夏が近づき、各塾の模試が本格化してきています。
そして、受けるたびにショックを受ける方も多いでしょう。
「合格可能性20%!」
「これではどこも受からない・・・・・。」
今回は、模試を受ける意義について考察します。
1.模試の種類
中学受験を考えた場合、受験するべき模試は以下の4種類です。
(1)日能研の模試
(2)四谷大塚の模試
(3)SAPIXの模試
(4)首都圏模試
それぞれの模試の詳細については、こちらの記事を見てください。
ざっくりと言ってしまうと、模試の難易度=受験生層のレベル は以下のとおりです。
同じ学校の偏差値が、
SAPIX+10=日能研/四谷大塚
四谷大塚/日能研+10=首都圏模試 となっています。
たとえば、SAPIX偏差値40の共立女子が、四谷大塚では52、日能研では50、首都圏模試では63となっていたり、同じくSAPIX偏差値が51のサレジオ学院が日能研では59、四谷大塚では60、首都圏模試では70となっています。
その他の学校も調べてみると、だいたい日能研と四谷大塚の偏差値が同じくらいとなっていることがわかりますし、それに10くらいを足すと首都圏模試、10を引くとサピックスの偏差値となります。
もちろん、偏差値本来の意味を考えればこのような比較は意味がありません。
偏差値とは、そのテストを受験した生徒の中でのポジションを示す目安にすぎないからです。母集団=受験生が変われば、数値も変わります。
それに、たとえ同じ塾の模試であっても、毎回同じ受験生ではありません。
とはいえ、ある程度の目安と割り切って利用すれば、これはこれで便利です。
受験すべき模試の選び方は、「志望校の偏差値が50前後となっている」模試を選ぶことです。
例えば、SAPIXで偏差値が30となっている学校を志望している場合は、SAPIXの模試を受けても合格可能性データは信頼できません。おそらくは、過去にSAPIXから受験した生徒が少ない学校のため、きちんとしたデータが算出されていない可能性が高いからです。同様に、首都圏模試で偏差値70以上と出ている学校を志望する場合、この模試のデータの信頼性は低いのです。おそらくは、首都圏模試受験者たちが全くといっていいほど受験していない学校だからです。この場合もデータを算出することはできません。
その模試を受験しているコアの層が偏差値50前後に固まっているはずですので、そうした模試を受験したほうがデータの信頼性は高まると考えてよいでしょう。
2.模試のデータで注目すべきポイント
(1)偏差値
ますはここが気になるでしょう。
しかし、一番気をつけなくてはいけないのが偏差値データです。
わずか1、2程度の差は誤差の範囲と思ってください。
例えば、4科目偏差値が34のお子さんが、合格可能性80%ラインの偏差値が68の学校を志望するというのなら、
「無謀です」・・・6年生の夏の段階
「その他の学校も幅広く検討してみましょう。」・・・5年生の夏の段階
「がんばりましょう」・・・4年生の夏の段階
といったアドバイスができますね。
さすがに偏差値で30以上離れているということは、マラソンレースでいえば、先頭集団と、最下位集団くらいの差がありますので。
もし偏差値を志望校選びに使うのなら、直近3回ほどの模試(もちろん同じ塾の模試)の平均値を使ってください。
そして、この数値は、あくまでも目安にしか過ぎないことをお忘れなく。
(2)順位
これも非常に気になるデータだと思います。
しかしこのデータが意味を成すのは、その模試受験者の中の最上位グループ内での話となります。
例えば、SAPIXの模試で順位が500位の男子がいたとしましょう。
2024年の実績を見てみると、SAPIXの実績はこうでした。
開成 262名
麻布 182名
武蔵 59名
駒東 183名
慶應普通部 113名
こうしてみてみると、男子の最上位層は開成・麻布に分かれるとして、合計444名です。また、武蔵・駒東・慶應普通部まで入れると、799名となります。
つまり、上位400位くらいまでにいれば、開成・麻布の合格が見えてきて、さらに800位くらいまでにいれば、駒東・慶應普通部の合格圏内と考えることができるわけです。
さて、順位が500位の開成志望の生徒としては、もう少し順位を上げて、せめて300位以内、できれば200位を目指そう、という目標ができるのですね。
