私は中学受験指導のプロです。
その縁で、中高一貫校の生徒の指導もしています。
そんな私に、いわゆる「ママ友」との人間関係について相談される方が多いのですね。
私はそっちの専門家ではありませんが、切実な悩みにずいぶん向かってきました。
今回は、そんなご相談を紹介しながら、ママ友との付き合い方や距離の取り方について考えてみたいと思います。
ママ友って要注意だから
「ママ友って、いろんな人がいるから、付き合うときには気を付けてね」
この意見は、A子さんのセリフです。
A子さんとB美さんは、いわゆるママ友同士ではありません。二人とも小学校時代に同じ塾に通って、別々の私立中高に進学した間柄です。
いわゆる「塾友」というやつですかね。
A子さんとB美さんの両親同士も仲良く、一緒に海外旅行に行くこともある仲だったそうです。こちらのほうが「ママ友」同士ですね。
さて、A子さんのほうが一足早く結婚し、一足早く子どもが生まれました。B美さんは、それから少し遅れて結婚・出産に至ったそうです。
お互いの結婚式に出席し合うほどの仲だったA子さんとB美さんの交流は、子どもたちが中学受験をするころには、すでに30年に及んでいたのですね。幼馴染の親友同士といえるでしょう。
さて、B美さんにとってはA子さんは親友であり、子育ての先輩ママでもあります。A子さんのアドバイスはとても役立つものが多かったそうです。
B美さんの子どもが小学校にあがる頃にA子さんがしたアドバイスが前述のものでした。
なんでも、A子さんの幼稚園から小学校まで一緒だったママ友の一人が、借金体質だったそうです。借金といえるほど大きな金額ではないのですが、例えば一緒に数人でランチに行くと、「あら、今お財布が空っぽ。悪いけどA子さん、払っておいていただけるかしら?」と悪びれもせず言うのです。そう言われて拒否はできないですね。それが何度も重なると、金額も馬鹿にはできないものとなります。ついにしびれを切らして、それとなく清算をお願いしても、しれっとかわされてしまい、払うことはなかったそうです。
このママ友が貧しいのかというと、そんなことはありません。普通のご家庭です。
結局のところ、「もうそんなはした金はくれてやって縁を切りなさい!」というご主人のアドバイスに従ったそうです。
ママ友にはいろんな人がいる。
これがA子さんの得た結論です。とくに幼稚園や小学校は、「地元が一緒」というだけの縁の人間が集まっています。その中にはこのような人間も交じっていたということですね。
そのアドバイスを受けたB美さんには、深くうなずけることがありました。
小学校の入学式に出席したところ、保護者の多様性に驚かされたのです。
入学式という「きちんとした式典」に出席するとは思えないい服装の保護者が何組もいます。首筋から入れ墨をのぞかせている夫婦がいます。真っ黒いサングラスの父親がいます。可処分所得が低くはない住宅地を控える小学校でしたが、いろんな人がいるものだと感心したそうです。
A子さんには、もう一つの名言があります。
「価値観が同じだから」
これは、A子さんとB美さんの関係を表現した言葉です。
二人の兄弟も全員私立中学受験経験者です。また、互いの両親も同様です。
同じエリアに住み、似た家庭環境で育ち、同じ塾で机を並べて勉強して私立中学に進学したのですね。それは価値観も似てくることでしょう。
そのことが、互いへの信頼と安心感につながっているということだそうです。
当然のように、二人とも自分の子どもたちには中学受験をさせました。
あんなに仲が良かったのに
C恵さんには仲のよいママ友のD子さんとE奈さんがいました。幼稚園入園前に、児童館で知り合ったのです。
3人の子どもたちは同じ幼稚園に入り、家族ぐるみの交際がはじまりました。一緒にBBQに行ったり、ディズニーランドに行ったり。家も近いので子供たち同士も仲良く遊んでいたのです。
3人の中では、E奈さんが若い母親でした。知り合った頃はまだ20代半ばだったそうです。
さて、3人の子どもは同じ小学校に進学します。そして中学受験をすることになったのです。ただし、塾は別でした。
いずれ子どもたちが中高生なると、互いの恋の悩みなんか相談し合うようになるのかなあ、などとC恵さんは考えていました。
しかし、少しずつおかしなことになってきます。
E奈さんの子どもが、C恵さんの子どもをイジメるようになったのです。
それも、仲間を募っての陰湿なイジメです。
C恵さんには全く心当たりがありません。D子さんに相談しても、首をひねるばかり。
結局、E奈さんとは距離を置くようになります。自然に疎遠になったのですね。
あとから振り返っても、原因としてはこれくらいしか思いつきません。
◆C恵の子どもの成績を妬まれた
◆E奈は、自分と同年代のママ友と付き合うようになった
◆地方出身のE奈には、東京の人間関係のルールがわからなかった
どうやら勝手にライバル視され、その親の負の感情が子どもにも反映したのではないか。そう考えるしかありませんでした。
原因はどこにあるのかわかりませんが、迷惑な話ですね。
家が近所で遭遇することもあり、同じ幼稚園や小学校に通うことになるからこそ、ママ友選びは慎重にするべきだった。これがC恵さんの結論です。
子どもにスパイさせる親
A太とB郎は同じ塾の親友同士でした。小学校も同じで、一時期同じサッカーチームに所属していたこともあります。
当然親同士も交流があります。家族で一緒に遊びに行くこともありました。
A太が異変に気が付いたのは、小学校の級友からこう言われたときです。
「お前、塾のクラスが下がったんだって?」
小学生男子など、気遣いという語句とは無縁の存在です。さほど悪気はなくとも、これくらいのことは言い合うのは普通です。
A太が不思議だったのは、なぜ塾のクラスのことをこの級友が知っているのか、ということでした。
その小学校から同じ塾に通っているのはB郎だけだったからです。
まさかB郎がそんなこと言いふらすかな?
