中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

中学受験における家庭教師の必要性:デマに惑わされないために(2024.4.01加筆修正)

※2024.4.1加筆修正

 最難関中学に合格した子供は、みな家庭教師をつけているのでしょうか?

1.家庭教師の必要性

集団指導塾(SAPIX/日能研/四谷大塚/早稲田アカデミー等)に子供を通わせていると、きっと聞こえてくる噂話があります。

「やっぱりSAPIXのα1コース(この塾の最上位)の生徒は、みな家庭教師をつけているんですって。」

日能研のTMクラス(同上)に入るには家庭教師をつけなくては無理なんですって。」

四谷大塚の・・・(以下略)」

こうした話を聞くたびに、「まったく、もう」という気持ちになってしまいます。いったいどこの誰がこうした話を広めているのでしょうかね?

私が自信をもってお答えします。

それはデマです。

その理由をこれから説明しましょう。

 (1)そもそも時間に余裕がない

塾によって拘束時間は異なります。

拘束時間が短いとされるSAPIXの場合でも、5年生で3.5時間×週3日、6年生になると4.5時間×2日+5時間(土曜)、9月以降はさらに日曜の授業(約9時間)が加わるそうです。

ほかの塾は、これ以上の時間拘束されるのが普通です。

なかには、拘束時間の長さを売りにする塾すらあります。

「すべて私どもにおまかせください。塾の無い日でも自習室に来させるように。」といった塾ですね。

もちろん塾の無い日(もしそんな日があれば)には、普段の勉強の復習やテストの間違い直しなどをしなくてはなりません。

こうした日々の生活のどこに家庭教師をつける余裕があるというのでしょう?

正しい学習の順番はこうです。

 1.新しい単元を学ぶ・・・塾

 2.基本問題・基本知識を定着させる・・・家庭

 3.定着度合いをチェックする・・・塾

 4.抜けている部分を再度身に着ける・・・家庭

 5.発展問題に取り組む・・・塾

 6.発展問題の理解度をチェックする・・・塾

 7.わからなかった問題をわかる状態にする・・・塾

これが標準的で王道の学習の流れになります。もちろん、塾によっては、本来塾でやるべき内容(3.4・7あたり)を家庭に丸投げする乱暴なところもあります。生徒が解答を持っていない過去問演習を塾でやり、丸付けだけした答案を返すと、「間違い直しを家でやって提出しなさい」という塾までありました。完全に塾と家庭の役割が逆転していますね。

さて、家庭教師をつけるとすると、2と4の部分になるはずですが、これは家庭教師はいなくても自分でできる部分です。というよりは、自分で能動的にやらなければならない部分です。

おそらくはご家庭で家庭教師を頼みたくなるケースというのは、7の部分を頼むという場合でしょう。本来は塾でわかるように解説してもらうのが理想なのですが、それが不十分なのか、あるいは子供の理解力が不足しているのか。解けなかった問題、解説をみてもチンプンカンプンだった問題を、打てば響くように解説してほしい、そういう需要です。

しかし、そんなレベルの家庭教師はいません。いたとしても非常に稀で、しかも高額です。しかもすぐに枠が埋まってしまうため、頼むのが困難です。そもそも見つけるのが難しいです。

 

 (2)そもそも信頼できる家庭教師が見つからない

家庭教師や塾の選び方ついては、以前の記事もごらんください。

peter-lws.hateblo.jp

 

以前の記事でも述べましたが、家庭教師には大きく分けて2種類います。

〇大学生のアルバイト講師

〇プロ講師

大学生のアルバイト講師には大きく期待はできません。彼らは学業が本分ですので、教え方は下手ですし、責任感もありません。真面目な学生であっても、受験の合否まで責任が持てるはずがないのです。また、勉強ができる=教え方が上手、ではないですね。むしろ生徒がどこにつまづいているのかがわからない学生が多いです。

ただし、大学生ならではの利点があります。

◆単価が安い

◆生徒と年齢が近い=気軽に子供が相談できる

◆自分の経験を語ってくれる

子供が、気軽に勉強について相談でき、一緒に考えてくれるような存在、横にいて勉強を見守ってくれる存在、時には自分の中高生時代や大学の様子を語ってくれる存在、そうした点を求めるのなら、大学生はうってつけです。逆にいえば、それ以上を求めるのは酷というものです。

例外として、こんな学生ならどうでしょう。

生徒:SAPIXに通塾中。開成第一志望。

先生:SAPIX→開成→東大。

塾の指導についてもよく知っていて、さらに憧れの中高についてもいろいろ教えてくれる。

そんな先生が見つかれば幸せですが、まず見つかりません。

なぜなら、そうした学生は学業が忙しいことに加え、アルバイトでお金を稼ぐ必要性があまりないものです。さらに、在学中に鉄緑会に通っていようものなら、鉄緑会の講師のアルバイトに行くこともできますので。(鉄緑会なら家庭教師の倍以上の時給です)

では、プロ講師はどうでしょう?