同じように女子でも見てみます。
桜蔭 189名
女子学院 131名
です。合計320名となります。
そうすると、これらの学校を第一志望とするなら、少なくとも300位以内、できれば200位以内を目標とするという考えが成り立ちます。
このように、順位を志望校選びの目安とするのなら、その模試受験生の最上位層でなければ意味がないことがおわかりいただけたでしょうか。
ここでは、近年人気の渋谷渋谷や渋谷幕張、聖光や豊島岡、さらには慶應中等部や慶應湘南藤沢といった学校は入れていません。どちらも試験日が2月1日一回ではないからです。このような単純な順位による目安を考えるためには、2月1日の1回だけ入試を行う学校でないと意味がありません。
ためしに渋谷渋谷の合格者数をみてみると229名とありました。
1/27 帰国生
2/1 第一回入試
2/2 第二回入試
2/5 第三回入試
229名の合格者が、いったいどの回の入試で合格したのかまではわかりません。また、渋谷渋谷以外が第一志望だった生徒の人数もわかりません。
229名全員が渋谷渋谷を第一志望とし、開成や麻布、桜蔭や女子学院受験生と重ならない、そうしたことは考えにくいですね。
おそらくは、渋谷渋谷を第一志望として2月1日に受験する生徒も多数いますので、女子の場合なら、桜蔭・女子学院・渋谷渋谷に400名ほどが分散すると思われます。
このあたりの詳細なデータは、当然塾側は持っていますので、その模試の実施塾に通塾している場合は、担当教師に相談すればもっと細かい話が聞けると思います。
しかし、その模試の主催塾に通塾していない場合は、塾の出した別のデータを参照しましょう。
模試の志望校に渋谷渋谷と書いた生徒の中での順位ですね。
ただし、これもあまり目安になるデータとはいえません。
なぜなら、模試で記入する志望校と、実際に受験する受験校は一致するはずもないからです。
(3)合格可能性
模試を受験する際に志望校を聞かれますね。それによって合格可能性が何%であるのか成績表に印字されます。
これはあからさまなデータですので、気にならない人はいないと思います。
しかし、あまりあてにならないデータと思ってください。
算出方法は以下のとおりです。
その塾から過去にその中学校を受験した生徒のうち、今回のお子さんと同じレベルの生徒が100名受験したら60名合格し40名不合格となった。したがって、合格可能性は60%である。
ところがここに問題があります。
お子さんと同じ偏差値だった過去の生徒で同じ学校を受けた生徒が100名もいないという問題です。
もちろん、一部の学校については、その塾から大量の受験生が毎年いれば、それなりの計算は可能です。
しかし、そうした計算をすべての志望校について行うことは無理があります。
そこで、足りないデータを補完しながら推計することになります。
具体的には、その学校を受験した過去の生徒のデータから、80%偏差値や50%偏差値を計算します。そして今回受験したお子さんの偏差値を比較して、「だいたいこのくらい」と推定して合格可能性とするのですね。
母集団も問題の質も異なる過去のデータから推計しているだけですので、あくまでも目安程度、あるいは無視してもさしつかえない数値であると思います。
(4)得点
もちろんテストですから、点数が出ます。
実はこれが最重要データです。
偏差値や合格可能性とは異なり、客観的な数値だからです。
いわゆる得点力というものが、正確にさらけ出されるのです。
勉強の目的は、この得点力を上げることにあります。
自分が何点落としたのか、そこに注目しましょう。
(5)小問ごとの得点
小問ごとに、受験生全体の得点率が出ているはずです。
これが、得点データの中での、さらに最重要データとなります。
どの問題を落としたのか、実に参考になりますね。
他の受験生が皆正解の問題を間違えている場合
他の受験生が皆不正解の問題が合っていた場合
知識問題を落とした場合
記述問題に強かった場合
こうした様々な場合を詳細に見ることで、お子さんの現時点での「弱点」が浮き彫りになるデータです。
模試を受験する意味は、このデータを得るためといってもよいでしょう。
3.模試を受ける際の注意ポイント
(1)同じ塾の模試を複数回受験する
