中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

中学受験と反抗期が重なったときの親の心構えと実践テクニック

今回は、中学受験時期と反抗期が重なってしまった時、どう乗り越えるかの実践テクニックについて紹介します。

そもそも反抗期とは?

3歳の「イヤイヤ期」を第一反抗期と呼ぶようですが、ここでは一般にいわれる「反抗期」、つまり10歳~12歳くらいにあらわれる、親や学校などの一般的な大人の価値観に対する意味もない反発時期を考えます。

小学校高学年くらいから高校生くらいの、思春期ともよばれる時期の現象ですね。

 

必ず反抗期は訪れるのか?

これがこの問題のやっかいなところです。

全ての子どもが等しく同時期に反抗期を迎えるわけではありません。

まさに子どもによるのです。

専門家の意見を紐解くと、だいたいこのように書いてあります。

〇子どもが親から自立して自我が確立していく証拠

〇子どもの心の成長にとって大事な過程

〇反抗期がないと大人になってから自我が確立できない

〇周囲の大人は見守ることた大切

専門家がそういうのですから、そうなのでしょう。

しかし、現実に、中学受験のための勉強をしている大切な時期に、見守るだけとはいかないですよね。

私は児童心理の専門家でもなんでもありませんので、これから書くことは、実際に見聞きした生徒や親の様子を紹介するだけです。

こうすれば必ずうまくいくという処方箋ではありませんが、何かの参考になるかもしれません。

 

めんどくさい、放っておいて

 小さいころから、何でも親に報告していたA子。親から尋ねなくても、学校での出来事を逐一細かいことまで親に話したがる子だった。ところがいつのころからか、そうした報告がなくなってきた。小学5年生となった今では、「今日は学校どうだった?」と母親が尋ねても、「別に」としか返ってこない。さらに、夕飯のメニューを相談しても、昔だったら「カレーが食べたい!」と希望を言ってくれたのに、「別に。なんでもいいよ」

周りの社会に対する興味・関心が薄く、コミュニケーションが希薄になっている。当然勉強態度にもそれは反映し、成績も下降線をたどってきた。父親は、「A子も少しずつ親離れしてきてるってことだ。そもそも君がしつこく構いすぎるのがいけない」と言うばかりで頼りにはならない。

 

比較的女子に多くみられる傾向のような気がします。

放っておけばそのうち収まるべきところに収まるような気がしますが、成績に悪影響が出ているのは問題です。

今のA子にとっては、日々の生活も、受験のための勉強も、親から押し付けられたもののように感じられているようです。しかも、この「コミュニケーション希薄化現象」は、相手によって使い分けられています。どうやら小学校の先生や塾の先生の前では、問題なくふるまっているようです。また、小学校で仲の良い友達同士とも普通にやり取りしています。父親と母親の前でだけ、めんどくさいというオーラを全開にしているのでした。

一言でいってしまえば「甘え」です。親だからこそこうした態度がとれるのです。

ここで、昭和の親のように「親の前でそんな態度は許さん!」とやることは簡単ですが、あまり良い影響をもたらさないような気がします。

そこで両親がたてた作戦は以下のようなものでした。

◆毎日の出来事を、20字×3文、60字の短文にまとめてレポートとして親に提出する

◆毎日の出来事を、両親も同様に60字の短文レポートにして子どもに提出する

◆子供部屋から勉強机を撤去し、リビング学習に切り替える

◆子どもがリビングで学習している時間は、親も勉強時間とし、資格試験にチャレンジする

◆「別に」「なんでもいい」「めんどくさい」を禁句とし、家族全員100円の罰金を罰金箱に入れる

以上を守ることを家族全員で決めました。

一番大変だったのは、60字の日々のレポートでした。1日の中には、報告すべきことがたくさんあるような気がしていたけれど、実際には報告するようなことはほとんど無いことに親も気づいたそうです。社会に出ている大人ですらそうですので、日々のルーティンをこなしている小学校生活で、そんなに親に報告すべきことは実はなかったのですね。

リビングで家族3人で勉強する時間はとても役立ちました。一方的にやらされている勉強から、家族それぞれが自分のために勉強する時間へと変化したからです。そして、やはり勉強はつらいものでした。自覚をもって臨んでいるはずの大人ですら、何時間も机に向かって勉強するのは大変なのです。その大変な行為を、簡単に子どもに強制していたことの理不尽さに気付いたことが収穫でした。

「別に」「なんでもいい」「めんどくさい」 聞けば不快になるこの言葉も、実は大人も無意識のうちに何度も使っていたそうです。「罰金箱」はすぐに重たくなってきました。これは、入試が終わったあとのご褒美ハワイ旅行のお土産代になる予定だそうです。

劇的に親子関係が改善したり子どもに積極性が見られるようにはなりませんでしたが、むしろ変わったのは親のほうでした。子どもの反抗期って、もしかして親の態度を反映している鏡のようなものだったのかもしれない。それがA子両親の結論です。

 

うっせえんだよ!

