子

 おそらく、授業が効果的に機能していないのです。つまり、授業で吸収している内容が薄いと思われます。ここは親には見えない部分ですので、きちんと確認したいですね。

◆志望校の目安

現状、そしてこれからの伸びしろを考えて、どのあたりの学校を目指すべきか、プロの意見を聞きましょう。その際には、こちらの希望をきちんと伝えておくと良いと思います。そして、学校の名前・ブランドにはこだわらずに、フラットな気持ちで相談することが大切です。

 

★事前に情報を渡しておく

 できれば事前に、相談内容をまとめて紙の形で提出した後に、面談をしたほうが時間が効率的ですね。

4科目の教師の意見を事前に聞いておいてもらったほうが、お互いに手間が省けます。また、教師も全ての学校情報を持っているわけではありませんので、事前に志望校についての希望等がわかっていれば、それに応じて他の教師とも打ち合わせをしてから面談に臨みますので、より良い情報が得られると思います。

 

2.毎日必ずやるべき教材を準備する

 勉強は習慣です。

おそらくはまだ勉強が習慣化していないと思われます。

まずは、頭をさほど使わずにルーティンとしてこなすタイプの教材を4科目準備しましょう。

そして、それを朝・夜、どこかに時間を決めて、必ずやるのです。

算数・・・計算トレーニング・一行問題

 実際には、1行問題がきちんと解けるだけで、半分の得点が可能な入試問題などいくらでもあります。とかく特殊算や応用問題に目を奪われがちですが、その前にやるべきことをきちんとやりましょう。

 SAPIXでは、毎日1ページのドリルのようなものが配られているそうなので、それをやるのが先決です。

 教え子でSAPIXに通っていた生徒は、この算数のドリルを、毎日2ページずつ、月に2周するのが日課でした。

 

国語・・・漢字・語彙

 市販で良い教材がありますね。

◆漢字の要ステップ1 (SAPIX

いろいろ探しましたが、現状、この本が一番よく出来ています。

まずはステップ!を完璧にしましょう。それだけで、ほとんどの学校の国語の漢字・語句問題は得点源になります。

理科・社会・・・コアプラス

 これもこの塾の市販教材です。

とにかく、知識が無いことには、1歩も前に踏み出せませんので。こちらも毎日やってください。

 丸暗記の学習を毛嫌いする子が多いですが、思考力は知識の上に築かれます。まずは最低限の知識を完璧に身に着けることが先決です。

 知識が身に着くだけで、多くの学校の入試問題では6割の得点が見込めます。その上に6年後半の入試問題演習を積み上げていけば、7割の得点=合格点 が見えてきます。

 

毎日2時間、30分×4科目のこのルーティンをこなしていくだけで、確実に得点力はあがります。

この塾に限りませんが、どの塾でも上位層の生徒達は、こうした基礎的な学習を毎日欠かしません。

 

ピアノに例えると、「ハノン」という教材でしょうか。私に言わせれば、このハノンとツェルニーがピアノ嫌いを増加させている主因だと思います。私も大嫌いです。

しかし、私のピアノの師匠にこう言われました。プロはハノン60曲を毎日必ず通して弾くと。1時間半かかるそうです。

凄い! と思いましたが、相変わらずハノンはピアノの上で埃をかぶっています。

 

※念のための注意

まさかとは思いますが、お子さんにゲームやタブレットPCを与えてはいないですよね?

休憩・気分転換と称して、ゲームをしたりYouTubeを見たりはしていないですよね?

 

言うまでもありませんが、百害あって一利なし、確実に成績は下がります。

 

最上位の子たちの気分転換は、読書や音楽です。

たまに「ゲーム大好き!」などと言う生徒もいますが、与太話です。好きには違いないのでしょうが、親が与えていないのを私は知っています。

 

ごく稀に、塾で全てを吸収してしまい、家では全く勉強しないで開成(or桜蔭or筑駒等)に合格したなどという子がいますが、これも与太話だと私は思っています。親の自慢話と受け止めておきましょう。まあ、そうした天才児の存在を否定はしませんが、