※この記事の初出は2023.10.20です。2024.10.03にUPDATEしました。
以前の記事で、塾選びについて書きました。
今回はその続きとして集団指導塾のメリット・デメリットについて考えてみます。
我が子には、いったいどのスタイルの塾がベストなのだろうか?
お子さんの塾選びをするときに、最初に迷うのがこれですね。
そこで、それぞれの指導スタイルのメリット・デメリットを整理しながら考えてみましょう。今回は集団指導塾についてとりあげます。
集団指導塾のメリット
中学受験を考えはじめると、最初に候補にあがるのが、集団指導塾だと思います。
駅前に、いくつもの塾が看板をかかげていますよね。なかには、駅前のビルのフロアごとに異なる塾が入っていたりもします。
ここで、集団指導塾のメリットについて整理します。
(1)中学合格実績
(2)質の高い教材
(3)質の高い教師・授業
(4)安定したカリキュラム
(5)標準的な授業料
(6)豊富な学校情報
(7)精度の高いテスト
(8)切磋琢磨できる環境
ざっと考えてみても、これくらい思いつきますね。
まず、(1)の中学合格実績ですが、これは(3)・(6)・(7)(8)と大きく関わってくるのです。
例えば、小さな個人塾に通っている開成中を第一志望としている生徒がいたとします。
「開成ねえ。そういえば10年前に一人だけ教えたことがあるなあ。合格できなかったけど。」
こんなことを言う教師を信頼してついていけますか?
開成中の合格実績が高い塾なら、過去に多くの開成志望者を指導した経験があるわけです。そこから形にならないノウハウを教師は身に着けるのです。
「この生徒は2年前のあの生徒とタイプが同じだ。だから算数のここを補強すれば合格できるはず」
「この生徒は理科のこのジャンルが弱点だ。去年のあの生徒と同じだな」
といったような経験に基づく指導は、多くの開成志望の生徒を指導しなくては身に着くものではありません。
そう考えると、この開成志望の生徒の行くべき塾は、サピックス一択となります。
(2)・(4)についてはどうでしょう?
実は、新たにカリキュラムを構築し、それに基づいてテキスト体系をつくりあげることは、物凄く大変なことなのです。何年もの時間と、何人もの優秀な教師の力が必要です。つまり、莫大な費用をともなうのです。
四大塾とよばれる塾=SAPIX・日能研・四谷大塚・早稲田アカデミー であっても、早稲田アカデミーはこの部分を放棄していますね。四谷大塚のカリキュラムと教材=予習シリーズを使用しています。
もっともこれは必ずしも悪いことではありません。
四谷大塚のカリキュラムと教材の完成度は非常に高いですから、中途半端な教材を作られるより、よほど生徒にとってプラスだと思います。早稲田アカデミーは四谷大塚の教材をベースとして、そこに学校に照準を合わせた独自の教材を付け加えるというスタイルです。なかなか合理的なやり方と思います。
(5)の授業料については、塾によって多少の違いはあるものの、大手の集団指導塾の費用は大きく異なりません。
一般の印象としては、SAPIX=高い、というイメージを持たれる方が多いようです。しかし、サピックスの費用は、教材・基本テスト大全てが含まれている、All-Inclusiveの料金となっています。
ところで、なんだかAll-Inclusiveと聞くと、クラブメッドのリゾートを思い浮かべてしまうのは私だけですかね。何度か行ったことがありますが、実に楽しいリゾートです。キッズプログラムが充実しているので家族連れにもよいですよ。オーストラリアもよかったですが、石垣島のメッド、とても良かったなあ。こちらも料金は高いのですが、食事代・アクテビティが全て含まれています。なんとお酒も! たくさん遊びたくさん食べたくさん飲む方にはお勧めです。
月謝・講習代以外に必要となるのは、地図帳や歴史資料集・理科資料集のような副教材と、あとは5年後半くらいからはじまってくる公開模試代だけだそうですね。
それに対して、費用が安く思える日能研ですが、いわゆるオプション講座が多数あり、これらをとっていると、総額ではサピックスとあまり変わらない金額になるとも聞いています。サピックスは6年生だと月謝は6万円代なのに対し、日能研は5万円を切るのですが、教材費・テスト代などが別途なのでこれを含めると7万円以上と逆転します。
いずれにしても、こうした大手塾は互いにライバル関係にありますから、どうしても価格設定は横並びとなってくるものなのです。
塾は、人件費が大きな割合を占める産業形態です。個別指導に比べて集団指導塾のほうが費用が抑えられるのは道理です。
集団指導塾のデメリット
これは単純です。
「わが子のことだけを見てくれない」 ですね。
一人の教師が年間に担当する生徒数、これは塾の規模にもよりますので一概にはいえませんが、50名~200名くらいでしょうか。
まあ中規模塾であっても、3学年100名近くは指導すると思います。
週5日の指導、1日に2~4クラスを担当、1クラスには10名~20名程度の生徒、そうした規模の塾でも、一週間に100名以上は指導することになりますね。それが1年間続くのです。