まさかわが子からこんな言葉が出ようとは。

怒るよりも前に驚きが先にたった。B太の両親は、B太が子どものころから躾にはポリシーをもってあたっていたつもりだ。もちろん普段の言葉遣いについても、きちんと教育してきた。ただ、最近言葉遣いが乱暴になってきたな、と危惧していたのは事実である。しかしそれも男の子だしこれくらいは、と放置していたのがいけなかったのかもしれない。ママ友にそんな話をしても、「うちなんかもっとひどいよ」と一笑に付されるだけだった。

言葉遣い同様、生活態度も荒れてきている。脱いだ服は片づけない、ゴミは散らかす、食器は下げない。それを口うるさく注意すると、「うっせえんだよ!」と返ってくるのだ。

 

こちらは男子によく聞く話です。

乱暴な口調がかっこいいと勘違いしているのですね。

親の干渉をうっとうしく感じる年頃でもあります。

しかし、子どもが「うっせえんだよ」といった聞くに堪えない言葉遣いをするのには必ず原因があります。インプットがなければこんなアウトプットは生まれないからです。

◆最近一緒に遊んでいる学校の友達に悪ガキがいる

◆漫画やアニメの登場人物がそうした言葉遣いをしている

親に対する口のきき方がなっていない子どもというものはいるものです。

ある時私が大型家具店で椅子を探していると、座り心地のよさそうな展示品の椅子に、大股開いてふんぞり返っている男子高校生がいました。もちろんスマホゲームに夢中です。明らかに椅子を買いにきている客(例えば私)の邪魔です。そこに父親が現れました。さすがに注意をするだろうと思っていたら、以下の会話です。

父親:「汚ねえケツ乗っけてんじゃねえよ!」

息子:「うっせ! てめえのほうが汚ねえだろうが!」

なるほど。この親にしてこの子あり、ですね。

残念ながら、最近のB太の遊び友達が、こうしたご家庭のお子さんだったようです。

さすがに、「〇〇君とは付き合うのをやめなさい」などと言うわけにはいきません。そこで、このような作戦をとることにしました。

◆父親が、真正面からB太に言葉遣いの大切さについて話をした。

◆一切の注意をやめた。

◆B太がまともな言葉遣いで話をするときだけ対応することにした。

◆塾と習い事で週5日の放課後時間を埋めた。

 

まずは、父親からきちんと話をしました。これはとても大切なことです。子どもを子ども扱いしていると、いつまでたっても子どものふるまいのままです。一個の人格としてB太に接し、他人に使ってよい言葉遣いと使ってはいけない言葉遣いの違いについて、その理由もきちんと納得するまで話をしました。

次に、細かい注意を一切やめました。服を抜きっぱなしにしていれば、いずれ困るのは自分です。脱いだ服はきちんと洗濯機に入れなければ、やがて着る服がなくなります。食べ終えた食器を片づけなければ、いつまでも汚い食器が目の前に置かれています。

そして、子どもといえども、親に対する言葉遣いに最低限のルールを設けたのです。何事も習慣が大切ですから。

最後に、悪友との距離をとる作戦です。自我が確立してないこの時期は、交友関係から良い影響も悪い影響も受けるものです。B太は、少なくとも言葉遣いや生活態度の乱れについては、悪い影響をしっかりと受けていたのでした。

 

イライラとして周囲に当たり散らす

C子は明るく素直な子でした。ところが最近は、常にイライラとしています。ささいなことでもすぐに反発します。

「お風呂に入りなさい」「言われなくても入るから!」

「算数はやってるの?」「見ればわかるじゃん!」

「最近塾から帰るの遅くない?」「質問してんの!」

「夜食一緒に食べない?」「太るからいらない!」

全ての語尾に!マークがついています。

こんなことが続くと、両親ともC子に話しかけるのにビクビクするようになってしまいました。

 

よく聞きますね。

何に反発しているとか、そういう理由がなく、あらゆることに反発しイライラを周囲にぶつけるのです。

おそらくは、本人も理由がわかっていないはずです。とにかくイライラする。

しかし、不思議なことに、塾で見ているとそうした子は皆無です。教師に指示にはきちんと従いますし、質問にも答えます。しかしご家庭の様子をうかがうと、上記のような状況なのですね。

つまり、子どももイライラをぶつけていい相手といけない相手をきちんと使い分けているわけです。つまりイライラの確信犯であるといえるでしょう。

対処法としては3つあります。

◆完全スルー

◆正面からぶつかる

◆泣く(笑う)

です。

3番目の泣く(笑う)というのは、母親のキャラクターー次第です。日ごろから子どもの前で弱みなどみせたことのない母親ですが、娘からイライラをぶつけられたとき、思わず涙がこぼれたそうです。娘も慌てました。相手に自分の感情をぶつければ、そうした反応が返ってくる。そのことを知ったのです。また、笑うというのは、日ごろ陽気なお母さんだけにできることですね。子どものイライラをネタにして家族で笑っていたそうです。これも誰にでもできることではありません。

一般には、正面からぶつかるか、完全スルーのどちらかでしょう。C子の親は、完全スルーすることにしました。

娘がどんなにイライラしようと、まったく取り合わず、普通に接していたそうです。

「お風呂に入りなさい」「言われなくても入るから!」「はいはい」

「算数はやってるの?」「見ればわかるじゃん!」「どれどれ。あ、本当だ。えらいね」

「夜食一緒に食べない?」「太るからいらない!」「じゃあママだけ太ろうっと」

娘のイライラに全く動じない。

そうでもしないと、親までストレスがたまりますからね。

こうして完全スルー作戦をとることによって、娘の態度に大きな変化は生じません。ただし、親のストレスは減少しました。

不思議なもので、親のストレスが減ってくると、娘のイライラが気にならなくなってきます。他人に向けてイライラしているのでは困りますが、家庭内ですので、まあ親に対する甘えの一種と考えることにしたのでした。