中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

個別指導塾 vs 集団指導塾:どちらが良い?

 

個別指導塾ってずいぶん目につきますね。

広いスペースを必要としないスタイルですので、きめ細かな出店が可能なのがその理由です。

集団指導塾で成績が悩んでいると、どうしても気になる塾ではあります。

ただ、私としては手放しでおすすめしにくい塾でもあるのです。

そのあたりの理由とともに、個別指導塾について考えてみます。

塾選びについては、こちらにも詳しく書きましたのでご覧ください。

 

peter-lws.hateblo.jp

 

個別指導塾の種類

個別指導塾は、経営母体によって3つに分類されます。

(1)大手集団指導塾や予備校が開いた個別指導塾

〇ユリウス・・・日能研

早稲田アカデミー個別進学館・・・早稲田アカデミー

〇プリバート・・・サピックス

〇城南コベッツ・・・城南予備校(※城南予備校は3年前に消滅)

〇個太郎塾・・・市進学院

〇栄光の個別ビザビ・・・栄光ゼミナール

駿台個別教育センター・・・駿台予備校

四谷学院個別指導教室・・・四谷学院

 

(2)家庭教師派遣業が開いた個別指導塾

〇名門会家庭教師センター

〇個別教室のトライ・・・家庭教師のトライ

 

(3)専門の個別指導塾

明光義塾

東京個別指導学院・・・ベネッセ

〇TOMAS

〇ITTO個別指導学院

〇スクールIE・・・やるきスイッチグループ

 

私が思いついただけでもこんなにたくさんありました。小さなところを含めれば、無数の個別指導塾があることがわかります。

もともと塾というものは参入障壁が低い業態なのですね。まして個別指導は多くのスペースを必要としませんので、起業しやすい業態ということなのでしょう。

 

また、TOMASには、最難関校だけを目指すspecTOMASという別ブランドが自由が丘だけにあります。そういえば早稲田アカデミーの同様の別ブランド、SPICAという塾も自由が丘でした。やはり自由が丘は塾激戦区ですね。

 

塾選びの基準について

さて、みなさんが塾を選ぶとき、何を塾に期待し、何を基準に選びますか?

 

A.適切な教材とカリキュラム

B.適格な指導

C.情報

D.モチベーションUP

E.通いやすさ(時間・距離)

F.面倒見の良さ

G.合格実績

 

こんなところではないでしょうか。

どれも自宅学習では手に入りにくいものばかりです。ここはプロの塾の力を借りたいところですね。

さて、個別指導塾はどうでしょうか?

A.適切な教材とカリキュラム

以前にも書きましたが、オリジナルの教材とカリキュラムを構築するためには、膨大なマンパワー・コスト・ノウハウが必要です。そう考えると、予備校が参入してきた個別や、家庭教師派遣系の個別には不安が残ります。大手集団指導塾系の個別のほうがよいかもしれません。あるいは、オリジナルの教材開発など手をつけずに、おとなしく予習シリーズを採用してくれている塾のほうがよいと思います。稚拙なお手製プリント(=間違いだらけ)など使ってほしくはないですから。

B.適格な指導

ここが、まさに教師の力量が問われるところですね。

これについては、指導経験が重要です。教師は生徒に育てられる、このことは何度も強調してきました。多くの生徒への指導経験が教師の力量を高めます。そして、優秀な生徒との出会いが多ければ多いほど、優秀な教師が育っていくのです。この点において、個別指導塾は難しいものがあります。もちろん個別指導には集団指導と異なるスキルが要求されることはあります。しかし、単純に指導経験ということでは、担当した人数が少なすぎるのですね。

 

C.情報

受験校の情報、入試関連の情報については、A同様に大手集団指導塾系に軍配があがるでしょう。

D.モチベーションUP

個別指導にこれを求めることは難しいですね。生徒の「やる気スイッチ」を本当に押してくれるような教師に出会えればよいのですが。集団指導塾特有の切磋琢磨することで上を目指していくような環境はここにはありません。

E.通いやすさ(時間・距離)