〇単価が高い(とても)

〇よく言えば個性的、悪く言えば癖の強い先生が多い

〇長年家庭教師1本でやっている先生は、経験値が高くない

 私の持論ですが、教師は生徒に育てられるものなのです。

優秀な生徒に多く接すれば接するほど、教師の指導力も向上します。

家庭教師はどうしても担当する生徒数が少ないため、経験値が向上しづらいことに加え、勉強が苦手な生徒を担当する(それが家庭教師の使命です)ため、本当に優秀な生徒をさらに上に引き上げる力が備わるのが難しいのですね。

  今ここで考えているのは、「勉強が苦手な生徒に寄り添う」家庭教師ではなくて、「最難関中学への合格を確実なものにする」家庭教師です。プロを頼むというのはそういうことですね。でも、そうした家庭教師は非常に見つけにくいと思います。長年集団指導塾で優秀な生徒を多数見て来た先生が家庭教師を始めた、そんな先生が見つかればとてもラッキーです。

私も集団指導塾に所属していた頃には、家庭教師の紹介を頼まれたことが何度もあります。なかには、私に頼みたい、という方もいました。掲示された金額は思わず心が動く額ではありましたが、もちろんお断りしていました。高い月謝を塾にすでに支払っているのですから、この上家庭教師代まで負担させるのには忍びなかったからです。

今なら悪魔に魂をいくらでも売りますが。

2.他人まかせの受験勉強ではだめ

そもそも勉強は、自分との戦い、入試問題との戦いです。本番入試では誰も助けてはくれません。しかも、入試問題は、習った問題と全く同じ問題がでるものでもありません。

初見の問題を自分の力だけで正解する力が必要なのです。

そして、そうした力は日ごろの学習でしか身に付きません。

「先生、この問題どうやって解くの?」

「先生、次なにやればいい?」

「先生、答え教えて」

こんな学習態度では、本当の学力は身につかないことは容易に想像つきますね。

しかも、もし隣に、それらの疑問にすぐに答えられる存在がいたとしたら。

これはまずいです。

もしかして、生徒の疑問に一切答えない先生がいたら、それが理想的な家庭教師かもしれません。

「先生、この問題どうやって解くの?」

 →「自分で考えなさい」

「先生、次なにやればいい?」

 →「自分で決めなさい」

「先生、答教えて」

 →「教えません。自分で考えなさい。」

素晴らしい先生ですね。こういう家庭教師に、高いお金を払う勇気が持てれば、とても効果が上がると思います。しかし、なかなかその勇気は出ないですよね。教える方にも勇気が必要です。

そもそも教師という人種は、人に説明するのが大好きな人種です。私なども、生徒に質問されると、質問内容の10倍くらいの内容を生徒に教えてしまいます。

まだまだ修行が足りないようです。

 

3.家庭教師が有効な場合

 それでも、家庭教師が有効な場合はあります。

 (1)親が忙しくて子供の勉強に全くかかわれない

ある意味、これはしかたがないですね。

家事労働を家政婦に、車の運転を運転手にまかせるように、子供の勉強も家庭教師にOutsourcingするということです。

 私の知っているケースでも、集団指導塾に通いながら、家庭教師を6人つけていたご家庭がありました。算国理社それぞれ1人ずつとして、いったいあとの2人は何を担当していたのかは不明です。

子供との相性が良い教師が見つかり、多額な費用も苦にならないのであれば、これはこれでありかもしれません。

 

 (2)たまたま最適の教師が見つかった

前述したように、力量のある家庭教師は僅少です。たまたまそうした出会いがあったのなら、その幸運を活かさない手はありませんね。もしみなさんが依頼しなければ、他の誰かがその恩恵にあずかれるわけですから。それだけ良い先生は希少です。

 

 (3)塾ではやらない特殊な学習を必要としている

一番わかりやすいのは、英語の家庭教師です。

帰国子女で英語力をキープする目的で家庭教師をつける。これはわかります。

また、問題が特殊な学校の対策を必要とする場合もあります。

これは、適性検査型入試への対応(公立中高一貫校)や、長文記述が特徴の学校(麻布・武蔵・鴎友など)の対策をする場合ですね。どうしても集団指導塾では、記述の丁寧な添削指導は薄くなりがちです。そこを家庭教師で補うというのは効率的です。

また、近年増加中の特殊入試への対応も、集団指導塾では困難です。

〇プレゼン型入試

〇論文型入試

〇ディスカッション型入試

これらの対策として家庭教師を頼む場合もあるでしょう。

 

4.なぜデマが広がるのか?


