中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中高生】本当に有意義なのか。海外修学旅行についての考察

今年から、港区の公立中学校がシンガポールへの修学旅行を敢行することが随分話題となりました。予算5億円も出せるのはお金持ち区の港区だから、といったやっかみの声が大きかったように思います。

今回は、中高生の海外修学旅行について考察します。

1.国土交通省が推奨?

🔗実施事例のご紹介 | 海外教育旅行のすすめ

私も調べるまで知らなかったのですが、どうやら国土交通省が海外修学旅行(海外教育旅行)を推奨しているのですね。

国内の交通機関を利用した国内旅行を勧めるのならわかるのですが、ちょっと意外でした。

そこで紹介されている事例はこんなものです。

(1)公立高校2年:ハワイ

いきなり最初にハワイの事例が紹介されていました。

高校生でハワイ修学旅行! 実に羨ましいですね。

日程はこんなかんじです。

【1日目】学校発ー(貸切バス)ー成田空港21:30発---(航空機)---ホノルル空港9:30着~クラス別研修(モアナルアガーデンズ/アラモアナ・センター/カメハメハ大王像、イオラニ公園等)~ホテル泊 

【2日目】クラス別研修(ダイヤモンドヘッド登頂~ワイキキビーチ散策/平和学習<戦艦ミズーリアリゾナ記念館見学>)~ホテル泊 

【3日目】午前:現地大学「プロジェクト・パラダイス」/午後:ポリネシアン文化センター ~ホテル泊

【4日目】ホテルチェックアウトーホノルル空港12:40発----(航空機・機中泊)---成田空港16:55着~入国手続きー(貸切バス)ー学校着~解散

3泊5日の行程ですね。

ハワイ初日は、定番の半日観光コースですね。東京→ハワイ便は、東京を夜立ってホノルルに朝着きますので、ツアーを利用するとホテルのチェックインまでの時間つぶしに、ミニツアーがついているのが通例です。モアナルアガーデンズは空港近くのちょっとした公園ですが、TVCMで有名になった「この木何の木」、通称「日立の木」が生えています。ホノルルダウンタウンカメハメハ大王像の前で記念撮影をし、すぐ隣のイオラニ公園。おそらくはアラモアナショッピングセンターで昼食をかねての自由行動といったところでしょうか。ここは広いフードコートがありますので、高校生のランチにはうってつけでしょう。

二日目は忙しいですね。ダイヤモンドヘッド登頂は景色が見事なのでおすすめですが、けっこう歩きます。アリゾナ記念館はパールハーバーで日本軍に沈められた戦艦がそのまま記念館として保存されているところです。私の認識では、アメリカ人が日本軍による「Unfair attack on Pearl Harbor」を再確認する場所なのですが、平和教育になるのでしょうか? 「日本軍の汚い攻撃によって亡くなった1000名以上のアメリカ軍人の慰霊」を目的とし、真珠湾攻撃を記念?するところですので。

しかし、例えばアメリカ高校生が広島の原爆ドームを訪れるのとは意味が異なります。広島は、無辜の一般人の大量殺戮を目的とした攻撃だったのに対し(しかも日本の降伏は確定していた)、戦艦アリゾナは軍人しか乗っていませんでしたので。多くのアメリカ人が、「戦線布告なしの真珠湾攻撃は日本のずるいやり方だった」という戦争中のアメリカ政府によるプロパガンダを信じています。また、「原爆投下は戦争を早期終結に導く必要な攻撃だった」というプロパガンダもまた、ほとんどのアメリカ人が信じています。つい数日前にも、アメリカのオースティン国防長官とブラウン統合参謀本部議長が同様の発言をしていたニュースがありました。ハワイに行く前にきちんと広島・長崎にも行き、戦争に対する日米の認識の相違まで学ぶのならなかなか深いと思います。