これが個別指導塾を選ぶ最大の理由かもしれません。集団指導塾ではどうしても曜日・時間帯が固定されてしまいますので。

F.面倒見の良さ

こちらも個別指導塾に期待する方が多い項目です。集団指導塾、まして大手となると、教師一人が担当する生徒が多いため、個別には面倒みてくれない(ような気がする)のですね。ただ、これについてはBの教師の力量とつながる話ですので、後述します。

G.合格実績

個別指導塾ではきちんとした合格実績の数字が出せるはずもありません。集団指導塾と併用する生徒が多いですから。いくつかの個別指導塾のHPを見ましたが、どこも立派な数字が並んでいます。これが、普段通塾している集団指導塾の手柄なのか、個別指導塾の手柄なのかは不明です。というより、分けて考えることがそもそも無理ですよね。したがって、個別指導塾の合格実績については参考値にもならないと考えたほうがよいでしょう。

知人の大手集団指導塾の先生に聞いた話です。合格発表会場に行くと、自分が教えた生徒たちが大勢合格していたんだそうです。皆で喜びを分かち合っていると、その中の数人がこそこそと学校敷地の隅に行ったとか。いったいどこに行くのかな?と思って見ていると、その隅では、某個別指導塾の横断幕の前で合格記念撮影をしていたんだそうです。もちろん広告宣伝用の写真撮影です。「なんだ、君はあそこの個別指導塾にも通ってたのか?」「すいません、自習室が自由に使えたもので。」なとど会話したと笑っていました。

 

費用について

個別指導塾は集団指導塾より割高である、これはみなさんご存じのとおりです。

では、どれくらいの料金なら適正といえるのか、ちょっと考えてみます。

 

集団指導塾のサピックスの月謝は、6年生で月約6万円くらいだそうです。これで週3日、計13時間の授業が実施されます。日能研は週あたり14時間の授業で月謝が47520円なのですが、サピックスの月謝には含まれている教材費とテスト代が別途かかりますので、それを含めると約7万円となります。

さて、これらの塾と同じ時間数を個別指導塾で教わるとするといくらかかるでしょう?

集団指導塾が1教室に20名の生徒がいるとして、その教師を独り占めすると考えると、単純に20倍、つまり120万円~140万円が必要ということになってしまいます。

しかし、個別指導塾のほうが集団指導塾より、施設・光熱費・人件費(教師以外の)等が安いはずですので、経費は少なくてすむはず。乱暴に集団指導塾の半分で済むと考えても、60万円~70万円が月謝となってしまいます。

 

また、別のやり方で計算してみるとどうでしょう。

サピックス日能研も、月あたりの授業時間で月謝を割ると、時間単価が1000円ほどとなります。これで1教室に20名の生徒がいてそれを一人の教師が教えるわけですので、1時間あたり20000円の売り上げを教師1名があげるということになります。

さて、この売上に対する人件費の割合ですが、こればっかりは不明です。個別指導塾では一般には多くて30%などといわれているようですが、集団指導塾は様々です。単純に20000円の30%だと6000円。そういえばサピックスのアルバイト募集広告には時給3000円~となっていました。講師には高給のベテランもいますし、事務職の人件費もありますので、こんなかんじなんでしょうかね。

そこで、個別指導塾の人件費割合を30%としてみます。

時給3000円の学生アルバイト講師を使ったとして、集団指導塾と同じ月に60時間の授業を受けると、1時間1万円の売り上げを維持するためには、月謝が60万円ということになりますね。

 

あるいは、こうも考えられます。

一人の教師に60時間を時給3000円払って指導を受けると、これだけで18万円となります。これには教師一人の人件費以外に何も含まれていませんので、この金額に家賃・光熱費・教材費・広告費などが上乗せされていくと考えると、数十万円の出費は避けられません。しかもこれは、指導経験ゼロの大学生の指導レベルです。

 

どう考えてみても、月謝が10万円以下ということはあり得ません。少なくとも60万円は覚悟しなくてはならないのでしょうか?