「難関中学への合格者はみな家庭教師をつけている」

最期に、このようなデマがはびこる理由を少しだけ考察してみました。

 

〇業者(家庭教師派遣会社等)が意図的に流している

いかにもありそうです。

私が知っているケースは、個別指導の勧誘でした。

某塾のトップレベルの生徒のところに、ある個別指導塾の勧誘の電話があったそうです。

「お子さんは〇〇塾ですよね。とてもおできになりますが、算数が苦手のご様子。じつは〇〇塾のトップ層は、みなうちに通っていますよ。」

 

もちろんすべて嘘です。

親の不安な心理につけ込む最低の企業です。

 

〇他人をやっかむ気持ち

「太郎君は、家庭教師をつけているから成績が良い。」

そうやっかむ気持ちがデマを拡散します。さらに、

「うちは家庭教師なんかつける余裕はないから、これくらいの成績でも仕方がない。」

こういうネガティブな方向に行くのは大問題です。

 

太郎君は、家庭教師をつけているから成績が良いのではない、家庭教師がついていなくても成績が良い生徒なのですよ。

 

これから入試本番が近づくと、さまざまな噂が耳に入ります。

 

◆〇〇中学は、同じ小学校からは1人までしか合格させない

◆〇〇中学は、来年は人気が出て受かりにくくなる

◆〇〇中学は、校長が変わって人気がなくなったからねらい目

◆〇〇中学は、△△塾と癒着しているから、△△塾の生徒が有利

◆〇〇中学では、来年はこれが出題される

 

まあ、私でも全く知らないような情報が、次から次へと流れてきます。すごいですね、どこかに森羅万象を見通す方でもいるのでしょうか?

 

全てデマです

 

これからは、こうしたデマに惑わされない強い気持ちが大切になってきます。もし少しでも不安なことがあったら、ネット掲示板など見ずに、迷わずお通いの塾の先生に相談するとよいでしょう。

 

5.ではどうしたら?

 そうはいっても、うちは家庭教師を必要としているんだ! という方もいらっしゃるでしょう。たしかに、理想論・一般論を並べすぎたかもしれません。

現実にどうしたらよいのか、すこし考えてみます。

 (1)ピンポイントで依頼する

 すべてを丸投げにするのではなく、ほんとうに期間限定・ジャンル限定でピンポイントでお願いするというのはアリでしょう。

 ◆過去問の国語の添削指導だけを依頼する

 ◆入試問題の解説だけを依頼する

 ◆近現代史の講義だけを依頼する

こういったかんじでしょうか。

もちろん事前に教材・問題は渡しておかなくてはいけません。そのうえで、解説指導だけを頼むのであればよいと思います。塾で足りない部分を補完するイメージですね。

 (2)塾とぶつからないように依頼する

 これは、時間という意味ではなく、指導方針という意味です。塾によって解説の仕方、解き方の指導、過去問演習のスタイル、これらが様々です。まあ最終的に解けるようになればどんなやり方でも構わないのですが、子供が混乱します。あくまでもお通いの塾で不足する部分を補ったり、わが子に不足する部分を補充する、そうした頼み方をすることが大切です。

 (3)オンライン家庭教師も一考の余地あり

 私もオンラインでの指導をしますが、やはり対面のほうが好きですね。生徒のちょっとしたしぐさ、目の動きで理解度がダイレクトにわかるからです。いわゆるnon-verbal communicationはとても重要です。

 しかし、冒頭に書いたように、受験生には本当に時間がありません。せっかく良い先生に出会えたとしても、行くことも来てもらうことも難しい場所かもしれません。

 そこで、オンラインを活用するというのも検討の余地ありですね。先方とご家庭の双方にそれなりの設備が用意できているのなら、効率よく教えてもらうことができるでしょう。

 

6.それでも家庭教師が救世主となる場合がある

 最近、家庭教師が救世主となる場合があることに思い至りました。

全ての子どもたちが学習機会に恵まれているわけではありません。例えば、兄弟がいて、上のお子さんが受験期に、下のお子さんが完全に放置されていた、そんな場合もあります。やっと上のお子さんの受験が終了し、さて、と下のお子さんを見てみると、受験勉強どころか、小学校の宿題ですら満足にやっていなかった、そうしたお話も聞くことがあります。あるいは、小学校もさぼりがちであったり、集団指導塾に徹底的に向かない子というのもいます。やりようによっては集団指導塾でもきちんと学習できたのでしょうけれど、そうした良い塾・教師に巡り合うことができなかった場合ですね。また、徹底的に甘やかされてきた子というのもいます。本人がやりたくないこと・嫌なことは強制された経験が皆無なのです。勉強というものは、多かれ少なかれ面倒くさくて大変なものです。「僕やりたくない」の一言で済ましてきた結果、勉強する習慣が全く身につかない場合もあるでしょう。

 その他にも、海外からの帰国生で日本の勉強が全くわからず、ついていけない子もいます。また、親が外国の方で、子どもの勉強を見てあげることができない方もいました。

つまり、家庭教師というのは、家庭や子どもの状況に合わせてフレキシブルにいくらでも指導を変えることができる存在なのですね。お子さんの適性を見極めながら、少しずつでも学ぶ習慣につなげ、できれば学ぶ喜びも体験させてあげる。そうした対応は、集団指導塾や個別指導塾では望めません。まさにオーダーメードの指導こそ家庭教師の存在価値ということになります。

もちろん、そうした指導ができるレベルの家庭教師と出会えれば、ということですが。