中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

中学や高校の選択と東大への合格実績の関係

 毎年4月頃になると、高校別の東京大学合格者数のデータが週刊誌をにぎわします。

今年ももうそろそろですね。

 

本年のところ、私はこうしたランキングはあまり好きではありません。

何も東大ばかりが大学ではないですし、目標ではないと思います。

まして、中学や高校を選ぶのに、東大への合格実績を過剰に気にするのは愚かなことです。

とはいうものの、親としては気になる数字ではありますし、その学校の生徒がどれくらい頑張ったのかについての1つの指標には違いありません。

 

新しいランキングが出てくる前に、昨年のデータを一度まとめておきたいと思います。

 

過去60年間の東大合格者数ランキング

手元の資料から、1962~2022までの東大合格者数ランキングベスト10を5年毎に拾ってました。

東大ランキング過去60年

眺めていると、それなりにおもしろいデータです。

今でこそランキングトップに君臨している開成も、60年代にはランク圏外だった年が何度もありました。

また、「東大命」の印象が全くない麻布が、実は常にトップ10にいる唯一の学校であったり、1994年にはじめてランク表に登場した桜蔭がその後ずっと名前を見せているなど、興味がつきません。

 都立校学校群制度ができてからのはじめての卒業生が大学受験をしたのは1970年でした。そのころから、いつのまにかランク表から都立が姿を消しました。

しかし、2022年あたりから日比谷の名前が復活しています。生徒が相当頑張ったことがうかがえますね。

 

東大に合格者を出す学校とそうでない学校は何が違う?

 こうして東大に50名、100名と合格者を出す学校とそうでない学校の違いとは何でしょうか?

それは、「教師の経験値が違う」ということにつきると思います。

教師だって、はじめからベテランのわけははありません。授業を通して、生徒に育てられていくのです。

 

 以前、ある有名予備校の先生と話をしていて違和感を感じたことがあります。

東大や国公立大医学部というよりは、中堅私立大の指導に強味をもつ予備校のベテランの先生でした。授業の進め方や教材の工夫などあれこれお話いただき、それはそれで興味深かったのですが、話の間、ずっと違和感がつきまとったのです。

一言でいえば、幼稚なのです。

先生が幼稚ということではなく、授業や教材が、いかに生徒の興味を惹くか、飽きさせないかに焦点があてられすぎているのです。

そのため、「こんなやり方では、難関中高一貫校生の生徒たちは退屈するだろう」中学受験の生徒ですら、もっと高度な思考力問題にチャレンジしているのに」といった感想をどうしても抱いてしまったのでした。

やがて気がつきました。

この先生が日頃相手をしているのは、「高校できちんと勉強しなかったために大学受験に失敗した」生徒たちばかりであることに。

そうした生徒を相手とした講義の工夫が、内容よりも見せ方に傾くのもしかたがないことだったのですね。

 

 あらためて思います。

上記ランキングに出てくるような学校の先生方って、大変だろうけれど、授業は楽しいだろうなあ。

 

2023年 東大合格者ランキング

2023年のランキングです。20名以上の合格者を出した学校をリストアップしました。

2023東大ランキング

上位10校の顔ぶれはかわりませんね。
そのほかの学校を見てみると、地方県立トップ校の頑張りが目をひきます。

また、5→2→9→7→7→7→10→20→22名と合格者数を伸ばしてきた洗足学園は驚きです。

学校にもお邪魔したことはありますが、深緑色のシックな制服(生徒曰く溝の口のまりもちゃん)の生徒が行きかう校舎は、ほんとうに綺麗でおしゃれな印象です。

しかし、たんに校舎がきれいで制服がシックだから合格実績が出るはずもありません。

学内でかなり勉強をやらせていることは容易に想像がつきます。

在校生から漏れ聞こえてくる声としては、

「もう死にそう(なくらい勉強が大変)」

「宿題に追われて寝る時間が確保できない」

「夏休みは学校の格安夏期講習があって助かる」

「東大東大って、先生がいつも言う」

「勉強はそんなに大変じゃなくて結構遊べる」

こんなものがありました。

おそらくは、入学時の学力の余裕と学習習慣の確立度合によって、受け止め方が異なるのではないでしょうか。

この学校にかぎらず、急速に大学進学実績が伸びてきた学校には見られる傾向ですね。

本人にどのような学校生活を送らせたいかを明確にして志望する必要があります。

 

 現役合格率ランキング

同じデータですが、合格者数(現役・既卒生合計)のベスト50の学校を、現役合格率順に並べ替えてみました。(表中の順位は合格者数順位です)

東大現役合格率

卒業生のうち何パーセントが現役で東大へ合格するのか、というデータです。こちらを見ると、さきほどのデータ(現浪合計合格者数)よりも、あからさまに中高一貫校の優位がうかがえますね。まあ浪人しても東大へ入っていくというのはそれだけ優秀な生徒だということの証だとは思いますが、高校3年間の学習で、中高一貫校生に追いつくのはなかなか大変だということでしょう。

 

東大ランキングなど気にしていない学校

その一方で、東大ランキングなど気にはしてないのだろうなあ、と思わせる学校もいくつもあります。

私の個人的な意見では、麻布・栄光・女子学院・武蔵、といったあたりでしょうか。

伝統校に見られるタイプです。

こうした学校では、進路指導も生徒主体とききます。

別に東大に何名受かろうと学校の方針は揺らがないのでしょうね。

 

武蔵の校門を入ったすぐのところにあるヤギ小屋でヤギの世話をしている生徒達を見ていると、中高生のあるべき姿を見ているようで、とてもほっこりとした気持ちになってきます。

やぎ(武蔵のではないが)

結論からいえば、東大合格者数ランキングに一喜一憂している学校はその程度の学校であるといえるのではないでしょうか。正しい(と学校が考える)教育を実践し、生徒がそれに応えた結果として、大学合格実績も伴ってくる、それが本来の姿だと思うのです。

保護者からのご相談で、「東大へ行くためには鉄緑会に行かなくてはならないので、そこに通いやすい学校はどこですか?」などと聞かれるとがっかりします。