したがって、とても目立つ生徒・成績が抜群の生徒・成績がとても振るわない生徒、こうした生徒には目が行きがちですが、それ以外の生徒へはどうしても指導が薄くなる場合もあるでしょう。
ご家庭からの特別なリクエストに応えることにも限界はありますし、学習相談の時間も限られることになるでしょう。
早い話が、「一人の生徒だけに構っている」時間はとれないのです。
これは明らかなデメリットです。
また、時間のデメリットもあります。
テストの配布・回収にも時間はかかりますし、質問に行くと行列ができているかもしれません。
せっかく早く塾に行ったところで、全員がそろうことのできる時間がスタート時間として設定されています。
〇横に付きっ切りでないと勉強できない
〇周囲に他の生徒がいる環境では集中できない
〇志望校が特殊すぎる
〇基礎学力が不足している(つまり授業についていけない)
〇学力が高すぎる(つまり授業が無駄)
〇おとなしく座っていることができない
〇忙しくて塾のタイムスケジュールに合わせられない
こうした生徒にとっては、集団指導塾は向かないといえるでしょう。
どういう基準で集団指導塾を選べばいいのか?
もしかして、自宅最寄り駅に複数の塾があるかもしれません。その場合、どこを選ぶべきなのか? これも迷いますよね。
前述の4大塾以外にも、準大手ともいうべき、それなりに教室展開をしている塾はいくつもあります。また、合格実績はふるわないものの小さな教室を面で大量に展開している塾もあります。
そうした際、巷でよくいわれる塾選びの目安のようなものがありますね。
しかし、そのほとんどは間違っています。
今からご説明しましょう。
(1)学生アルバイト講師の有無
これは何の意味もない目安です。
学生アルバイト講師といっても、学力・指導力は千差万別です。
その塾を卒業して最難関中高一貫校に進学し、そのまま最難関国立大学に進学してからアルバイト講師として働いている学生。こうした学生は、まじめで努力家であり、非常に優秀です。その塾の指導ノウハウも、自分が生徒として学んでいたために体に入っています。こうした学生をきちんとした研修の後に教壇に立たせているのであれば、とても良い指導が期待できますよね。
一方、大学を問わずに集めた学生を、研修無しで教壇に立たせているような塾もまた存在します。
「研修」には手間と費用がかかります。
「研修担当」の教師は、当然受験指導のベテランでなければなりません。つまり本来なら受験学年を担当してバリバリと授業をしてほしい人材を、現場から離れた「研修」担当者としなくてはならないのです。
その手間・費用をどれだけの塾がかけているかといえば、残念ながらとても少ないのが現実です。
実際には研修を一切しないで、大学生にそのまま授業をさせているにもかかわらず、
「当塾では、社内規定に基づいた研修カリキュラムを修了し検定に合格した優秀な講師だけが授業を担当しています」などとあからさまな嘘をHPにあげている塾もあるのです。
内情を知っている私からすれば「厚顔無恥」とはまさにこのことだと、呆れるを通り越してむしろ感心してしまいますね。
また、社員講師だからといって優秀とは限りません。
◆忙しすぎて授業準備がおざなり
◆生徒指導に慣れているだけで、授業内容はお粗末
◆入試問題の研究をしていない
◆入試問題が解けない!
◆ごまかす技術だけは一流
こんな「社員講師」が存在するのですね。
それくらいなら、「真面目で優秀な大学生」のほうがはるかにましだと思います。
学生アルバイトであれ社員であれ、大事なのは「誠実に」「きちんと」授業をする能力に他なりません。
(2)塾の合格実績
これはとてもわかりやすい指標で、多くの人がとても気になる数字だと思います。
ただ非常に残念なことに、悪意の操作も可能である数字のため、あまり気にしすぎるのもどうかと思います。
噂話として聞いたことを紹介します。だいぶ昔の話です。
その塾では、合格発表直後から社員総出の電話かけがはじまるそうです。その塾の無料テストや無料体験講座などを受けたことのある他塾の生徒への電話かけです。
合格校を聞き出し、塾の合格実績チラシへの氏名掲載を依頼するのです。
無関係の塾への氏名掲載などOKする家庭があるのか? とも思いますが、個人情報保護の考えがひろまる以前には、合格がうれしく、世間に大声でアピールしたいテンションになっているタイミングでの電話に、ついOKしてしまうご家庭も多かったそうです。氏名掲載をためらうご家庭には、氏名の文字を1文字変えての掲載を、それでもダメならイニシャルで、最後は完全な偽名で、と依頼はすすみます。社員には、どのようなレベルでの掲載の承諾をもらえたかによって、報奨金が支給されたそうですね。
今とは異なり、合格者氏名が公表できた時代の話ですが。
この話が完全なつくり話であることを祈ります。
合格発表直後といえば、教師にとっては最も大切な電話かけをする時期です。
合格できなかった生徒へのフォローです。
1年間の仕事の中で、最もかけたくない電話です。
電話の向こうで涙声のお母さまをはげまして翌日の受験校の相談をし、さらには泣きじゃくっている子供をはげまして明日の試験へ向かう気持ちを奮い立たせる。そうした仕事を放り出して合格実績をかき集める電話かけとは。
やはりこの話はつくり話ですよね?