母集団がなるべくそろうようしましょう。毎回異なる塾の模試を受けるのは、おすすめできません。相互比較ができないからです。前述したように、お子さんの志望校に合ったレベルの模試を受験してください。
ただし、受験の頻度は3か月に1~2回程度で十分です。あくまでも現時点での様子を見るための模試ですので。
6年生後半になるともう少し受験頻度をあげてもよいと思います。本番入試に備えた予行演習の意味も出てくるからです。
(2)データに振り回されない
模試を受けると、さまざまなデータが載った成績表がもらえます。しかし、これはあまり気にしてはいけません。
※だいぶ昔の話で恐縮です。四谷大塚の合不合判定テストのデータ分析を四谷大塚の情報分析の責任者の方からうかがったことがあります。
「〇〇中は、人気が出ていて難易度が3ポイントあがります」
いったいどういう分析かというと、合不合判定テストの申し込みのさいに〇〇中と記入した模試受験生が去年にくらべて10名程度増えたということでした。実際の入試の合否結果ではなく、あくまでも合不合判定テスト受験者の歴年比較をしているだけなのです。
それにはおそらく理由があります。
四谷大塚は全国の塾をネットワーク化(YTネット)してテストを実施している塾です。したがって、実際の合否結果をフォローしきれていないのでしょう。
(3)ネット情報に振り回されない
大手塾の模試が実施されると、すぐさまネットにこのような書き込みが溢れます。
「今回の〇〇模試の平均点はどれくらいになるでしょうか?」
「算数は65点、国語は70点、理科は56点、社会は60点となるでしょう。」
試験当日にもうこんな情報がUPされているのです。ずいぶん採点が早いな、と思ってよくみると、答えているのは塾ではなく、掲示板に張り付いている「素人」でした。毎回テストのたびに問題を入手して平均点を推定してはUPしているのですね。
その他にも、実に大勢の自称「プロフェッショナル」の方々が、模試の分析をしてくれています。
こんなものは何の役にもたちません。
(4)受験するのは間違い直しのため
極論すれば、模試の成績データはどうでもよいのです。
この時期にふさわしいレベルの問題を解くことで、さまざまな弱点を浮き彫りにするのが目的です。
したがって、最重要なのは間違い直しです。
せっかく試験を受け、集中して解いた問題ですから、直後に間違い直しを丁寧に行わないと何の意味もありません。
(5)母集団が少ない模試は要注意
偏差値データ等を算出するためには、最低でも5000名程度の受験生は必要です。あまりにも受験人数が少ない模試はデータの信頼性が低いので受験する必要はありません。
また、6年生にもなると、「筑駒オープン」だの「慶應判定模試」だのといったように、特定の学校の名前を冠した模試が各塾で実施されていますね。
これらの模試を受験する場合は、その模試を主催している塾の合格実績が重要です。
例えば、開成志望者なら、開成に250名以上も合格者を出している塾=SAPIXの実施する「学校別サピックスオープン・開成」をぜひ受けてみましょう。SAPIXの内部の開成志望者がおそらくは全員受験していますので、本番入試でぶつかるライバルとの闘いが体験できるからです。
ところで、その塾からその学校への合格者数が少ないのに「〇〇中判定模試」といった模試を実施している塾は多数ありますね。
これらの模試は受験する意味はありません。
なぜなら、合格者数が少ない=指導経験が少ない=その中学への合格ノウハウが少ない=模試の作成スキルがない といったことが十分に予想されるからです。
それでは、なぜこうした塾がこのような模試を実施するのでしょうか?
それは、優秀層の獲得を目的としていると考えて間違いないでしょう。
例えば、「筑駒判定模試」などと銘打たれた模試があれば、筑駒受験生としては受けてみたくなるのが人情ですよね。普段は、早稲田アカデミーやサピックス等に通塾している優秀な生徒が一人でもこの模試を受けてくれれば、その後の生徒勧誘につなげることができるということなのです。
おそらくは、模試受験後に、熱心な勧誘があると思います。特待生扱いで講習に招待されたり、筑駒対策の個別指導を格安で実施してくれたり。
思わず惹かれてしまいそうになりますが、こうした勧誘は断ることをお勧めします。
姑息な手段で合格実績を稼ぐことしかできない塾では、まともな指導ができるはずもないからです。