A太には信じられません。なぜなら、B郎は「いいやつ」だからです。気になるので、直接確認することにしました。
「なあB郎、お前、俺の塾のクラスのこと、学校のやつにしゃべったりした?」
B郎はびっくりしています。
「まさか! そんなこと言うわけないじゃん」
そうだよなあ。ま、いっか。
ところが、その後も同様のことが続きます。A太はなかなか優秀な生徒です。B郎も勉強はできますが、A太が一歩リードというところでした。そのA太が塾のテストで失敗したり、小テストで満点を逃したりするときにかぎって、なぜか小学校の級友にその情報が洩れていくのですね。
やがて原因が判明しました。
小テストの結果や順位などを廊下に張り出すスタイルの塾でした。
あるとき、B郎が廊下に張り出された成績表をスマホで撮影していたのです。
「あれ、B郎、そんなの撮ってどうすんの?」
「ああ、ママが撮ってこいっていうから」
そうなのです。B郎は、母親に言われるままに、塾内に張り出されている成績表を毎回撮影していたのです。
わが子の成績を知るだけなら不要な行為です。B郎の母親は、他人の成績、とくにA太の成績の推移に異常な関心を示していたのですね。それで、A太が失敗したときに、そのことを小学校の別のママ友たちに言いふらしていた、とそういうことだったのです。
善意に解釈すると、B郎の母親にそこまでの悪意はなかったのかもしれません。単に噂話が好きで歯止めがきかなかっただけなのかもしれません。
ただし、モラルには反しています。
子どもからその話を聞いたA太の母は、A太にこう話しました。
「B郎君は悪くないよ。お母さんに頼まれただけだから。それがわかってよかったね。そして、塾の成績を学校の友達たちに知られても別にいいじゃない。あとは、言いふらされても自慢にしかならないような成績を取ればいいってこと!」
立派なお母さまですね。
子ども同士の友情は親と別物と心得ていたのです。
ただし、息子には言いませんでしたが、母親は最難関校へのチャレンジを決意したのでした。そこまでの高みに到達すれば、B郎と同じ学校にならなくてすむからです。いくら子どもに悪気がないとはいえ、この母親と付き合いが続くのは避けたいと考えるのは当然ですね。
私からのアドバイス
小学校(公立)のママ友とは距離を置いてつきあう
小学校でできるママ友は、たまたま同じエリアに住んでいただけの関係でしかありません。多様性といえば聞こえはいいですが、本当にいろいろな家庭の子が集まっています。
子ども同士が仲良くなるのは素敵なことですが、親同士の付き合いにはある程度の距離を置くことをおすすめします。たまに数人でランチする程度でしょうか。
同じ子育ての悩みをかかえており、共通の話題にも事欠かないので急接近する要素がたくさんあるからこそ、慎重になるべきでしょう。
もちろん、そうしたママ友との間に、その後長く続く交友関係が芽生える場合もあるのは承知しています。
私が言いたいのは、あまりに急速に距離を詰めると、トラブルになる可能性があるよ、とそういうことです。
塾でママ友はつくらない
これは鉄則です。
上で紹介したA子さんとB美さんのようなケースは、中学受験が今ほどヒートアップしていなかった時代の牧歌的なお話なのです。
そもそも塾でママ友ができる機会などそうないと思うのですが、そのあたりは塾によるのでしょうか。
同性・同学年で成績が同じくらい、志望校も同じ。
共通の話題がたくさんあります。親も不安をかかえている時期です。お互いの傷をいやし合うように、急接近してしまいがちです。
しかし、受験はシビアな世界です。
同じクラスで成績も同じくらい、同じ第一志望校で、あちらは合格してこちらは不合格。その差はわずか1点。
そのとき笑顔で祝福できますか?
塾の仲間は、戦友のようですが、共通の敵と戦う戦友ではありません。むしろサバイバルし合う敵同士になる存在です。
もちろん、だから足を引っ張り合うなどあり得ません。みんながんばって励まし合って、みんなで第一志望に合格しよう! 子どもたち同士はシンプルにそう考えています。
親はそれを暖かく見守る、そのスタンスでいてください。
入試が終わった後に、同じ中学校に進学する子どもどうしが親友となるかもしれません。別の学校に進学した塾友との付き合いが続くかもしれません。
それはあくまでも子ども同士の関係であって、親同士がそこに出てくる場面などないですね。