ここまであからさまな話ではなくても、特待生制度や無料個別指導などを餌に、優秀な生徒をなんとかかき集めようとする、などというのは珍しい話ではありません。
「無料」講座、「無料」テスト等は、すべてこうした合格実績をかき集めるための「個人情報収集が目的」だと私は思っています。
私が以前教えていた生徒に、とても優秀な生徒がいました。灘でも筑駒でも余裕で受かるレベルです。その子の母親からご相談があったのは受験を控えた1月のことでした。なんでも、1度だけ無料テストを受けたことのある某塾から、個別指導の勧誘をうけたそうです。その生徒の自宅最寄りの教室に、某塾のトップ講師を集めて特別な個別指導をやってくれるとのこと。しかも無料で。もちろん目的は合格実績稼ぎです。「うちの塾で指導していた生徒」という形式を整えるだけの目的で個別指導を持ちかけてきたのです。
もちろん私は反対しました。某塾のトップ講師たちにも、今まで教えてきた生徒たちがたくさんいるはずだ。その生徒を受験直前に放りだして合格実績稼ぎをするような塾・講師は信頼できない。それに、せっかく合格に向けて順調に仕上がってきているこのタイミングで、余計な指導はノイズとなって逆効果である、と。
しかしお母さまは聞く耳をもってはいませんでした。
「でもね、先生。うちの子のために特別プログラムを用意するって言っていただけてるんですよ。」
さすがに営業トークは秀逸な塾のようでした。
しかし、結局はその生徒は某塾の個別指導には行きませんでした。子ども本人がこう言ったそうです。
「peter先生がやめなさいっていうんだったら、行かない。」
その話をお母さまからうかがったときには思わず涙がこぼれそうになりました。
塾の世界の暗黒面について話しすぎたようです。
もちろんそんな塾ばかりではありません。実に正直に合格者数をカウントして公表している塾もたくさんありますよ。
しかしながら、主要塾の合格実績の数字を足し算すると、中学校の合格者数を大きく超える、とはよく言われる事実です。
合格実績はあくまでも目安程度と考えたほうがよいですね。
(3)成績の悪い生徒は塾にとってお客様だ
ひどい言い方です。
最難関校に多数の合格者を出す塾があったとして、そこに通っていても成績が下のほうなら、大した指導はうけられない「お客様」にすぎないから、やめたほうがいい。そういうことを言っているのでしょう。
これは、一度も生徒を指導したことのない人間としか思えない言い方ですね。
実際に生徒を指導していれば、今目の前にいる生徒の学力向上に全力を尽くすのが当たり前で、そこに「この生徒は優秀だから」「この生徒は偏差値が低いから」などという考えは一切うかびません。
合格校についても同様です。偏差値表の一番上の学校に教え子が合格した喜びと、偏差値表の一番下の学校に生徒が合格した喜びとに差はありません。むしろ悪戦苦闘した生徒の合格のほうが嬉しいくらいです。
しかし、残念なことに、成績優秀な生徒のための特別講座は豊富に用意されていて家庭へのフォローも手厚いのに、その他の生徒は放置プレーの塾が存在するのも事実です。
おそらく、現場の教師は目の前の生徒を必死で指導しているのだと思いますが、経営者の考えは異なるのでしょう。
こうしたあたりも、「塾の本質」を見抜く指標となります。
(4)居残り補習をたくさんしてくれる塾が熱心な良い塾だ
ずいぶん古い価値観ですね。もしかしてまだこんな考えがあるのかな?