これでは集客はのぞめませんので、次の4つの方策がとられます。

1.教師の人件費(=質)を下げる

2.複数名個別指導(2~3名)とする

3.高額な月謝に見合う付加価値をつける

4.その他の経費削減

 

まず、単純にアルバイト講師の時給を下げます。しかし、たとえば1000円の時給なら、別に学歴を必要としないマクドナルドでもいいわけです。そのレベルの講師をそろえて月謝を安く見せます。

また、1対1ではなく、1対2or3の個別指導とします。

もしそれが嫌で1対1を望むなら、別途割り増し料金が必要となります。このスタイルをとる個別指導塾も多いですね。

さらに、高額な月謝の理由として付加価値を高めます。具体的には、「プロ中のプロの指導が受けられます」というものですね。もしこれがただの謳い文句ではなく、本当のプロの指導だとしたら、時給1万円でも安いと思いますので、月謝は軽く7桁越えを覚悟しなくてはなりません。

ところで、東大を目指す中高一貫校生対象の鉄緑会は、大学生(東大生)のアルバイトを時給8000円~という条件で集めているようです。教え子によると、理3の学生は1万円以上もらっているが、自分は文1だから8000円だと嘆いていました。言っておきますが、講師経験ゼロの大学1年生の素人の時給の話です。

その他の経費削減としては、教材開発費の節約があげられます。これは大手集団指導塾系列の個別指導の話ですが、教材作成は集団指導塾内で行うため、一切経費がかからないとか。さらに人材募集も大手進学塾でまとめて行い、その中で集団指導に不向きだった講師を流用できると聞いたことがあります。また、広告は集団指導塾の広告に便乗するので、こちらも経費はかからないようですね。こうした経費削減努力なら、ユーザーの生徒にはマイナスではありませんので歓迎すべきでしょう。

こうして考えてくると、私が個別指導をおすすめしにくいといった理由がおわかりいただけたでしょうか。

本当に優秀な講師の個別指導を受けようとすると費用は青天井になり、そこそこの費用の個別指導はレベルの低い指導しか期待できない、そういうジレンマがあるからです。

どうしても集団指導塾を選べない理由がある場合を除いて、集団指導塾の補完的な利用がベストだと思います。

 

まとめてみると、個別指導に向く生徒というのは、以下のようなケースでしょうか。

1.お金はいくらかかっても気にならない

2.習い事優先なので、少しの時間だけ個別指導をうけたい

3.個性的な子なので、集団指導には合わない

4.特殊な受験校なので、集団指導では教えてもらえない

5.集団指導塾で足りない点を補うためにだけ利用したい

6.自習室を利用したい

7.家では一切勉強しない子なので、教師のスキルは問わない

 

個別指導塾の見極め法

最期に、個別指導塾の見極めポイントをいくつかお話します。

◆TVでCMなど多く流しているところは要注意

 別にCMを流しているところがダメだとは申しません。でも、広告宣伝費だって月謝に反映します。しかもTVのCMには桁違いの費用がかかります。良い塾はクチコミで生徒が集まるものですし、まして最近はSNSで塾の良い噂も悪い噂もあっというまに拡散する時代です。まあSNSの口コミなど参考にはなりませんが、ご近所の口コミ、知人からの情報は大切です。

 私の知人で個別指導塾の社員だった人間から聞きました。出社しての道路掃除も教師の仕事です。ブラックなサービス残業は当たり前で、とにかく人件費を抑える。さらに研修無しでクオリティの低い学生を授業に投入するため、クレームが絶えず、生徒の入れ替わりが激しいのだとか。それでも広告に力を入れて集客に努めます。そのほうが入室金で儲かるという発想だというのですが、知人から直接聞いたのでなければにわかには信じがたい話です。

◆大手集団指導塾の入っているビルに同居しているところは要注意

 塾に適した立地やビルというものがあるのでしょうね、だいたい同じようなところに塾は林立する傾向があります。別にそのこと自体は珍しいことではありませんし、ビルに同居しているだけでダメだということではもちろんありません。ただし、こんな話を聞いたことがあるのです。大手集団指導塾(A塾とします)の先生に聞いた話です。

A塾の教室の入るビルの別のフロアに、けっこう知名度のある個別指導塾が開校したそうです。そうすると、A塾の生徒の家に、勧誘の電話が頻繁にかかるようになったとか。どこからどう漏れたものなのか、その生徒がA塾に通っていることを知っているというのですね。