三日目はハワイ現地大学生との交流とポリネシアン文化センターですね。ポリネシアン文化センターはハワイツアーの定番ではあります。このカルチャーセンターが、モルモン教の運営であることは高校生には知らされるのでしょうか? ダンス等を披露する若者は、ブリガム・ヤング大学ハワイ校で学ぶモルモン教の学生たちです。

そうした宗教的な背景、アメリカおよびハワイにおけるモルモン教の位置づけまで含めての学びなら深いですね。こちらのショーや食事に関しては、評価が分かれています。

 

修学旅行とは全く思いませんが、子どもたちは楽しいでしょうね。否定する気はありません。むしろ、中途半端に「修学」要素を入れようなどと考えず、純粋に観光旅行に振ったほうがいいと思います。

もしほんとうに修学のための旅行なら、アラモアナやワイキキなど行く必要はありません。

ハワイ王国滅亡の歴史

〇日系ハワイ移民の歴史

私なら、この2点のどちらかに焦点をしぼった修学旅行を企画しますね。

 

 (2)私立高校2年:韓国

【1日目】地元空港発---(航空機)---仁川空港着 仁川空港到着後、ホテルへ

【2日目】ソウル終日(韓国のホスト高へ移動・ホスト生徒と顔合わせ・生徒同士懇談会/景福宮観光)

【3日目】ソウル終日(ヨウイン韓国民俗村観光 江南(カンナム)COEX観光韓国のホスト高へ。ホスト生とホストファミリーと合流)

【4日目】ソウル終日(ステイ先からホテルへ ホスト生と共に夕食会場へ移動、ホスト・韓国のホスト高先生方と一緒に夕食→ホテルへ移動)

【5日目】バスにて仁川空港へ移動。仁川空港発---(航空機)---地元空港着

この高校の事例では、そもそも韓国の姉妹校訪問という目的があります。また、希望者のみ20名の実施とありました。

内容を見ると、ホストファミリー宅へ1泊し、3日間にわたり現地ホスト高校生と交流もあるようです。普段の授業でも韓国語を学ぶとありました。

これなら、普段の学びの延長線上にこの旅行がありますので、有意義だと思います。

 

 (3)公立高校2年 カナダ

【1日目】地元空港発---(航空機)---羽田空港着(成田へ移動)---成田空港16:00発---(航空機)---

【2日目】 バンクーバー空港11:10着(午後は高校訪問/ホストファミリーと合流)

【3日目】バンクーバー終日(ホストファミリーと1日過ご す/午前大学訪問)---

【4日目】バンクーバー空港/12:35発---(航空機)---

【5日目】成田空港16:30着入国手続き・東京都内へ/都内ホテル泊

【6日目】(羽田へ移動)羽田空港発---(航空機)---地元空港着

カナダは遠いですね。この日程だと、ホストファミリー宅に2・3名ずつ分かれて2日ほど滞在してかえってくることになります。

2日間といえども、英語環境に身を置くことに意義が無いとはいいませんが、複数名での滞在というところがひっかかりますね。互いに日本語禁止にしているのかな?

 

2.修学旅行の形態

事例を調べていると、いくつかのパターンが見えてきました。

 (1)姉妹校との交流

 おそらくは現地の高校生を日本に受け入れてもいるのでしょう。こうした交流の一環としての訪問ですね。

 (2)観光旅行

 はっきりいってしまえば、ただの観光です。そこに、修学旅行のかざりつけを少ししている、といったかんじでしょうか。ほとんどの修学旅行がこれに相当すると思います。

 (3)アカデミックさの演出

 現地の高校の授業を何日か受けてみたり、現地大学を訪問したり。あるいは国連の見学などもあります。

 (4)語学研修

 10日以上、現地にホームステイして、一日中学校で勉強をするスタイルのものもあります。

 

あとは行先としては、日本に近いことから選ばれるアジア(韓国・台湾・シンガポールなど)、物価が安いことから人気のベトナム、あとは英語圏ということでアメリカ・カナダ・ニュージーランド・オーストラリアといったところでしょうか。

