人生において、「受験」のチャンスは4回あります。
小学校受験・中学校受験・高校受験・大学受験
(幼稚園や大学院は除く)
今回は、そのうちの小学校受験について書いてみたいと思います。
中学受験と比べると、驚かされることがたくさんあるのです。
※私は中学受験の専門家ですので、あくまでもその立場からの考察になります。
学校のレベルがわかりづらい
中学受験をしようとする場合、最初に気になるのが学校の偏差値ですね。
SAPIX・四谷大塚・日能研+首都圏模試、これらの「四大模試」の結果にもとづき、「入試日別偏差値一覧」のようなものが出されています。
学校を選ぶ場合に参考になるものですね。
毎日のようにそれを眺めて、ため息をつかれているかもしれません。
しかし、小学校受験の世界には、このような「偏差値一覧」のようなものは存在しません。
理由は簡単です。
入学試験が、ペーパーテストの点数で決まらないからです。
それでも、小学校受験塾の中には、「偏差値表」のようなものを作っているところもありますが、目安にもならない不正確なものでしかないのですね。
中学受験をする/しない?
私立(国立)小学校受験を考える際、最初に考えるのが、「そのまま中学校に上がるのか」「中学受験をするのか」という問題です。
小学校受験をする目的が、「中学受験・高校受験を回避する」「大学までそのまま上がりたい」ということにあるのなら、小学校のレベル=中学受験難易度 と考えることができます。
つまり、「中学校で偏差値〇〇レベルの学校に小学校から入る」=「中学校の偏差値=小学校の難易度偏差値」という発想ですね。
実はこの考え方には大きな落とし穴があるのですが、とりあえずの目安にはなるでしょう。
いくつか東京都の学校をあげてみます。
白百合学園小学校
青山学院小学校
東洋英和女学院小学部
成蹊小学校
成城学園初等部
日本女子大学附属豊明小学校
東京女学館小学校
東京農業大学稲花小学校
昭和女子大学附属昭和小学校
東京創価小学校
光塩女子学院初等科
聖心女子学院初等科
玉川学園商学部
川村小学校
国立音楽大学附属小学校
聖心のように中学校から入学できない学校もありますが、ほとんどの人気校は、中高の人気校でもあります。
またもう一種類の小学校、つまり中学受験を前提とした小学校も多くあります。
国立学園小学校
東京都市大学附属小学校
宝仙学園小学校
聖徳学園小学校
晃華学園小学校
トキワ松学園小学校
聖学院小学校
そのうちの1つ、国立学園のHPをのぞいてみると、卒業生の合格中学&進学中学が細かく公表されていました。ただし、5年間トータルの数値です。
一部紹介するとこんなかんじです。(かっこ内は進学者数)
開成 9(3)
麻布 10(9)
武蔵 8(6)
桜蔭 13(13)
女子学院 5(5)
雙葉 2(2)
駒場東邦 14(13)
筑駒 8(8)
桐朋 43(22)
巣鴨 24(7)
海城 20(12)
豊島岡 11(1)
吉祥女子 12(8)
晃華 23(9)
早稲田実業 7(6)
国学院久我山 48(17)
成蹊 13(8)
穎明館 42(24)
渋谷渋谷 9(2)
帝京大 14(8)
日大二中 9(7)
明星 18(11)
まるで塾の合格実績のようですね。
もう1校、神奈川の洗足学園小学校を見てみます。
この学校は、過去15年の中学入試結果を1年毎に公表しているのです。情報公開の姿勢が素晴らしい。2024年単年度の結果をみてみましょう。
開成 1(1)
麻布 3(2)
桜蔭 7(6)
女子学院 4(3)
雙葉 1(1)
栄光 4(1)
海城 4(3)
慶應普通部 2(2)
慶應中等部 4(4)
聖光 6(4)
鴎友 4(3)
渋谷渋谷 3(3)
豊島岡 5 (1)
洗足学園 18(5)
洗足学園の18名というのは、12月に実施される「内部入試」の合格者だと思います。
女子の実績が良いですね。