「おたくのお子さんはA塾に通っていますよね。うちにはA塾出身の教師がいますので、よく知っています。このままでは算数がまずいですね。うちに来ませんか?」

といったような勧誘電話です。その電話をうけた保護者がA塾にクレームを入れたことで発覚しました。「なんでうちの子の個人情報をA塾は他に漏らしたのか!」というものです。もちろんA塾に非はありません。成績やA塾出身の教師がいることなど全てその個別指導塾の虚言です。その個別指導塾には、生徒集めのプロ集団がいるのだとか。新しく教室を出すと、このプロ集団がやってきて、1~2か月かけて、生徒をかき集めるのです。そしてある程度生徒が集まったら、また別の地域に行って同じことを繰り返します。業界の噂として聞いてはいましたが、この先生のA塾は、まさにそのプロ集団のターゲットとなったのですね。

幸いにしてA塾の先生方は生徒・保護者と信頼関係が構築できていたので、生徒の引き抜きは食い止めることができました。ただしそのため、普通なら2か月もあれば終わるはずのその攻防戦は6か月にわたって続いたそうです。同じビルに入居していた別の集団指導塾の責任者が、共闘を申し出てきたといっていました。普段は合格実績を競い合うライバル同士なのですが、敵の攻撃の前に妙な連帯感が芽生えたといって笑っていましたね。

◆月謝が明朗でないところは避ける

月謝が不明瞭なところは避ける。当たり前の注意ですが、月謝を伏せているところが少なからずありますので気を付けましょう。これも知人から内部情報で聞きましたが、その個別指導塾では授業料を事前には教えないようにしているそうです。入塾にあたって面談をしながら、そのご家庭でいくらくらいまでなら支払えるのかを探るそうです。それに応じて授業料が決まるとか。もし本当なら、怖ろしい話ですね。

◆1対1の個別を売りにする

だれもが1対1のほうが、1対2or3より充実したサービスが受けられると考えますよね。ただし、必ずしもそうとはいえないのです。教師と生徒が1対1だと、生徒には心の逃げ場がないとでもいうか、授業が息苦しくなりがちです。1対3くらいのほうが、適度に教師の関心が逸れる瞬間があるので、かえって集中が長続きする場合も多いのです。また、もし同じレベルで同じ志望校の生徒が3名そろうような環境なら、これは願ってもない良い環境です。1対1よりもはるかに学習効果があがります。

さらに、前述したように、これは月謝にダイレクトに反映します。1対3とくらべれば、3倍の費用がかかることを覚悟しなくてはなりません。それなのにリーズナブルな価格設定だとしたら。それには何らかの理由があると考えましょう。

◆大手集団指導塾の成績UPを謳っている

その個別指導塾(仮にT塾とします)では、同じ駅にあるべつの大手集団指導塾(仮にS塾とします)のテキスト(非売品)や過去の定期テスト問題などを大量にストックしてあります。もちろん自習室も完備しています。そこで、S塾の授業が終わると、そのままの足でT塾に入っていく生徒が何人もいるのですね。そして、S塾の定期試験対策や、授業中の小テスト対策などをやってくれるのです。S塾は復習主義を標榜しているため、テキストの前渡しを一切やりません。そのテキストを事前にT塾で予習していくので、S塾の小テストは良い点がとれますし、定期試験も高得点となります。そうしてS塾のクラス順位を高くキープできるのです。しかしこれは真の実力でもなんでもありません。ドーピングで得られた成績を信じて受験校を選ぶと、軒並み失敗してしまうのです。このように、他塾の成績UPを売り物にし、かつ正しいやり方で指導しない個別指導塾は避けるべき塾といえるでしょう。

 

お薦めする個別指導塾とは?

個人的に私がおすすめするのは、大手集団指導塾系の個別指導と、個人経営の個別指導塾フランチャイズはダメ)です。前者は教材・カリキュラム等に安心感があります。情報も豊富でしょう。後者はまさに玉石混交ですが、自宅で細々とやっているような塾でも評判の良い先生にあたったら最高です。ピアノ教室を探すようなものなのかな、と思います。ヤマハやカワイのピアノ教室はカリキュラムも安定していますし、料金もリーズナブルですが、講師の質については様々ですし、コンクールで賞をとるレベルの指導は期待できません。(もっともヤマハには優秀な生徒のみが推薦される特別コースがあるようです) むしろクチコミで探す個人指導のピアノの先生に、指導経験豊富な良い先生が潜んでいるものですよね。