私立中高一貫校の弊害ともいえるかもしれません。
自己肯定感が低くなるのです。
今回はそんな話題です。
自己肯定感が下がってしまったA子
A子は、なかなか優秀な生徒でした。
しかも努力家です。
地道に勉強をし、少しずつ知識を身に着け、成績を上げてきました。
最終的には、目標としていた最難関校の一つに見事合格したのです。
実は、私の仕事はこれで終わりです。
あとは学校におまかせすればいいと思います。
きっと充実した中高生活を送り、その先にも未来が開けることでしょう。
しかし、来年は中3になるというA子の母親から、こんな相談があったのです。
「実はA子は、学校にほとんど行けていないのです」
「えっ、何かあったのですか? たとえばイジメとか?」
「いえ、特に何かあったというわけではありません。友人関係は良いのです」
「それでは体調ですか? 起立性障害とか?」
「それも問題はありません。ただ、学校に行くのが嫌になってしまったというのです」
困りましたね。
最近増えてきたような気がします。
理由がわからぬ不登校が。
その後、A子に教室に来てもらうことにしました。
勉強も確実に遅れてきていますので、そのフォローをしてあげるということで。
そうして勉強を見てあげながら、少しずつA子の様子を見てみよう、という作戦です。
そのようにして、3か月ほど勉強を見てあげながら、A子といろんな話をするうちに、原因が見えてきたのです。
A子は、初めての挫折を味わっていたのです。
A子は、今まで自他ともに認める、「素直でまじめ」な生徒でした。しかも「優秀」でもあったのです。
この二つの組み合わせは、実は無敵です。
世の中には、せっかく優秀な頭脳を持ちながら、努力をしないが故にその能力を開花できない子がたくさんいます。
A子は、努力をすることができる才能と、それを活かす頭脳という、とても恵まれた資質を持っていました。
もちろんA子は、それに慢心するようなタイプではありません。娘を持つ親の誰もがうらやむ「良い子」であったのです。
しかし、A子が進学した中学は、最難関校の一つです。
こうした中学には、まさに「青天井」で優秀な生徒が集まるのです。
そうはいっても、A子だって、その生徒たちの中で、けっして出来ないほうの生徒だったわけではありません。おそらくは真ん中くらいだったと思います。
しかし、A子にとっては、自分よりも優秀な生徒がこんなにたくさんいる環境は初めてだったのです。
ショックでした。
自分が寝る時間を惜しんで勉強しているのに、休みの日には遊びにばかりでかけ、学校の授業もまじめに受けていない生徒たちが、自分よりもはるかに高成績を維持しているのです。
数学の定期テストで一桁の得点だった子が、いきなりトップレベルに躍り出たこともあったそうです。
「さすがにヤバいって思って、テキスト3周したら点がとれた」とあっさり言われたとか。
とても私にはかなわない
A子の自己肯定感が音を立てて崩れていったのです。
実は、A子は、そうは見えなくてもかなりの負けず嫌いだったのですね。
しかし、自分が努力しても適わない子がたくさんいる環境で、それでも頑張れるほどには精神力が強くはありませんでした。
そこで、気持ちが一気に後ろ向きになってしまったのでしょう。
優秀な生徒が多くいるからこそ魅力的な学校なのですが、A子には刺激が強すぎたということなのでしょう。
プライドを捨てられなかったB太
B太は、充実した中高生活を送りました。
実は、彼本来の力より、二段ほど下げた学校に進学したのです。
もっと上の学校にも十分合格できる力があったのですが、本人の強い意志で進学先を決めました。
そのかいあってか、中高は非常に楽しく過ごせたようです。
そこそこの努力で、学年でもトップレベルの成績をキープできました。
クラブ活動にも注力できました。
その勢いで、大学入試についても、最難関医学部を受験したのです。
本人も親も合格を確信していましたが、結果は不合格に終わりました。
B太は、医学部進学をあきらめ、海外大学進学に舵をきりました。
そうはいっても、いきなり海外名門大学に進学するには準備不足すぎます。
それでも、レベルの低いコミュニティカレッジなら、とりあえず進学することはできました。本人曰く、そこで2年間学んだら、アイビーリーグに入り直すのだそうです。
残念ながら、その希望はかなわないと思います。
B太は、自己肯定感を維持することだけに執心してしまったのですね。
より優れたライバルの中で切磋琢磨し挫折を味わうくらいなら、自分が居心地のよい環境で「偽の自己肯定感」を維持してしまったのです。
正しい自己分析が求められる
私立中高一貫校に進学するということは、自分より優秀な仲間に恵まれ、刺激を受け、成長につなげることができるということなのです。
おそらく最初は挫折を味わうことでしょう。
そこから何を学ぶのか。
そうして初めて本当の「自己肯定感」が得られるのだと思います。
B太は、最初から逃げてしまったのですね。
A子は、自分の利点である、「努力出来る才能」に気づけなかったのですね。
せっかくの環境も、活かすかどうかはまさに自分にかかっていると思います。