それは、洗足学園中高の人気を反映していると思われます。
桜蔭や女子学院等の外部受験を考えながらも、洗足学園中高でもよい、そういう優秀な女子生徒を引き付けているのでしょう。
また、音楽教育に特徴がありますので、そのあたりも男子生徒よりも女子生徒に好まれているのかもしれません。
このようにみてくると、私立小学校と一言でいっても、いくつかのパターンに分かれることがわかってきます。
A:中学校が無い小学校
B:中学校が不人気の小学校
C:内部進学も外部受験も両方できる小学校
D:内部進学を前提とした小学校
昔教えていた生徒に、Bのタイプの中学校を志望した生徒がいました。
公立小学校から、あえて受験をして、人気のないBの中学校を目指したのです。
その中学校は、附属小学校はなかなか人気があるのですが、ほぼ全員が中学校には上がらずに外部受験をする、つまりそうした中学校でした。
実はこの生徒はかなり優秀な生徒で、偏差値だけでいえば、B中学校のレベルを20以上上回っていたのです。しかし、本人・両親がぜひB中学校に進学させたいという強い希望をお持ちでした。
偏差値にとらわれないこうした学校選びもいいですね。
さて、入試は予想通りB中学に合格します。たぶんトップ合格だったでしょうね。手続きをして入学金も納めます。
ところが、B中学校から私のところに電話があったのです。
「先生の教え子の○○さんですが、本当にわが校に入学してくれるのでしょうか?」
こういう電話です。
この生徒があまりにも優秀すぎたので、「うちに入学するはずがない」とでも思ったのでしょう。
「この中学校、大丈夫かな?」と微かな疑念が芽生えたのも事実です。
もっと学校の教育に自信を持ってほしいものです。
さて、私立中学受験に目覚ましい成果をあげている私立小学校もあるというお話ですが、一つ気をつけねばならない点があります。
その成果、本当に小学校の教育の成果なのでしょうか?
実は、そうした小学校の一つで、授業見学をさせていただいたことがあるのです。
公立小学校とはまるで異なる教室環境の中、積極的に挙手をする優秀な生徒ばかりの授業は見ていても感心するものでした。
ただし、その授業内容は、塾のカリキュラムを考えると、塾で既習した内容ばかりでした。
しかも、その小学校の生徒のほぼ全員が、中学受験のための塾に通っていると思われます。
もし塾に通わずに小学校の学習だけで中学受験で実績をあげる小学校があれば素晴らしいのですが、そうした小学校は聞いたことがないのです。
中学受験をするつもりがなかったのに、途中で方針変更した場合
人気中高にそのまま上がれる、つまり前述したDタイプの小学校に入ったものの、途中で中学受験を考える方が必ずいらっしゃいます。
◆同級生たちとなじめなかった
◆保護者となじめなかった
◆上がれそうにない
◆物足りなくなってきた
このようなケースです。
小学校の同級生やその保護者たちにどうしても親子でなじめない。このまま同じメンバーで中学生となるのが耐えられない。人間関係をリセットしたい、そういう場合もあるでしょう。
また、このままでは上に上がれないかもしれないという場合も考えられます。仮に中学校にはそのまま上げてもらえるとしても、高校に上がる条件がシビアで、落とされる、そういう方針の中高も存在します。高校の大学実績が素晴らしいのは、中学受験をした生徒ばかりで、小学校から上に上がってきた生徒たちではなかった、そうしたことに気づく場合もあるかもしれません。
一番不幸なのは、物足りなくなった場合です。
せっかくがんばって小学校受験をして進学したのに、そのまま中高大と進学することが物足りなくなったのですね。子どもの能力がもっと上を目指せるレベルであったことに気が付いた場合です。
「この程度のレベルの中高(大学)だったら、小学校から入る必要はなかった」
そんな風に思いはじめると、学校生活に様々な疑問が生じてしまいます。