移動時間が長すぎる行先は、現地滞在予定がタイトですね。

 

3.旅行代理店が企画

JTBやHISなどの大手旅行代理店は、「学校教育旅行」専門の部門を持っています。そこが学校に営業をかけ、修学旅行の企画を売り込むのです。

しかも、そうした代理店は、現地オフィスを持っていたり、あるいは現地コーディネーターを多く抱えています。

これら代理店に相談すると、まずは定食メニューのようにいくつもの旅行プランを提示されます。そこに、いくつか注文をつけると、それに応じてアレンジしてくれるばかりか、漠然とした要望、例えば「もう少しアカデミックな要素を入れてほしい」とか、「現地の学生と触れ合う時間を設けたい」といったものまで、見事に織り込んだプランを作ってくれます。

おそらくほとんどの学校が修学旅行についてはこうした代理店に丸投げしていると思われます。

だから、どの修学旅行も金太郎あめ状態で、ありきたりなプランばかりなのですね。

 

4.本当に有意義なのか?

 有意義かどうかといえば、それは有意義でしょう。高校生の年代で、仲間たちと海外旅行できるだけで、それは楽しい思い出になるにきまっています。もうそれだけで大きな社会勉強といえるでしょう。

 逆にいえば、それだけです。仲間とディズニーランドに行くのと大差ないような気がします。

 もし本当に有意義な修学旅行とするなら、このようなものではないでしょうか。

◆行く先・訪問箇所等、全て生徒たちが話し合って自主的に決める

◆エアやホテルなど、生徒たちが自分たちで探し、予約する

◆なぜその国・都市でなければならないのか、明確な理由がある

◆自分たちで予算案を作成し、学校・両親にプレゼンできる

◆帰国後に報告ができる

大人が自分の稼ぎで行く旅行ではないですからね。大人にお金を出してもらう以上、これくらいの目的意識と自主性がなければ、なんの学習にもつながらないと思います。

さすがに海外に行くのに、生徒が自主的に行先やエア・ホテルまで手配するのは無理ではないか? そう考えるなら、修学旅行に海外を選ぶべきではないということだと思います。国内にもたくさんの学びがあるはずですので。

 

何年か前、シンガポールの空港で見かけた光景です。

日本のとある私立高校の修学旅行とぶつかってしまいました。

「頼むから同じ飛行機ではありませんように」と願ってしまったとしても、ご理解いただけますよね。

待合室の生徒たちの様子はといえば、ほとんど動物園状態でした。いや、それでは動物園の動物に失礼ですね。眉を顰める一般客の視線などどこ吹く風とばかりに傍若無人なふるまいです。

引率の先生方は何をしてるんだ? と見回すと、一番うるさく大騒ぎをしている集団の真ん中に先生がいらっしゃいました。生徒たちと写真を撮り合っておおはしゃぎです。

これが「海外修学旅行」なら、行かせるだけ無駄でしょう。

私がその学校名を確認したのはいうまでもありません。自分の生徒に勧めたくない学校の一つになりました。

 

ところで、いくつかの学校の修学旅行行先を調べてみました。

◆開成・・・東北・北陸・瀬戸内・九州から生徒のプレゼンにより決定

桜蔭・・・奈良・京都

◆麻布・・・ない。生徒が企画し、国内数か所に行く。海外の場合も。

◆武蔵・・・ない

◆女子学院・・・奈良・京都

◆雙葉・・・奈良・京都

◆駒東・・・北海道、東北、九州、沖縄から生徒のプレゼンにより決定

◆筑駒・・・ない

◆渋幕・・・九州・関西等

◆渋渋・・・中華人民共和国or九州

 

渋谷渋谷を除いて、定番の国内ばかりですね。麻布の生徒企画は異色ですが。

海外修学旅行が無いからといってこれらの学校の価値が下がると考える方はいないでしょう。