もちろん間違っています。
これは、「カリキュラムとテキストがリンクしておらず、教師の指導力も低いため、決められた時間内に指導が終わらない」塾であるというだけです。
中学受験は時間との戦いです。限られた時間の中で、4教科をバランスよく学んでいかなければなりません。教師の勝手な思い込みで、居残りなどさせられたらたまりません。俺はこれだけ熱心に指導しているんだ! という教師の自己満足にすぎないと思ってください。
(5)教師手作りのオリジナルプリントがたくさんもらえるのが良い塾だ
前述(4)と同様、これも間違っています。
教材づくりには多大なマンパワーが必要です。一人の教師の力でどうこうなるものではないのです。独りよがりのプリントは学習の妨げになることがほとんどです(もちろん中にはとても優秀な先生がとても良いプリントを作られている場合もあります)。
オリジナルプリントに頼っているということは、テキスト体系が充実してないことの裏返しですね。
(6)同じ塾でも、教室によって実績に差があるので教室選びが重要だ
塾によっては定期的な人事異動により教室に教師が固定されていない場合があります。その場合は、教室による指導や実績の差はないと考えられます。
また、塾によっては教室ごとに合格実績を競わせているところもあるでしょう。ただし、そうした場合であっても、実績の差など誤差の範囲内です。たまたま頑張り屋さんが多いときもあれば、そうでない年もある。その程度のことなのです。
それでは、具体的にどの集団指導塾を選ぶべきなのか?
やはり具体的な塾名を知りたいですよね。
しかし、どの塾にしても、「たくさんの塾の中からその塾を選び」「満足して通っていて」「成績を伸ばし」「志望校に合格し」「その塾に感謝している」生徒・保護者が大勢いるわけです。
したがって、どの塾が優れているとか、あるいは劣っているなどという基準は存在しません。また生徒・保護者と塾との相性というものもあります。
毎週のように塾から電話がかかってくるようなところを好むのか、あるいはこちらから相談したときだけ的確に答えてくれればそれでよいのか。
成績表が壁に張り出されピリピリした緊張感を好むのか、アットホームでのんびりした雰囲気を好むのか。
拘束時間が長く自習室のある塾がよいのか、授業時間が短く効率優先の塾がいいのか。
ご家庭の方針や好みによって「選ぶべき塾」は異なるのです。
そこで、もし私の親戚や友人から相談されたら勧めるであろう塾をいくつかあげるだけにしておきます。
※もちろん、あくまでも私の個人的な主観・先入観にすぎませんので、特定の塾を持ち上げたり貶めたりする意図はありません。ただの世間話としてお読みください。
◆SAPIX
最難関校への合格実績が目立つ塾ですが、よく見ると難関校とはいえない学校へも満遍なく合格を出しています。私がこの塾を評価する理由は以下の5点です。
〇合格実績の信憑性が高く、実績を1名合格の中学校まで全て公表している
〇オリジナル教材の完成度が高い
〇カリキュラム・テスト体系が安定している
〇費用がわかりやすい
〇営業に不熱心である
巷間さまざまな噂を聞く塾ですが、上記5点を私は評価します。候補の1つにあげてもよいでしょう。
◆日能研
こちらを評価する理由は以下の5点です。
〇合格実績の信憑性が高く、実績を1名合格の中学校まで全て公表している
〇オリジナル教材の完成度が高い
〇カリキュラム・テスト体系が安定している
〇教室数が多い
〇受験情報が豊富
日能研は全国に156教室展開しています。Nのバッグを下げた小学生をあちらこちらで見かけますね。老舗だけあって、カリキュラムやテキスト体系に信頼性があります。迷ったら日能研というのは「アリ」ですね。
◆四谷大塚
こちらを評価する理由は以下の4点です。
〇オリジナル教材(予習シリーズ)の完成度が高い
〇カリキュラム・テスト体系が安定している
〇映像授業(予習ナビ)が充実している
〇受験情報が豊富
四谷大塚も老舗だけあって、カリキュラムやテスト体系の信頼性は高いです。とくに予習シリーズの存在は大きいですね。完成度の高いテキストなので、それだけでもこの塾を選ぶ理由となります。ただし、「準拠塾」「提携塾」が多いのが特徴で、直営校舎は三十数校舎しかありません。サピックスより少し少ないですね。この「準拠塾」「提携塾」に関しては玉石混交ですので注意が必要です。
◆早稲田アカデミー
こちらを評価する理由は以下の3点です。
〇教室数が多い
〇予習シリーズを使っている
〇難関校対策が充実している
私見ですが、難関校の合格実績稼ぎに邁進している印象があります。また、夏期合宿・正月特訓の際に「必勝ハチマキ」を締めるそうです。まさにこの塾の体質を表していると思います。
以上4大集団指導塾なら、どちらを選ばれても大きく外れることはないと思います。私のおすすめ順は、とりあげた順と同じです。
※各塾については以下の記事で詳しく書いています。