実はこれは、中学受験でも同様の話を聞く問題です。
全員が内部進学前提の大学附属中高に進学したが、もっと上の、たとえば国立大学や医学部を目指そうと考え始めた。だが周囲は誰一人受験勉強をしていおらず、青春を謳歌している。これはなかなか厳しい環境ですね。
小学校受験の入学試験は独特すぎる
中学受験の世界に住んでいる私から見て、一番違和感を感じるのがここなのです。
慶應幼稚舎
公式HPにはこうあります。
幼稚舎は、入学試験を公平かつ厳正なものとするために細心の注意を払って実施します。
幼稚舎の入学試験は、様々な活動を通じて志願者のありのままの姿を見るものですから、入学試験のために特別な準備は必要ありません。
特別な準備は不要という文言を鵜呑みにする方はいないでしょう。
でも、実際に、塾に行かずに合格する生徒がいるのです。
さて肝心の試験内容ですが、面接もペーパーテストもありません。「行動観察」というテスト?なのです。そして「行動観察」は3つのパートで構成されています。
◆運動テスト
模倣体操・・・試験官の動きを真似して動く、というものですね。
片足バランス・両足飛び・前屈・後屈といったものをやらされます。
サーキット運動・・・試験官のお手本どおり、いくつかの種類の動きを真似しながらゴールするというものです。
スキップ・けんけん・ボール投げ・縄跳び等をやらされます。
◆絵画制作
テーマが与えられて、それにそくした絵を描いたり工作するというものです。
・粘土で自販機で売ってほしい商品をつくる
・将来の夢を絵に描く
・願い事の絵を描く
そんなもののようです。
◆遊び
集団遊びと自由遊びをさせて、それをチェックされるというものです。
これらのテスト?によっていったいどんな能力が測られるのかは私にはわかりません。
調べてみると、「指示に従うこと」が重要だとありました。
しかし、「指示に従えない子」に、開成や麻布等に進学した優秀な生徒が何人もいたことを覚えています。
このテスト?をパスするための努力というものが私にはよくわかりません。。
早稲田実業初等部
1次試験と2次試験があります。1次試験ではペーパーテスト・絵画・体操・行動観察等が、2次試験では親子面接が実施されます。
◆ペーパーテスト
お話を記憶して答える・数の問題・図形の問題
◆絵画制作
◆生活習慣・・・洋服をたたみ包む、そんなテストだそうです。ああ、これは苦手そうですね。
◆行動観察・・・「ごっこ」遊びなどをさせて様子を見るようです。
◆体操・・・指示にしたがって体を動かします。
◆親子面接・・・2次試験
ペーパーテストがあるだけ、慶應幼稚舎よりもテストっぽいですね。対策も立てやすいと思います。
ただ、生活習慣はトレーニングすればよいとしても、行動観察は難しいですね。
小学校受験を専門とする先生に聞いた話です。
「小学校受験では、3種類の子が合格するんだ。1つ目は、御縁のある子。いわば閉鎖的な村の入村試験のようなものだからね。すでに村人の子だったら、安心できるだろ? 2つ目は輝いている子。そうした子は一目でわかる。オーラが違うからね。3つ目はその他の子ということになる」
この話が真実なのかどうかは知りません。
オーラの出し方なんてあるのかな? そもそもオーラって?
地道な学習の積み重ねで得点力を上げる、努力至上主義の中学受験のほうが私は好きです。
まとめ
相談されることがたびたびあります。
小学校受験の是非についてです。
これについての私の考えは決まっています。
◆教育方針・内容に惹かれる私立小学校が自宅近所にある
この場合だけ、受験する意義があると思っています。
6年間その小学校で過ごすのです。
そこで実践されている教育内容に魅力を感じることが前提でしょう。
さらに、小学生の体力を考えてあげてください。
みなさんも、朝夕の身動きできぬ通勤ラッシュにもまれている小学生を見たことがあると思います。
小学生には過酷すぎると思います。